第十四話 巡る中で
「さて、今日は視察という名の観光じゃ。暇かもしれんが、人の目にこういう護衛がいると分かりやすく示すためのものじゃから頼むぞ」
「逆です」
「イタッ……つねるのを止めい!」
次の日、第3王女から言い渡された今日のクエストは数時間町を巡る王女様について行く事だった。というか、視察を観光って言うのは大丈夫なのか……大丈夫じゃないからメイドさんにつねられているのか。あのメイドさん結構自由だよなあ。多分、諌める為にあの程度なら許可されているのだろうが、それでも王族相手にあんな事をするとは……俺も似た様な事したって?王族っていってもプレイヤーにとってはNPCである事は変わらないからなあ、やっぱりそこら辺の認識があると王族だろうが、実際に生きているみたいなクオリティだろうが、何とかなる。
それで今回のメンバーとしては、第3王女とメイドさんはもちろん、案内役として領主の娘のアリシア、その護衛なのか傍付きなのかそういや結局役職がどうなっているのか分からない、まあ多分兼任的な感じのマモン、そして俺とモモである。あんまり大所帯ではアレじゃないのかというショウの判断()により、クルトとアゲハはこの前を俺達が集めた素材をいじっていて、ショウとコトネさんはレベル上げに出かけた。コトネさんは良いのかなという表情をしていたが、まあショウの内心はともかく確かに大所帯になるのも動きにくいだろう。唯えさえ、今でもう6人だからこの辺りがギリギリだろう。
ちなみに、偉い身分のお嬢様達は格好は流石に変えており、ちょっと良いとこのお嬢様ぐらいにまでは地味になっている。それで良いのかと思ったが、まあそういったクエストも無くは無いらしいので、他のNPCはともかくプレイヤーの目は何とか誤魔化せるだろう。
こんな事を考えている間に、もう6人で町に出ている。第3王女は前にも来た事があるらしいが、プレイヤーが現れた事によって前よりも様変わりしているらしく、アリシアと一緒にはしゃいでいた。視察ってか、たしかに観光だなあ。
「なあ、アンタ姐さんの契約者なんだって?」
「え、ああそうだけど」
護衛らしく、付かず離れず行動しているとマモンがそばに寄って来て話しかけて来た。モモはメイドさん側にいるので、そこまで離れている訳ではないが、この話が聞こえる程近くもないので、機会としては丁度良かったのだろうか。
「どうやって姐さんと出会ったんだ?教えてくれなくてさぁ……」
お、思ったよりぐいぐい来る。見た目は性格悪そうなイケメンで、モモと同じ七大悪魔なのに、何かハムスターみたいな小動物感が……うわ、ハムスターでアウラを連想してしまった。あれはハムスターだとしても小動物ではありません。とりあえず思い浮かんだアウラを頭の隅に追いやり、マモンの質問に答える。まあ出会いって言ってもガブリエルと戦って負けて、死にはせずともウリエルの炎の余波でボロ雑巾になったという酷い思い出しかないんだよなあ。
「あんたあいつら2体も会って死なずに済んだのか……大部分は姐さんのお陰とはいえ凄いな」
「まあモモがいなかったら普通に細切れだったよなあ。死なずにっていうか見逃された感じだし……というかあんたも怪我を負ったとはいえ逃げられたんだろ?」
「いや流石に実力じゃ無理だな、あいつらあの武装があるから自力が違うんだよなあ。だから基本的に出くわさない様にするんだけど……運が悪かったなあ」
「へえ、結構力の差があるんだな」
「まあ、目的が違うからな」
「目的?」
「……あ、すまん今の無しで」
ついにはっきりとオフレコって言っちゃったよ。目的ね……文脈から察すると、確実に天使や悪魔以上の何かによって作られた感じなんだよなあ……まあこれは超テクノロジーと完全ファンタジーの両方の可能性があるから良いとして……やっぱりただの悪魔じゃないのか。起源が違うってそういう事か。まあもう口を滑らす事は無いだろうからてきとうな事でも聞くか。
「そういや何でモモの事姐さん呼びなんだ?」
「あー、それかー……まあ昔色々あって世話になって、それでだな」
んー、あんまり話せない内容かー。話そのものじゃなくて背景だろう。
「こっちも聞くけど、モモって姐さんの事だよな?」
「ああ、その事か。いや、アスモデウスのままだと探索者とかの間じゃ面倒だしな、何か俺が名付ける事になったんだよ」
「まあ、分からなくもないし、姐さんが許してるなら良いんじゃないか?俺達はバレると面倒だからな」
「領主やあの子は知ってるのか?というかあの子契約者なのか?」
「いや、直接は言ってないけど、察してるんじゃないか?それにお嬢は多分分かってるはず……ああ、お嬢は契約者じゃ無いよ。条件満たしてないからな」
「へえ、そうか……条件?」
「まあ好みみたいなもんだ。姐さんがお前を選んだの分かるよ」
好みねぇ……条件は一体何だったのだろうか?そういうのは昔の事とは違う意味で答えてくれなさそうだなあ、好みとかってあんまり人に言う事じゃ無いし。
「それにしても、お前の大罪って強欲だろ?モモもそうだけど、あんまりイメージ通りじゃなかったりするんだな……ベルゼバブは別として」
「ああ、そういやあいつとも会ったらしいな。まあ、あいつは関係無く腹が減ってる質だからなあ……担当がそうってだけで必ずしも意味通りじゃ無いし。けどルシファーやレヴィアタンはベルゼバブと同じでそれっぽいぞ」
「そうなのか……色々あるんだな」
「まあな」
「ほら、あんたら行くよー?」
王女達は今見ていた所は見終えた様で、次の場所に行く様だ。モモに呼ばれ、進もうとしている4人の方へと歩く。そういえばマモンと話していて、護衛っぽい事全然してないな……まあ第3王女はメイドさんが守れるだろうし、アリシアの方は話していたけどマモンは反応できるだろうし、モモもいるし……あれ、俺いる?いや、ほらモモの契約者俺だし……護衛対象を除いて1番弱いの俺じゃん……何でNPCの方が強いんだよ。ま、まあ気にしないでおこう。
「マモン!ちょっとこっち来て!」
「はい、喜んで!」
やっぱり、あいつロリコンなのかな……というかプレイヤーもいるのに大声で名前呼んで大丈夫かな……7大罪の悪魔の名前ってそれなりに有名なはずだから察しの良い奴だと気づかれそうだが、流石にそれで気付くとまずいからゲーム的配慮とかされていたりして。
「あいつと何話してたんだい?」
「え?」
移動している最中にマモンが俺から離れた為、マモンの代わりにモモがやってきた。マモンと話していた内容を聞いて来たので、別に隠す事でも無いので話の粗方を話した。
「ふーん、多少口が滑った様だけど、まあ大丈夫か。あいつ変なところで抜けていたりするからねぇ」
「へえ」
……何か今日はへえ、とか言う事が多い気が。相手の話を聞くのが多いからかな。ベルゼバブと違ってマモンの方は多少気にかけている様だった。前に仲が良い奴はいないと言っていた気がするが、まあ見ていると仲が良いという訳じゃ無いみたいだから、一応あっているのか。
「……まだ話せないんだよねぇ。もう少し状況が動けば何とか……」
「いや、分かってるから別に良いさ。隠してるけどもうどういうのか隠せてないし」
「あはは……すまないねぇ」
そもそも話の規模的に、このゲームのどでかいイベントになりそうなんだよなあ。他のプレイヤーの認識がどうなっているか分からないし、せめて俺が3次職のレベル上限になるまで待ってほしい。欲を言えば4次職になりたいな。
その後も1、2時間町を回って王女様の視察という名の観光は終わった様だ。随分と楽しんだ様で、荷物が膨れ上がっている……持っているのはマモンで、漫画で見る様な荷物で前が見えない状態になっていた。それで良いのかお前。




