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鉄同盟-Iron Alliance-  作者: 無糖
第一章 人類襲来篇
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第1話 祝福の朝

【セイレーン居住エリアG地区 とある家の一部屋】

 少年、ランデ・ベルーゼは、朝日の差し込む木造の家で目を覚ました。

 体を起こし、自分の手のひらを見る。握って開いてを繰り返し、自分の体に神経を通していく。

「今のは…夢?」

 小さく、誰にも聞こえないような呟きだった。

 誰かが三年間、自分の体を動かして生活する夢。今の自分と夢の中の自分はかなり違う。何かに笑ったり、怒ったりするような、普通の少年のように見えた。

 夢は記憶の整理だ。だが、夢に見た三年間の記憶など、ランデにはない。そもそも三年間の記憶を一つの夢で全て見ることなどあるのだろうか。

 疑問はあった。しかし、悩んでも答えは出ないことも同時に理解はしていた。

「夢だよ」

 返事が返ってくるとは思わなかったランデは、周囲を見渡す。しかし、誰かの気配はしなかった。

「…誰?」

 ベッドと机だけしかない狭い部屋だ。隠れるところはほとんどない。しかし、不思議と部屋のどこからか、確かに声が聞こえた。

「義理は果たした。私はもう、私のしたいようにするよ、ランデ」

「待って…!」

 姿は相変わらず見えなかったが、その声の主はその言葉を機にこの場から姿を消すだろうことは、想像がついた。

 すると、空いたままだった窓のカーテンが、ふわりと揺れた。

 一瞬だけ、まだ幼児のように幼い体格の少女が、シルクのような長く美しい金髪を揺らし、窓の外に飛び出していく姿が見えた気がした。

 ランデは窓から外を見るが、誰の影も形もない。ただ朝日に照らされる静かな街並みが広がるのみだった。

 これ以上探しても何も見つかりはしない。ランデはそっと窓を閉める。下の階から話し声が聞こえている。すでに起きている家族がいるのだ。

 ドアを開け、ランデは階段を下った。




 その日は、セイレーン内で最もサーレに適した気候に設定された日だった。

 人口太陽は暖かに地表を照らし、優しい風が吹いた。美しい地球を知る者であれば、懐かしさに涙を流すだろう。

 しかし、テーブルの上の朝食を食べている、この日士官学校卒業式を迎える二人の目は、どこか寂しげであった。

「結局、見つからないまま終わっちまうんだな」

 短い金髪に碧眼の少年、キースは寂しげに呟く。

「ベスマン教官、行方不明になってから1ヶ月も経つなんて…卒業式、見守って欲しかったな」

 答えるのは、薄桃色のボブヘアーの少女、モモ。

 彼ら士官学校生にとって、シエル・ベスマン教官はあまりに大きく、彼女に教わったことは誇りでもあった。


 第二次エルツ戦役最終盤、最後の戦いであるリーヴァ宙域決戦にて大敗した教国は、帝国の追撃に苦しんでいた。

 全軍を投じた決戦の末、既に3割の兵を失い、追撃によってさらに2割。半数を失ったうえ、宙域脱出には足止めに3割の兵を動員する必要があった。

 全軍の8割を失ったとあれば、再起は絶望。それどころかセイレーンまで攻め込まれ、教国の滅亡すらあり得た。

 だが、そこで1人、一機の機械獣を繰り、敵の大群を押し止め、残存兵全てを宙域外に脱出させた大英雄がいた。

 それがシエル・ベスマン。当時士官学校を卒業して間もない19の彼女は、驚くほどに繊細な機械獣操作と、しなやかな剣技で帝国軍を翻弄した。

 最後方で脱出を手助けしていた精鋭たちですら、その動きは真似できないと驚き、同時に憧れた。

 彼女が去り際に撃ち放った機械獣の奥義、紫電砲は、リーヴァ宙域から遠く離れたエルツにさえ轟くほど強く、猛々しく、帝国軍を討ち払ったと言われている。

 手痛すぎる敗戦だった。それでもサーレの心が折れず、戦いを続けられたのは、シエルが撤退戦の英雄として、民衆の心を支え、再起の象徴となったからに他ならない。

 しかしその実、撤退戦で彼女は負傷しており、数年は戦線への復帰は困難であるとされていた。

 このまま彼女が退役すれば、民衆の心は折れてしまいかねない。当時の教国には、英雄が必要だったのだ。軍とシエルが協議した末に選んだのは、指導者への道だった。


 士官学校には、三つの兵科が存在する。

 教国の四足歩行型騎乗決戦兵器、機械獣の奏者、『奏士』を育成する奏士科。

 戦闘機パイロット及び歩兵を育成する兵士科。

 戦艦の操作や兵器の整備などを担当する工兵科の3科目に分かれており、彼女は全ての兵科で基礎戦略及び基礎戦術に関わる教育をしていた。

「生き残るだけでいい。それだけで敵にプレッシャーを与え、動きを鈍らせる効果がある。自身の活躍ではなく、味方を活躍させる動きをしろ」

 これが彼女の信条だった。

 英雄の発言ではない。そう揶揄する他教官もいたが、生存と連携を優先した教育は確かな合理性があり、模擬戦闘訓練では、彼女の受け持った第13期訓練兵は歴代トップの成績を収めた。

 それだけではなく、特に奏士科では、卓越した操作技術と機械獣への理解が余すとこなく伝えられ、個人戦闘成績も非常に優秀といえる。

 ベスマン世代と呼ばれた13期は潜在能力の高さもあり、その卒業には全サーレが期待を寄せていた。

 しかし、訓練兵たちの卒業を前に、1か月前から唐突にシエルは姿を消した。

 生徒たちは捜索を教官に申し出たが、既に軍の案件となっていたため、彼らの介入は固く禁じられることとなっていた。


 キースはため息をつき、目線を階段に向けた。

「なぁ、ランデ。お前は特別仲良かったし、何か心当たりとかないのかよ」

 モモは少しだけ髪を整えてから、同じように階段を見る。

 木製の階段をキシキシと鳴らしながら、ランデがリビングに現れた。

「おはよう。悪いけど、ベスマン教官のことは、僕にも全くわからないんだ」

 清流のように滑らかな艶を放つ漆黒の髪。それを肩口辺りで切り揃え、人形のように顔立ちの整った様は、一目では男性か判断がつかないほどの美少年だった。

 ランデは2人と同じ食卓につき、置いてあったコーヒーを啜った。

「ベスマン教官にはきっと事情があるんだよ。それこそ、軍が絡んだ機密性の高い案件なのかも知れない」

「そうだなぁ。何か極秘任務とか?」

「可能性はある…と思う」

 ランデはパンをかじりながらキースに答える。その様子をモモがじっと見つめていた。

「モモ?僕の顔に何かついてる?」

「え!?あ、いや、その、うーん、かっこいいなって!」

「…?」

「え?何言ってんの私!違うの!いや違くないんだけど違って…」

 もごもごと言い訳にもならない言い訳を放すモモの様子は、明らかにおかしかった。

「なんか今日のランデは昨日とはまた違うな」

 やれやれと食後のコーヒーを啜るキースが助け舟を出す。

「いやさ、なんかここ一か月くらいのランデはちょっといつもと違ってたからな。モモが心配してたんだよ」

「ちょ、キース!なんで言うの!」

「隠したって仕方ないだろ?」

 ヘラヘラと笑うキース。ランデは首を傾げた。

「今日の僕はそんなに昨日までと違う?」

「ん?ああ、まぁ言うほどじゃないんだけどさ。なんか暗かったっていうか。まぁ今も完全にいつも通りって感じでは無いんだけど、調子はちょっと戻ったみたいだな」

 キースはうんうんと頷いた。モモが上目遣いでランデを見る。

「…体調、悪い?」

「いや…普段通りだよ」

 ランデは自分でも自分の変化がよくわからなかった。昨日と特に態度を変えた意識もなかった。

 何か変わるとすれば、朝の出来事、そして夢。ランデは少し考え込む。

「悪い!変なこと言ったな!ベスマン教官の事といい、近頃は色んなことがあるもんだからよ!」

 ランデの悩む様に、キースが明るく肩を叩いた。モモは焦りながら話題を戻す。

「けどほんとにベスマン教官、どこに行っちゃったんだろうね」

「特殊任務だって!それこそ至天民様の…」

「こら、キース、あまりその名を口にするんじゃないぜ」

 キースを制したのは、純白の祭服を纏った、白髪混じりの男だった。

 しかし口元には無精髭を携えており、とても立派な神官には見えなかった。頬に傷が有るのもあってか、一見して粗暴な印象を与える。

 彼の名はコーダ・ランベル。ランベル修道院の神父を務めている。

「悪い悪い、先生」

「気をつけろよ。お前も今日から少尉様なんだぜ?」

「まだ卒業してないから訓練兵だよ、先生?」

 モモはニヤリと笑って見せる。

「おうそうか。なら今のうちに威張っておかないとな」

 コーダはモモの頭を撫でた。

「あ、やだ!髪ボサボサになる!子供扱いしないで!」

「あのちっちゃくて可愛かったモモがオシャレを気にして…しっかり育ったんだな…色々と」

「あー、それは確かにな」

 コーダとキースはニヤつきながらモモの胸を見る。同年代に比べ確かに破格のサイズではあった。

「なっ…!この変態神父!」

「がはは!変態だが家柄があれば神父になれるのだ!」

「さ、最低すぎる…」

 モモはコーダの開き直りっぷりに呆れ、頭を抱えた。それから何か思い立った様に、食事を終えてコーヒーで一息ついていたランデをじっと見る。

「…ランデも大きいのが好きなの?」

「好きだよ」

「即答!?」

 モモは驚きのあまり椅子から転げ落ちた。

 ランデは何事もなかったかの様に時計を見ると、椅子から立ち上がった。

「先生、そろそろ礼拝の時間では?」

 ランデの提案を受け、コーダは時計を見た。

「おっといけねぇ。少尉様の晴れ舞台だ。遅刻させるわけにもいかんな」

 コーダも立ち上がり、服を整える。

「みんなを起こしてきてくれ。聖堂に集合だ」

「はい」

 ランデは答え、立ち上がる。

「あ、ランデ!待ってよ!」

「置いてくなって!」

 モモとキースもそれに続き、階段を登っていった。

 ランデが扉を開けると、広間に敷き詰められた布団の上で寝息を立てる、12人の少年少女たちがいた。

 年齢は4歳ほどから15歳ごろまで多様だ。その中で、1人窓際で陽光を浴びながら外を眺めている少女がいた。

 彼女はランデらの入室に気づくと、振り返って微笑みかけた。

「おはようございます、兄様方」

「おはよう、クラメル」

 少女、クラメルは、黒くストレートな髪を優しく撫でて整えた。

 薄い寝巻きとその大人びた顔立ちから、15という年相応とはとても見えないほどの色気に、キースは若干鼻の下を伸ばしていた。当然モモに足を強く踏まれ、悶えることになる。

 そんな2人が喧嘩をしている間に、ランデはクラメルに近づく。

「みんなを起こしてくれるかな」

「はい。兄様は上の子から起こしてください。私は下の子から起こしますね」

「助かるよ」

 クラメルは子供たちの中では最も歳上だ。

 彼女は子供たちの中でも中心的な役割を果たしており、ランデが起こすとぐずったり泣き出したりしてしまうような5歳児も、持ち前の包容力であっという間に起こしてしまっていた。

「キース、モモ、いつまでも喧嘩してないで手伝ってよ」

「あ、ごめんランデ。キースは女の子に近づかないでね」

 そんなモモの言葉にキースは怒り詰め寄る。

「は?俺の好みは圧倒的に年上だっての。この上なく安全だっての!」

「あ、近づかないでください変態ロリコン」

「…なぁランデ、俺の扱い酷すぎると思わない?」

「自業自得だよ」

 ランデはまだ寝ぼけている子どもたちを起こしていく。全員を立って動ける状態にすると、ランデたちは家に併設されている聖堂へと移動した。

 扉を開くとひんやりとした空気が流れ込み、瞼を擦っていた子どもたちも目を覚ます。

 左右に長椅子が並べられ、最奥の祭壇には壁に向かって両手を伸ばす少女の像が置かれている。

 その手の先には、ステンドグラスで彩られた橙色の球、「太陽」が描かれている。

 その傍に、コーダは佇んでいた。

「皆、座れ」

 先ほどとは打って変わり、低く落ち着いた声だった。

 まだ眠く、ぐずりかけていた子供達も、大人しく長椅子に着席した。

 全員が座ったのを確認すると、神官は大きく息を吸い込んだ。

「日輪教司祭、コーダ・ニコルが唱する。アスラ予言書、第13説【朝】」

 説法が始まった。

 日輪教はその起源すら不明なほど古くからある宗教だが、全てが接触による意思疎通で言い伝えられてきたものであったため、本来経典というものは無い。

 しかし、人類との接触で言語を得たことをきっかけに、伝承を体系化することが可能となった。

 アスラと呼ばれる古の聖者の予言に関する伝承を纏めたものがアスラ預言書であり、その他にも日輪教には複数の伝承があった。その全てを纏めた一冊が、日輪教の聖典、ハルバニア。コーダが持っている書物だ。

「ーーーー暗黒の星に天を照らす神あり。7つの言霊を示せば、神は其方の手を握り、天へと導くだろう。祈りは炎。激情は薪。目醒める双極の星は己の色を知る。誰の喪失はなく、悔恨もない。それは新たなる旅立ち。或いは一つの終わり。ただ暗き夜が明ける。我らが楽土はそこにあり。恐れなく闇に踏み込むべし。そこに其方の始まり、朝があろう」

 一息に読み切り、神官コーダは辺りを見渡した。

「少し早いが、卒業おめでとうキース、モモ、そしてランデ。13期のお前たちにぴったりの予言を贈る」

「はい。ありがとうございます、先生」

 表情を崩し、三人に祝福を伝えるコーダに、ランデのみが答えた。キースとモモは涙を我慢するのに必死で、話せるような状況になかった。

 第13節【朝】は、日輪教の中でも最も尊いとされる太陽の復活と楽土への到達を示したものだ。聖典の中で最も縁起が良いものとされている。

 コーダは滅多にこの預言を読まないが、子供が卒業する時だけは別だった。

 これは彼からの最大限の祝福を意味しており、同時にこの孤児院での生活は終わり、明日からは兵士として独り立ちするのだと実感させるためのものでもある。

「いつもだったら解釈を放すところなんだが…この節のことを知らないサーレはほとんどいないしな。今更話すのは無粋ってもんだ。じゃあお前ら、手を合わせて巫女様と日輪様に祈るんだ」

 コーダの言葉で子どもたちは手を合わせ、祭壇に祈りを捧げる。

 静寂の中、数分が経ったとき、子どもたちの中から、お腹の鳴る音が聞こえてきた。

「…ぷっ」

「な、何よ!笑わないでよ!」

 笑ったのは誰だったか。しかし、音の主は自ら名乗り出ていた。

「おいメイル、お前少しは我慢できないのかぁ?」

 コーダは祈りをやめ、5歳の少女、メイルに向かって笑いかけた。

 物心もついてきて、レディーを自称するメイルは顔を赤くしながらも、お腹をさする。

「うう…でもお腹空いた…」

 そんな可愛い一言に皆笑顔になる。コーダはため息をつき、やれやれと微笑んだ。

「さ、お祈りの時間は終わりだ。朝飯だぞ!ランデたちはもう出発だな!」

 コーダが礼拝の終了を告げると、一同は立ち上がり、聖堂の出口へと歩いていく。外には優しい風が吹いていた。

 三人が外に出るのを確認すると、コーダはドアに背を預け、煙草に火を付けた。

「あ、煙草!やめるって言ってたじゃん!」

「うるせぇよ。どうせ明日から吸えなくなるんだ」

 モモの怒鳴り声を軽くあしらい、コーダは彼女の頭を撫でた。

「…今日だけだよ」

「はは。じゃあなお前ら。元気にやれよ」

 コーダはランデとキースの頭を両手でつかみ、ガシガシと撫でた。

「今までありがとうございました、先生」

「俺たちがいないからって昼間から飲むんじゃねぇぞ~」

「やかましいわ!別に今夜だって祭りでどうせ会うんだ!とっとと行っちまえ!」

 コーダがひらひらと手を振り、背を向けた。

「行ってきます、先生!」

 すると、子どもたちは、ランデたちに向かって一斉に走り出した。

「キース兄ちゃん!俺もすぐに立派な兵士になるからな!」

「…おう、頑張れよ。けどお前たちが兵士になんてならなくていい世界になるぜ?」

 キースは男の子人気が高い。ガシガシと頭を撫でて、各々に別れを済ませていく。

「モモお姉ちゃん、みんなでお手紙書いたから後で読んでね」

「あーもう泣かないの。でもありがとう!ほんとに嬉しい!」

 モモは女の子みんなのお姉さんだった。優しく、時に厳しい彼女の母性に憧れる少年も一定数はいた。

 そんな二人に対して、ランデは子供からの人気があまりなかった。キースとモモに挨拶を終えた子供が、帰り際に軽く手を振るくらいなものだ。

 しかし、ランデの前に一人の少女が立つ。

「ランデ兄様、卒業おめでとうございます」

「ありがとうクラメル」

「ふふ、大袈裟ですよね。確かに一緒の家にいられないのは少し寂しいけれど、またいつでも会えますよね」

「そうだね」

 クラメルは自分の髪を指でくるくると巻き取りながら、上目遣いをランデに向ける。

「ランデ兄様。今夜の解放祭…どうされる予定ですか?」

「ああ、結構にぎやかにやるんだよね。顔は出そうと思ってるよ」

「じゃ、じゃあ!…私と、回ってはくれませんか?」

 クラメルは顔を紅潮させ、いつもの落ち着いた姿とは大違いな早口で、ランデに誘いをかけた。

「…?いいよ」

「ほ、本当ですか!?」

「うん。もともとキースたちと回る予定だったし、クラメルも一緒に行こう」

「……そうですよね」

 一瞬歓喜に満ちた表情をしたクラメルは、次の瞬間には空気を抜かれた風船のように急激にしぼんでいった。

 ランデはクラメルの頭をそっと撫でる。

「ごめんね。僕、クラメルにそんな顔をさせるつもりはなかったんだ」

「…ずるいです。全く気付いてくれないのに」

 そんなやり取りを遠目に見ていた子供たちですら、「やっぱりランデ兄ちゃんは空気読めないよな」などと話していた。

 そんな様子を、キースとモモは眺めていた。

「あいつやっぱモテるよなぁ。施設の子供にはあんまりなのに」

「あんたと違って物腰柔らかいし大人だし、何より顔が良いものねぇ」

「余計なお世話だよ…ったく。確かに顔は異常に綺麗だけどな」

「まぁねぇ」

 事実、そのあまりにもの容姿の美しさに、士官学校の女子は一度はランデに恋をすると言われるほどの人気っぷりではあった。

 キースはモモの、そんな気のない返事に、呆れたようにため息をついた。

「ったく、そんな調子だとクラメルに取られるぜ?」

「は、はぁ!?何よそれどう言う意味!?」

 気だるげだったモモの表情は一気に真っ赤になった。キースはお構いなしで続ける。

「告白するなら早めが良いって事だよ」

「余計なお世話よ!それにクラメルはまだ15なんだから!私は大人の余裕を見せてるの!」

 モモが騒ぎ立てるが、キースは目の端に映った衝撃的な光景に目を丸くしていた。

「クラメルが…ランデにキスした」

「キース、これ以上からかうなら本気で…」

「いやマジだって見ろよあれ」

 キースが指を指す。そこには、ランデの胸倉を引き、濃厚なキスをかましているクラメルの姿があった。

「…マジじゃない」

「あー、なんだ。今この瞬間に手遅れになったな!」

「く、くくくクラメルあんた何してんのよおおおお!!?!?!?」

 キースがサムズアップしたが、それに腹を立てる余裕もない。モモはクラメルに向かってダッシュしていた。

 この後もまたひと悶着あったりもしたが、ともあれ騒がしい門出の祝福は、こうして終わった。

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