第九話 試食、再会
「あれ、全員戻る?」
「そうだな、休憩だし良いんじゃないか」
「ポーションも1、2本ですけど補給しておきたいですしね」
「なら良いか」
だだっ広い草原を歩き回り疲れたので一旦屋敷へと戻る。ショウは双眼鏡を取りに、コトネさんはポーション、俺はフカフカのソファでごろごろと……ゲームの中でする意味はあるのか、いや考えないようにしよう。まあ馬車システムのおかげですぐに着くのでありがたい。いつの間にかフィーアルからここまで限定だが、臨時で馬車が通るようになっているので更に時短となっている。生産職の偉大な方々が道を整備したことにより通れるようになったとか。何かあの町もどきといいこれといい、規模が凄いな。まあとにかくその配慮のおかげで屋敷へとすぐ戻ることができた。
「おやマスター、帰ったのかい?」
「ああ、モモいたのか」
丁度モモがホールを通っていた。まあ大体ログアウトする時はこっちに戻ってきているので久しぶりという訳でもない。
「あ、そうだ今暇か?」
「まあ暇と言えば暇だけど……?」
「コウさん、あれを?」
「そうそう」
俺が取り出したるは、あの牛からドロップした高級肉である。どうせなら料理が上手いモモに調理してもらえば美味い料理が食べられるはず。ゲームだから腹が膨れないのが残念だが。料理人系統のジョブに着いてる人に頼めば補正も付くのだろうが、知り合いに丁度良い人がいないんだよなあ。知り合い唯一のトリモチさんは多忙極まりないし。
「へぇ、良い肉だね。こんなもんが見つかるのかい……良いのかい?」
「それは食うために持ち帰った物だからな、今になると思ってなかったけど」
調べたところ例のパーツと同じくそれなりの値で売れるみたいだったが、食材なので1回食ってみようということになり少し持ち帰ってきたのである。高級肉なんてリアルじゃそう食えないし、他のゲームは味の再現はお粗末だからなあ。そんな感じでモモに色々調理してもらい、いざ実食。
「……うめぇ」
「いやー凄い、美味いね……」
「流石高級肉もどきだねぇ」
「美味しいです……!」
これが高級肉の味なのかは知らないが、美味い美味い。モモのおかげで想定していなかったが、英気を養うことができた。2人とも物は取ったみたいだし、また迷宮に潜るとしよう。
「そういえばクルト君達の分……」
「あっ……まあ今度にしよう。材料はまた手に入るんだし」
「そうだな……」
「さて7階層に来た訳だけど」
「変わらず気持ちの良い草原ですね」
「気分は憂鬱だけどなあ……」
気分をリフレッシュしたはずだが、この目の前に広がる青々とした草原、晴れ渡った青空に反比例して気分が下がっていく。途端に面倒になってくるからどうしたものやら。
「とりあえず、コウお願いね」
「へいへい、【空走場】っと」
スキルを使い、6階層の時と同じく空へと上がる。今回はショウが屋敷から引っ張り出してきた双眼鏡があるので更に遠くを見れるようになった。
「さてさて……見つかるかな」
この双眼鏡の倍率は分からないがもちろん肉眼よりは遠くが見れる……当たり前か。どこぞの外国の民族は視力が8だか10だかあるらしいが、どういう風に見えるんだろうな。それはさておき、辺りを見回してみるが双眼鏡に映るのは緑と青、たまに白。プレイヤーとモンスターがはっきりみえるようになっただけだなあ。装置は全く見つからねぇな。目を凝らしてもそれらしい物は見えなかったので下へと降りる。
「見つけた?」
「全然。せいぜい数キロなのに見つからねぇもんだな……見えないようにされてたりしてなー」
「あー、強制的に歩かせる気かあ……こっちも大して効率の良い方法見つからなかったんだよね」
「ええ……面倒だなあ。トップはよくサクサク進めるよな」
「まあ人海戦術とか使えるからね、でかいクランの人達は」
「これ迷宮なんですかね……そういえば」
「まあ迷ってるは迷ってるんだし……」
気を取り直して進んでいくが、もうピクニック気分で行くしかないか。ドロップ品を持ち帰ればモモによって美味しく調理されるので、それをモチベに歩いていく。
「まだ見つかってないドロップ品とかもありますかね?」
「確か……鹿だったかな?まだ遭遇してないのは」
俺と同じくモモの料理を思い出したのか、コトネさんがドロップ品についてショウに聞く。草原に鹿か、いやまあモンスターだからな。そもそもここは迷宮だから普通のフィールドよりも生態系を気にする方がおかしいか。
「へえ、ジビエ料理か」
「意味としてはここのドロップした食材は全部ジビエ扱いになりそうだけどね」
「あれ、そうなの?」
ジビエ料理の定義はよく知らなかったのでショウに訂正された。いやまあ、ざっくり使ってるだけだから意味を間違えるのは仕方ないからこっそり直せば良いか。
「あれ、何でしょうか?」
「モンスターに囲まれてる……いやテイマーか」
進んでいくと前方に見えたのはモンスターに囲まれたプレイヤーだった。実際には囲まれてるのは味方であって、追い詰められている訳では無いので安全なのは間違いない。基本この迷宮は複数出たとしても2、3体ぐらいなので、7、8体いるのは不自然だからよく考えれば当たり前かな。よく見れば1体のモンスターを追いかけているように見える。
「んじゃ、いつもの通り迂回するか?」
「うん、そうし……あれ知り合いかも。ちょっと挨拶してって良い?」
「大丈夫ですよ」
「へえ、誰なんだ?」
「コウはこの前会ったよ」
この前でテイマー……まさかタルさんか?挨拶すると言うので近づいていくと、戦闘の詳細が見えてきた。4次職という割には連れているモンスターはあまり強そうではなく、1体のモンスターを倒すのにも時間がかかっているみたいだが、レベル上げかな?まあ俺達が数メートルまで近づくまでには倒した様で、こちらにも気づいた様だった。
「あれ、ショウ君と……コウ君だっけ?知らない子もいるね、久しぶり〜」
「お久しぶりです。ちょっと見かけたんで……レベル上げですか?」
「うん、この子達に丁度良いかなって。手に入るものもそれなりだし、うちの子達のご褒美になるからね、一石三鳥だよ。ショウ君達はここを進んでるのかな?」
「はい、ゆるくやってるんでまだここですよ」
「そうなの、そっちの子は……ヒーラー?」
「あ、はいコトネです。『癒術師』です」
「『飼王』のタルです。よろしくね〜」
「はい……狼お好きなんですか?」
タルさんが今連れているモンスターは種類は違うがどれも狼系のモンスターなので、コトネさんの疑問も当然か。この前は梟もいたが、あれはレギュラーとかだろうから今はいないんだろう。あの時の黒い狼もいないが、そういう事なんだろう。というか、いつの間にかコトネさんとタルさんが意気投合して話に花を咲かしている。なんか見たことあるなこんな光景……あっ、クルトとレイブンさんか。
「止める?」
「別に良いんじゃないか、急いでる訳じゃないんだし……大分長くなりそうだけどな。というかコトネさん動物好きだったのか」
「今知ったの……!?もうちょっと興味持とうよ」
「いや接点大して無かったろ」
ショウが呆れた様に言ってくるが、中学の時は高嶺の花的ポジのコトネさんと関わる機会がそもそも無い。今も話す事といえばこのゲームのことか学校の諸連絡ぐらいだし。コミュ力高めのショウには分かるまい。
タルさんが連れている狼達も寝そべって休んでいるので長くなるのだろう。2人もいつの間にか座っていたので俺達も休憩することにした。ここで【空走場】で確認をしたかったが、そんな事をするわけにもいかない。4次職になるほどの経験を積んだタルさんならエクストラスキルである事など一目瞭然だろう。素直に持ち物の確認でもしておくか。
「あの時連れていたのが1軍かな?」
「そうだと思うよ、割と見かけるの多いし。特に黒い狼は誰も他で見かけた事ないらしくてレアモンスターって言われてるけど詳細不明なんだよね」
「まあ教えてくれる訳も無しか……何時間で終わるかな」




