第七話 予想外の待ち人
友人との待ち合わせはツヴァイアットの中心にある広場に立っている時計台である。あいつのジョブは「盾聖」、文字通り防御系でつまりはタンクなので重武装にそれなりの大きさの盾を背負っているわけだ。それにあいつは俺と同じく髪と目の色しか変えないのですぐにわかるだろう、というかもう見つけた。フルプレートメイルだが野暮ったくならず、スタイリッシュな印象を受ける青みがある鎧に、身長ほどもある錆色の盾を背負っている。
「おーい、ショウ!」
「やっと来たね、待ちわびたよ」
「約束の20分前だろ……いつから待ってたんだ?」
「10分前かな」
大して待ってねえじゃねえか。よく待ち侘びたとか言えたな、こいつの面の皮どうなってんだ。毒とかついても問題なさそうだな。割といつものことなので気にしないようにしよう。
「まあいいや、それでどうするんだ?フィールドに出て狩りでもするのか……一緒に行くとしてもこの辺じゃまだ味気なくないか?」
「いや、もう1人来る予定だからまだここで待つ感じだね。その後はそんな感じかな……まあそんな長い時間するつもりはないから大丈夫でしょ」
「もう1人?」
「うん、君もリアルは知ってるはずだよ。君と同じく最近このゲームを始めたばかりでね、色々頼まれたんだよ」
「へぇ?一体誰なんだ?」
「それは来てからのお楽しみということで、とりあえず来るまで雑談でもしようか……そういえば君の趣味に合いそうな装備だね、例の市場で買ったのかい?よく見つけたね、あそこネタも結構多いし」
俺とショウの知り合いで一緒にゲームをするような奴がいただろうか?仲が良いのは他にもいるが俺と同じジャンルのゲームが趣味の奴はショウぐらいしかいなかったと思うが……こいつが内緒にするなら来るまでは話さないだろうから大人しく雑談でもするか。
「たしかにちらほら見た目ネタ装備見かけたな……見た目だけじゃなくて性能も結構いいんだぞこれ。見て回った中じゃ上から数えた方が早いぐらいだった」
そう、ここに来るまでに買った装備に変えておいた。今の俺は灰色を基調とした服装となっていて、脇には黒い鞘の刀をさしている。ちょっと形は変えてあるがやっぱりロングコート系っていいよな、リアルじゃできない格好だがゲームなので気にせず着ることができる。
「へえちょっとみせて……確かにここで手に入れられる物では補正いいね、良かったじゃないか」
「ああ運が良かったよ……そういやお前、クランには入ってるのか?」
「いや入ってないよ、何回か誘われたけどそこまでこだわってないし……どうせならコウと作った方が色々と楽だし、どうせ作るつもりだろ?」
「まあ身内で作ったほうが楽だよなあ。前やってたゲームも最初は2人だったっけな。それに一々宿屋で金払うのも面倒だし……大規模の方がメリットあったりするのか?」
「ん〜……人数が多いと素材が集まりやすいとかあるけどそれは無視できるし、このゲームはランキングとかないからクラン単位で明確に上を目指す目的もないしね……クラン単位でのイベントもあったけど、人数差で圧倒されないように調整されてるから結論としては少人数で問題ないね」
「まあ知り合いで固まった方が動きやすいしな」
「そうだね〜……そのイベントの時に空中分解したクランもあるし」
「やっぱり初日組は色々知ってますなぁ!」
「ははは……恨みはいつ晴れるのやら……おっ、来たみたいだよ」
そう言いながらショウが見た方を向くと聖職者風の格好で1メートル50センチぐらいの杖を持った金髪の女性プレイヤーがこちらに駆け寄ってくるのが見えた……え、本当に誰?
「お待たせしてすみません!私時間間違えましたか!?」
「いやいや大丈夫。僕たちが早く来すぎただけだから」
「えーっと……?」
「ああ、言っておいた方がいいか。こちらコトネさん、リアルの名前は坂下琴音さん……さすがに知ってるよね?」
「同じクラスだった人だよな?池……お前の幼馴染と仲が良い……」
「あ、はいそうです、改めてコ、コトネです。よろしくお願いします」
「どうもコウです……こっちのことは知ってるんだよな?」
「うん、僕が話したからね。君と同じ、今話題のこのゲームをして見たいってことなんだけど、VRゲーム自体初めてらしいからね。百合に頼まれたんだよ。僕は初日からやってるし、君も何とかなるだろ?」
そういう理由かー、確かにこのゲーム宣伝とかもすごいからな。やって見たくなる気持ちもわかる。VRゲーム初心者なら池田を通じてショウに頼むのも不思議じゃないし……ちなみにジョブは「魔術士(支援)」みたいである。魔術士は最初、攻撃魔法を使う攻撃タイプと回復、聖魔法を使う支援タイプを選べるらしい。後々両方使えたり、更に特化したりするそうだが。
「まあパーティとしてもバランス良いし、いいんじゃないか?そもそも断る理由もないし」
「じゃあそういうことで……ああ、百合が同じ高校なのは知ってると思うけど、コトネさんもそうだから、話す機会があるだろうね……それじゃ早速モンスターでも狩りに行こうか」
「が、頑張ります……!」
へえ、同じ高校なんだ。頭良いって聞いたことがあるから別の所かと……まあショウがこんなだからそういうこともあるか。そんなわけで話がまとまったので、3人で次の町に行く側の方の門へと歩いていく。
「そういや次の町って2種類あるって聞いたけど?」
「そうだね、次の町は2つあってドライタルとフィーアルっ言うんだけどそれぞれ別の種類のフィールドでね、一旦ルートが別れるけどどちらに行ってもその次の町は同じなんだけどね」
ショウが言うにはドライタルとフィーアルの間にでかい山があり、その立地のせいで別れ道となるらしい。その山もフィールドとしてあるみたいだが、付近のフィールドと比べるとモンスターのレベルが高いらしい。
「左はドライタルで岩場フィールド、右はフィーアルで森フィールドなんだけど……どっちがいい?」
俺はとりあえず初心者であるコトネさんを見……
「わ、私は後方支援なのでコ、コウさんが好きな方で大丈夫でしゅ」
……噛んだ?野良と違ってリアルを知ってるメンバーだから緊張しているのかな?まあ指摘しないでおこう。
「あーじゃあ……今レベルいくつ?」
「え、えっと14です。昨日少しショウさんにも手伝ってもらったので……」
「そうなんだ、これどっちも推奨レベル変わらないよな?」
「うん、変わらないよ。強いて言えば岩場のボスはロックタートル、森のボスはフォレストオウル、まあ硬い亀と素早い梟だね……コウはレベルいくつなの?」
「23だよ。結構頑張った」
「そりゃ頑張ったね……最初のフィールドで23まで上げるのは結構時間かかるはずだからこの先のフィールドにはまだ出てないんだろ?」
まあエクストラモンスター倒したおかげだが、頑張ったことには変わりない。それにしても硬い亀か……これはエクストラスキルを見せる良い機会じゃないか?
「よしじゃあ岩場の方にしよう」
「え、岩場?てっきり森の方にするかと。刀だとその辺のモンスターならともかくボスはそんなに相性良くないよ?」
「ああ分かってる、ちょっと試したいことがあってな」
「?……まあ別に良いけど……コトネさんは大丈夫?」
「あっはい問題ないです!」
そうして俺たちは岩場フィールドがある左の方の門へと歩いていく。