第十二話 暗闇の先から
「いや……先が見えねぇ」
「コトネさんいて本当に良かったね」
「お役に立てて良かったです」
ボス狼を倒した後、そのまま11階層へと来たわけだが……今度は光源が1つも無い暗闇の洞窟の様な所だった。コトネさんがいるおかげで魔法で光源を出す事ができ、視界を何とか確保出来ている。うーん、これはこのままでも大丈夫だろうか?規模が今までと同じならMPの消費が気になるが、ポーションで回復すれば問題ないだろうけど。
「とりあえず手持ちのMPポーションはコトネさんに渡しておこうか」
「そうだな、切れたら真っ暗だし」
「はい、気をつけます」
「それにしても光源ね、ランプとか用意した方が良いかな?」
「MPをどのくらい消費するのかにもよるけどね。確かPCAの方にそんなのあったはず……キャンプグッズの体で売られてたんだっけね」
「まさかの需要だな、こんだけ真っ暗なのも中々無いだろうし。普通の夜は薄暗い程度で見えるんだけどな」
「そういうお題ってことでで済むでしょ」
「ランプですけど……在庫あるんでしょうか?」
「……」
「ま、まあクルト君が何とかしてくれるかもしれないし!ほらレイヴンさんとも仲が良いみたいだし?」
「いや年下の伝手にたかるなよ。若干の小物臭……」
「シャラップ!これに関してはきみも人の事言えないでしょ。そもそも聞こえが悪い言い方しすぎ」
まあ7割ぐらい冗談なのは全員分かっているので流すが、そう上手くいくかなあ。サツキさんとかが融通……それは無いだろうし、そもそも鍛治部門の仕事じゃ無いか。手に入れられたらそれで良いし、最悪無くても何とかなるだろう。一瞬脱走癖のある王女様の顔がよぎったが、王族にランプをたかるのは流石に無い。
「あ、MP消費大丈夫?ポーションはそれなりにあるからこの階層ぐらいは大丈夫なはずだけど」
「はい大丈夫です、初級魔法ですし。ジョブが光系ならもっと広範囲だったりするんでしょうけど」
「そうだね、この辺りなら引っ張りだこかな……ランプ扱いだけど」
「まあそれは本人達次第か……そういやマッピングは?」
「してるよ。構造的には最初のダンジョン風のやつに近いね」
「そうか、また時間がかかるな」
「けど曲線多いですね、こっちは」
「多少坂道もあるしね」
2人の言う通りここは自然の洞窟感が強かった。ダンジョン風の所は見た目通り人工的な感じで整備されてあったが、ここは少し3次元的でもしかしたら道が重なっている可能性もある。曲がってる道もあり、方向感覚が少し狂いそうで時間もかかりそうだな。今の所この迷宮は金にはなるし、美味いしでメリットはあるが、マップが嫌らしいんだよなあ。それを加味しても若干プラスになる所が更に嫌らし……いや、そうならないとゲームとしてアウトか?とにかく運営はそういうところ上手くないとな……上手いのか?まあ良いや。
「洞窟っぽくて道が丸いから少し狭く感じるよな」
「あー……まあ実際にはたいして変わらないはずだけど、感覚的にはね。長物扱う人はちょっと引っかかったりしてね」
「そういえば、森で会ったPKの人はすごく大きい武器使ってましたね」
「ああ、カリファね。あれみたいなのをスタンダードに使ってる人は少ないけどね。コウも気をつけてね、スタイルからして振り回したりはしないだろうけど」
「ああ、分かってる」
まあ使ってる刀のリーチからして余程端に寄ってなければ壁に引っかかったりする事はないだろう。意識してればまず大丈夫だろうし。というか、ショウの方が気をつけた方が良いんじゃないか、身長ぐらいある盾を使ってるんだし。
「マップの情報は?」
「残念、僕達時間はかかってるけど順調なせいで微妙に情報がまとまるより先に進んでます。広さやら性質やらで整理が面倒なんだってさー」
「あー、単純に運が悪いだけなのかあ」
「まあポジティブに考えればネタバレ無しだよ、ほとんどね」
「先に進んでる時点でネタバレ無しもクソもな……モンスターとか聞いてないのか?聞いてないのか」
「うん、まあ幽霊とか出そうだよねー、あとは気配無い系?」
「え、幽霊ですか……?」
「あれ、コトネさんそういう系ダメだった?」
「ホ、ホラーは少し……すみません」
「いや、そりゃ苦手なものの1つはあるだろうしホラー系がダメなのは普通だしね」
コトネさんが特に謝ることではないので、ここをさっさと進むのが吉かな。流石にここで素材集めをする事はないだろうし、そもそも素材集めだけなら1人でも問題ないか。俺はホラーは大丈夫で、まあ驚きはするけど反撃ぐらい出来るし。急に出てくる系は反応するのは仕方ないだろう。コトネさんは流血描写とかなら問題ないらしいので非現実的なシーンが……ファンタジー要素のあるゲームで非現実的も何もねぇな、ジャンルの問題か。
「だけど定番としては暗がりからボウッと出てくるとかだよね」
「ショ、ショウさん!?」
「脅かすのやめてやれよ……」
ショウが何故か不安を煽る様な事を言うが、そういう事を言うとフラグに……あっ。明かりの届かない暗がりにぼやけた光が浮かび上がった。
「キャーーー!!」
「コトネさん、落ち着いて……ぐぇ」
「あ、ざまぁ」
本当に出た、フラグすげぇな。驚いたせいか杖をブンブンと振り回すコトネさんを宥めようと近づいたショウはその振り回されてる杖に当たりダメージを受ける……1だけど。まあ因果応報だな。さて、飛び出てきたモンスターの対処をしないと。
「【抜刀】」
「ギッ!?」
まあただのモンスターで良かったかな。HPが少なかったのかスキルの補正込みで1発で倒したし。飛び出てきたモンスターをよく見ると蜘蛛系統の様だった、流石に幽霊じゃないか。光ってたのはチョウチンアンコウ的なアレかな、設定設定。
「2人とも終わったぞー、ただの蜘蛛だった、まあモンスターだけど」
「あ、サンキュ」
「ありがとうございます……ショウさんもすみません」
「いや自業自得みたいなものだし……」
実際その通りなので、擁護は無しだ。モンスターの傾向は分かったのでコトネさんも次は大丈夫かな?その後も何体か遭遇したが、初見の相手は多少驚いていたが先程の様にはならなかったので少し慣れてきたみたいだった。そういうのが来るとわかっていればまだ身構えられるか。それにしても景色に溶け込む系はやばかった。
「まさかこんな所でカメレオンとはね」
「完全に透明だったよな」
「舌はまだギリギリ見えましたけどね、ショウさんを持ち上げるって相当ですよね」
そのモンスターは舌でショウを掴み、自身のいる天井へと吊し上げたのだった。透明だったので全然気づかなかった上に、吊し上げたら俺達の方へと落として来るんだから質が悪い。しかもコトネさんの方を狙ってたからな、肝が冷えたわ。
「あ、道が合流するみたい」
「戻ってきたのか、じゃあもう片方だな……物音するな」
「そうだね、コウ」
ここのモンスターは先手を取った方が楽なのが多いのでナイフを投げる。当たりさえすればまだ良いが……?
「おっとぉ!?」
「あ、プレイヤー……やっべ」
他のプレイヤーいるのは分かっているが、まさかプレイヤーだとは……てか何で明かりついてないんだ。避けた様だったのでまだ良かったが。
「まさかねぇ……あー、すみません!」
「いやこっちも悪かったでござる、やっぱり明かりは必要だったでござるな……あれ、ショウどの?」
「あ、コーゾーさん?」
「知り合い?」
「うん」
またかー、まあ知り合いならごめんで済みそうだし結果オーライ……かな?




