第三話 迷宮一層目
「あ、コトネさんこっちこっち」
「……凄い人ですね、この辺り。中々探しづらくて」
「いやあごめん、こっちも悪かったよ。イベント真っ最中とはいえ、少し時間が経てば列が空くと思ったら……待ち合わせ向きの場所があったらそこも混むよね」
俺達が待ち合わせの場所としていたのは迷宮の入り口の近くの広場のようになっていた場所だったが、いかんせんプレイヤーが多い。これでは人を探すのも一苦労というもので、互いに探しながらうろうろとしていたせいで、待ち合わせの時間よりも少し遅れての合流となった。
「あれ、お二人は一緒だったんですか?」
「ああ、うろうろしてたらショウに会って、そこにいたプレイヤーと話してそのまんまだったから」
「あ、そうなんですか」
人混みの中で詳しく話すと面倒なのでイプシロンやタルさんなどの話をさらっと話した。マモンの事やら、悪魔やらをここで声に出すわけにも行かないからなあ。下手に聞かれでもしたらたまったものではない。
「さてどうする?もう入る?」
「まあ今日は様子見だし、これで良いんじゃないか?」
「そうですね……でもこんなに人がいて進めるのでしょうか?」
「そこは大丈夫みたいだよ。入り口は1つだけど、入るとランダムで振り分けられて階層も広いみたいだからごった返したりしないらしいし」
「もしそうだったら人の波で埋め尽くしてクリアとか出来そうだな」
「イベントの意味ないねそれ。とはいえまあ、入り口はでかいけど列に並ばなくちゃいけないのだけどね」
数メートルはある入り口の方へと向かうとパーティ単位の列が3つほどあった。さっきよりはまだ列は短く回転が良さそうだけど、数分は待ちそうだな。まあ初日だし、日にちが経てばそれなりに落ち着いてくるだろうか?ここで話していても列がなくなるわけじゃないので3人で列の1つに並ぶ。この3列に特に違いはない様で、門の幅的に3列が限界なだけみたいだった。これ、同時に入ったパーティはどうなるのだろうか?まあ流石にそんなやわな仕様はしてないだろうけども。そうこうしているうちに俺達の番が来た。入り口は直接迷宮に繋がっているわけでなく、白くなっていてワープゲートみたいな感じだった。その入り口をくぐった先は迷宮というか、ダンジョンというかレンガ調のいかにもな見た目の光景が広がっていた。
「うん、普通ってかテンプレなデザインだね」
「別に良いだろう、雰囲気雰囲気」
「じゃ、じゃあ行きましょうか!何があるんでしょうかね?」
おお、いつになくコトネさんのテンションが高い。こういうのが好みだったのかな、楽しめているなら問題無いだろうけど、こんな場所でそんな意気揚々と進むと……あ。
何かが風を切る音と共にコトネさんの鼻先を掠め壁へと突き刺さったのは1本の矢だった。まああるよねそういうの。
「ひぇ……」
「大丈夫コトネさん?」
「進んで数メートルで罠とか酷すぎねぇか?」
「まあランダムみたいだし、ただの矢っぽいからチュートリアルみたいなものじゃないの?」
「なるほど、あーモモが来れないのが悔やまれる。罠感知出来る奴がいないからなあ。後コトネさんは気をつけよう」
「あ、はいすみません……」
「まあ分かりやすい事が起きたから良かったんじゃない?この後はちゃんとしたのが来るだろうからその時よりはね?罠に関しては……一先ず注意しながら進んでいくしかないね。罠感知についてはレベル1ならスクロールで何とかなるけど、それでどうなるか……」
「レベル1だと頼れるもんじゃなさそうだからな……まあ無いよりはマシだろうから帰りに、いやこれだと売り切れてそうだな」
「まあ追々ね。僕が調べておくよ、とりあえず進もうか」
「おう」
「はい!」
罠に気をつけながら進んで行くが、罠感知のスキルが無いので、そういう事に関しては素人の俺達は何度も罠にかかった。幸い、死ぬような羽目にはならなかったものの、ダメージはまあまあ受け回復する必要ができたりしたり。1層目でこれじゃあ我ながら先が思いやられるというか何というか。
「そういえばモンスターが出ませんね?」
「1層目だからじゃないか?」
「出るとしても階段の前とか?この迷宮、階段方式なのか知らないけど……1体ぐらいは会うかもしれないね」
「階層ボスかよ。というか、モンスターよりも罠と、この多い別れ道だよな」
「この前聞いたものより多いんですか?」
この前のクエストの話か。あの場所も多少は罠もあり、迷路のようだったがこの迷宮は本物というだけあってその数は段違いだった。流石は迷宮と言うべきか、これそのまま進もうとしたならどれだけかかるのだろうな?
「調べたらマッピングの魔法があったからスクロールとか買えば良いけど……高騰してるよね」
「なんだスキルじゃないのか。そもそも売れ切れてそうだけどな」
「自然に習得するのは学士系統らしいけど、今フリーな人いないからねー、これのせいで誰も彼も引っ張りだこみたいだよ」
「買えたとして誰使う?この場合全員習得する必要無いんだし」
「あー……僕で良いんじゃない?すぐ死なないし、コトネさんはMP使うジョブだし、コウは少し上げてもMP少ないしね」
「んじゃ頼んだ」
「よろしくお願いします」
まあ手にいれられないのに話し込んだところで意味ないが、ショウならどっかから手にいれられそうだよな。他の魔法と組み合わせれば紙に念写が出来るようだが、する必要があるのは大規模クランか情報を売りたいプレイヤーぐらいだから俺達には特には関係ないか。マッピングした情報は消える事は無く、パーティ組んでいる間は魔法を習得していなくても見れるらしいので便利だが、どういう設定なんだろうな。罠に関してはその内慣れるだろう。
「あ、2人ともストップ」
「どうした……あ、なるほど」
曲がった先の方から明らかにプレイヤーのものでは無い物音が聞こえる。ついに敵モンスターだろうか、それにしては機械的な音に聞こえるが。
「どうする?奇襲?」
こっちから仕掛けるか、相手の動きを待つか。それとも可能性は低いが相手をやり過ごすか、いや敵を見逃す手は無いか。
「俺が行くから2人は援護で良いんじゃね?」
「まあそうだよね、んじゃ人柱よろしく」
「おい、言い方……まあ良いや、それじゃ」
とりあえず勢い良く走り出し、角を曲がる。そして視界に映ったのは4足歩行の機械っぽいモンスターだった。目というかカメラ部分が赤く光りギチギチと音を立て始め明らかに戦闘態勢になったのが分かる。うーん、この種類は想定外。飛び道具とか無いよね、蜂の巣とかにされそうなんだけど……こんなに浅い所からそんな展開は無いはず。その心配は杞憂だった様で前足2本が変形して展開したクローで攻撃してくる。
「おっと」
流石に1階層だし敵は弱く動きは全然遅い、普通に刃が通ったわ。何回か攻撃するとあっという間に倒せ、アイテムをドロップして消えていった。うん、杞憂すぎたわ。
「全然大丈夫でしたね」
「流石にね、にしても機械系とはそういうコンセプトかな」
「ドロップするのは良いけど何に使うんだろうな、これ」
ドロップしたアイテムを拾い、先に進む。罠には何回も起動させたが、ちょっと慣れてきた気もしないでもない。それから数十分歩きやっと次の階層へと続くだろう部屋へと辿り着いた。その部屋の中心には石碑の様な物が置かれていた。
「あー、こういう方式?」
「階段じゃなくて転送系?とりあえずこれで帰れるのかな」
「うん、ちゃんとセーブ出来るみたい。ここで外に出ても途中から続けられるみたいだね」
「それじゃあ一旦帰りましょうか、時間も時間ですし」
「まあある程度問題点は洗い出せたしね」
「早めに解決出来れば良いけどな」
そしてパーティリーダーであるショウが操作し、迷宮の外へと戻った。さて、期間中にどのぐらいまで進めるかな。




