表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄同盟-Iron Alliance-  作者: 無糖
第一章 人類襲来篇
2/33

第0話 誰かに向けた祈り

 ----それは、セイレーン内にあるとある教会。

 少年、ランデ・ベルーゼは、暗い夜の聖堂で、青みがかった長い黒髪の女性を前にしていた。

 彼女の名はシエル・ベスマン。サーレの中では英雄として名の知れた戦士だった。

 その彼女の肩を、緊迫した面持ちでランデは掴んでいた。


「もう時間がない…!出発の準備は終わりましたね?」

「けどランデ!あなたは!?」

 心配そうな面持ちのシエルを見て、ランデは申し訳なさそうに俯いた。

「僕は残る。…守りたいものがあるんだ」

 そう告げると、シエルは驚き、彼の肩を掴み返した。

「それがどういう意味かわかってるの!?ここに残ればあなたは…っ!」

「シエル教官」

 ランデは狼狽えるシエルの手を握った。冷たく冷えた手は、小さく震えていた。

「僕が今の僕になって、こうして戦えるのはあなたのお陰です。本当に感謝してる。だからこそ、あなたにはあなたにしかできないことをしてほしい」

 シエルは言葉を返そうとしたが、詰まって出てこない。ランデの瞳は、覚悟を決めた者のものだったからだ。

「さぁ早く。僕にはきっと、あなたの捜索命令が来る」

 シエルの肩を放し、ランデは寂しそうな笑みを見せた。

 その覚悟に、シエルはこれ以上の引き留めはできないと悟り、同じように肩を放した。

「…クレアに、よろしくね?」

「彼女は不満そうだったよ。それこそ、僕の術式を使ったらどんな行動に出るかわからない」

 ランデは困ったように笑った。シエルはその表情に涙を浮かべるが、振り切り、背を向ける。

「もう…行くわ。必ず目標を成し遂げてみせる」

「…頼みます」

 シエルにしかできないこと。それを成すため、彼女は覚悟を決めた。

 だが、最後にシエルは振り返り、ランデを抱きしめた。強く、思いを込めた抱擁だった。

「そして必ず、あなたを救うわ」

 シエルの腕の中で、ランデは涙を浮かべた。

 このように弱さを見せられるような存在は、シエルしかいなかった。

「…ありがとう。人類とサーレの未来を、お願いします」

「ええ。必ず」

 シエルはランデから離れ、出口へと走っていった。

 その後ろ姿を見送った後、静かになった聖堂で、ランデは自分の服の胸にしみができていることに気づく。

「…さようなら。あなたがきっと、僕の初恋だった」


 そう呟くと、カタン、と、聖堂の長椅子から音が聞こえた。

 目を丸くしたランデだったが、微笑むと長椅子の影に向かって問いかけた。

「挨拶しなくてよかったの?」

 一瞬の静寂。

「良いわよ。2人とも、私が何を言ったってどうせ聞きはしないんだから」

 返ってきたその声はひどく不満そうで、ランデは困り笑いをするしかなかった。

 ランデは腕の時計を見る。日が変わる。すでに深夜だ。

 それを確認すると、彼もまた出口に向かって歩く。

「どこへ行くの?」

 椅子の影から聞こえる声に呼び止められ、ランデは足を止めた。

 振り返ると、仮想月光がステンドグラスを通り、青白い光が太陽の女神像を照らしていた。

「最後に、顔が見たいんだ」

 穏やかな声音だった。ランデは再び出口へ向かい、扉に手をかけた。

「…そう」

 悲しみと呆れの籠った声を最後に、椅子の陰からは声も気配も消えてなくなった。

 ランデは扉を開く。

 空には星が瞬き、街はそのものが眠った様に静か。

 昼は人口太陽による偽物の空。このセイレーンにおいては、この夜の空こそ、ただ一つの本当の空だった。

 ランデは空を見上げながら、一人呟く。

「ごめん。君には一番重く、辛い役回りをさせる。けれど、僕に頼れるのはもう君しかいないんだ」

 その祈りは、誰に届くこともない。

「カグラを頼む。これは、君にしかできないことなんだ」

感想・レビューお待ちしてます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ