TWO AS ONE
こいつはこの世界の存在では無い。
間違いなく別世界から来た異形の怪物だ。
織翔は目の前にいるその巨大な生物を一目見るや否や、すぐにそう確信した。
何故なら__。
「なんか燃えとるぞコイツ!?」
__燃えていたからだ。
見間違い…という訳では無い。
現に、その生物から発せられる炎のせいで織翔の肌には火炎の熱が伝わっていた。
(違う織翔!燃えているんじゃない!……あの吹き出す炎は体毛のような物だ!)
……はぁ?
自分の中で聞こえてきた、まるで何かを知ってるかのように叫ぶオルフェンの言葉に、織翔は気の抜けた返事を返した。
(炎が体毛だぁ!?何言ってんだオマエ…つーか何でそれが分かるんだ?)
(知ってるから…一度だけ見た事があるからだ!あの怪物は僕の世界に住んでいる“魔獣”の一種!)
織翔の当然の疑問に対して即座にオルフェンは答える。
(魔獣!?なんだその如何にもRPGに出てきそうな生き物は!?)
魔の獣と書いて“魔獣”__。
その名称は織翔も聞いたことがある。
しかし、問題なのは織翔の思っている“魔獣”とオルフェンの知っている“魔獣”への認識が一致してた場合__。
この予期せぬエンカウントはかなり不味い状況となる。
だからなるべくそうではありませんように、と織翔は祈りながらオルフェンの説明を待つ。
(説明は後だよ!!織翔気を付け__)
オルフェンが何かを言い終わる前に、身の危険を直感で感じ取った織翔は全力で横に飛んだ。
その瞬間、織翔が先程まで立っていた場所を何かが轟音を立て、地面を削り取りながら物凄い勢いで通過していった。
「あっぶね!?いきなり何だ!?」
間一髪、回避が間に合った織翔が何かが飛んできた方向へと目を向けた。
その視線の先には…燃える翼を片方だけ前方に広げた怪物が立っていた。
「……おいおいまさか、翼を広げた時の風圧だけで今のを!?」
絶句。
まともに当たっていれば即死の風圧を普通の生物が起こせる筈がない。
そして、それが織翔目掛けて放たれたという事が何を意味しているのか、今のでそれを織翔は嫌でも理解できた。
「最悪の状況って訳か」
(かなり不味いね……)
さっきまで汗の一つ流れていなかった体から、冷や汗が吹き出た。
「ほう……。この世界の生物は全て脆弱な存在と聞いていたが…今のをすんでのところで避けてみせるとは。少しだけ評価を改める必要があるな」
「!!」
今の声は__!!
等とわざわざ確かめる必要が無い位ハッキリと、目の前の怪物から聞こえてきた。
驚愕に目を見開き、織翔の身体は硬直する。
「バケモンが……!!」
そう吐き出すだけでも今の織翔には限界だ。
_が、その一言は目の前の怪物にとって聞き捨てならぬ言葉であった。
「貴様…無礼者め!!我は“幻獣族”の偉大なる“不死鳥 フェニックス”!!化け物等と汚らわしい呼び名で我を呼ぶで無い!!」
そう怒鳴ってから不死鳥は両翼を勢いよく広げ、辺りに熱風を放った。
___このままだと不味いな。
「___そ、それは悪かったよ。知らなかったんだ」
(オルフェン!気になること、聞きたいことは山程多いがそんなのは後回しだ!この危機から無事に抜け出る手は無いのか!?)
何故か違う世界の存在なのに喋る言語はオルフェンも目の前の不死鳥も同じ日本語。それはかなり疑問ではあるが、それよりも自分の命が最優先だ。
言葉が通じるなら対話で時間を稼ぐ。
若しくは穏便に事をすませたい所だが、あまりそれは期待出来ないだろう。
だからこそ、オルフェンに藁にもすがる思いで助けを求めた。
(目の前の魔獣は不死鳥。だから何をやっても死ぬことが無いから撃退は不可能。…かと言って気性も荒そうだから平和的に済ませられる可能性も薄い)
ハッキリ言って詰んでいる。
ふざけんなよマジで。
「ふん…無知とは愚かな存在よ。まぁ良い…どのみち我の姿を見たからには生かしてはおけん」
追い打ちをかけるかのような死刑宣告。
本当に勘弁して欲しい。
「そこを何とか融通利かしていただけません?」
どうやらその存在を知ることだけでアウトらしい。
これでもう穏便に済ませられる可能性は無くなった。
(倒せなくたって逃げ切れりゃ良いんだよ!本当に何か手は無いのか!?)
「断る。あの御方のご意向に背く訳にいかんからな」
あの御方…こんな怪物を従えてるやつがいるのか。
いや、そんなことは今考えてる余裕が無い。
オルフェン…頼むから知恵を振り絞って何とかしてくれ。
(……ぶっつけ本番で、しかも運任せ。それで無理ならもう無理っていう手段ならあるよ)
無いよりはマシだ。
やるしかないだろ。
(それでいこう!!作戦は!?)
不死鳥は織翔の言葉に耳を傾ける事無く、こちらへと一歩一歩近づいてくる。
___時間がもう無い。
(僕達は現在、二人で一つの身体を共有している…ならば、もしかしたら出来るかもしれない…)
(何を!?)
織翔の前まで近付いてきた不死鳥は、踏みつけて推し潰そうと巨大な鉤爪の生えている足を頭上へと振り上げた。
(“使う”って強くイメージしながらこう叫んでくれ!!)
「_____死ぬがいい。弱き異世界の者よ!」
不死鳥の足が振り下ろされる直前、織翔は両の手の平を不死鳥に向けて突き出し叫んだ。
「“凍える爆裂”!!」
_____瞬間、魔法陣が広がり氷の爆発が発生した。
「ぬおぉぉ!?これは__魔法!?」
そして、その氷の爆発は突然の出来事に動きを止め、無防備となった不死鳥の全身に向かって炸裂した。
瞬間、辺り一面に大量の蒸気が放たれ、織翔の視界一面が真っ白に変わる。
「うおぉぉぉ!?本当に魔法使えた!?」
オルフェンから出される指示のままに動いたら使えてしまった魔法。
架空の物語の中でしか存在し得ないと思っていた物が使えてしまった事実に、織翔は驚き、同時に感動して己の手の平をずっと見つめていた。
(何してるの!?早くこの場から逃げないと!!)
そんな織翔に対し、急かすオルフェンの声が脳内に流れ込んできた。
その事でようやく織翔は我に返る。
(おっといけない!!……でも待てよ。今の俺には魔法が使えて、闘える力がある。だったら別に急いで逃げる必要も…)
これだけ凄い事が今の自分にも出来るなら、不死鳥だろうが何だろうが恐れるに足らない。
そう織翔は考えていたが、しかしそれはオルフェンからすれば大きな勘違いでしかなかった。
(それは違う!!君が使える魔法は僕が使える魔法であって、そんなのは魔法学校で習うような初級魔法ばかり!対して!不死鳥は魔獣の中でもトップクラスの強さを持つ幻獣族!今の魔法ですら果たしてどれだけ効果があったか__)
「何だ今の情けない魔法は…?」
オルフェンが全てを言い終わる前に、蒸気の向こう側から不死鳥の声が聞こえてきた。
___いくらなんでも早すぎる。
聞き間違いでは無いその声にオルフェンは焦った。
確かに不死鳥はその名の通り高い再生能力を持つ不死の魔獣だ。
だが、ありとあらゆる攻撃を無効化するという訳では無く、むしろその不死性故に一切の耐性を持つことなく殆ど全ての効果をまともに受けてしまう。
オルフェンの作戦はそこを突いた物で、自身の使える氷魔法の中でも特大の物を織翔に使わせ、不死鳥を短い間だけでも氷漬けにし、動きを封じる。
そして、その隙に出来るだけ遠くへ逃げるといった物だったのだが、それだけにこの状況はいくらなんでも予想外であった。
「おいおい…嘘だろ!?」
予想外。
それは織翔も同じだったようで、蒸気の晴れた視界にまた現れた不死鳥の姿を見て、傷一つ無いという事実に絶望してしまう。
「嘘では無い。貴様の魔法が単にカス同然というだけのことよ……今のでこの我を少しでも足止め出来ると思われていたとはな……舐められた物だ」
不愉快極まる。
そう言い放ち、不死鳥が軽く翼を広げ、風を起こせば一気に蒸気は霧払いの如く晴れていった。
(これは最悪の事態だよ織翔…もう打てる手が何も無い)
追い打ちをかけるかのようなオルフェンの言葉に目眩が起こった。
(冗談だろ!?)
どうやら今度こそ本当に打てる手が何も無いという事に、織翔は更に絶望し心が折れそうになる。
だが、不死鳥からすればそんな織翔の心情など、はなからどうでも良かった。
「…ふむ。しかし、この世界の人間が我らの世界の魔法が使えるというのはますます見過ごせんな。微々たる危険性でしかないが……それでも排除せよというのがあの御方の命令だ……どうやら貴様は確実に始末せねばならんらしい」
……なんだって?
「え」
そう言うと不死鳥は片足で織翔の胴を掴み、持ち上げると遥か上空へ向かって飛翔していく。
突然の出来事に数秒かけてようやく織翔は状況を理解した。
「おい!?何をするつもりだ!?離せ!!離せおい!!」
とてつもない速度で上昇を続ける不死鳥に織翔は出せるだけの大声で怒鳴り散らした。
既に街の建物が小さく見える程に地上との距離は離れてしまっている。
「ほう……離して欲しいのか?…よかろう。ならば離してやろう…今すぐにな!!」
やっっべぇっっ……。
不死鳥はそう言うや否や、織翔を地上に叩きつけるかの如く勢いをつけて投げ離した。
遥か上空からとんでもない速度で織翔の体は落下し始める。
当然、このまま地面に激突すればどうなるかは誰もが分かる事だった。
「うわあぁぁぁ!?やべえぇぇぇ死ぬ!!オルフェン何とかならねぇ!?」
顔面にもろに風圧を受けながら、織翔はオルフェンに助けを求めた。
(ダメだ!!さっきの一発に殆どの魔力を消耗して、もう浮遊魔法を使えるだけの充分な魔力が残っていない!!)
織翔は知らないことだが、先程使用した魔法はオルフェンが強力な効果を期待しただけあって、一般市民の感覚からすれば充分上位級の魔法だ。
当たり前だが、使用するにはそれに見合うだけの魔力が必要となり、肝心の必要魔力量は一般市民基準で言うと全体の九割程。
つまり、オルフェンが使用した場合、殆ど全て持っていかれるということだ。
「お前の魔力しょぼすぎだろ!?」
……へぇー?
織翔のその言葉にオルフェンはカチンと来た。
(欠片も魔力が無い君には言われたくないね!?)
やっべ怒らせちまった。
後悔先に立たず。
ついうっかり口が滑ってしまったが、その事に後悔も反省もしている時間は残念ながら、この状況では無い。
あと数秒もすれば地面に激突してしまう。
「あぁ悪かったよ!!んで!?魔法以外の手段とか何かねーのか!?」
(ある訳が無い!!何度も言うけど打てる手はもう無いんだ!!)
お互いに何も打つ手は無い。
そして、もはや例え何をするにしてもその時間すら残されていなかった
「……ここまでか」
(……あぁ)
死にたくない。
織翔もオルフェンも同じくその一心で必死に抗っていたが、全ての足掻きがもはや無駄と分かった瞬間、不思議と二人は落ち着き始めていた。
これが諦めの境地…というものなのかもしれない。
「約束守れなくて…悪かったな」
(いいや。こればかりは…運が悪かったんだ)
物語ならば、魔法が使えると分かった時点で一発逆転し、既に今頃はこの危機を打開出来ていたのだろう。
しかし、これは現実。何処まで行っても現実なのだ。
何も特別な事は無かった。ただ少しだけ、自分は他の人とは違う奇妙な体験をしたに過ぎなかったのだ。
織翔はそう悟ると、ゆっくりと目を閉じ視界に入る全ての情報をシャットアウトした。
___数秒して街に轟くかのような、自分の耳に聞こえてきた轟音。
鉄骨音からして、建設途中の現場に落下したのか。
身体中に伝わる衝撃の数々。
地面に激突したのか、激しい振動と重みを感じた。
幾つもの鉄パイプが自身の周りに落ちる音が聞こえてくる。
不思議と痛みは感じない。まるで、全てが夢の中で起こってる出来事かのようだ。
これが“死ぬ”という事なのか…。
思ってたよりもずっと苦しむ事が無く、むしろ楽に逝けそうで良かったと、織翔とオルフェンはすぐに訪れるであろう完全に絶命するその瞬間を待った。
待てよ…何かがおかしいぞ。
真っ先に違和感に気付いたのは織翔だった。
目を見開くと視界に映ったのは雲ひとつ無い青空と、滅茶苦茶に荒らされた建設現場の骨組みの数々。
周りを見れば鉄パイプが散乱しており、仰向けに倒れている自身の上にも幾つもの鉄パイプが積み重なっている。
だが、何処にも“血痕”が見当たらない。
遥か上空から落下し、更には幾つもの鉄パイプとの衝突を受けながら、織翔の体からは血の一滴も流血していなかった。
「有り得ねぇ…」
__普通に声を出す事が出来た。
苦しさは一切感じない。いつも通り、自然と発声する事が出来る。
それに加え__。
「重みを…感じない?」
幾つもの積み重なる鉄パイプに、自分の体には現在とてつもない負荷がかかっている筈なのだが、一切の重みを感じる事が無かった。
試しに、片手で積み重なった鉄パイプを押しのけてみた。
瞬間、自身の体に積み重なっていた何十本という鉄パイプは勢いよく宙を舞い、遠くの方へと落下した。
「何だこれは!?」
織翔は叫びながら勢いよく上半身を起こした。
……普通に動けてしまった。
「おいおい…こんなの……嘘だろ…!?」
自身の体の状態を確認して、織翔は衝撃を受けた。
これだけの被害を受けておきながら、自分の体にはかすり傷一つ、痣の一つさえない。
「どこも痛く無い…骨も全く折れてねぇぞ……」
これはどういうことだ………?
(おいオルフェン!!俺の体に…一体何が起きてるんだ!?)
心当たりがあるとすれば、現在この身体を共有しているオルフェンという存在。
むしろ、それ以外に思い当たる原因は無かった。
しかし__。
(僕にも分からない!!言っておくけど僕は何もしてないよ!!こんなこと……全くの予想外だ!!)
オルフェンもまた同じくこの状況に混乱していた。
少なくともこれは、オルフェンによって引き起こされた物では無い。
「だったら……一体何だって言うんだ?」
これは夢か?それとも既にあの世にいるのか?
だが、これを夢と片付けるには意識がハッキリとしているし、かと言ってここがあの世だとは到底思えない。
何故なら____。
「何だと……?今ので何故死んでいない……?」
上を見上げれば不死鳥がこちらを見下ろしている。
不死鳥にとってもこの結果は全くの想定外であった。
「……まぁ良い。次で確実に始末してやる!」
(織翔!!来るぞ!!)
「っ!?」
次の瞬間、織翔の体は急下降してきた不死鳥の片足に踏みつけられ、アスファルトの地面にめり込んだ。
だが、それだけで不死鳥の攻撃は終わらない。
「燃えよ!!」
織翔を踏みつけている足の裏から炎を放ち、灼熱の業火が織翔の体を襲った。
「うおっ!?」
「吹き飛べい!!」
そして、不死鳥は織翔を宙に放り投げるとその胴体目掛けて全力で蹴りを放った。
「ぶへ!!」
まともにその一撃を食らった織翔は、先程落下した時よりも遥かに速い速度で吹き飛ばされていく。
幾つものビルを突き破り、山の先端すら吹き飛ばして、数十キロ先にあった服屋に突っ込んでようやく止まった。
弾丸のように飛び込んできた織翔のせいで店内は滅茶苦茶になっていたが、幸いな事に早朝という事もあって人的被害は無かった。
そして、数十キロの距離を飛ばされてきた織翔はどうなったかと言えば___。
「いやぁー……たまげた。全く効かねぇわこの体」
(傷一つ付いてないね…)
服が焼かれたせいで丸裸になっていたが、傷一つ付いていなかった。
「お、ここ服屋じゃん。丁度良いから服貰ってこうぜ」
辺りを見渡し、ここが服屋であると気付いた織翔はパンツに黒いズボン、白いTシャツの上に黒のパーカーを手に取って羽織る。
「…ついでにこれも貰っていくか」
そして最後に、近くに落ちていた角の生えたような顔全体を覆う黒い布マスクを拾って、それを被る。
何かのヒーロー物のグッズなのだろうか、よく分からないがこれで目撃者がいても顔バレはせずに済むだろう。
(躊躇無く盗みを働くなんて…大した奴だよ君は)
そんな織翔に対してオルフェンは若干呆れていた。
それに__。
(さっきまで狼狽えていたのに今は随分と余裕そうだね)
「まぁな。流石にここまで来ると何か色々と吹っ切れてしまったよ。何もかも訳が分からねぇんだ…だったら考えることはやめて好きにやらしてもらうさ」
成程…つまり開き直ったと言う訳か。
とは言え、オルフェンも何が何だか分からないこの状況では確かに色々と考えるだけ無駄と言える。
それに、まずは目の前の問題をどうにかする方が先だ。
(追って来るんだろうね…あの不死鳥は)
「だろうな」
半壊状態の服屋から出てきた織翔は自身が飛ばされてきた方角を見据える。
間違いなくあの不死鳥は追ってきているのだろう。
だが_。
「何だかなぁ。今の俺…いや、俺達なら何でも出来てしまいそうな気分だよ」
(フフ…それについては同感だね)
俺達は二人で一つ。
だからこそ織翔は敢えて“俺達”と言い直した。
そして、突如として湧き出てきた自信に、もはや先程まで感じていた恐怖心はどこにもなかった。
むしろ__知りたい。
一体今の自分にどれだけの変化が起きているのか。
今の自分達は…何処まで行けるのか。
「な!?この世界の生物は全て……脆弱な存在の筈では無かったのか……!?」
やがて彼方より飛んできた不死鳥は無傷で突っ立っている織翔の姿を見て、明らかな驚愕の表情を浮かべて固る。
不死鳥にとって先程の一撃は相当な自身があった。
何せ、今までの戦いの中でこの一撃を食らってまともに立っていられたのはあの御方しかいなかったのだから……。
(じゃあ何か…?目の前にいるこんなちっぽけな存在が____)
その時、織翔は不死鳥に向けて人差し指を曲げ、かかって来いよとジェスチャーをした。
それを目にした瞬間、不死鳥の中で何かがぶち切れた。
「っ!?な…な…舐めるなぁぁぁぁぁぁ!!」
もう一度、いや今度はさっきよりももっと強烈な一撃を。
不死鳥は自身の出せる最高速度で織翔に迫り、本気の殺意を込めた全力の蹴りを放った。
時間にして僅か0.2秒……しかし。
「へ……捕まえた!」
「は…?」
全身全霊のその一撃は、織翔の片手で呆気なく受け止められてしまった。
おまけに、押しても引こうとしてもびくともしない。
自分は何か幻でも見ているのだろうか?
情けない声を上げた不死鳥は目の前で起こっている現実をすぐには受け入れられないでいた。
(“遅く”見えたな…おまけに“軽い”)
(耐久に加えて、動体視力も相当上がっているね)
(なら次に試すのは……“パワー”だな!!)
脳内会話でオルフェンと短くやり取りを終えた後、織翔は両足に力を込めた。
「なぁ燃える鳥さんよ」
「!!」
織翔の呼び掛けに、ようやく不死鳥は目の前で怒っていることが現実だと認識した。
が、それに構うことなく織翔は続ける。
「“上”へ行こうぜ!」
「は?上?」
そう一言だけ言った後、織翔は勢いよく地面を蹴った。
瞬間___。
周囲一帯に広がるとんでもない大きさのクレーターを生み出したと同時に、織翔と不死鳥の姿が消えた。
「ぬうぁぁぁぁ!?」
「ひゃっほーう!!」
不死鳥は悲鳴を。織翔は高らかな叫びを上げながら空高く上昇していく。
織翔に掴まれたままの不死鳥は凄まじい速度で引っ張られていく。
既に不死鳥の出せる最高速度は越えて、流れていく景色に何が何だか全く認識出来ない。
その状態が数十秒続きそして___何処かへと激突した。
「うぅ……ここは何処だ…?」
もはや高速とも表現出来る急上昇からようやく解放された不死鳥は状況を確認しようと辺りを見渡す。
相当な衝撃だったのか、身体のあちこちが欠損しているが、そんなことは対した問題では無い。
自分は不死鳥。
あらゆる傷をその身に受けようとたちまち炎と共に再生する事が出来る。
現に、既に身体は再生を始めており数秒あれば完全に傷は癒える。
それよりも自分が何処まで移動したのかを確認しなければ。
そこは辺り一面灰色の砂の大地。
おまけに、やけに肌寒く体が軽く感じる。
そして何より、空が暗い。
「よっと!」
「っ!?」
その時、突如聞こえてきた呑気な織翔の声に、不死鳥は慌ててそちらへ目を向けた。
そして目を見開き、あまりの衝撃的な光景に目を見開いき、身体は硬直した。
「バカな………!!」
不死鳥は織翔を見て衝撃を受けた訳では無かった。
そこに立つ織翔の背後にある物、それが原因だった。
織翔の背後にあった物。
それは___青く巨大な球体。
それはこの“世界”において“地球”と呼ばれる惑星だった。