14 触りたくないのよね
自分の大好物を食べたことと、遠出するとわかったチワーはご機嫌になった。
もちろん、遠出の理由は伝えてあり、会いに行く相手が親の仇かもしれないということは覚悟してくれたみたいだった。
「われにとっては憎き者だが、われは神獣だし、父上も母上も人間のために死んだのじゃ。それなのに、われが人間を殺すわけにはいかぬのじゃ。それに、そんなことをしたらわれは捕まってしまう、もしくは魔獣になってしまうやもしれん。そんなの嫌じゃ。これからもランディスとリンファと遊ぶのじゃ」
「遊びが目的かよ。神獣なんだろ?」
「神獣時々チワワじゃ!」
「チワワたまに神獣の間違いだろ」
「何てことを言うのじゃっ!」
じゃれているランとチワーを見て和んでから、二人に告げる。
「覚悟はできた? アウトン国に向かうわよ!」
私の言葉にランとチワーは大きく首を縦に振った。
アウトン国の王城内には、ほとんど人がいなかった。
魔物の存在を感じるから、皆、避難したのかもしれない。
魔物は、サウロン陛下だけを狙うように指示をされているようで、彼の部屋の前に行ってみると、何匹かの魔物が扉の前でウロウロしていた。
部屋の扉に触れても入れないみたいなので、チーチルが結界を張ったのだと思われる。
「リンファ様!」
元老院の一人である元公爵が、わたしのところにやって来て叫ぶ。
「陛下を助けていただけませんか!」
「助けるのはかまいませんが、呼んでいただきたい人がいるのです」
「それは構いませんが……」
呼んでほしい人の名前を伝えると、ちょうど今、会議で集まっているからと呼びに行ってくれた。
姿が見えなくなると、チワーがバスケットの中から顔を出す。
「ようく、見ておけよ、二人共。われが聖獣だというところを見せてやるのじゃ!」
勢いよく、バスケットから飛び出したチワーは、まるで全身が焼けただれてしまったような人の形をした魔物の元へ向かっていく。
すると、魔物達がチワーの存在に気がついて逃げようとした。
「逃さぬ!」
チワーは魔物を追って走り出すと、体当りした。
すると、魔物は断末魔をあげて消滅した。
書物で呼んだことがあるけれど、太陽の光を浴びただけで消滅してしまう魔物もいるらしく、今回の場合は聖なる力に触れて消滅したパターンだと思われる。
ちなみに、これはわたしにも可能なことで、魔物はわたしに触れたり、触れられたりしたら消滅するし、凶悪犯の人間の場合は、触れた部分が焼けただれる。
「わたしもあれが出来るんだけど、触りたくないのよね」
「見た目がちょっとな……」
「そうなのよ」
チワーが元気に魔物を倒していく姿を見守りながら、ランと話をしていると、サウロン陛下の部屋の扉が開いて、チーチルが顔を出した。
「リンファっ! 来てくれたのねっ!?」
「来なければいけない用事があったから、ついでに来てみたの」
「もう、そんな意地悪言ってっ!」
チーチルはスキップしながらわたしに近付いてくる。
「これからは、ずっと一緒よっ! サウロン陛下とわたくしと三人で楽しく暮らしましょっ!」
「絶対に嫌よ。拷問じゃないの」
そう答えたところで、チワーが魔物を倒し、すっきりした顔で戻ってこようとするのが見え、慌てて、チーチルの意識をわたしに向けて、その間に、ランにチワーを回収してもらおうと目で合図を送った時だった。
チワーが目を見開いて立ち止まった。
彼の目はチーチルでも、わたし達でもなく、わたし達の背後に向けられていた。
「やあ、お待たせしましたのう。リンファ様、お戻りが早いようで。仕事をする気になられたのですかのう?」
現れたのは、怪しいと思われている人物、スカミゴ様だった。
大きく出たお腹を揺らし、額から流れる汗をハンカチで拭きながら、わたし達に近寄ってくる。
「どうしたのですか、そんな驚いた顔をして」
チワーの様子がおかしいことの方が気になって、スカミゴ様を無視していたからか、彼がわたしの顔を覗き込もうとした時だった。
「リンファに近付くなっ!!」
チワーの叫び声が聞こえたと同時、チワーはチワワの姿から、フェンリルの姿に変化したのだった。




