第五話 練習過程4
練習7日目。今日は小走りで行ければ重畳。これでキリよく1週間。今日で目標までいければ嬉しい事この上ないのだが……急ぐ理由は無いので気軽に行こう。3次職に上がるという件も残っているが、今すぐである必要も無い。これが終わったら取り掛かれば良いしね。結局未だに就職条件は調べていないが、やっておけば良かったと後悔するのは後にしよう。さて早速行こう。昨日引いた線はまだ残っていたが、薄くなっていたので引き直す。分かりやすくゴールがあるとモチベーションも上がるからね。
「【空走場】っと……この1週間で、使った回数【貫牙剣】を超えたかもなあ。まあそれは良いとして、よっと」
準備体操とばかりに普通に歩く速度で20mを渡ってみた。1回失敗したが、それで感覚は取り戻したのでその後数回繰り返しても失敗する事は無かった。肩慣らしはこれで十分か。
「よし、じゃあ本番行ってみようか」
小走りで20m渡れればとりあえずこのエクストラスキルに慣れたと言っても良いだろう……1発で成功出来たら良いのだが、まあ……やるだけやってみよう。
「やっ、とっ……あっ、ぶへっ」
はい、失敗。足場は作れたんだよ。けど歩幅を間違えたせいで踏み外した挙句、足に引っかかり派手にすっ転んだ。いやあこんなところを誰かに見られなくて良かった……誰も見てないよね?前後左右……窓も良し、隣は塀がある……良し良し。気を取り直して、続けよう。そもそも歩いている時ならまだしも小走りとはいえ走っている時の歩幅なんて把握してないよなあ。歩幅を測るべきか?いや測っても上手く作れなきゃ意味が無いからなあ、感覚で覚えた方が早いか。3日程右往左往していた俺はこの程度ではへこたれない。急に何を言っているのかと思うが、今までで1番変な転び方をしたせいで割と精神的にダメージを受けていたり。詳しくは語らないが足場に引っかかった後漫画みたいな事になったからなあ……良し切り替えよう、練習だ練習!
「あ、終わった……とりあえず普通に走ってみるか、歩幅を覚えよう」
【空走場】の効果が切れたのでその間は何回か線の上を往復し、自分の走る速度や歩幅を確認。それからまたスキルを発動し、走っていく。まあ渡り切れるはずもなく足を踏み外したり足場を作るのが間に合わなかったりと中々成功しない。そうしているとスキルの効果時間が終わるので、休憩。特に工夫を凝らした練習法も思いつかないので、結局はその繰り返しとなっていった。
「ふっ、とっ、最っ、後ォ!……良し!」
数時間後、初めて20m渡り切る事に成功した。ちなみにぶっ通しで数時間かかったわけではなく、途中で1回ログアウトして長めを休憩をとっていたりする。流石に失敗が続いてモチベーションが下がっていたから、あのまま続けると泥沼になりそうだったからね。兎にも角にも、これで目標は達成、一応その後も何回かやったが、それなりに渡れる様になったのでとりあえずは成功という事で良いだろう。いやあ長かったけど、1週間で何とかなったのは良かった。これで1つ懸念事項が完了した。さて次は3次職だ。条件調べないとなあ……あまり面倒じゃないと嬉しいが。
「へえじゃあ一応ものにはしたのかい?」
「おう、まあ手足の様にとはいかないけど……後は戦闘で試さないと何とも言えないけどな」
「とりあえず使えるぐらいにまでなったんだから良いでしょ。あー良いなあ、エクストラスキル。そこら辺に転がってないかな」
「仮に落ちてたとしても地雷っぽいけどな、そんな感じだと」
「そうだけどねぇ……」
学校の昼休み、翔斗と一緒に弁当を食べながら【空走場】の進捗について話していた。この高校は昼は屋上を開放しているから新鮮だなあ。小、中と屋上には行けなかったから行けるだけでもなんとなく面白い。まあどうせ1ヶ月もすれば飽きるだろうが、開放している割に利用している人が少ないのでこれからも昼はここに来るだろう。さて、ゲームの話だが、翔斗はもうすぐレベルが90になるそうで、条件を満たすのに精を出しているらしい。コトネさんのサポートやらイベントやらがあったものの、2ヶ月でやっとレベルが2上がる程度か……翔斗は完全に攻撃を捨てた純タンクではないが、割とそれに近い部類で攻撃要素は少ない。それでも高いレベルや盾を上手く使って大概のモンスターは倒せる様になったらしいが、まだ3次職になってもいない俺と比べても効率は劣る。もちろんエクストラスキルは無しでの話だが。そういうわけで、レベルが上がるのが遅いのだろうが結構時間がかかるものの様だ。4次職になっているアポロさんやカリファはどんだけモンスターを倒したのだろうか……軽くスローターでもしないとあそこまで上がらないだろうなあ。
「そういえばスローターって大丈夫なのか?プレイヤー間とかシステムとか」
「ああ大丈夫大丈夫。そもそもフィールド自体がでかいから周っている間にリポップするよ。基本的に町へ行くルート周辺しか行かないから分からないけど、フィールドって結構な広さなんだよね。一応スローターみたいな真似をするときは奥の方へ行くのがマナーになっているから気をつけてね」
「ああ分かった。まあするとしても3次職になってからだろうけど」
「そういやコウもそんな時期だったね。坂下さんはまだもう少しレベル上げだね」
「あれ、坂下さんって攻撃役どうしてるんだ?翔斗は付き合ってないんだろ?」
「坂下さんの方はアポロさんに手伝ってもらってるよ、予定が上手く合えば、見たいだけど」
「そりゃ安心安全だな、レベル差凄いけど大丈夫かな?」
「そこら辺はアポロさんも考えてくれているみたいで、火山の方に行っているみたいだよ。あそこなら環境効果もあるし、エクストラスキルも使わない様にしてくれているみたいだから、ちゃんと坂下さんの役割もある様にしてくれているみたいだし。万が一があってもあの人なら大丈夫でしょ」
「それはそうだな、あの人強いからなあ……坂下さんもそれならあんまり寄生にならずに済むかな?」
まあ結局レベル差が凄いので、普通にレベル上げするよりは楽だろう。俺としては寄生そのものが悪だとは思っていないが、苦労というか、慣れずにレベルが上がっていくのはゲームを続けていくと大変になるからなあ。俺もあんまりゆっくりしているとコトネさんに追い抜かれそうだ。別に抜かれたからといって何かがあるわけでもないし、VRゲーム初心者と比べるのがそもそも違うからな……そう考えると抜かされても別に良いか。進め方の違いだし。
「条件の進捗はどうなんだ?」
「結構進んでるよ。厄介なのはもう終わっているから、後は量をこなすのだけだね……まあそれが1番キツイけど」
「達成しづらいのもイラつくけど、量の多い単純作業もアレだからなあ、4次職ともなると相当だろ?」
「うん、しかも盾士系は扱うのが盾だから割と特徴的だったりするんだよね。けどそれが面白いのだけれど」
「出たなタンク趣味。何にせよ俺もさっさと達成しないとな。レベルが割とギリギリだから早めにやらないと経験値が無駄になりそうだし」
「そっちも頑張ってね……あれ、もう時間だよ、教室に戻ろうか」
もう予鈴が鳴りそうなので教室に戻る。午後の授業は何だっけな?さっさと終わらせてゲームがしたいが、そうにも行かない。あー、帰りたい。3次職の条件は調べたところそこまで面倒では無かったが、時間がかかりそうな感じだった。はてさて何日かかるかな。




