第3話
「え・・・え・・・・あ・・・えっと・・・・・待って。」
彼はさっとポケットからスマホを取り出して、地図アプリを開いているようだった。
あまりお金を使いたくはないけど、出来れば夕陽の落ち込んだ気持ちを治してあげたかった。
ラブホの場所を調べ終えた彼は、何故かドギマギしながらまた俺の手を取って歩き出した。
昨今は別にラブホ女子会とかする人もいるみたいだし、同性同士だとしても入れるだろう・・・。
ショッピングモールから少し離れた所まで来て、入り組んだ建物の中、少し雰囲気の変わったビルが立ち並ぶ界隈まで来た。
初めてだからわかりにくいけど、何となくホテルだとわかる程度の看板が出ていて、夕陽は相変わらず緊張したように適当な場所に入った。
入り口付近には液晶画面があって、夕陽はさっとボタンを押して部屋を選んだ。
任せていればいいかな、と思いつつ彼は受付から鍵を受け取ってエレベーターのボタンを押した。
やけに狭いエレベーターに乗って部屋の廊下に着くと、ホントにただのビジネスホテルのよう・・・と思いきや、入る部屋の近くから嬌声が聞こえてきた。
何だかこっちが恥ずかしくなっていると、夕陽は淡々と鍵を差し込んでドアを開けた。
「薫、おいで」
「へ、ああ、うん・・・。」
自分で誘っておいてギクシャクして、そのまま部屋に足を踏み入れる。
へぇ・・・綺麗だし割と広い・・・
夕陽は黙ったまま、テーブルの近くの棚にあるお茶を淹れてくれた。
「ん・・・」
「ありがとう・・・」
二人してソファに座って、温かいお茶をすする。
何だろう・・・・今からここでエッチしますっていう空間にいるのって・・・こんなに気まずいものなんだ・・・
家で夕飯の後二人でまったりソファに座って、テレビを観ているような感覚とはまるで違う。
「薫・・・」
「ふぇ!?なに?」
思わず変な声が出て、いつもの夕陽の声が耳元で聞こえるのにすら敏感になっていた。
夕陽は視線をキョロキョロさせる俺に、ふっと笑みを返してそっと肩を抱いた。
「ふふ・・・あ~・・・癒される・・・。ありがとな。薫にラブホ誘われた~って有頂天になってたぁ。」
「・・・うん・・・。俺はその・・・初めて来たから・・・なんか妙にソワソワしちゃって・・・」
夕陽は飲みかけのカップを置いて、俺の手を引いてベッドへ向かった。
「ちょ・・・ちょっと待って夕陽!一旦トイレ休憩!」
「あ?うん、どうぞ。」
ささっと洗面所の隣のトイレに入って息をつく。
何を緊張してんだろう・・・家では毎晩のようにしてるし・・・
雰囲気のある場だと恥ずかしくなる自分がいる。
ボーっと便座に座りながら、今日のデート中の彼を振り返った。
俺に歩幅を合わせながら、車道を歩かせまいと気遣って、幸せそうに話しかける夕陽。
俺が手を離して店の物に夢中になると、恋しそうにまた手を取って指を絡めてくる夕陽。
隣同士に座った映画館で、隙あらば暗闇の中そっとキスしようとする夕陽。
そもそも前日から映画館の後のランチはどこがいいか、綿密に調べてデートを計画する夕陽。
元カノに遭遇しても一切愛想を振りまかずに嫌な顔をする夕陽。
俺を気遣って抱きしめてくれる夕陽。
俺の我儘でただの焼きもちな別人格の発言にも、素直に謝ってくれる夕陽。
元カノの無礼な発言に怒らず、ハッキリ自分の気持ちを伝える夕陽。
つくづく思うけど・・・夕陽っていい男だなぁ・・・・
一つ一つの気遣いは、彼がどれだけ人格者かを物語っている。
全部俺のためを思って行動してくれてる。・・・隙あらばいちゃつこうとするのは私欲だろうけど・・・
俺は用を足してさっとトイレを出た。
部屋に戻るとベッドに膝を立てて座って、スマホを眺める夕陽がパッと俺を見てニコリと微笑んだ。
え・・・可愛い・・・何そのいつもより可愛い笑顔・・・
堪えきれなくなって俺もベッドに座ると、彼は強引に俺を引き寄せてキスした。
いつもより激しく重なって心臓がうるさく響く。
やがて彼の唇が首に落ちて、音を立ててキスマークをつけて、鎖骨をなぞって・・・服を脱がし合いながら、どんどん夕陽のピンクの舌が体を伝っていく。
「薫・・・」
吐息を漏らして俺を呼ぶ声が愛おしくて、また手をついて俺に覆いかぶさりながらキスをくれた。
どれだけ好きだと言葉にしても、彼の体の奥まで沁みて行かない気がした。
夕陽が喜んでくれるならいくらでも何でもしようと思った。
堪えながら漏れる甘い声を聴きながら、自分の口に収まらない彼のモノを咥えては舐めた。
「はぁ・・・ふふ・・・」
舌を這わせていると、夕陽は俺の頭を撫でて顔を覗き込むように俺の前髪をあげた。
「なに・・・?」
「・・・さっきの元カノは・・・ただの当て馬だね。夕陽をこんなに出来るのは俺だけでしょ?」
体を起こしてまた、夕陽を食べるようなキスをした。
手で彼のを慰めながらいると、夕陽は火が付いたようにキスを返して無理やり俺を押し倒した。
乱暴に自分で選んで履かせた俺のズボンを脱がして、いつも見てるオスの目で見下ろす。
「煽るようなこと言うのは・・・これからめちゃくちゃにされてもいいってことだよな?」
「・・・された分やり返すよ?」
俺がそう言うと、夕陽はまた幸せそうな笑みを浮かべた。
「どうしようもなく薫がほしいのに、これ以上俺をおかしくさせんな。」
その言葉の後に記憶はツギハギになっていった。
何度か意識が飛びそうになって、その度に優しく耳元で囁く夕陽に振り回される。
前より粗暴な言葉を使ったり、懇願しても許してくれなかったり、構わず噛みついて痕をつけたりする夕陽が、愛おしくて仕方なくて、好きで好きで・・・
一緒に居られる時間が、寿命で死ぬまで何十年としかない時間が、今からもう惜しくて
何度も達して震える俺に、まだ欲しいまだ欲しいと甘えるように俺を食べる夕陽。
気付いたら休憩時間として入っていた時間いっぱいまで愛し合った。
「薫ぅ・・・まだしたい・・・」
枕に顔を押し付けて夕陽はそう言った。チラっと顔を覗かせた表情は、恥ずかしそうに俺を上目遣いで見る。
「・・・じゃあうちに帰ろ?」
「ん・・・薫、愛してるよ。」
心臓がぎゅっと掴まれた気がして、じんわり涙が溢れた。