第十八話 迷走
「広くねぇ!?」
「これは……不味いねぇ」
マモンのお陰(?)で見つけた入り口に入ってから数分、それなりに進んだはずなのだが、こういう時の定番である、親玉がいそうな部屋に着くとかそういう事は全く起きる気配は無い。思っていたより広い上に、構造が迷路みたいになっているので、散々走り回ったお陰でここがどこやら……どうすりゃ良いんじゃ。
たまに構成員みたいな奴と遭遇して、戦闘になったが、大した実力じゃない奴がほとんどですぐに無力化できた。NPCとはいえ、殺すのは躊躇われるので気絶ぐらいにしているが、方法が大分雑なので重傷なのもいるが……矛盾しているかもしれないが、まあ犯罪者集団なので1人2人死んでも構わないか。
「これ、捕まえた奴に経路とか聞き出せなかったのか?」
「あー、ほらさっき騎士団長とやらと別れる少し前までは聞き出したルートなんだよ。あいつらそこまでしか知らなかったみたいでなぁ」
「あー、なるほど情報がそもそも無いのか……」
俺たちよりは多少ズィーベルトンの情報に詳しいマモンに聞いてみたが、芳しい答えは返ってこなかった。先程、道が思っていたよりも複雑なせいで、騎士団長の隊と二手に別れた。最初の方針と違う事になり本末転倒だが、この規模の拠点を用意できる組織が非常事態用の逃走手段を用意していないはずがない。なので、二手に分かれた方がまだ効率が良いんじゃないかという事になり、探索者の俺達と悪魔2人はこうして進んでいる訳だが……道に迷っている気がしないでもない。
「モモ、魔法で探知してるんだよな?」
「そうだけど……いかんせん広いからねぇ、複雑になっているのもあってフロア全域は無理で、今の所下に向かうとか、それっぽい所があるとかは探知できてないね」
「そうか……騎士団長達は見つけられたかな?」
「いやー、連絡手段が無いからね。どちらかが先に何とかしてればそれはそれで良いでしょ」
「そりゃそうか。階段どこかなあ……」
「……あ、見つけた!こっち……いや戻らないとか!ほらマスター!」
「え、いやちょっと!」
急にモモが後ろを向いて今来た道を戻っていった。多分下へ降りる階段へのルートをみつけたのだろうが、いきなりの方向転換は止めてー。そこまでの速度が出てる訳では無いからすぐに追いついたが、これで曲がるのが多いルートだったら見失ってそうだな。あと、ここ地下何階まであるんだろうな。
「ここですか、姐さん?ただの会議室っぽいですけど」
「こんな凝った仕掛けを用意しているとはねぇ、ほれ」
辿り着いた部屋はマモンの言った通り、簡素な会議室の様な場所だった。モモが魔法で壁にある棚を破壊すると、出てきたのは下へと通ずる階段だった。色々と操作すれば開く仕掛けなんだろうけど、破壊するとは……まあ面倒だから気持ちは分かるし、馬鹿正直に正当に解く意味もないか。それにしても、この地下といい、結構凝った仕掛けを用意できるといい、中々の規模の組織じゃないか?ちょっとした邪教徒集団かと思ったら意外と組織でちゃんとしていたっぽいし。結構歴史とかあるのかな。
道は見つけたので、下へと降りる。仕掛けが閉まっていたので、騎士団長達はまだここへは来ていないのだろう。書き置きを残し、4人で進んで行く。
「んで、降りてきた訳だが……どうだ?」
「この階もだね、広いし複雑でとりあえず回ってみるしかないねぇ」
「あー、面倒だな、姐さん魔法で下ぶち抜けないのか?」
「……どこに繋がっているかもわからない上に、こんな狭い所で魔法を撃てと?あんたが肉壁になってくれるならやるけどねぇ」
「……すみませんでした。それじゃあ進もうか……」
まあでしょうね。そんな都合良くいかないというか、階段を降りた感じ階ごとの厚さが結構あるみたいだから、仮にぶち抜くとしても2次被害が恐ろしい事になりそうだし。マモンも説得……テキトーな考えをすげもなく却下されたので、少し静かになった。
「それにしても、こんなに時間かかってんならボス的な奴とか逃げてんじゃねぇの?」
「それはあるかもだけど……」
「意外と待ち受けていたりしてね」
「ええ?何か意味あるのかそれ。さっさと逃げた方が……」
「いやほら、追い詰められて不完全な状態での儀式とかしてそうじゃん。悪魔崇拝してるんでしょ、ここの組織って」
「あー、確かにそうだなあ。けどそれ面倒な事になってる状態じゃねぇか。どっちもどっちだな……」
割とありそうな確率のどうでもいい話をしているが、もちろん足は動かしている。いかんせん広いので、モモが階段みたいな下へ通ずる道を探知するまでこうやって変な話をするぐらいしかする事が無い。もちろんたまに的と遭遇するが、大した実力は無いんだよなあ。流石に襲撃してきた連中みたいなのは拠点にも少しは残っているはずだが、待ち構えていると面倒だなあ。それがフラグになったのか、モモから何やら待ち構えている様な動きをしているのがいるという知らせが入った。
「その先……そっちに階段があるのかな?」
「そうじゃない?ここでブラフはるのは遅いでしょ」
「あ、ちょっと狭くなるから魔法使いづらくなるから休憩で」
「んー、まぁいいんじゃないか。ずっと探知してくれてたし」
「そうだぜ姐さん俺に任せてくれ!」
「いや、複数人だからあんた1人じゃ時間かかるよ、さっさと走りな」
相変わらず、辛辣というかおざなりな扱いだな。まあ雑なだけで毛嫌いしている訳では無いみたいなのでそういう関係なんだともう知っているので俺もショウも今更特に反応しない。
一応、敵がいない側の方向も行ってみたが、先へ通ずる所は無かったので大人しく、待ち構えている方へと向かう。
「で、相手何人なんだ?」
「4人だねぇ、1人分不利だけど多分襲撃してきた奴らと同程度かちょっと強いぐらいだね」
「それなら姐さんいなくても何とかなるか、じゃあ……そういや名前聞いてなかったな」
「そうだっけ?ショウだよ、よろしく。とりあえず僕が前に出れば良いんでしょ?」
「ああ、頼む」
「ほら、その角だよ」
相手が何してくるか分からないから、とりあえずショウに受けて貰う方針か。モモの言った通り、次の角を曲がると相手がいるので
、盾役のショウが前に出る。
「ぐっ……やっぱりか!」
先頭のショウが角を曲がった途端、威力が高い魔法が飛んでくる。相手は待ち構えているので当然こちらが出たら攻撃が飛ばしてくるだろうとは思っていたので、ショウは特に危うげも無く盾で攻撃を防いだ。それでも相手は結構な威力の魔法を使ってきたみたいで多少ダメージを受けた様だった。
「すげぇ威力だな……」
「相手は俺達を通さなけりゃ良いんだからそりゃ通路が壊れようが何だろうがお構いなしだろ。こっちは奥に行かないと行けないからなあ……」
「下手に派手にやると崩れるよなあ」
最悪相手はこの辺崩落させれば俺達が通れなくなるからな。それをしないのは、出口が他に無いからだろうか?どちらにせよ相手を倒して進まなけりゃならないので関係ないか。攻撃が止み、落ち着いたのでぼろぼろになった角を曲がると、今まで見た奴と同じ格好の男達が4人立っていた。
「ここから先へは行かせんぞ」
「そう言って、はいって言う人見た事ないなぁ……」
相手の1人が道を塞ぐ側としてはテンプレな台詞を吐く。こちらもこのまま戻る気は毛頭無いので戦闘体勢をとる。
「あれ、相手がまた遠慮なしに魔法使ってきたらやばくね?」
「それは何とかするから安心しな。1番左がそうだろうね」
「じゃあそいつからだな」
こんな狭い空間の場合、範囲が広い攻撃をできる奴から仕留めないと、いよいよ突入してからまともな戦闘になりそうだ。




