第六話 姉妹?いえ兄妹です。
「ふぁ…………」
清々しい朝だ。改めて昨日は良かったなあ。待ちに待った話題のゲームをプレイ、しかもエクストラモンスターに遭遇、時間はかかったがその討伐に成功した。半年待ったおかげで元々モチベーションは高かったが昨日の1件でさらに上がった感じがする。とりあえずは朝飯かな。今日は白飯の日だっけかな〜。
……パンでした。舌が米の気分になっていたが、美味かったのでヨシ。トイレも済ませ、水分補給の準備も良し、受験が終わったからしばらくゲーム三昧だ〜、さてログイン。
そんなわけでツヴァイアットです。宿屋で1晩寝たことによりHPは全回復、無くなった左腕も無事元に戻っている……元に戻るのはありがたいけど1晩寝てるうちに治ると、なんかリアリティのあるこのゲームとズレてる気がするな。まあ粗探ししても意味ないか。今日の予定は昼前に友人と落ち合う予定なのでその前に装備の更新をしたい。防具は初期装備だし武器折れてるし。腕は治ったが千切られた左腕部分の服はないんだよな……見た目が見た目だから早く変えたいわ。ここツヴァイアットには始めたばかりの生産者が集まるフリーマケットのような場所があるみたいでそこに向かう。
「……思ってたより賑わってるな」
件の場所は祭りでも行っているのかと見紛うような賑わいを見せていた。生産者達は生産スペースを借り、そこで作った装備、アイテムなどをここで売って次の町以降で自分の生産スペースを手に入れる為の資金を稼ぐらしい。ツヴァイアットまでは多少のレベルがあればクリアできるみたいだが、ここから先は生産職ではそうもいかない仕様のようで、じゃあ生産者達はどうやって次の町へ行くかというとパーティを組んで進む、もしくは運営が用意したスペース、つまりここで一定以上の金額を売り上げると次の町への馬車に乗れるというシステムらしい。
ものによってはNPC相手にも売れることがあるので、ボーダーを満たすまでに運営が想定したレベルなどになっているということだろう。前者は攻撃役が少なくなるデメリットがあるがここはまだ2番目の町、ボスの特徴を把握しておけばきっちりパーティを組まずとも倒せる様なのでそういう手段を取るプレイヤーは少なくないらしい。後者も売り上げのボーダーがそこまで高くないので、早く街に行きたい者は前者、のんびりお金を貯めたりレベルを上げたい、というものは後者と上手い事分けられているみたいだ。
「防具はとりあえず変えられれば良いし、武器は……刀あるかな〜」
刀というものは他のゲームだと一定のレベルに上がってから、というのがたまにあるのでまだ初期の段階でこのゲームの生産者は作ることができるのかは分からない。まあこの折れた剣よりマシなのはいくらでもあるので刀は有れば、という気持ちで売られている物を見て行く。
「ん〜……そりゃ性能は似たようなのばっかりか……」
防具はいくつかめぼしいものは見つけたし、刀も数は少ないが置いてあるところはあった。聞いたところによると武器などのレシピはあるが素材の追加などをすればある程度見た目の自由が効くとか。もちろん下手なことをすると性能が下がるがこの場所で売り出す物なら大した違いはないらしい。なんでも高レベルになるとレシピ無しでゼロから、つまりオリジナルを作れると聞いた。確かに似たようなものばかりだと面白くないからなあ。こうして見ていると見た目は多種多様でシンプルなものから明らかにネタみたいなものまである。性能は大して変わらないのに買うやついるのかな?あとなんで見渡しただけで性能がわかるかというとこの場所のおかげだ。一々聞いたり手に取って見たりが面倒だからだろうな……結構みて回ったが案の定そこまで性能の違いは無い。友人との待ち合わせの時間も近づいてきているので適当にデザインが気に入った物を買おう。そうしてめぼしい物があった方へ行こうとすると少し大きめの露店が2つ並んでいるのだが、その隙間から何やら話し声が聞こえる。
「ねえ、やっぱり場所変えようよ。お客さん全然来ないじゃない!」
「そうは言うけど今場所変えたら端も端になっちゃうよ」
背格好からして小学生か、おそらく生産職であろうピンク髪をツインテールにした少女と鍛治士と思わしき格好をした黄緑色の短髪の……女の子?リアルがベースなら姉妹だろうか?
「でも挟まれてて死角になってるから通る人まったく気付いてくれないじゃない……あっ」
やべ、気付かれた。
「ちょっとそこの人!お願いだから見るだけ見てってくれない!?」
まあ、気付かれた以上ここで無視するのもアレなので2人組の方へと行く。
「お兄さん、それ初期装備でしょ?あとジョブは剣士?私たち鍛治士と裁縫士だから武器も防具もあるよ!まあまだ志望だけど……あれ何で左袖ないの?」
聞いてくれるな。そう言ってピンク髪の少女は装備品を並べて行く。さっき見たものよりも良いものがあるかもしれないので一応見て行く…………あれ?
「意外と性能いいな?」
見てきた物より多少だが補正が高いように感じる。あとデザインが割と好みだだわ。
「意外とって失礼ね。けどこれらは私たちの自信作だからね!」
「何でこんな状況なんだ?普通に売れば客は来るだろうに」
「あ、それはこのスペースって申請所で露店を開く手続きをするんですけど、人が多そうで空いてる場所がここだったんです。そしたら実際に来てみると……」
「両隣の店が大きめな上に狭いせいで死角になったってことか」
「狭くても隣みたいに屋台っぽくできればまだよかったんだけど……私たち始めてまだ2日目だからね。そこまでお金がないのよ」
「それで閑古鳥が鳴いてるってわけか……性能も買おうとしてたやつより良いから買わせてもらうよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
ウインドウを操作し、選んだ装備を購入する。刀もあり、しかも良い物があったので偶然だが見て回った甲斐があったと言うものだ。
「いやあ、ありがとうございます!3時間ぐらい前からいたんですけど初めて売れました!」
「俺が最初の客かい。仮に端でも場所移ったほうがいいと思うぞ?」
「そうするわ。さすがにこのままじゃいつまで経っても次の町に行けないからね」
「あ、よければフレンド登録してもらえませんか?」
「ああいいぞ。上見ればわかるがコウだ。よろしく」
「クルトです。縁があればまたお願いします」
「アゲハです。買ってくれてありがとう」
「ああ、機会があれば……そういえば二人は姉妹なのか?」
「……あっ」
アゲハが気まずそうにクルトを見る。あれ、これはまさか……
「……僕、男です」
まさかの美少年。これはまずいぞ。
「……すまん」
「いえ……リアルでも初対面だとよく間違えられるので」
「え、それリアルベースなのか?」
「もちろん髪と目の色は違いますけどね。別にこの見た目が嫌いなわけではないんですけどね……あと僕はアゲハの兄で一つ上です」
「そうか……いや本当にすまん」
「まあ割と慣れてるので気にしないでください」
「筋トレとかもしてるのにあんまり筋肉つかないし、背も私追いつきそうだからねぇ」
「……うぐっ」
まさかの妹からの追い討ち……がんばれクルトくん。
「それじゃあ俺はこれで……よく売れるといいな」
「あ、はい、では」
「ありがとね〜」
いやあ色々びっくりしたわ。本当に髪と目しか変えてないならリアルにあんな美少年がいるわけか。装備も買えたし、そろそろ時間なので友人との待ち合わせ場所に向かおう。




