第十五話 襲撃
あれから何日か経ったが、特に何事も無い。学校があったりするので、1日中護衛は出来ないが、王女様達が外出するにしても、メイドさんとマモンがついている。端から見れば、メイドと優男しかついてないお嬢様達なので、周りから見れば随分と気の抜けた金蔓に見えるだろう。それを聞いて大分驚いたが、薄々思っていたが、王女も混じって相手を釣るとは思っていなかった。アリシアと仲が良いから助けになりたいのは分かるけど……
「王族としてそれは大丈夫なのか?」
「まあ良くは無いが、何よりナタリーがいるからの。離れなければ大丈夫なのじゃ。父上側も妾が今は逃げ出せる状況じゃないからここで出来る公務をやらされておるしの……というかそれでもいつもより多い気がするのじゃが!そこら辺どうなんじゃ!?」
「陛下の今の内に色々と終わらせさせるというご判断です。王都祭まで半年を切っていますから、終わらせないと間に合わなくなりますよ?」
「む、むぅ……父上め。そこまで考えていたとは……どうりで命の危険もあるのにやけに許可が降りるのが速いと思ったのじゃ」
「王様の方が一枚上手だな……」
「まあ言ってしまえば妾はまだ子どもだからの、人生経験では父上に勝てるはずもない」
「それはそうか。というか『殺王』、それもレベル100ともなると今回の事を起こせる程強いのか」
「数値の上では人間の限界値じゃからの。ちなみに姉上もレベル100じゃぞ」
「え、マジで?騎士団長の事だよな?いや4次職ぐらいだろうと思っていたけどカンストか……」
「シャーロット!一緒に遊びましょう?」
話していると、窓から顔を出したのは領主の娘のアリシアだった。今日はモモに魔法で遊んでもらっていた様で、さっきまで笑い声が聞こえていたが、止んだのでどうしたのかと思ったらそういう事か。子どもの相手とか苦手そうな見た目のモモだが、アリシアみたいに聞き分けの良い子どもなら問題無いとか。それは大丈夫なんじゃなくて普通に苦手寄りだと思うのだが、今はアクシデントも起こっていないので、別に良い。マモンも張り切っていた様だが、モモに魔法の実力で勝てる訳も無く、開き直って一緒に遊んでいたりする。いや本当にそれで良いのか大悪魔。
「え、えい、はしたないぞアリシア。あと何度も言っているが敬称を……今は良いか」
「馬車の上に乗ってはしたない真似をされていた方はどちらでしょうね?」
「ナタリー!そ、それを今言うでない!」
「あらあら、一緒ね!ほら行きましょ!」
「おわー!」
メイドさんに、出発の時の事をバラされ、掃き出し窓の方から入ってきたアリシアに捕まれ外に連れて行かれた第3王女。強く生きろー。まあ連れて行かれてすぐに一緒に楽しんでいたが。まああの年齢ならあれが普通だろう。まあある意味テンプレというか……あれ?
「……あっちに行かないんです?」
「あの状態だと近くに寄る方が問題なので、この距離でもあまり変わりません。それにこの距離でも十分に間に合いますので」
「あ、ソウデスカ」
いやー、間に合うのかー。まあモモの魔法で遊んでいるなら、何かあっても対応するのはモモの魔法が1番速いしな。いや本当どれだけ強いのかな?
俺の興味を察したのかナタリーさんが口を開く。
「あなたの評判はお聞きしておりますが、仮に正面から戦闘を行ったとしても、私が勝ちますよ。たとえあなたが天賦獣を2体倒して、スキルを獲得していたとしても」
「……エクストラスキルの詳細話した事ありましたっけ?」
「企業秘密です」
「あっ、はい」
企業秘密かー。それなら言えないよな。というかそんなに強いのか、自信過剰じゃなくて実際そうなのだろう。まあ重要NPCのメイドというか護衛なんだからそれなりに強くないと、変な事を考えるプレイヤーに何かしれないとも限らない。てか、確実に1人ぐらい存在するだろう。
「あと、そろそろ空気が不穏になってきました。しばらくは夜中にも起きていただけると助かります」
「えっと、それは……?」
「すみませんがこれは冗談抜きで企業秘密です」
推測は難しいが、勘とかもしくは……エクストラスキルとか。言い方的に何か密偵がいてそれの結果では無いみたいで、確信はないのだろうが……まあ確実に襲撃とかのフラグだろう。
それにしても夜中か。そりゃ襲撃するなら夜中だろうなあ。真昼間に乗り込む馬鹿はいないだろうし。まあ明日は休みだから多少夜更かししても大丈夫だとして、他のみんなに連絡しないとな。まだ小学生のクルトとアゲハは無理だろうから来れるとしてもショウとコトネさん。守るのは多分アリシアだろうし、第3王女は最悪メイドさんが守るから良い。そもそも七大悪魔が2人いる時点です何とかなる気がする。
そして夜中、プレイヤーでログイン出来たのは俺とショウとコトネさんだった。
「本当に起きるのかい?」
「いや、それっぽいフラグだって言っただろ。今日必ず起きるのかは俺も知らないよ……というか、コトネさん良くログイン出来たね」
「多少の夜更かしなら何とかなりますので!」
「そうなの……流石に運営も何日も一晩中ゲームの中にいさせる様なクエストは作らんだろうから、多分起こると思うぞ」
「まあそうだろうね。敵は……生け捕りの方が良いよね?」
「まだどんなのが相手なのか分からないみたいだから、そうだろうな。あ、なんか薬で自害するみたいだから気をつけてな」
「特殊条件付きかー、厄介だな」
「えっと、私はアリシアちゃんの方に?」
「いや、念の為王女様の方に。あっちにメイドさん1人だけだから」
「あっ、分かりました!」
雑な作戦会議も終わり、夜中なので息を潜める。今俺達はアリシアの寝室の近くの部屋に潜んでおり、襲撃が起こった際にすぐに動ける様になっている。モモは、戦力を分けた方が良いという事でマモンの部屋の方に行っている。アリシアの部屋を挟んで反対側なので、どっちからでも問題は無い様にだ。
いよいよ状況が動くせいか、眠気はあまり無いのでありがたいが、いつ来るのだろうか。現在11時半、夜中といえば夜中だが、まだな気がするな……せめて1時ぐらい、2時とか3時とかになるとキツい。
「き、来ませんね」
「今何時?」
「いやウィンドウ見ろよ……12時27分」
「んー、そろそろ来て欲しいかな、少し眠くなってきた」
「安心しろ寝たら置いてくから」
「いや起こしてよ……」
あれから約1時間が経とうとしているが、何かが起こる気配は無い……あれ、間違えたかな?んー、でもあのメイドさんの言い方だとなあ。そんな事を考えていると突然、ガラスが割れる大きな音がした。
「き、来た!」
「行くぞほら、コトネさんもよろしく!」
「はい!」
俺とショウはアリシアの部屋の方へ、コトネさんは第3王女の方へと走る。アリシアの部屋はすぐそこなので、扉を開け中に入るとそこには倒れ伏す黒づくめのローブを着た男達とそれを見下ろしているモモとマモンだった。
「おやマスター来たかい?」
「俺達要らないじゃん……」
「ま、まあそういう事もあるよね」
まあそりゃそうなるか。夜中なので、派手な魔法は使わなかったみたいだが、大した部屋が荒れる事も無く無力化したみたいだ。
「自害手段は?」
「ああ、問題無く処理したよ。にしても呆気なかったねぇ」
「まあ探索者でも無い普通の人間だろうからな」
何はともあれ、無事なら良いのだ、いる意味が全く無かったのは不本意だが。そう考えていると、部屋に何かが投げ込まれた。一瞬の後、光やら煙やらが発生し、視界が悪いどころじゃ無くなった。




