第十話 見ぬ間に成長
「す、すみません……」
「ごめんね〜、話が弾んじゃって」
「いやいや、仲が良くなったみたいで良いですよ」
「休憩に丁度良かったしな」
持ち物の確認をしていたが、流石に数分で終わるので軽食でも取り出していた。そうしたらタルさんの狼達が寄ってきたので少し分けたらどんどん迫ってきていた。勝手にあげるのはどうかとあげた後で思ったら、ショウによるとその辺はゲーム仕様で多少食べ物をあげたところで問題ないらしい。もちろんあげすぎればアレだが、そんな量はそもそも持っていないので少しあげるくらいならプレイヤーの交流手段としてシステム扱いらしい。それにしても犬ではなく狼なのに芸達者だったな。お手はもちろん、何か組体操な事までし始めた。その度に与えていたのに気を良くしたのか能力を駆使した派手な大技を繰り出し、それに2人が気づき今に至るという訳だ。まさかサーカスみたいな事までし始めるとは。タルさんが凄いのかこいつらの学習能力が凄いのか、というか栄養補給用の微妙な物で見せてくれたのか食えりゃ何でも良いのかな。
「あー、この子達は食欲旺盛でね、割と好き嫌いも無いからいっぱい食べるんだよ」
「そうなんですか、毛並みもツヤツヤですね」
「頑張って毎日みんな丁寧に手入れしているからね、やりがいは凄いよ〜」
「あ、そういえ「ストップストップ!」ば……すみませんまた……」
「じゃあ今度にしようか。フレンド登録もしたしね」
「はい!」
「そういや1体ぐらいは強いの連れていないんですか、あの黒い狼とか……痛たたたたたたた!!」
「あ、こらジョン、やめなさい!ごめんね、ほらポーション」
「あ、どうも」
うわ、いきなり噛まれるとは。おかげで頭から赤いエフェクトがブシャーと。一体何に気を悪くしたんだか、さっきまで普通にエサの催促をして無いとわかると溜息をつく様な態度の悪い犬……狼だったのに。
「あー、サ……あの子とはちょっと仲が悪くてね、口に出すとこうなるの。ああ、この子達に合った階層しか行かないから大丈夫だよ。この迷宮は好きな階層に行けるから便利だよね」
「そうっすね、悪かったな……」
頭を撫でようとしたら素直に撫でられに来たので少しは愛嬌がなくもない。地雷踏んだだけか。リアリティが高いくせにゲームのせいか表情豊かだな。
「ああ、こんな時間だ。じゃあ私達はそろそろ行こうかな、もう2、3体分は倒しておきたいから」
「そうですね、じゃあ僕達も」
「うん……あ、石碑の場所知りたい?」
「ああ、そうか知ってますよね」
「そっちの方から来たからね〜」
「じゃあありがたく……情報料は……」
「いいよいいよ、さっきうちの子に色々あげてくれたでしょ」
そういう事でほぼタダで石碑の方向を教えてもらった。これでこの階層はさっさと進めるわ。
タルさんと別れ、教えてもらった方向へと進む。すると割と近かった様ですぐに見えてきた。直線的に進んでいるから体感的にも短く感じるのかな。
「じゃあここで一旦区切ろうか」
「ん?まだ時間あるだろ?」
「いや時間時間。コウは昼飯食べないのかい?」
「あ、そっか」
昼飯か、さっきとか色々食ってたから麻痺してるわ。こういうのがVRのいけないところだな、1食抜こうが機器のアナウンスも来ないし。とりあえず昼飯食べておこう。
さて、ログイン。早速迷宮へ……と行きたいところだがコトネさんに急に用事が入ったらしく夕方まで時間が空いてしまった。まあそういう事もあるかと暇になった時間をどうしようかと考えて見たが、1人で迷宮に行くわけにもいかない。ショウもこの際に色々用事を済ましているみたいだ。
現在屋敷にいるのだが、特にする事もねぇな、レベル上げもこのちょっとした時間でどうにかなるもんじゃ無いし。ああそうだ、モモがいるからクルト達に差し入れでも作ってもらおうかな。そういえばアゲハはどうしてるのだろうか、趣味をジョブにしてるのだから大した事にはなっていないだろうけど。
「おーい、モモー?」
「なんだい?金なら貸さないよ?」
「いや十分にあるわ、何だその返し……また料理してくれないかと思ってな、クルト達に差し入れに行こうかと」
「そんぐらいなら別に良いけど。新しい食材なら嬉しいねぇ」
「おうあるぞ」
ショウとコトネさんと話し合って取っておいた分の方から色々取り出す。ショウ達の分も取っておけば問題無いだろう。早速モモに作ってもらいクルトとアゲハの分を取り屋敷を出る。
最初モモは部屋にいたのだが、日に日に本が増えてる様な気がする。意外と本の虫だった様で、部屋を訪れた時も本を読んでいたみたいだし。格好は結構様になっていたんだよなあ。さてクルト達……まずはクルトの方かと思い、迷宮にあるPCAの鍛治部門の方へ。入ると受付はまたもやサツキさんだった。
「お、久しぶり〜」
「……暇なんすか?」
「いきなり辛辣だねぇ、いやー人手が足りなくてね。私は製作もモチベが低いからここでこんな事するしかないのよねー」
「そうすか」
それならリアルの方で何かすれば良いんじゃないかと思ったが、それまた別の問題か。
さてクルトだ、今度は話に熱中してないと良いんだがなあ。
「あ、クルト君は今は大丈夫だよ。依頼らしいけど急じゃ無いはず……うん」
「そうですか、ありがとうございます」
今は問題無いそうなのでクルトに割り当てられている作業場の方へと向かう。ここの建物の規模も中々なもので、結構な部屋の数だった。
「おーい、クルトー?」
「あ、コウさん。どうかしましたか?」
「まあ様子見にきただけだよ、あと差し入れ」
「ありがとうございます……えっと?」
「ほら、迷宮で出た食材で作った料理。モモが作ったらから補正は無いけどな」
「いえ、ありがたいです!モモさんが作った料理は美味しいですもんね。あ、アゲハの分は……」
「もちろんあるぞ」
「じゃあアゲハの方に行きましょうか」
クルトが確認したら丁度アゲハも暇というか休憩中の様でモモの料理やら何やらを伝えると行くと言ったはずだが、その前に飛んできた。作業場で食うのは流石に憚られたのでPCAの普通の部屋が空いていたのでそこを借り2人に料理を渡す。料理の場合、しまっても時間経過が無いのでこういう時に便利である。
「いやー、美味しいですね」
「モモさんがジョブに就けたなら補正も付くのにね」
「一応悪魔で人じゃ無いからなあ……2人は最近どうだ?」
「そうですね、レイヴンさんのおかげでコツもいくつか掴めましたし、今回の新素材で作りたい物も増えましたね」
「忙しいからレベルもちょっとだけど上がったし」
確認したら俺やコトネさんよりもレベルが高くなっていた。どれだけ作っているのか……まあ疲れてる様には見えないし、適度にやっているか。
「そういえばクルトはコウさん無視して話してたんだって?」
「あ、うん、申し訳ない事を……」
「いやいや別に良いって。あれだけ熱中出来るなら良い事だろ」
「あはは……あっ、コウさん達はどこまで進んだんですか?」
「あー、まだ7階層だよ。まあゆっくりやってるしな」
罠対策をしていない事も含め、これまでの出来事についてざっくりと話した。まあ予想通り色々と言われたが、当たり前か。
「罠対策してないのって迷宮舐めてない?」
「いや俺もそう思うけど、普通に進めてるからなあ、慣れたよ。幸い草原地帯には罠無いし……その代わりにだだっ広いせいでどっちに進めば良いか分からんけど」
その後はてきとうに話して別れた。2人の近況は順調の様で俺もうかうかしてられないなあ。レベル抜かれたしちゃんとレベル上げすべきかな……まずは迷宮か。




