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二度目の春  作者: 理春
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第27話

桐谷先輩は律儀にも、よければ何か詫びの品を渡したいと、自分のバイト先の花屋へ誘ってくれた。

スマホの数少ない連絡先に先輩の名前が追加されて、心なしか嬉しくなって眺めていると、いつものように夕食後の洗い物をしている夕陽が、キッチンから声をかけてきた。


「何薫、ニヤニヤしちゃって~」


「え?うん・・・。桐谷先輩さ、咲夜の友達なんだからきっといい人だよね。・・・友達になれるかな・・・。」


思わず夕陽の前でまた咲夜の名前を口にしてしまって、まずい・・・と思いながらチラっと彼を見ると、手元を動かしながら答えた。


「あ~・・・なるほど、それでなんか先輩と話してる時ソワソワしてたのか・・・。随分雰囲気あるイケメンだから、カッコイイなぁって見惚れてんのかと思った・・・。」


「・・・・」


夕陽は相変わらずそういう心配をまだするんだな・・・と内心不思議に思っていた。


「・・・え、何その沈黙・・・カッコイイって思ってた?」


そう言いながら今度は泡だらけの手を止めて、不安そうな表情を向ける。


「・・・ん~・・・そうじゃなくてさ・・・夕陽は愛されてる自信ない人なのかなぁって・・・。俺は夕陽に対して、浮気なんてしないだろうなぁとか、他の人に目移りしたりしないだろうなぁって信頼あるんだけど・・・。夕陽は色々不安なの?」


「いや・・・俺だって薫が移り気見せて、浮気するとか誰かに奪われるとか、そこまでは考えないんだけどさ・・・。カッコイイ人だなぁって薫の意識がちょっとでもいくと・・・俺はやなんだよ・・・。」


「・・・んふふ♡」


叱られた犬みたいにしょげて言う夕陽がどうにも可愛くて、ニヤニヤを抑えきれない。


「何だよ~~」


「えへへ・・・今日も夕陽が可愛くて幸せだなぁと思って♡」


夕陽は口をへの字にしながら、ささっと手早く洗い物を終わらせて、俺が寛いでるソファまで素早くやってきた。


「・・・別に不安って程じゃないからな、ただの焼きもち。」


「うん♡夕陽大好き♡」


「あああ~~も~~~~!」


頭をぐりぐり押し付けて、また俺の顔をじっと見てキスして、それからいつものようにマーキングするみたいに首に吸い付いた。


「あ~~も~幸せ過ぎる。薫好き・・・。」


「うん♡ふふ・・・」


「いい匂いするなぁ・・・。」


「何もつけてないよ?」


「じゃあボディソープかな?洗剤か・・・?」


「ふふ、だとしたら夕陽と同じ匂いだよ。」


「えへ・・・・同じなのいいな・・・♡」


終始デレデレしながら、二人で過ごす昼下がりが穏やかに過ぎていって、夕陽はペンダントにしまう写真を現像したいから出かけようと立ち上がった。


二人でコンビニに立ち寄っていた時、美咲さんからメッセージが届いた。


「・・・ねぇ夕陽」


「ん~?」


たくさんのドリンクが並ぶ冷蔵庫の前で、夕陽の腕を取って見上げた。


「美咲さんが、また近々遊びに来ないかって誘ってくれたよ。」


「マジで?いいんかなぁ・・・赤ちゃんまだ小さいのに・・・。」


「でも・・・もうたぶん3か月くらい経ったよね、大きくなったのかなぁ。」


「ふふ・・・そりゃな。3か月も経てば、産まれた時の倍の体重くらいになってんじゃね?」


「そうなんだ!え~・・・会いたいね。」


俺が気に入って飲んでいた紅茶のペットボトルをさっと手に取る夕陽は、ニッコリ微笑みながらカゴに入れた。


「そうだな。また母さんに赤ちゃんへのお土産何がいいか聞いて・・・二人で会いにいこっか。」


「うん。」


会計を済ませて、夕陽がたくさん撮って保存している写真の一つ、ツーショットのものを現像して店を出た。

外は少し地面が湿ったような匂いがする。


「あれ・・・雨降ってる?」


コンビニ袋を持つ反対の手で、夕陽は俺の手を取って空を仰ぐ。


「ん~~・・・気配はするな・・・」


「夏場だしそろそろ台風とか来る時期になっちゃうね。」


「だなぁ・・・。祭りの日・・・晴れてるといいけど・・・」


わずかに虫の音が聞こえる住宅街の道を、また足音だけを響かせながら歩いて、繋いだ手をぎゅっと絡める。


「夕陽夏祭り大好きなの?」


俺が徐に尋ねると、夕陽は視線を落として苦笑した。


「ふふ・・・いんや、特別好きっていうあれじゃないけどさ・・・。」


「・・・そう?」


夕陽は繋いで手の親指をスリスリして、俺の手の甲を撫でる。


「あれだよ・・・その~・・・ほら・・・薫言ってたじゃん、去年は改札口で待ち合わせして、佐伯先輩と祭りデート行ったんだって・・・」


「あぁ・・・うん」


「んで~~・・・ロマンチックな雰囲気の中、ちゅーしたんだろ?」


夕陽はニヤリと口元を持ち上げて、からかうような表情を返した。


「ふふ・・・」


以前自分から暴露したくせに、彼に堂々と肯定するのが、何だか嫌だった。


「・・・俺はもっと、薫の思い出に残るデートにしよっかなって。」


その声に十分詰まった嫉妬心を感じ取って、側で歩く彼を見上げた。

真っすぐ前を向いたまま歩いて、ふぅと息をついて、夕陽はまた柔らかい笑みを向ける。

彼がどんな気持ちでそう言ってるのか、俺は上手く推し量れているだろうか。

でも何も言わないより、下手に誤魔化すようにはぐらかすより、伝えたいことは伝えるべきだ。


「夕陽」


「ん~?」


「俺きっと・・・夕陽が想ってる以上に、夕陽のこと好きだよ。」


「・・・ふふ・・・え~?♡」


「だって・・・夕陽は俺がほしかった全部をくれたから・・・。半分も返せない俺に、帰る場所も待つ時間も、一緒に出掛けられる幸せも、おやすみって言える一人じゃない寝床も・・・全部。夕陽に恋してた時から・・・夕陽がいない人生なんて考えられなかったよ。本当に大事な人と向き合うのが下手で、怖くて誤魔化してたんだ・・・り・・・佐伯さんとデートしたりして・・・。」


その時繋いでいた手に、夕陽はぎゅっと力を込めた。


「それでも・・・・・・」


誰かを恨んでいるような声が、夕陽の喉から聞こえて、俺はまたパッと彼の顔を見上げた。


「薫は俺の・・・・・・・俺の中にある・・・黒い感情は知らないよきっと・・・。」


「・・・じゃあ知りたい。」


「・・・独占欲とか、執着心とかそういうのがぐちゃぐちゃに混ざって・・・固まったような気持ちだよ・・・。」


暗く落ちる彼の瞳が、雨を感じさせる湿った地面を、ドロドロに溶かすように眺めていた。


「どんな夕陽でも俺は好きだし、欲しいよ。」


正気かと問うような眼差しが返ってきたけど、迷いはなかった。

怖いものなんてもう何もなかった。


「俺は夕陽がいれば、他に何もいらないもん。」


「・・・・・高津先輩がもし、薫に色気を見せて誘うようなこと言ってきたらどうする?」


「・・・・あり得ないとは思うけど・・・・触らないでって振り払って帰るよ。」


「佐伯先輩が・・・やっぱり忘れられないって泣いて、薫を求めてきたら?なんて答える?」


「俺はもう夕陽のもので、佐伯さんのことは忘れてたよ、ごめんねって言うよ。」


「・・・れてなんて・・・・・」


「え?」


あっという間にマンションに着いて、その後黙ったままだった夕陽は、エレベーターを上がってる最中に、腰に手を回して強引にキスした。


「ん・・・っ!」


「・・・っはぁ・・・・。もう二度と・・・先輩の名前を呼べなくしたいな・・・。」


リサのことか、それとも咲夜のことを言ってるのかわからなかったけど

静かに到着したエレベーターから降りて、そのまま手を引かれて部屋の前で淡々と鍵を開けた彼は、バタンとドアを閉じた途端に、また我慢出来ないようにキスを繰り返した。

手首を強くつかんで、ロマンチックとは程遠い、食い荒らすようなキス。

でも絡める舌は優しくて、夕陽の味に慣れた体が反応して、縋るようにしがみついた。


その後そのまま玄関で、襲うように乱暴に犯されて

いつもは優しく囁いたり、気持ちよさを共有してくれる夕陽が、感情をぶつけるように腰を振った。

みっともない喘ぎ声を抑えられずにいる俺に、夕陽は色んな感情をこぼしていた。


「俺以外の名前を呼べないように、俺以外の記憶失くしてほしい。」

「こんな気持ちを知られたくなかったから、行き過ぎた焼きもちがバレないように過ごしてたのに。」

「壊したいくらい好きなのに、その一ミリも伝わってない気がする。」

「俺との思い出以外もう、思い出さないでほしい。」


欲をぶつけて、体の中に欲は吐き出されて

好きなだけ愛し合った後、お互い息を切らしながら抱き合った。


「・・・どれくらい・・・薫のこと好きか伝わった?」


ボーっと夕陽の可愛い垂れ目を見つめ返していると、ようやく彼は優しい笑みを見せた。


「わかってないんだろうなぁ・・・。でも・・・何十年もかけてわからせるから。」


力尽きて何も言えない俺を、夕陽は軽々と抱き上げた。


「かっる・・・・。薫・・・ちょっと痩せた?」


「・・・ん・・・わかんない・・・」


赤ちゃんみたいに抱っこされてちょっと恥ずかしいけど、夕陽が愛おしくて愛おしくて、頬に何度もキスした。


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