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二度目の春  作者: 理春
18/40

第18話

美咲さんと晶さん、そして鈴蘭ちゃんのうちを訪れた俺たちは、何度も晶さんに『いつでも遊びに来てね』と繰り返し言われた。

また近いうちに伺う旨を伝えて帰る時、3人家族になった彼らは、揃って俺たちを家の前で見送ってくれた。


鈴蘭ちゃんの可愛さを思い出して話したり、幸せな空気を分けてもらった俺は、内心とても羨ましく思いながらいた。

そんな気持ちを察してか、夕陽は俺に「また近いうちに実家に行くから、泊まろう」と言ってくれた。


そして6月17日、待ちに待った夕陽の誕生日。

夕食をご馳走になる予定があった俺たちは、揃って夕陽の実家へと足を運んだ。


「二人ともおかえり。さぁさ、あがって!薫くんが好きだって聞いたから、今日はおうちで焼肉よ♪」


「お邪魔します。ありがとうございます。」


上機嫌なお母さんに手土産を渡すと、「息子なのにそんな気を遣わなくていいの!」と苦言を呈されてしまった。

楽しそうに笑う夕陽と一緒にリビングへ上がると、お父さんも準備をしながら待ってくれていた。


「ああ、二人とも・・・おかえり。」


夕陽と似た穏やかな笑顔でそう言われて、何だかくすぐったく思いながら「ただいま。」と二人で返事した。


夕陽は

去年付き合う前、その年の自分の誕生日の話をしてくれた。

亡くなった妹の朝陽さんのことを思い出したご両親が、夕陽の誕生日を祝うはずが、色んな思い出を振り返って泣いてしまったと。

夕陽がその時、どんな複雑な心境だったかなんて、俺は到底推し量れやしない。

その時のことを、涙ながらに話してくれた時が、夕陽が初めて自分のことを吐露してくれた時かもしれない。


その誕生日での一件があって、夕陽はご両親に「来年以降は誕生日をわざわざ祝わなくていい。」と伝えていたらしい。

俺は二人きりであっても祝いたかったので、あれこれプレゼントやら食事を考えていたのだけど

うちに来て一緒に祝わせてくれないかと、お父さんとお母さんから連絡があった。


二人は気を遣ってしまう夕陽に、せっかく薫くんと一緒に祝えるんだから家族でと、言ってくれたのだけど

その連絡をもらった時も夕陽は、いつものように一緒にソファに座りながらポツリとこぼした。


「二人とも・・・去年のこと気にしてんのかなぁ・・・。」


俺はその言葉を聞いて、朝陽さんが亡くなる前の彼を知らないことが歯がゆかった。

優しいご両親の元で、穏やかに育った彼は、元からこんなに身内に気を遣う人なんだろうか。

家族に対して底抜けに優しい夕陽は、ご両親に対して我儘を言うことも、甘えて悪態をつくこともしない。

お母さんからチラっと聞いた話では、幼い頃から妹の面倒見もよく、手のかからない子で、反抗期もなく、人当たりもいいのでご近所さんからも好かれていたという。

絵に描いたような好青年に育った息子を、ご両親は時に、妹の朝陽さんより気にかけていたそうだ。

そんな夕陽が朝陽さんを亡くしてから、今はきっともっと、自分の親であるのに気を遣うような子供になってしまっている。


俺に見せない素顔を隠して、夕陽が実は傷ついてるんじゃないかと思いながらも、その日はお父さんもお母さんも、そして夕陽も楽しそうに夕食を共にしてくれた。

4人掛けのダイニングテーブルは、きっと本来なら朝陽さんが座っていたはず。

家族なんだからと快く迎えてくれる二人に、気まずい態度を取るのは悪いので、一緒に食べる焼肉を心から楽しんだ。

誕生日プレゼントは、うちに帰って二人きりの時に渡そうかなと思っていたので、その旨を伝えると、お父さんとお母さんは目配せをして「じゃあ・・・」と夕陽へのプレゼントを差し出した。


「・・・?なに?」


白い封筒を受け取った夕陽は、俺と同じく不思議そうに小首を傾げる。

するとお父さんは、照れくさそうに頬をかきながら言った。


「何にしようか散々悩んだんだけどな・・・俺も母さんもな、夕陽が薫くんを連れて来て、一緒になりたいって婚姻届け見せてくれて・・・心底嬉しかったんだ。だから二人ともあれだろ?生活費切り詰めて貯金してるって言ってたからな・・・二人きりで旅行とか行ってないだろうと思って・・・1泊2日の温泉旅行・・・プレゼントに。」


夕陽は説明を終えたお父さんに、わずかに微笑み返して次はやっぱり少し、申し訳なさそうに封筒を見つめた。


「・・・どうしたのさ、これ。まさか懸賞で当てたとか?」


「いや、恥ずかしながら貰い物だよ。会社からのな。」


「会社・・・?」


するとお母さんが側にやってきて、お父さんを小声で諫めながら腕を軽くはたく。


「それって・・・父さんが会社から貰ったってこと?」


「ほらもうあなた・・・説明がいるじゃない・・・。夕陽あれよ、勤続20年のお祝いでね?」


「え・・・それじゃあ・・・母さんと使うやつじゃないの?」


お母さんはバツが悪そうにするお父さんの代わりに、小さくため息をついた。


「いいの。お父さんが貰ったものだから、お父さんがどうしようが勝手でしょ?ちなみに私からは別にプレゼントあるわよ♪」


「ふ・・・そんなさぁ・・・せっかく・・・てか、そりゃ貯金は二人でしてるけど・・・そもそも生活費は俺ら仕送り貰ってやってんだよ?父さんが働いてきて貰ったお祝いはさ、夫婦で使うのが筋でしょ?」


目の前の二人は、やっぱりそう言うと思いました、と言わんばかりの残念そうな顔をして、俺に視線を向けた。


「ゆ、夕陽!せっかくご厚意でいただいたんだしさ・・・俺たちが就職して社会人になったら、二人にお返しできる機会はあると思うし・・・せっかくのプレゼントだから・・・有難く受け取っていいんじゃないかな。」


すると夕陽は俺を見て、今度はいつもの笑顔を見せて、俺に気遣いを見せる。


「・・・まぁ・・・薫がそう言うなら・・・そうするか・・・。ここで意固地になって言い合っても、なんか違うしな・・・。」


さらっと彼は大人の対応に切り替わって、改めて二人にお礼を言って、今度ばかりは嬉しそうな子供の笑顔を見せた。

そしてお母さんはホールケーキの代わりにと、手作りのアップルパイを用意してくれた。

何でも、小さい頃から夕陽の大好物だそうだ。

そして普段ゆっくりそこまで話す機会もないからと、夕陽と俺にまで手紙をくれた。

デザートのアップルパイをたくさん食べた俺と夕陽は、貰った封筒と手紙を夕陽の部屋に持って行って、満腹感に息をつく。


「ふぅ・・・食った食った~♪」


「ふふ、豪勢な夕食だったね。アップルパイもすごく美味しかったし。」


「だろ~?母さんお手製のアップルパイはマジ、店で売ってるレベルだから。」


「確かにそうだね。」


幸福感を抱えながら、貰った手紙を眺める。

夕陽はコツンと俺に頭をくっつけて囁いた。


「そんな嬉しい?」


「うん・・・。俺家族から手紙なんてもらったことないし・・・えへ・・・家に帰ってから読もうかな。」


夕陽の誕生日なのに、何だか俺ばっかり幸せになってる気もして、チラっと夕陽を窺うと、彼はやっぱり、自分の事のように幸せそうに微笑んだ。


「ふふ・・・あ~・・・薫がそんな幸せそうにしてると、尚の事二人に感謝しかねぇなぁ・・・。」


夕陽はそう言いながら、お父さんから貰った封筒を開けて、チケットを取り出した。


「・・・・ん?・・・なんかお金も入ってんじゃん・・・。」


旅行券の他に、何故か一緒に万札が数枚入っていて、夕陽も俺もしばし不思議に思っていた。


「ちょっと聞いてくる。父さんもしかして、母さんがへそくり用に使ってた封筒使ったのかも。」


夕陽は立ち上がって静かに部屋を出た。

彼の背中を見送って、しんと静まり返った部屋の中、俺もやっぱり気になってしまったので、同じく立ち上がってそっと階段を降りた。

リビングに入る前の廊下で足を止めると、お父さんと夕陽の会話が聞こえてきた。


「父さん、封筒にお金も一緒に入ってんだけど・・・これ母さんのじゃないの?」


「ん?・・・いや、旅行券は宿泊費と食事はタダになるけどな、ほら・・・交通費とか、お土産代もいるだろ?だからあれだよ、父さんから二人へお小遣いだよ。」


「ふ・・・いや、にしても金額入れ過ぎでしょ・・・。ひと月分の食費くらいあるって・・・。」


「いいんだよぉ・・・。父さん自分で買ったプレゼントじゃなくて、貰い物あげたんだぞ?だからお金は好きなもの買いなさいね、っていう自分からのプレゼントだよ。」


「んでもさぁ・・・」


「ほら、いいから・・・母さん風呂の準備してくれてるからな。明日は薫くんとデートか?」


「・・・父さん・・・んならせめてこの半額でいいよ・・・。ほら、返す。」


「んも~お前ホントに母さんに似たなぁ・・・。母さんもそう言っていっつもデート代後から割り勘しようって出してくんだよぉ?お父さんにカッコつけさせてよぉ。」


「ふふ・・・いやもう、お世話になってるし・・・仕送りもらってるし・・・十分カッコついてるから大丈夫。」


「・・・夕陽ぃ・・・あのな・・・母さんも父さんもな?子供にかけるお金は惜しみたくないんだよ。それにな・・・母さんには・・・余計な事言うなって言われたけど・・・」


「・・・なに?」


「・・・・朝陽の学費とかは・・・ずっと手を付けてなかったんだけどな・・・今はお前のために使いたいんだよ・・・・。それは・・・・親のエゴだけどな・・・」


お父さんが弱々しくそう言うと、夕陽の声はその後聞こえなくなった。



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