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TWO AS ONE  作者: 山野井 快斗
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異世界の月下にて


『冒険者』。

それはこっちの世界ではごく当たり前に存在している職業の内の一つだ。

冒険者は“ギルド”と呼ばれる組合、もしくは“クラン”と呼ばれる団体に所属している。


ギルドとは世界各地に支部が存在する非国属の私営団体であり、対してクランとは戻ギルド所属の冒険者や、完全にギルドとは関わろうとしない実力者等が一から設立した、個人経営による非国属の小規模団体である。


薬草採集、魔物討伐、未開ダンジョンの探索、指名手配犯の捕縛、未踏領域の調査、魔法実験、等の仕事はこの双方いずれかの組織を経由して冒険者達に回される。


冒険者達は依頼を受け、それを達成したことで支払われる報酬が収入源である。

ここで重要となるのが、ギルドとクランどちらに所属するかによって全く同じ依頼内容でも受け取れる報酬の内容が変化する、という点についてだ。


例えば依頼達成後に受け取れる報酬額を1000と仮定しよう。

ギルドでは世界各地の入国審査の免除、若しくは緩和に加え、冒険者へのバックアップとして情報提供、宿泊代、武器代、薬草代、食費代の割引がある。


そして万が一に対する保険として、冒険者の死亡時、それが職務の最中による事故であった場合、その冒険者の階級に応じて家族には保険金が支給される。

加えて、パーティを組む、組んでいた場合は欠員を補う為にギルドから即座に代役、又は新たな新メンバーを紹介して貰える。


ただし、これらのサービスは無償という訳では無く、年間を通して一定数の依頼達成というノルマと、支払われる報酬から毎回、手数料と共に何割かを差し引かれる事になっている。


つまり個人の以来達成により受け取れる金額はおよそ半分、500といった具合になる。


対して、クランはギルドのように全国各地に支部があるという訳では無く、一つ一つのクランは世界にその場所にしか存在せず、当然ながら個人経営による小規模団体になる為、ギルドのようなバックアップは行われておらず、全て自己責任制である。


その代わり、依頼達成報酬から手数料等など引かれる事は無く、きっちり1000の報酬を達成者は受け取る事が出来る。

加えて、一部のクランは他クランとの独自のネットワークを築いており、ギルドでは出回らない貴重な情報を秘密裏に共有されている場合もある。


ただし、全ての有事の場合に対して完全な自己責任である為、身持ちの人間にはかなり敷居が高い選択肢とも言える。


結局の所、どちらにもメリットデメリットが存在し、冒険者達は各自、自分の適正に合った方へと所属しなければならない。


尚、どちらにも所属する事無く、完全なフリー状態で“冒険”を行うことは国際法で固く禁止されており、違反を犯した者は重い厳罰を課せられる事となる。




(と、言う訳で織翔。君はギルドかクラン、どちらかに所属して冒険者になって貰わなくちゃいけない)


(ちょっと待ってくんない?)


長々とした説明から選択を強いてきたオルフェンに対し、焚き火に薪を放り投げていた織翔は待ったを掛けた。


(俺、冒険者になる必要あるのか?)


(大アリさ!)


織翔の疑問にオルフェンは即座に返す。


(冒険者とは未知を開拓、探索、発見、公表、利用、獲得していく者。当然、元に戻る手掛かりを世界中探し回ろうとしている僕達はコレに当てはまる。だから冒険者登録を済ませ、冒険者にならなければいけないんだ)


(ンな面倒くさいルールなんか破っちまえよ。どうせ世界中探せば何千人と違反してる奴らくらいいるだろーよ?)


少し集中し、オルフェンの記憶を覗いてみる。

成程、確かに違反している奴らは五万といた。しかし__


(あぁいるとも。でもね、そういった人達はみんな指名手配されて全世界から追われているよ。そして捕まったら...五十年は牢屋の中で暮らさなくちゃいけないね)


「厳しすぎだろ!」


思わず声に出して突っ込みを入れてしまう織翔だったが、それも仕方ない事だと言えよう。

確かに織翔の元いた世界でも、何の申請もせず他国へ渡るのは犯罪だ。

しかし、流石に五十年も懲役を食らうと言う話は聞いた事が無い。

それはやはり、この世界特有の事情というものがあるのだろう。


「しかし...ギルドかクランか...。稼ぎは重要だろうし、かと言って冒険初心者の俺が何のサポートも受けられないと言うのはアレだもんなぁ...」


この世界には恐らく長期間の間、滞在する事になる。

そうなると当然、先立つ物が必要になる訳だが、稼ぎだけを追い求めても良いと言う話でも無い。

オルフェンに聞いても「どちらでも良い」という曖昧な答えしか返って来なかった為、仕方なく織翔は対面する者に尋ねてみる事にした。


「なぁ、お前はどっちが良いと思う?」


その問いかけを受けた“彼”はピクリと反応を示し、そして即座に応えた。


「巫山戯るなぁ!!我にこんな舐めた真似をして...タダで済むと思うなよ!!」


鎖でグルグル巻にされた不死鳥は、不機嫌を隠そうともせず、怒鳴り声を上げた。

夜の森の中で上げられた大声はよく響く。


「うわ!?うるさ!?...なぁ、いい加減さ、機嫌直してくれねーかな?」


織翔は努めて下手に出てみるも、不死鳥の剣幕は収まりそうに無い。


「何故生かした!!こんな屈辱を味わう位なら...我は死を選ぶ!!」


いくらもがいても、炎を吹き出そうとも、不死鳥を縛る鎖はビクともしない。

それもそうだ。

この鎖は魔法で出来た鎖...織翔がオルフェンの記憶から漁り出した、使い手の筋力に依存する捕縛魔法なのだから。


「いやそれはマジですまん。ホントは倒せるつもりで『一撃だけ』って言いながらパンチをぶちかましたまでは良かったんだがなぁ...。お前の足首掴んでたせいで...そこだけ残してしまったから殺しきれなかった...ホントすまん」


申し訳なさそうに事情を話す織翔だったが、そんなこと不死鳥は知った事では無い。


「ならば次の一撃で我を殺せ!!我が許す!!さぁ殺せ!!」


「俺、言った事は守る主義だから」


「くそぉぉぉぉぉぉっ!!」


キメ顔でそう言ってのけた織翔に対し、不死鳥は心からの叫びを大声で叫ぶ。

そう、結局の所、織翔は不死鳥を仕留めそこなった為にこうして共に行動を取る羽目になっていた。

不死鳥からすれば大変不本意な状況だが、そんなことは織翔の知った事では無かった。


「おのれぇ...偉大なる不死鳥たるこのアレス様が...このような...!」


「あ、お前アレスって言うのか」


「“様”をつけろぉぉぉ!!」


「やだ」


「貴様ぁぁぁぁっ!!」


なんだか楽しくなってきたぞ。

内心織翔はそう思い始めており、それに呆れたオルフェンはようやく口を挟む。


(話、脱線してる。結局どっちにするのさ?)


「あ」


そう、今は今後の進路を決めることが最優先で不死鳥ことアレスをからかっている場合では無い。

かと言っていくら悩んでも今の時点で決めろというのは難しい。

選べるだけの判断材料がオルフェンからの説明だけでは不十分だ。


「今ここで決めたって仕方ないだろ。ギルドorクランどっちにしろ、申請するには本部に行かないとなんだからな..。つまり!」


織翔は木の枝で地面に描いた地図を指さした。


「ここから先にある城塞都市エルゲルへ向かって、実際にこの目で見てから決めよう!」


「貴様正気か!?」


独り言の多い織翔を奇妙な物を見るような目で睨み続けていたアレスは、その言葉を聞いた瞬間声を荒らげた。


「我を人間都市へこのまま連れて行って真面に入国出来る筈なかろう!!我は魔獣...それも幻獣だぞ!?さっさとここで殺せ!!それが貴様の為であり我の為でもある!!」


「うるせーなぁ...そもそも幻獣って何だ?って話だよ」


「馬鹿か貴様っ!?」


魔獣とは一括りにそう呼ばれているが、その中でも細かな種族別分けが存在している。

小型種族、大型種族、巨大型種族、魔法獣族、人型族、悪魔種族、不死種族、ドラゴン族、他にも多々あるが、その中でも幻獣族は一際強力な力と高い知能を宿し、何万年という時を生き、世界でも数百種しか目撃情報が無い程、数が少ない。


オルフェンの魔法がアレスに全く通用しなかったのが良い例となるが、並大抵の人間ではまず太刀打ち出来ない位、人知を超越した凄まじい力を幻獣族は宿している。

当然、そんなのがいくら拘束された状態とは言え、人間都市にすんなりと入れる訳でも無く、ましてそんなのをふん縛って連れ歩く織翔の事なんて、怪しさ満点だ。


かと言って織翔はここでアレスの事を今更殺す気は無いし、逆に逃がして解放する気も無い。

ここで逃がせば「あの御方」とやらに自分の事を報告される。

そうなると確実に追いかけ回される羽目になる為、何があってもそれは却下だった。


となると選べる選択肢は___


「密入国__するしかねぇのかねぇ」


(論外)


即答。

当たり前だが密入国は重罪だ。


ならば。


「ジョークだよ。第3の選択肢だ。ギルドにも所属しねぇクランにも所属しねぇ.....そういう選択肢だ」


何を言っている?僕の話を聞いていたのかな?


(あのね、冒険者にならないと稼ぎも探索も...)


「自分で創ってしまえばいい」


再度長ったらしい説明を試みようもしたオルフェンを途中で遮り、織翔は続けた。


「つまり、自分でクランを創って冒険を合法化するんだよ。どーせ他所のクランかギルドに所属したって、やれ規律がどう、私達はこう、とか言い出して俺達が思うように冒険出来なくなるかもしれない、ってことがあるかもしれないだろ?.....だからこそ、自分で創ってしまうという訳だ」


(.......一理ある)


しばらく間を開けた後、織翔はそう呟いた。

そして、その後に「しかし」と続ける。


(クラン設立には僕らを含めて、最低でも『二人』のメンバーが必要となる。...君には何かあてがあると?)


ある訳が無い。

...筈なのだが、織翔はオルフェンの問いかけに対してそのように即答する事は無かった。


「さてなぁ.....別にメンバーが人間限定という訳でもなけりゃ...丁度良いのが目の前にいるけどなぁ」


そう言って織翔が視線を向けた先にいたのは___


「何を見ている」


織翔を睨み続けているアレスだった。

鎖から逃れようと藻掻くことは既に諦めているようだが、その瞳の奥では未だに抵抗の力を宿している。

そんなアレスを見て、オルフェンは一言__


(本気なのかい?)


__と、溢した。


出会いから最悪だった。ここまであからさまな敵意を見せる魔獣を仲間に加える等、どうやっても不可能としか思えない。


「よし!アレスよ俺の仲間になれ!」


「断る!!」


このように。

即答。おまけとして火炎の塊が飛ばされて来たが、織翔は手の甲で軽く払い除けた。


「つれねぇなぁ.....せめて雑談くらいは付き合ってくれて良いだろうに」


寂しそうに言って織翔は夜空を見上げた。

織翔のいた世界とは違って、この世界の夜空には二つの月が浮かんでいる。

星も緑、赤、紫、と様々にカラフルな発光をしており、本当に異世界に来たのだと言う事が実感出来た。


「.....異世界の空ってのは不思議だな」


「.......我ら幻獣は“星の魔力”によって誕生する」


オルフェンの呟きに返したのは意外な事にアレスであった。


「お、いきなりどした?」


「黙って聞け」


嬉しそうな顔でこちらを見てくる織翔を無視して、アレスはさっさと続きを語り出す。


「降り注ぐ星屑が、この大地に衝突した時に一つの生命エネルギーが生まれる。そのエネルギーは一つの惑星に匹敵し、その全てのエネルギーを取り込んで幻獣は産まれるのだ」


これらは初耳だった。

覗き見たオルフェンの記憶全てが正しければ、今アレスが話した内容は、魔法生物学者達にとっては世紀の発見になるだろう。


「つまり、幻獣の力は“惑星そのもの”と言え、まさに人知を超越した存在なのだ。.....しかし、そんな我を貴様はいとも容易くあしらい、こうして今は解けぬ拘束を施せている.........貴様、一体何者なのだ?」


冷静さを取り戻したのか、落ち着いた口調でアレスは尋ねる。

織翔から情報を引き出そうとしているのだろう。

その為にわざわざ織翔の望む対話という形を取った訳だ。


「俺が何者なのか...ね」


しかし、その答えを織翔は持ち合わせていない。

融合人間、超人、適当な答えとしてはそれなのだろうが、それでは自分自身に納得がいかなかった。


「今はまだ分からないな。それは...これからの俺次第だ。」


「.....」


「だから俺はこの世界に来たんだ」


「そうか..。残念ながら我の聞きたかった答えでは無かったようだな.....」


だが、織翔の話を聞きながらアレスの瞳は確かに一瞬だけだが、光ったように見えた。

まるで何かを思い出したかのように...。


「ま!その為の第一歩が“城塞都市エルゲル”って訳だ。着いてから結局お前をどうするかってのは決めような!」


(後回しじゃん)


こういった織翔の後回し癖をそこそこ理解しているオルフェンは呆れたかのように愚痴った。


「.....ふん。もはや何も言わぬ。好きにしろ」


対してアレスは投げやりな返事を返してから明後日の方角を向いて、眠りの体勢になった。


(城塞都市エンゲル.....我の記憶が正しければ恐らくそろそろだったな.....)


そして、何やら不穏な事を織翔に悟らせる事の無いように考え出す。

繰り返し言うが、アレスの瞳は未だに諦めの感情は感じさせず、抵抗し抜くという固い意思が見てとれていた。




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