第十三話 闇に溶け込む
「改めてごめんでござる。この場合、明かりを付けていない方が悪いでござるからなあ」
「まあ確認しないで投げたこっちも……」
「んー、じゃあお互い様という事で?というか真っ暗で何してたの?」
「いやー、この暗闇の状況につられて隠密行動してたでござる」
「うん、前言撤回。何やってんのわざわざここで、アホなの?」
「ア、アホ……」
ショウにしては直接的な罵倒が出たな、もしかしてこの人常習犯?そういやよく見ればコーゾーさんとやらはコッテコテの忍者の格好をしていた。ロールプレイヤーか、このゲームではあんまり見なかったが、まあ多少はいるはずだよな。気持ちは理解できるかも知れなくもないが、普通のフィールドでやるべきじゃないか、せめて。こういう時に殺したらPKになるのだろうか、情状酌量とかあったっけ。
「あの人の話し方は……?」
「え、ああ知らないか……」
コトネさんが2人に聞こえない様に聞いてくるが、そういやコトネさんはオンラインゲーム自体初めてなんだっけか、そりゃロールプレイも知らないか。コトネさんにロールプレイやら何やら手短に説明する。
「なるほど……あれですね、コスプレみたいな……」
「んー、んん?いやまあそれで良いか別に。それ言わない様にね」
「は、はい……?」
若干イメージがずれてる様な気がするが、まあ大丈夫だろう。疎いで通せば問題も起こらないはずだし。ショウの説教もどきも終わった様だが、そんなことになるとはどんな関係だったのか。説教とかそういうタイプじゃないはずだが。
「2人はどういう関係で?」
「ふぅ……いや、前に少しの間パーティ組んでただけだよ。ほらこれだから色々止めないといけなくて」
「あはは、その節は……」
短絡的な行動を何回もしてた感じで、ショウがストッパーになってたのか。まあ適任と言えば適任だが、説教するほどとは苦労が伺い知れる。
「あれ、このゲーム忍者なんてジョブあったっけか?」
「いや無いでござるよ。しょうがないので3次職の『兇手』でござる。レベルは上限まで行ったのでござるが、条件が厳しくて……」
「そうだよね……」
「そういやショウもまだ終わってないよな」
「回数が必要なのもあるけど達成するのが面倒なのも多いからね……まあエンドコンテンツみたいなものだし」
話が別の方向へと飛んでいきそうな雰囲気になってしまったので話を戻す。そもそもこれからどうするかだ。
「コーゾーさん、ランプは?」
「いやふざけて入ったので持ってないでござる」
「そりゃそうだよね……あー、2人とも」
「パーティに入れるんだろ、良いんじゃないか?他のプレイヤーとこんな事になったら面倒だろうし」
「そうですね、私も大丈夫です」
「おお、ありがとうでござる!」
そんな感じでパーティに臨時で1人加わる事となった。まあこの1層の石碑まで面倒が起こらない様にするだけで、ショウの知り合いだし問題ないだろう。
「コーゾーさんはパーティはいつもどうしてるんだ?」
「コーゾーで良いでござるよ。いつもは野良でござるが、今は誘われて固定で組んでるでござるな。今日はメンバーの都合の関係で1人でござるので色々試そうとしたら……」
「こうなったと」
暇だからか……まあ今まで大した問題になった事はないみたいだから別に良いか。今回もショウのおかげだし。
プレイヤーとしては俺やコトネさんより断然長いのでモンスターの感知などで貢献してくれた。ショウと組んでヘイトやらのサポートをしてくれたり、ジョブの関係上、状態異常の手札も色々ありとても助かった。変な行動さえしなければ忍者キャラの、良い感じのプレイヤーとはショウの談だ。
そのおかげもあり、攻略は順調に進んでいき石碑へと着くことができた。ここは草原の時と違って普通に石碑だった。
「いやあ、助かったでござる」
「いやこっちも助かったからね……2度としないでね?」
「あはは、分かってるでござるよ。キルされなかっただけでも御の字でござる」
「本当に分かってるのかな……」
コーゾーはこのまま外に出るので、パーティを抜けそのまま出ていった。縁があればまたと言いたいがしばらくは無いだろう。俺達はまだ時間があるので次の階層へと移る。時間はかかってるが順調なので期間中に最下層までたどり着けるかな。
「んで、ボスの情報は?」
「コウモリだってさ。特徴としては闇に溶け込むのと、足が刃になってるんだってさ。僕の盾ぐらいでもすっぱりらしいよ」
「……急に強くなってませんか?」
「んー、刃渡りはそんなに長くないらしいから避けようと思えば避けられるんじゃない?」
「そんだけ分かってればやりようはあるか。【貫牙剣】なら対抗どころか勝てるだろうし」
「そうだね、じゃあ根本からバッサリいっちゃってよ」
「タイミングが合えばな。動きは速いだろうし」
そんな話をしながら15階層を進んでいくが、まずそこまで辿り着かないといけないわけである。暗闇やら奇襲やらで体力も減っていくのである意味ボス戦第一段階の様だ。
今回もでかい扉があるのかなと思っていたが、いつの間にやら広い空間に出た。
「……着いたか?」
「多分ね、早めに着いたのは嬉しいけどボス戦開始のタイミングが分かりづらい……2人とも気をつけてね」
気をつけてねと言われてもこの空間は結構広いのでコトネさんの光源だけでは照らしきれていない。いまいち気配を探りづらいな、ランプも結局手に入れていないし舐めプになってないかこれ。ボスの特徴から察するにHPはあまり無いはずだが、そもそも攻撃を当てられるのか。
固まっているとアレなので少し距離を上げながらあたりを気を配っていると、後ろを何か通った感じがした。
「危ないっ!」
「え、きゃあ!?」
なんとなく嫌な予感がしたので左手でコトネさんを突き飛ばした。その予感は正しかった様でコトネさんがいた所にある俺の左腕は切り飛ばされた。危ねぇ、突き飛ばしてなかったらコトネさん死んでたか。
「あ、ありがとうございます!か、回復を……!」
追撃は来ない様でコトネさんに切られた腕を回復してもらう。全回復とはいかないが、安心出来るぐらいには回復したのでありがたい。4次職になれば欠損も治せるらしいが、まあ無いものねだりをしてもな。
「いや思っていたより速いね。離れたのが逆効果……切れ味から考えるとそうでもないかな。これ普通は全部照らすんだろうね」
「すみません……」
「あ、ごめん。そういう意味で言ったわけじゃないんだよ」
「とにかくなんとかしないとな【貫牙剣】……当たれば良いけどな……っしゃあ!」
【貫牙剣】を発動したが、話している間に時間が経っているので丁度よく第二撃が来た。先程と同じく何が通る様な感じがしたので刀を振るうと確かな手応えを感じ、何か硬いものが落ちる音がした。意外と当たるもんだな、姿は完全では無いが隠せる様だが、音までは消せない様だ。そして攻撃は続き、ショウの盾の一部が欠ける事態も発生した。
「うっわ、盾が……やっぱり防げないか」
「ほら、じっとしてろ。的ぐらいにはなるだろ」
「いやちょっと……まあ誘導するぐらいしかないか。ちゃんと当ててよ!」
俺がやるしかないわけか、【貫牙剣】の効果が切れる前に倒さないとやばいので集中しないと。
動く音が聞こえるまで動かず耳をすまし、その時を待つ。鞘は体にがっちり固定してあるので片手でもつっかえることはないはず。いつ来るか……来た!
「【抜刀】!」
俺の刀に切られ落ちてきたのはコウモリの頭で、数瞬遅れて胴体も落ちてきた。おお、ヘッドショット(?)だ。身構えた直後に倒せるとは思わなかったが結果オーライ、疲れる前で良かった。
「はあ、倒せましたね」
「僕の盾が……直さないと」
「俺の左腕もな」
色々と被害が出たので、ボス戦が終わったということもありキリが良く一旦外へ。欠損って何時間ぐらいで治ったっけなあ。




