第十七話 突入
えー、現在時刻は夜の8時、場所はズィーベルトン郊外であります。ここには俺とコトネさん、ショウ、モモ、マモン、第1王女にして騎士団長でもあるオリビアとその部下達数名、後はズィーベルトンの私兵の人達。この前折れたが捕らえた男達が吐いた情報から拠点と思われる場所を特定したらしい。いやー、何があったんだろうなあ。拷問の描写とかはまあ、無い方が当たりが良いから濁されてるがお察しなんだよな。
さて、もう突入するみたいだが、この件は少数精鋭……精鋭か?精鋭じゃ無いのは俺とコトネさんぐらいか。まあ、こうやってシナリオが進んでいる以上、多分問題は無い筈だ。多めのプレイヤーに声をかけたりするのかと思ったが、引き出した情報によると、予備の隠れ家が色々と用意されているらしく、下手に騒ぐと逃亡される可能性が高くなり、それなら急いで襲撃して一網打尽にした方が良いという判断だそうだ。まあ、モモやマモンがいるし、騎士団長もいる。敵の目標であるアリシアは今日は第3王女と一緒にいるらしいので、メイドさんが何とかするだろう。
「さて、準備は良いだろうか?」
一時的な滞在場所に留まって準備をしてしばらくすると、騎士団長から集合がかかり、作戦の説明が始まる。
相手の本拠地は雪山フィールドの麓にある洞窟を拡張して作ってあるそうだ。それだけだと下手するとプレイヤーにバレそうなものだが、滅多に人が寄り付かない様な場所なので見逃していたとか。まあとにかくそこに乗り込むらしい。
陣形的なものとしてはまず騎士団長の隊が突っ込み、勢いよく踏み込む。次に俺達いつものパーティプラスマモンが入り、騎士団長の隊と代わり奥へと進む。まあ俺達プレイヤー……探索者は死んでも復活するし、モモ達悪魔も人間より余程丈夫だ。若干非人道的な感じがしなくも無いが、そこら辺は妥当な判断じゃ無いかと思う。ゲームなんだし気軽に死んでいこう。それによく分からない生贄とかを必要とする敵の本拠地なんてどんな罠があるか分からないからね、気軽に死ん……あれ、モモやマモンは普通に生き残りそうなので良いが、俺達死んだらまた大した出番無くないか?このゲームの仕様だと仮に死んでもそのまま進行するだろうから、肉壁になったリザルトしか出ない。ちゃんとやらないと不味いか。まあとにかく頑張ろう。
話を戻すと、ズィーベルトンの私兵達は入り口を固まるらしい。プレイヤーが起こす騒動によってはステータスが跳ね上がり、即座に対処できる兵達だが、この場合は設定通りのスペックなため、1対1なら今の俺でも余裕で倒せるレベル。なので、見張り番となっている。
そうして情報の通達も終わったので、全員でその本拠地へと向かう。何か行軍みたいになっているが、そんなに人数は多くないし、相手になるべく気づかれない様に移動しているのでどちらかというと隠密作戦……いやそれにしては人数が多いか。
「どうなると思う?」
「うーん、トップを取り逃して面倒な事になるとか、思ったより強いとか?でも、このメンバー揃えてそれは考え難いから、大丈夫じゃないかなあ?似た様なクエストは聞いた事あるけど、関わってるNPCがNPCだからなあ……」
「まあ予想しづらいよな。似た様なクエストって?」
「領主の依頼で近くの犯罪組織の討伐だったかな?どこの町だったっけ、ゼクシールかアハトミノだったと思うけどまあそこは良いか。言っといて何だけど、そんなんあったって聞いただけだから大した事知らないんだよね」
「まあ内容的にあんまり参考にならないから良いか。それにしても耐寒装備あって良かったよなあ」
「そうだね、麓だからまだ寒さも大した事ないし……そろそろかな?」
「……まだみたいですよ?」
前の方から速度を落としてコトネさんがやってきた。騎士団長に呼ばれて何やら話していたみたいだが何だったのだろうか?
「何話してたんだい?」
「あ、私、『癒術師』なので、できれば後方にいて欲しいと頼まれて……どうしましょうか?」
「あー、良いんじゃないか?タンクのショウがいて魔法担当のモモもいて、コトネさんまで必要になるとは思えないし」
「そうだね、NPCが死ぬよりは良いかな。そういえば魔法職いなかったね……まあそういうこともあるか」
という訳で、コトネさんは後方支援となった。ポーションも結構持っているし、余程敵が多いとか、制圧に時間がかかるとかでなければ、問題無いだろう。
それからまたしばらく進んで行くと、先頭が止まったので、俺達も止まった。
「さて、あそこが相手の基地だ。皆準備は良いか?」
そう全員に伝えた騎士団長の先には、雪で若干見づらいが洞窟の入り口が見えた。ようやく着いたか、まあ準備は整っているので、一応確認というやつだろう。他の全員の反応を確認した後、騎士団長は頷き、洞窟の方へと体の向きを変える。もう、始まる感じかな?奇襲だろうから、下手に声を上げてると気づかれるか。
「では、私達が踏み込むので後を頼む。使い捨てにする様で悪いが……」
「いやいや、探索者なんてそんなもんだろ。合意の上なんだから気にしなくても」
「だが、一応同じ人としては……まあここで言ってもしょうがない。改めてよろしく頼む。」
その言葉にそれぞれ返事を返し、体勢を整える。これで話す事は終わりだろう、さっきのは一応クエスト内容の確認だったのか、まあこのまま進むけどな。
入り口自体には、環境のせいもあるのか特に見張りとかはおらず、近づく事までは簡単だった。斥候的な騎士の人が覗いてみたが特に中に何かがあるのかは確認できなかったらしい。なのでとりあえず洞窟の前まで移動する事になり、ズィーベルトンの私兵の人達は持ち場やら何やらで展開していった。だがしかし、ここで問題が1つ見つかった。
「どうだ、罠は見つかったか?」
「いえ……ここにはそれらしいものは仕掛けられていない様です」
「こっちも魔法でざっくり調べたけどそういうのは無いねぇ」
斥候担当の人とモモが洞窟を少しずつ調べていたが、洞窟は10数メートル程で特に何かがある訳じゃなかった。何か出鼻を挫かれた感じだが、こうなると捕まえた奴からの情報は果たして合っているのか?複数人捕まえて吐かせたらしいから全員で嘘情報を吐いたなら根性あるし仲間意識も凄いが、それは印象的に考え難いなあ。
「そうか、感謝する……これは情報がガセだったか……?」
「それは無いかと。ズィーベルトンの方々はとても優秀ですし」
「優秀って……そういう意味だよな?」
「まあゲームだからフレーバーで済むけど……いやー怖いねー」
とにかく、偽情報というのはあり得ないらしく、ここが入り口なのは間違いないらしい。中々進まないなあ、どこにあるんだろうか。
「姐さん分からないのか?」
「洞窟の中は何にも無いねぇ。意外と横かね、ほら体を張りな」
「いやちょっと、ぶっ」
モモに雑に蹴られたマモンは転ばないように止まろうとしたが、雪の下の地面が出っ張っていたのか躓き、変な体勢で洞窟の入り口の横の壁へと手をついた。それだけならまだ良いが、手をついたところがスイッチの様に凹み、それと同時に洞窟の地面が動き、下へと続く階段が現れた。
「そ、そんなベッタベタな事が……」
「まあ、ある意味お約束というか……いや流石にこれは無いわー……」
「よ、良かったじゃないかマモン。お手柄だよ……ははは」
「全然嬉しくねえ……」
「んんっ!と、とにかく入れる様になったが、相手にも気づかれただろう。罠はあるかもしれないが突入するぞ!」
気を取り直そうと騎士団長が号令をかける。なんとも締まらない感じで突入する事になったが、敵地なので気を引き締めていこう。




