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二度目の春  作者: 理春
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第4話

春休みが終わって、4月上旬、俺と夕陽は復学して大学へまた通い始めた。

少し緊張していたけど、夕陽と二人で手を繋いで家を出て、いつもより少しご機嫌な夕陽が、デートの時のように手を引いて歩いてくれるもんだから、俺もつられて笑顔になる。


「薫ぅ・・・構内でも手ぇ繋いだままでいいよな?」


「・・・うん・・・」


「まだ緊張してる?」


歩く足を少し停めて、夕陽は腰を折って俺の顔を覗いた。

ふわふわの癖毛が片目を隠して、優しく持ち上がる口角が、えくぼが可愛い。


「・・・大丈夫。外を歩くのも、人込みも慣れてきてるし、前はずっと普通に通えてたんだから・・・」


見つめ返すと夕陽はふっと真顔になって、またゆっくり歩き出す。


「薫、前まで出来てたことが出来なくなっててもいいんだよ。しんどくなったり混乱したり、気持ち悪くなったりするのは、薫の体が正直に無理だって教えてくれてるんだ。人間周りと同じようになんて・・・全員が出来ることじゃねぇんだよ。」


「うん・・・そうだね。」


それから無事大学に着いて、キャンパス内に足を踏み入れた。

チラホラ同じように門をくぐる学生らを見ながら、久しぶりに来たけど特に懐かしさを感じなかった。

大きく息をついて夕陽の手をぎゅっと握る。

学期初めの案内があれこれあって、時間割を確認し、授業は来週からとなる。

1回生での目標数単位は獲れたものの、休学してた僅かな期間は講義を受けられていないし、2年生もあっという間に過ぎてしまわないよう、目標とする単位数は漏らすことなくすべて取り切らないと・・・

俺は隣で書類を眺める夕陽をチラっと見た。


焦って単位のこと考えすぎてると、また夕陽に無理するなって注意されちゃいそうだな・・・

こうしなきゃ、ああしなきゃって考える癖があるし、効率的にこなしつつ無理のない学生生活にしないと・・・

同時に予備試験のことも考えて勉強して・・・来年には絶対司法試験・・・


悶々と考え込んでいると、夕陽に手を引かれて廊下に出て時不意に後ろから声をかけられた。


「二人とも」


パッと振り返ると、そこにはニッコリ微笑む透さんが立っていた。


「あ・・・・」


「おお、透・・・久しぶり。」


夕陽程身長がある透さんは、いつもの笑顔を張り付けたまま、腰に手を当ててクスっと笑った。


「相変わらず仲良しだね。薫くんも・・・えっと去年の12月ぶり?」


そう言われて去年のクリスマスイヴを思い出した。

俺が視線を逸らすと、夕陽は思いついたように言った。


「あ・・・てめぇそういや・・・薫に会った時に車でホテル連れ込もうとしたって聞いたぞ?」


「・・・ん?そんなことしたっけ・・・。ごめんね?ちょっとこっちは色々大変でさ」


「そういや・・・葵はどうした?」


夕陽に言われて気付いた。いつも彼が隣に連れてる狂犬のような葵さんがいない。


「あいつはちょっと怪我しちゃってさ、家にいるよ。まぁ、特に用件はないし声かけただけだけど・・・薫くんそんなに警戒しないで~?」


夕陽の腕を掴んで半歩下がると、透さんは困ったように笑った。


「とりあえず透・・・別に友達として付き合いを持つならいいけど、薫に色目使って振り回そうとするなら容赦しねぇからな?」


「ふふ、怖いなぁ。まぁ流石に腕っぷしじゃあ夕陽に勝てる自信ないし、俺も食べる相手はちゃんと選ぶよ。安心して。・・・じゃあね。」


透さんは本当に挨拶だけだったようで、ヒラヒラと手を振って去って行った。

チラリと夕陽を見上げると、苦笑いを返してまた歩き出した。


「葵さん・・・怪我したって大丈夫なのかな・・・」


「俺もそれはちょっと気になった・・・。けどまぁ・・・あいつらにとっちゃ日常茶飯事なのかもしれないし、あんまり言及出来ることでもねぇかなぁ。」


「そうだね・・・」


校舎を出て中庭へ出た頃、夕陽のポケットから着信音がした。


「お?ちょっとごめん・・・あ・・・?もしもし?」


思わぬ相手からの電話なのか、夕陽はコロコロ表情を変えて、何やら懐かしそうに会話していた。

そのうち通話を終えた彼は、また俺の手を取って嬉しそうに言った。


「薫、高校の時のバスケ部のマネしてた奴がさ、同じく今年から法学部入学したらしくて、まだいるなら会いたいって・・・ちょっとここで待っててもいい?」


「・・・・・そう・・・わかった・・・・。じゃあ・・・先に帰るね?」


マネージャーって・・・女の子かな?

何をそんなに嬉しそうにしてるのかと、心の中でモヤモヤした。


「いや、居てよ。普通に紹介したいし。一人で帰らせたくねぇよ。てか、俺が一人で帰りたくないよ。」


夕陽は飼い犬のように寂しそうに言うと、俺のおでこにすり寄った。


「・・・わ・・・うん・・・。」


照れくさくなると夕陽はまたニッコリ満足そうに笑った。


「あ!!せんぱ~~~~~い!!!!!」


1分と立たないうちにこちらに全力疾走してくる人影が見えた。


「おう、川田ひさ「お久しぶりです!!!」


目の前にたどり着いて、膝に手をつきながらやっとの思いで呼吸する青年は、キラキラした目を夕陽に向けた。


「良かったぁ!先輩に会えるかもって今日楽しみに来てたんです!」


「はは、相変わらず元気だなぁ。あ、薫・・・さっきも言ったけど、バスケ部のマネしてくれてた後輩の川田。」


「・・・えと、初めまして。」


俺が会釈すると、彼はやっと俺が視界に入ったのか、ハッとしてシャキっと姿勢を正した。


「あ、どうも!初めまして、川田 夕輝です!今年から法学部に入学しました。」


運動部らしい挨拶をする彼は、俺よりも少し小柄だけど子犬のような可愛らしい目とそれに反して凛々しい眉毛が印象的だった。


「夕輝・・・さん」


「はい!先輩と名前似てるんです!夕日が輝くで夕輝です!」


「へぇ・・・素敵な名前ですね。」


率直に述べると、彼は一瞬呆気にとられた後、照れたように頬をかいた。


「川田、こっちは薫・・・今同棲してる俺の恋人。」


夕陽がそう告げた瞬間、川田くんは顔から体まで動きを停止させた。


「・・・・・え・・・・・・・」


そして俺をチラっと見て、ゴクリと喉を鳴らしてから続けた。


「す、すみません・・・女性で・・・?勘違いしてしまいまして・・・」


「あ、いえ・・・男です。」


すると川田くんは尚も石化したように黙った。


「・・・川田?」


夕陽が声をかけると、彼はビクっと体を震わせて我に返った。


「あ・・・!えっと、そうなんですね・・・えっと・・・あの・・・いえその・・・何でもないです。」


夕陽は心配そうに彼を見て、その後2、3会話をした後、駅まで彼を送るついでに一緒に帰った。

小さな背中が改札の奥に消えて行くのを二人で見送って、また夕陽と手を繋いで家路につく。


「・・・川田大丈夫かあいつ・・・なんか元気無くなってたけど・・・」


夕陽はスマホを見ながらポツリと呟いた。


「・・・・。」


俺が夕陽の恋人だと聞いた途端のあの落ち込みよう・・・


「ここで問題です」


「あ?」


「川田くんは夕陽に対してどういう気持ちを抱いて、どういう関係でいたでしょうか。」


「ええ?そりゃ・・・気持ち・・・ん~まぁ慕われてるなぁってのは自負してたから、憧れ・・・とか?関係はまぁ仲のいい先輩後輩だよ。」


「残念、不正解。仲がいいっていうのは正解かもしれないけど。」


「ええ?何で薫がそんな・・・」


「では次の問題。川田くんがさっき、同棲している恋人だと夕陽に俺を紹介されて、何故ビックリしていたでしょうか。」


夕陽は難問に眉をしかめながら、ゆっくり歩いて一生懸命考えていた。


「・・・・わかんねぇ・・・あ!いや!わかった!俺が高校時代彼女がいたのもあいつ知ってたからさ、男と付き合ってるって聞いてビックリしたんだ。」


「・・・・不正解。」


「ええ~~?絶対そうじゃん。」


夕陽は口を尖らせて文句を言い出す。


「正解は・・・夕陽のことが、恋愛対象として好きだからだよ。」


「・・・・・え、川田が?何で薫にわかんだよ。」


「そうでなきゃあの反応の説明がつかないかな・・・。目は口程に物を言うって言うでしょ?彼は俺を何度も見て、こう思ってたよ。『先輩って男も好きになる人だったの?じゃあ俺もちゃんと告白したりアピールしたら、付き合えたかもしれないの?』ってね。」


「そんな・・・」


「ビックリした反応から、彼はだんだんと憔悴してったでしょ?ただ男と付き合ってることにビックリしたなら、まぁそういう人だったのかな?くらいか、軽蔑する人ならちょっとぎこちなく会話をしたりするよ。彼はそれから一緒に駅に見送られるまで、元の気持ちを取り戻せなかったんだよ。夕陽が好きだから、男と付き合ってることもショックだし、そもそも恋人だって堂々と紹介されたこともショックだし、夕陽が自分の気持ちを一ミリも知らないこともね。」


マンションについてエントランスに入ると、夕陽は苦虫を噛み潰したような顔でため息をついた。


「ん~~・・・あ~~~・・・・・・言われてみれば思い当たるフシあるかも・・・・。結構それらしいアピールされてたかもしんねぇ・・・・あ~~~嘘だろ・・・。」


鍵を開けてエレベーターに乗り込み、夕陽はコツンと頭を俺に寄せた。


「俺って鈍いんだわ・・・」


「知ってるよ。でも別に夕陽が悪者ってわけじゃないんだよ。気付かない人だってそりゃいるよ。そもそも相手の恋愛対象が女性か男性かなんて、いちいち聞くことでもないし、そもそもバイセクシャルだって気付かず生きてる人もいるし。」


ドアの前で鍵を開けながら、夕陽をちらっと振り返る。

何となくバツが悪そうにしている。


「落ち込まないで夕陽。・・・・俺の気付かせ方もちょっと悪かったかな・・・。」


「いや別に・・・・薫は・・・鈍い俺にちょっと呆れてたんだろ?」


二人して玄関に入って俺は何となく苦笑いを返した。


「彼の好意の裏には、憧れと恋心があったんだよ・・・。先輩を好きになって結局何も叶えられなかった気持ちは、ちょっとわかるかな・・・・。」


そう言って荷物を置いて洗面所に行くと、夕陽は黙って俺の隣にやって来て見下ろした。


「・・・なに?」


「・・・薫もちょっと鈍い気がするなぁ?」


「・・・え?なに?」


夕陽は腰を折って不意にキスした。


「俺は・・・・薫が高津先輩の存在をちらつかせる度・・・いちいち焼きもち妬いてんの。何だったら連絡も取ってほしくないし、会って話してほしくもない。けどそれは過剰な束縛だし、薫にとって大事な大事な友達だからそんな制限したくないし、口にもしたくない。けど俺は心の裏で、嫌だなってずっと思ってる。」


正直な言葉を漏らす彼の目から、少しだけ怒りを感じた。


「・・・そ・・・ごめ・・・」


「だって・・・あんな・・・イケメンで出来た人だとさぁ・・・俺めっちゃ劣等感なわけよ・・・。」


「別に何も必要じゃなければ連絡取ってないし、こないだ美咲さんちで会って以来会ってないよ?」


「わかってるよぉ?・・・・ガキっぽいこと言ってごめんな?」


自信なさげにしょげる夕陽を力いっぱい抱きしめた。


「そんな風に謝らないでよ。俺は夕陽のものだよ?・・・ありがとう、正直に気持ち話してくれて。・・・もう夕陽の前で咲夜の話題は絶対出さないから。」


「んふふ・・・あ~・・・別にそんな無理を強いるつもりなかったぁ・・・・。ありがと・・・心がけだけでいいんだよ。」


腕を解いて、また深くキスして、夕陽の頭を撫でるように髪の毛に触れた。



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