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二度目の春  作者: 理春
33/40

第33話

夕陽と一緒に近くの神社へとお祭りに向かう当日、買い物帰りに二人で雑貨屋さんに寄り、生まれて初めて風鈴を買った。


「綺麗だねぇ・・・」


チリン・・・チリン・・・と清涼な音を時折ベランダで奏でる風鈴は、透明な丸いガラスに金魚の絵柄があしらわれている。


「涼し気な音だよなぁ。なんかばあちゃんちを思い出すな・・・」


「ふふ、夕陽は田舎のイメージなんだね。あんまり住宅街で付けてるお宅ないもんねぇ。」


「だな・・・。あのさ薫・・・お盆時期は母さんたちと実家に帰るし、薫も一緒に来てほしいんだけど・・・」


思わぬ提案に、どうするべきなのかと少し思案した。


「・・・ばあちゃんに薫のこと紹介したいしさ、婚約者だって・・・。父さんの実家は大阪だから、遠出することになるけど・・・。薫、新幹線とか大丈夫なら・・・。というか帰省してる間、薫を一人で残してくの嫌だしさ・・・。行かないならもちろん俺も行かないで、置いてったりしないけどな。」


そう言って夕陽はいつものように、隣り合うソファでぎゅっと抱きしめてくれる。


「ふふ・・・ありがとう・・・。もちろん行くよ。夕陽のご家族に・・・挨拶しときたいし。」


「へへ♪やったー♪んでもあれだぞ?気ぃ遣い過ぎて薫が疲れちゃったら元も子もないんだから、絶対体調面でも精神面でも無理はしないこと!多少予定がずれても問題ないし、父さんと母さんにも話しておくから。薫の無理のない予定を立ててもらえるようにって。」


「うん、ありがとう。どういう予定にして行くべきかは、また実家に帰ってお父さんたちと相談しよう。」


「ん、だな。」


気を取り直すように笑みを返すと、夕陽は一つ俺の頭を撫でてキスしてくれた。


「・・・浴衣姿の薫と出かけるんだって思うと・・・今からニヤニヤ止まんない・・・」


「ふふ、そんなに?」


「うん・・・。」


時間になって二人して準備万端に荷物を整えた。

暑い中歩き回る準備は怠れない。ただでさえ体調を崩しやすいから。

本来浴衣で外出となれば、鞄なんて持たずにほぼ手ぶらで出かけるものかもしれないけど、現代ではそうもいかない。

そう思いながら二人で何とか着付けの動画を見て奮闘しつつ、お互いの浴衣を整えながら着替えを終えた。


「何とか様になったかな!どう?夕陽・・・」


巻いた帯をしっかり貝ノ口結びにして振り返ると、夕陽は口元に手を当てて神妙な顔つきをしている。


「・・・ダメ?」


「いや・・・・・・・・・・・はぁ~・・・・・・・・・・やべぇ・・・・可愛い・・・・・・・・・・・」


可愛い・・・・


「そっか・・・。ちょっとカッコイイとも言ってほしかったけど・・・」


「えっ!!や・・・いや・・・・・カッコイイ・・・・・・・そうだな、女子から見たらたぶん、カッコイイと思う!」


「ふふ・・・。夕陽も似合ってて素敵だよ。」


紺色の落ち着いた色味と、スタイルのいい夕陽に似合う大柄が、年相応に爽やかさを演出していた。


「そ~お~?♪」


「うん、さすが美咲さんの見立てだね。」


「ふふ・・・薫もめっちゃ似合ってる。」


ぎゅっと抱き着いてさっそく甘える彼を、上目遣いで見上げると、時々見せる恥ずかしそうに口元を結んで目を逸らせてしまう。


「んな・・・可愛い薫を独り占め出来んだもんなぁ・・・。果報者だよなぁ俺。」


白地で格子柄のシンプルな浴衣は、小柄な自分にあまり身長を感じさせないちょうどいいものだった。

美咲さんは島咲さん程和服に詳しくないから、そこまで見立てに自信がないとおっしゃっていたけど、初めて着た俺たちは自然と背筋が伸びる気分で、清涼に着こなせていると思う。


「行こっか。」


照れた様子でまごまご言う夕陽の手を取って、いざ蒸し暑い外へと繰り出した。


「やっべ・・・・あつ・・・・」


玄関の鍵をかけた時点で低い声を漏らす夕陽に、思わず笑ってしまった。


「んふww暑いねw」


「何だよ~~w」


「汗かいてもふき取りシートあるし、冷たい飲み物もあるよ?飲む?」


「いや、まだ大丈夫。・・・それよりさぁ・・・」


エレベーターまで下駄を二人して鳴らしながら、薄暗く日が落ち始めた空を眺めた。


「知り合いに会っちゃったらどうする?」


「知り合い・・・咲夜と小夜香さんとか?」


「うん。先輩らは家近いはずだし、来る確立高いか・・・?」


「ん~・・・別に挨拶したらいいんじゃない?」


「・・・俺はぁ・・・可愛い浴衣姿の薫を独り占めしたいからぁ・・・先輩には会いたくないんだよ。」


口先を尖らせながら、そんなことを言うもんだから、またこっちまで頬が緩んだ。


「んふふ♡そっか、じゃあ見つけても声かけずに距離取ることにしようか。咲夜だって可愛い小夜香さんを独り占めしたいだろうから、話しかけられたくないかもしれないしね。」


「だな・・・。・・・そうだよなぁ・・・先輩って何となく似てるとこあんだよな・・・」


「ふふ、そうだね。でも恋人に対して一途なのはすごくいいことだよ?」


そんな会話をしながらマンションを出て、初詣の時に一緒に歩いたのを思い出しながら、いつもの神社へと向かう。

道中同じく祭りに向かうであろう若者や、家族連れが見えて、何だかワクワクした気持ちが増してくる。

夕陽と繋いだ手をぶんぶん振りながら歩いていると、彼は隣で度々ニヤニヤしながら俺に話しかけた。


「ふ・・・薫ウキウキしてんなぁ~♡可愛いなぁ~♡」


「・・・だって夕陽と浴衣着てお祭りデートなんて嬉しいんだもん。」


「・・・・・はぁ~~~~~♡」


夕陽は長めのため息を落としながら、繋いだ手に力を込めた。


「も~俺は今IQ2しかない・・・語彙力は失せたし・・・薫が可愛いしか考えられない。」


足取り重くなる夕陽をぐんぐん引っ張って歩いて、神社の近くまで来ると、お囃子の音が聞こえて、提灯の灯りが目に入ってくる。


「わ~~!!すごいよ!夕陽!みてみて~~!」


何度も訪れてるはずの神社は、夜だと雰囲気も変わり、黄色い明りに照らされた屋台が並んで、賑やかな人達の喧騒も、お囃子と一緒にBGMになっていた。

釣られて嬉しそうにする夕陽の手を引いて、俺たちは端から順に屋台を見て回った。


そして食べたい物を探しながら休憩出来る場所を探すために、神社の奥へと歩き進めていると、ベンチが並ぶテントの下から視線を感じてパッとそちらを見た。


「・・・・・リサ・・・・」


立ち止った俺に気付いた夕陽も、一緒にそちらを振り返った。

思わず名前を口にしてしまったことを後悔するよりも、かつて一緒に過ごした浴衣姿の彼女に、目を奪われてしまっていた。



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