第二十話 砂に飲まれて
現在、天気は雲1つ無い快晴。太陽(?)はギラギラと光り、俺を照らし、熱してもいる。少し離れた所はこの環境のせいか揺らいで見える……はい、私は今砂漠にいます。普通のフィールドじゃないよ、迷宮の方で32階層です。パーティじゃなくて1人だよ。いや何で1人でいるかというとね、分かってると思うけど攻略じゃないんだよ。前回言った通りここは鉱石が採れるらしいから1人でも集めようかなと考えたわけだ。環境がダンジョン風的な所は確かに金になるが、そこまで必死こいて集める必要も無い。それは草原も洞窟も同じで、集めるなら活用しやすいここの鉱石という訳だ。刀やら防具やらでいくらあっても足りない。まあ損得の話をするならどんな素材でもデメリットが無い限り集めといて損は無いけどな。そんな感じで1人で気楽に鉱石掘りといきたい所だったが、馬鹿広い迷宮なので気楽にはならないんだよなあ。採掘ポイントは何ヵ所がある訳だが、中で全部繋がってはいない。なので一々外に出ないといけないし、道中にはもちろんモンスターが出る。そして運が悪いとこうなる。
「鳴かないくせに砂の音がうるせぇな。何体いるんだ、これ……7……いや8?あーもう動くなよ数えづらい……」
はい、サメの群れに囲まれております。獅子搏兎なんて言葉があるが、そこまで全力で来なくても良いのよ?パーティで進んでた時は多くても6体ぐらいだったのに……もしかして上限無し?せめてソロの時は出るとしてももう少し少なくして欲しかったな。この数だと逃げられそうにはないし、そも地の利はあっちにあるし、倒すしかないか。デスペナはいいとして、折角集めた鉱石がパーになるのは御免被りたい。集中すれば群れの動きを追うぐらいは出来るので上手く立ち回りながら攻撃していく。サメの攻撃は直線的なので軌道に刀の刃を置いてやれば勝手に斬られてくれる。鳥かごの亜種版みたいだ……サッカーの方ね。いや、亜種にもなってないかな?
「な、7体目ェ……!」
そうクリティカルみたいな事が毎回成功するわけもない。避けながら少し斬ってダメージを与えるのを繰り返し、何とか倒していく。結局10分20分ぐらい経った結果が今の状況だ。さてあと2体、というか合計9体だったか、ソロなのに多すぎだろ。
「あっ、待てや!逃げるのかよ!そんな行動パターンあるのかよ……」
群れのほとんどを倒された事に危機感を持ったのかは知らんが、まさかの逃げるコマンド。生息地なので動きは素早く、追いかけようかと思ったが無駄なのが明らかなので諦めた。まあそもそも素材を集めてる訳じゃないし別に良いか。
「はあ……ポーションポーション。水分補給代わりになるのほんとありがたい。
HPは微妙に減っているのでポーションを飲む。液体だから飲めば水分補給扱いになるのでここでは一石二鳥だ。落ちた素材も回収し、他の採掘ポイントへと向かう。採掘ポイントはプレイヤーというかパーティ単位で判定されるようで、誰かが取り尽くしたとしても、俺には関係無いみたいだ。何となく悪用出来る感じがするが、そのぐらいは許容範囲なのだろう。その後は採掘ポイントをいくつか見つけ、それなりの収穫となった。ここまで大量にやると採掘道具もそれなりに磨耗するので、ここらで区切っておくのが無難だな。まだポイントは残っているのかもしれんが、採掘道具が壊れると不味い。買い直すより直してもらう方が遥かに安上がりだからな。持ち物を整理し、炎天下の砂漠を歩く。
「さて、まっすぐ戻らないとな……この後どうしようかな?」
道具の損耗が激しいので、今は打ち切るしかないのだが、今日は1人でこんなことをしている通り結構暇なのでやる事がない。レベル上げもパーティで倒さないときついレベルのモンスターを狩らないと効率が良くなく、今の気分的にやりたくない。野良で組めば良いだろ、そんぐらいしろよって?いや少し前にやろうとしたらさ、俺とヒーラーもしくはタンクとかぐらいしか集まらなかったんだよ。流石に2人じゃ足りないのでどうしようもない。というかアタッカーが2人いた方がまだ何とかなるんだよね。そん時も結局フィールドに出ずに解散したし。モモ?いやモモがいると楽だけどモモで十分という事態になるんだよ。モモでも他の人がいると楽というレベルのフィールドは俺がきついし。昨日また見たら本が増えててそれの消化もあるんだろうし、そもそも屋敷にいなかったし。NPCは連絡のとりようないんだよなあ。魔法で何かあっただろうか……いや、ある可能性より使えない可能性の方が高いか。後は……王女様にお話?暇が知らないし、そもそも時間潰す目的が違うから良いか。他人に話をするのは得意じゃない上に最近見かけないし、エンカウントした時で良いかな。ほとんどのプレイヤーは迷宮に入り浸っているのだろうが、俺が言うのもなんだが大丈夫なのだろうか?いや一応プレイヤーが来る前の世界の設定はちゃんとあるみたいだし、そもそもそんな事で成り立たなくなるゲームじゃないか。
さて、その辺の事は置いておいて何をしようかな。もうすぐ石碑の所に着くし、地上でなんかやる事あったかな。クルトとアゲハも今日はいないみたいだし。という事はいつもの面子は誰もいないのか珍しいな。まあ持ち物を整理した後はそこら辺のモンスターでも狩れば良いか、しないよりは経験値の足しになるだろう。
道中は何回かモンスターに遭遇したが、先程の9体の群れは流石に運が悪かったようで、囲まれても5体だった……まあ群れで出るからね、囲まれるのはしょうがないね。そうして石碑に向かって進んでいると、いきなり砂に足を取られ始めた。
「うわちょっと……沈み始めてるんだけど!?」
罠かと思ったが、すぐに死ぬ気配も無く、毛色が違う感じがする。何じゃこら、大昔の名作アニメ映画にこんなシーンがあったような。まあそのシーンとは違って助けようとしてくれる人もいないし、見渡してもプレイヤーの影すらねぇや……いやいやこんな事を考えている場合じゃない。脱出……出来たらしてるわな。体は動くには動くが、抜け出す様な動きは出来ないという絶妙な制限がかかっている。どういうシステムなんだこれ。いやー結構砂って重いんだな、動ける分にしても沈んだ所は全然動かせないわ。どうにも出来ないのでそのまま砂の流れに身を任せ沈んでいく。沈んだ後もデスペナになる事はなく視界は真っ暗だが、流されている感覚しか無い。砂に埋もれて流されるのはこんな感じなんだなあ、この数秒で初めて体験することばかりだな……VRで良かったわ。どうも目的地があるみたいで流れる方向を変えながらこの状況がしばらく続いた。数分後、急に圧迫感が無くなったと思ったらそのまま落ち尻を地面にぶつけた。
「痛くないけどいてぇ……どこだここ」
地面かと思ったら床か?光一つ無い闇というほどでもないが、物の形をギリギリ……捉えられなくもないぐらいの視界しかないので状況把握が全然出来ない。何かないかと手探りで辺りを探し回ると、左手が何やら柔らかい物に触れた。
「何だこれ?」
何だろうと考えるより先に急に明るくなり、目の前にいたのはアポロさんだった。俺が触れていたのは……腕か、良かったわー。何がとは言わないけど。




