第十話 雪原、寒い、雪山、超寒い
「じゃあ行こうか……耐寒装備ちゃんと着けたよね?」
「はい、大丈夫です」
「こっちは魔法があるけど……使わなくて良いのは楽だねぇ」
「今更だけどあれは贅沢な魔法使い方だったよなあ」
「伊達に結構な魔力量してないからね」
現在俺とモモ、コトネさんの3人はズィーベルトンの外、雪原フィールドに出ている。耐寒装備に関しては1度屋敷に戻った後、クルトが速攻で仕上げてくれた。改良と言っても、微調整ぐらいだったみたいで、10数分程で出来上がったのは僥倖と言うべきか。ちゃんとモモの分もあり、それをつけているおかげでモモの耐寒用の魔法は使わなくて済んでいる。ゼクシールの砂漠フィールドの時は、耐暑用の魔法を薄くだが展開していたのでMPが枯渇せずとも運用が難しくなっていた。だがこの装備のおかげでそれを考えずとも良くなった。
ちなみに、この装備は環境効果、この場合は寒さを無効化までは出来ない。全身を耐寒仕様にすればできるかもしれないが、生憎と俺たちが付けている物は寒さを肌寒いレベルにまで抑えるものである。まあこれはゲームなのでそもそも実際より寒さは抑えられているおかげで実質効果はそれなりにある。NPCであるモモもただの人間ではなく悪魔なのでそもそも耐性が高い。後、個人的には暑さより寒さの方が得意らしい。確かに暑いのは苦手だったみたいだしな。
「今回はどこまで行くんだい?」
「んー、まあ時間が有れば雪山まで?大した目的無いし」
「へー」
「そ、それにしても綺麗ですね。このフィールド」
「あー、確かに。雪も降ってるから足跡もすぐ消えるしな」
「まあまだ町に近いから魔物も少ないからねぇ。いるに入るけど……ほらあんなのぐらいだよ」
そう言ってモモが指を差した先には真っ白い体毛をしたウサギのモンスターがいた。見た目は完全にただのウサギだが、分類的には立派なモンスターだとか。何かすぐに他のモンスターの餌になってしまいそうな見た目だが、逃げ足がとても速いので外敵から逃れるのに十分なスペックは持っているそうだ。現に、そのウサギの可愛さからコトネさんがふらふらと近づくとあっという間に逃げてしまった。
「うう……」
「ま、まあしょうがないよ、あっちは何されるか分からないんだから」
「それはそうですけど……可愛かった……」
あのウサギは割とコトネさんの琴線に触れた様で、とても残念がっていた。とりあえず、気を取り直して、雪原を3人で歩いて行く。このフィールドはゲームとしてどうなのか、あまりモンスターは少ない様だった。たまにウサギを見かけたり、白い狼の群れと戦ったりしたが、その回数はそこまで多く無かった。反対側は砂漠に火山と暑いのは同じでも特徴は違っている。対してこちらは雪原に雪山と平地か山地かと、まあ環境は違うが、どちらが生態系が形成しやすいかと言われると雪山フィールドの方だろう。雪山の方にはもちろん樹も生えているが、こっちの雪原は人の手が入ったかの様に何も無い。強いて言えば雪だが、食料にはならないなあ。
そんな訳で、多少雪原をうろついたあたりで、雪山フィールドの方へと向かった。
「ちょっと雪が強くなってきましたね」
「真っ直ぐ上へ進んできたからなあ、普通に探索するよりも標高が高い所にいるからかな」
「まだ頂上には程遠いけどねぇ」
「流石に今の耐寒装備じゃ頂上はキツいだろう。というか頂上に何かいるのか?」
「いや、火山と違ってそういうのは知らないねぇ。いたとしても、今は近づかないのが賢明だと思うよ」
「まあそうだろうな。絶対山頂付近はひどい雪というか嵐だろうし。まあもう少し登ったぐらいの所で探索しよう」
「はい!」
そうして雪山を進んでいくと、白熊と出会ったり、ヘラ鹿の様に立派な、それでいて凶悪な角を持ったモンスターと戦ったりした。白熊より、鹿の方が凶暴ってそれはどうなんだ。隙を窺う隙も無く、目があった瞬間襲いかかってきたんだが。あと、ここに出る熊は冬眠するタイプじゃないんだなあ、まあモンスターだからそうなのだろうし、そもそもここは雪が溶けた地表が見えることはないそうだし、そういうものだと言われればお終いなのだが。たまに遭遇するモンスターと戦い、素材を集めていく。すると、そういうタイミングだったのか雪が激しさを増していった。
それはたまにニュースで見るような暴風雪。なるほど体験するとこん……な、感じ……?
「いやいやいや、流石におかしいだろう!激しすぎじゃないか!?何かモンスターが大量の雪で攻撃しているって言われた方が信じるぞ!」
「す、凄い雪……うっ、口に入っちゃった……」
「ああ、暖かい。やっぱり魔法は便利だねぇ」
「オイ、1人だけ何やってんだ。一瞬で殺意が湧いたんだけど」
「あの私だけでも……」
「コトネさーん……?」
「あ、真面目に無理。身を寄せ合ったとしても1人が限界。2人以上だと消費がすごくなる」
「ええ……まあこれ以上探索するのは無理だからさっさと町に戻ろう」
「そ、そそそうですね。耐寒装備を付けているのに凄く寒いです」
「それが名案だけど……帰る方向は分かるのかい?」
「え、そりゃ来た方向を辿れば……辿れば……俺達どっちから来た?」
周りを見渡すと樹はあれど、どれも似た様なもので、こっちから来たと言われれば信じてしまいそうだ。肝心の足跡はこの暴風雪の中では痕跡の1つたりとも残っていない。更には雪のせいで視界が著しく悪いので、下手に離れると逸れてしまいそうだ。
「こっちは魔法があるから凍死はしないから時間をかければ帰れるけど、マスター達は長くいると凍死しそうだねぇ。まあ探索者だからまた町で会えるだろうけど?」
「いや復活するったって凍死は勘弁だ。とりあえずどこか雪をしのげる所を探そう」
「そ、そうですね」
まさかゲームの中で凍死の心配をする羽目になろうとは。確かに環境ダメージがあるフィールドがあるゲームはした事があるが、リアリティが増すとこうなるのか。流石に装備やら仕様やらで軽減されていると言ってもこれは寒い。もう洞窟でも何でもいいから一息つける所が無いものか。
「コウさんコウさん!あ、あれ灯りじゃないでしょうか!?」
「え、本当だ。人がいるのかな……モンスターの罠じゃないだろうな?」
「とりあえず行ってみないとことには始まらないさ。本当に人がいたら大助かりだろう?」
「それはそうか。じゃあ行こう」
そうして灯りのある方へと向かって行くと、見えてきたのはモンスターによる罠……では無く、合掌造りに似た構造の民家だった。本物の様に立派なものではなく、1人が住む為の物の様なこじんまりとした感じだ。
「お家……ですよね?」
「そうだな……まあ行くしかないか。ごめんくださーい!」
声を上げながら戸を叩くと、中から物音が聞こえてきた。灯りがついているからそうだろうがやっぱり人がいるのか。1歩後ろに下がると、戸が開き、出てきたのは灰、いや白の長髪の、和服を着た女性だった。
「あら、あら。こんな所に人が来るなんて……しかもこの吹雪の中で。まあとりあえずお入りなさいな、しのげる所を探していたのでしょう?」
「あ、ありがとうございます……」
まず印象としては怪しさ6割、といった所だ。シチュエーションがそれっぽいからなあ……まあ普通にこの吹雪をしのぐためだけに頼るだけなら危険は無い可能性もある。中に入ると、普通の、実際の物に入った事は無いのでイメージだが特に変な点は見られなかった。このまま何事も無いといいが。




