3 では、さようなら
城から出る際に、馬車ではなく徒歩で出ていくわたしを見て、門番の人達は驚き、陛下から聖女としての任が解かれたことを伝えると必死に引き止めてくれた。
「出て行かないでください! リンファ様がいなくなったら、この国はどうなるのですか!」
「本当に陛下が出ていけと仰ったのですか?」
「何かの間違いです! リンファ様は聖女として頑張っておられたじゃないですか!」
あっという間に門番の人達に囲まれてしまったので、苦笑してから伝える。
「陛下や元老院の方達にとって、わたしはこの国には必要がないそうですので、久しぶりに実家に帰ることに決めました。実家には昨日の内に連絡をいれていて、歓迎するとの返事が返ってきているんです」
「そうですか……。リンファ様がいなくなったら、この国は大丈夫なのでしょうか」
門番の人達が皆、不安そうにしているので、安心させようと笑顔で声を掛ける。
「大丈夫だと思います。もしもの時はチーチルがいますから、チーチルが皆さんを守ってくれるはずです」
チーチルも結界魔法が使えるから、彼女がなんとかしてくれるはず。
とも思うけれど、彼女の様子を考えると、やはりこのまま去るのは無責任かと思うので、魔導具もない事だし、人が多い繁華街や住宅街などには、結界を張りながら帰ることに決めた。
実家には昨日のうちに、魔法で手紙を送ってもらい、すぐに返事が返ってきた。
両親やお兄様はわたしの帰りを心待ちにしているし、お嫁にいっているお姉様もわたしに会いたいと言ってくださっていて、わたしが家に戻れば、実家に戻ってくると書いてあった。
家族と会うのは十年ぶりになる。
実家に戻ってから、わたしの力を必要としている人達からの連絡を待つことにするので、しばらくはゆっくり出来そうだった。
「ああ、リンファ!」
今度こそ、出て行こうとしたところで、チーチルが陛下と一緒にやって来て叫ぶ。
「リンファ、待ってっ! 行かなくて良い方法を思いついたのっ!」
「チーチル、もう無理よ。決定事項なの」
「そうだぞ、チーチル。この女がいると、私とお前は結婚できないのだぞ?」
「それはっ、嫌ですぅっ!」
チーチルはいやいやと両拳を握りしめて、体をくねくねと動かした。
「では、さようなら」
二人の漫談を聞いていても時間の無駄なので、門番の人達に一礼したあと、チーチル達に向かって手を振って歩き出す。
「リンファ様、お元気で!」
「ありがとうございました!」
気が付くと、イチャイチャしている陛下達の後ろに今までお世話になっていた人達が立って、手を振ってくれていた。
目頭が熱くなるのを感じて、口をへの字に曲げて我慢したあと、笑顔を作る。
「みんな、今までありがとう! 幸せに暮らしてね!」
みんなに向かって元気に手を振り、わたしは王城を後にしたのだった。
◇◆◇
わたしの実家があるセーフス国は、アウトン国からかなり離れており、フェアン国という国を通り抜けなければならない。
フェアン国は中立国なので、犯罪者でなければ入国できる。
そのため、城を出てから七日後にわたしはフェアン国に入国した。
わたしが聖女だということはフェアン国の人も知っているし、追い出されたということも知れ渡っていたので、身分証を差し出すと、大歓迎されてしまった。
そして、わたしが入国したという噂を聞きつけた国王陛下が、ぜひわたしをもてなしたいと言っていると言われたので、その御礼として、アウトン国とフェアン国の国境に結界を張った。
これで、フェアン国にはアウトン国から凶悪犯は入国できなくなったため、入国管理局の人達に、とても感謝された。
身分証を偽造して、入国する人があとを絶たなかったらしい。
本来ならば、他の国との国境にも結界を張ってあげたかったけれど、実家に帰るには遠回りになるため、そちらに関しては、向こうから辞退してくれた。
フェアン国の王城に滞在させてもらった、次の日の朝、私の世話をしてくれているメイドさんが新聞を手渡してくれた。
そこには、アウトン国のことが書かれてあり、アウトン国の森で、魔物に襲われそうになった人がいると書かれてあった。
記事の最後には、現在、癒やしの聖女様が結界を張りに向かっているとも書かれていた。
陛下からのコメントも記事にのっていて『守護の聖女は職務怠慢で我が国を去らせたばかりだが、この国には癒やしの聖女であり、私の新しい婚約者となったチーチルがいる。国民は安心して暮らすが良い』とのことだった。
――ちょっと気になっていたけれど、チーチルに任せても大丈夫よね? 彼女だって聖女だし、陛下が責任を持ってくれるようだから。よっぽどになったら、転移の魔導具を借りて、こっそり結界を張りに行くことにしましょう。
1人で納得したあと、朝食の用意が出来たという連絡があったので、ありがたくいただくことにした。
そして、庶民では買えない高額の魔導具である、転移の魔導具をフェアン国の国王陛下からプレゼントしてもらい、次の日の朝、わたしは久しぶりの実家にたどり着いたのだった。