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TWO AS ONE  作者: 山野井 快斗
7/7

城塞都市エルゲル

体調不良により、そんなに進められませんでした。

今回は短めとなります.....。

なので、ついでとして最後に主人公のイラスト掲載しています。

興味ある方は是非ご閲覧下さい...。

“剣聖ゼノビア・パールミア・クイーン”は頭を抱えた。


およそ一週間前から続く都市防衛戦による死傷者の数は1000にも及び、都市内の建造物もほとんどが倒壊。

都市を守る最終防壁ですらあちこちにヒビが入っており、あと2、3回敵の進行を受ければ崩れるだろう。


「状況は最早破滅への一直線ね.....」


およそ一万にも及ぶ魔族の軍勢の進行。

もし敵の脅威がこれだけだったなら、防壁を駆使し、五分五分の闘いとなりつつも我が軍が勝利出来ていただろう。

しかしつい先日、魔族軍の総大将として突如現れた巨大な黒竜“幻黒の(デーモンブラック)竜王(ドラゴンロード) ”により、状況は最悪な物へと一変した。


幻黒の竜王によるたった一回のブレス攻撃により、300の兵士と三層ある内の一層の壁が崩壊し、壊滅的被害を受けた。

正直言って、エルゲルの残存兵力と崩壊寸前の最終防壁でどうこう出来る話では無い。


「だからこそ、“剣聖”である私に招集が掛かった...」


“剣聖”。

この称号が与えられるのは、世界でただ一人だけだ。

この世で最も強き騎士にこの称号は与えられ、そして最強と名高い騎士剣【セイブザクイーン】の所有が許される。


「初代剣聖が女神より授かったと言う伝説の騎士剣。秘められた魔力量は、かの【極大魔法(オメガマジック)】相当と言われる.....けど__」


ゼノビアは自身の腰に装着された騎士剣セイブザクイーンを引き抜き、それから窓の外、はるか遠方に見える壁外の丘を見つめた。

そして頭を振って涙目になる。


「相手が悪すぎる.....!」


幻黒の竜王は幻獣族。それも、“竜王”。

王の名を冠する幻獣族はまるで次元が違うのだ。

【極大魔法】を普通に扱え、通常攻撃が天変地異。

本気でブレスを吐けば、国一つ跡形もなく消し飛ぶ。

いくら最強の騎士に最強の騎士剣を持たせたと言えど、所詮は人間。

竜王とは人間がまともに太刀打ち出来るような存在では無いのだ。


おまけに、幻黒の竜王は“重力を自在に扱う”ことのできる特殊な力として、【個有能力(アビリティ)】を有している。

こちらにとって、絶望的なまでの鬼に金棒だ。


「でも.....やらなければ...私が!」


この国最高の戦力である自分が前線に立たねば、もはや誰もが武器を取ろうとしない状況で、逃げる事は出来ない。

そもそも、ここで逃げるような騎士では“剣聖”の名に泥を塗ることになる。

それだけは出来ない。


「ロドネス騎士長!!」


「はっ!!」


ゼノビアが名を呼ぶと、即座に丸坊主の男が扉を開け、室内へと入ってきた。

このロドネスと呼ばれた男が、騎士長としてこの国全ての騎士達の長である。

ロドネスはゼノビアの前で敬礼を構えようとしたが、ゼノビアはそれを手で制し、不要と伝えた。


「これより私も戦場へ行きます。恐らく次の進行で幻黒の竜王が再び現れるでしょう。...私以外に太刀打ち出来る者はいません.....この私、剣聖ゼノビア・パールミア・クイーンが悪しき竜の王を討ち取りましょう!!」


「なんと.....ついに剣聖様が!」


「至急全ての騎士、傭兵に伝達を!!」


「はっ!直ちに!!」


ロドネスは慌てて部屋から出ていく。

扉を閉め忘れる程に。

それ程、ゼノビア出撃の宣言はロドネスを始め、誰もが待ち侘びていた物だった。


「そう...これが最後の戦いになる...」


ロドネスが開けた扉を閉め、ゼノビアは室内全域に防音の魔法を掛けた。


「このエルゲル...そしてこの私の人生が...終わりへと向かう戦い.....」


そして、ゼノビアは再び頭を抱えた。


「嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ!!なんで私が剣聖なの!!私が剣聖なんかじゃなかったら.....とっくににげられていたのにぃ!!」


今のゼノビアの声を聞ける者は、この城内には一人としていない。

だからこそ、ここで全ての不満と愚痴をぶちまけ、自身に宿る恐怖心に素直になる。


「いいなぁ...コペりんは.....。ただのクランマスターだから逃げられて...私だって...私だって本当はそれ位の地位で良かったのにぃぃぃぃ!!」


この都市から逃げていった友人を思い出し、羨む。

そんな情けない姿を見せる今の彼女に、最早剣聖の面影は微塵も無かった。


「それに...この世で一番強い剣士は.....私なんかじゃ無い...」


剣聖の始まりはおよそ五千年前から。

当時は世界に騎士と呼ばれる存在はおらず、この世で最も強い剣士に、その称号は与えられてきた。

ところが、騎士が現れ始めてからいつしか、この世で最も強い騎士にのみ、その称号は与えられるようになった。


その為、かつて王都で行われた御前試合で優勝を果たしたゼノビアが、58代目の剣聖に選ばれた。

その結果として富や名声は得られたが、今の絶望的状況から逃げ出せない現状へと至る。


「はぁ...仮にこの戦いに勝てたとして...問題はある...」


この都市を運営していた上層部の人間は皆、既に都市外へと避難を済ませており、代役としてゼノビアが今はトップとなって仕切っている。

その為、ありとあらゆる報告書が彼女の元へ運ばれてくるのだが、その内容はどれも目を背けたくなる物だった。


「資源は底を尽き、人口はおよそ五割現象...。後の戦いでは更なる現象と、もう一層の壁の崩壊が想定され、予算も食料の蓄えも全くもって足りない」


つまるところ、殆ど犠牲を出さずに次の戦いで勝利を納めなければ、どの道この都市は壊滅状態に陥るという事だ。

はっきり言って詰んでいる。


「こちらの有効戦力は私と、A級冒険者チーム“ファングクロウ”。犠牲を最小限に抑えるには、少数精鋭で竜王を叩くしかない.....これしか方法が.....」


ゼノビアは作戦立案に関しては特別秀でた才を持っている訳でなく、これ以上の作戦は思い浮かばない。

生き残った騎士団所属の軍師ですら、これ以上の作戦を発案する事が出来ずにいた。


だが、これでは明らかに戦力が足りていない...。


「私にもっと力があれば...!!」


無力を悔やんでもどうしようもない。

今は、兎に角やれることをやりきるしか無いのだ。


ゼノビアは室内にかけていた防音魔法を解除した。

すると、廊下から慌てた様子で、こちらへ走って向かってくる足音が聞こえてきた。


嫌な予感.....ゼノビアは思わず身構える。


と、同時に勢いよくノック無しでドアが開け放たれた。

入室者はロドネスとは違う、主に伝達役の騎士。

残念ながらゼノビアに名前は覚えて貰えていない人物だが、何やら顔を青くしており、様子がおかしい。


「き、緊急事態です!!」


「.....次からはノックをするように。...で、何事でしょう?」


嫌な予感は更に強くなったが、ゼノビアは努めて冷静に振る舞う。

だが、その振る舞いもすぐに崩れ去る事となる。


「都市南西部に幻黒の竜王が突如襲来!!迎撃に当たったファングクロウは全滅!!現在、幻黒の竜王はこちらへ向かって進行中であります!!」


南西部は最も戦力を集中させておいた場所だ。

そこが壊滅し、おまけに有効戦力であったファングクロウが全滅、最早竜王に対抗出来うる戦力はゼノビアただ一人になってしまった。


「はぁぁ!?」


あまりにも悪化した悲惨な現実に、ゼノビアの絶叫が城内に響き渡った。







天鳥 織翔

挿絵(By みてみん)

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