第二話 練習過程
【空走場】練習2日目。いかんせん平日なので1日の時間が取れないので進捗は悪い。合計時間が同じでも連続でやるのと間隔が空いているのとでは習熟度が違う気がする。なにせ練習を始めてから1時間経ったが、今日は1歩しか進めていない。一晩経つとせっかく掴んだ感覚が薄れるんだよなあ。完璧な睡眠学習とか出来ないものか。これ本当に何日かかるんだろうな……昨日1ヶ月かけたくないとは思ったが、本当に1ヶ月かかるかもしれない。SPの事もあるからそう長く練習できないのも問題だな。SPポーションとかあれば良いんだけどなあ、無いみたいだし消費がMPだったらやりようもあるのだが。クールタイムが100秒で良かった。あまり長いと集中途切れそうだし。結局今日は1歩しか進めずに終わった。だが1歩は確実に足場を作れるようになった……まあ歩く延長線でのことで2段ジャンプは無理だが。
練習3日目。相も変わらず2歩目で難航しております。初日は3歩目まで行けたんだけどなあ……あれぇ?なんかずっとやってると訳が分からなくなってくるが、ここで中断すると意欲がとても減少する気がする。1歩進んで落ち、また1歩進んでは落ちを繰り返すが、2歩目を踏み出せる確率はとても少ない。袋小路に入ってる気がするが、どうしようもないんだよなあ。誰かに意見を聞こうにも、ショウは普通のスキルに詳しいだろうがエクストラスキルは無理だろう。そもそも未知のスキルの使い方に光明が差せたならそれはそれで怖いが。1番ヒントをくれそうなモモは今日はどこかへ出掛けており、場所も分からないため意見を聞けない。行動を縛るつもりは毛頭無いが、せめて連絡だけでも取れたらなあ……プレイヤーでフレンドなら連絡は取れなくないが、NPCだからなあ。明日居たら聞くか。1歩目は何かそこまで意識をしなくても、というか意識はちゃんとしているのだが、楽に足場を作れるようになった気がする。気のせいかな?
練習4日目。モモがいたので意見を聞いてみようと思う。具体的なコツは分からないだろうが、なんかヒントみたいなことだけでも見つかればありがたい。
「大した事を言えるか分からないよ?魔法ならまだしもスキルとなるとねぇ……」
「いや、それでもいいから頼む。そも足の周りの空気がどうなっているのか分からないからそういう状態を見る魔法とか無い?」
「えぇ、そんな魔法は……ああ、あるね。応用でなんとかなるねぇ」
「え、マジで?」
「ああ。ほら早速やるかい?」
「そうだな、【空走場】……よっと」
「……両足で立たないのかい?」
「2歩目安定しないんだよ」
「まあ良いか……『エアロケート』」
「どんな魔法?」
「空気を媒介にした探知魔法だよ。やろうと思えば簡単な空気操作もできるからそれがどうなってるかもなんとなく分かるのさ……へぇ、思ったより面白い事になってるね」
そうして魔法によりモモが調べた結果、【空走場】により作成された足場はとても歪な形で空気が固められていると分かった。更にはものすごい密度で固められているという事も分かった。探知系の魔法でそんなに分かるとは応用の幅が広いのかモモがすごいのか。とにかく思っていたより色々分かったので試しようがある。まず歪な形で固められているという点に置いては、俺のイメージ次第ということが判明した。とりあえず2歩目は考えずに1歩目の足場の形をちゃんとイメージしてみると今までより少ない労力で足場が出来た。モモによると形も先程より綺麗になっているとか。いやあ、盲点だった。歩く事に注意していて、足場自体にはこだわっていなかった。確かに足場をすることが可能と書いてあったが、基点は足ではなく認識した地点の方だったようだ。試しに足を退けて足場がある地点に手をやってみると触ることができた。意識するのを止めるともちろん無くなった。なんか本当に歩くという点にこだわりすぎていた感じがする。足場以外も可能だとは思っていなかった。これ、色々悪用出来そうな……だから運営はこの難易度にしたのだろうか?まあそんな簡単には応用はできないだろう、とりあえずちゃんと歩けるように、できれば走れるようにしなければ。
「これ、見やすくとか出来ない?」
「うーん……『スモーク』」
「ん?ああ、そういうことか……作ったぞ」
モモが魔法で量は少ないが煙を出した。【空走場】が空気を固めて足場を作るなら煙を出して固められるなら足場も分かりやすくなるだろう。そう思ったが、その試みはうまくいかなかった。足場を作ったあと、モモ魔法で邪魔な煙を吹き飛ばしたところ、足場は全く見えないままだった。
「……駄目か」
「操作している空気自体は余計な干渉を受けないみたいだねぇ。ここまで混ざらないとはある意味凄いけど……本来の使い方をする上では不便のままだねぇ」
いやー、そんなに上手くはいかないか。これはできれば嬉しいというレベルなのでまあ良い。あともう少し足場の作成の難易度が下がると嬉しいのだが、何か工夫のしようがないだろうか。
「うん?……ちょっとマスター、もう1回作ってくれる?」
「ああ、良いけど……ほら」
「うーん……ちょっと魔力がのってるねぇ」
「え、そうなの?……MP減ってないけど」
「ほんの、ちょびっとだけだよ。分かりやすく、数値で減るレベルじゃないほどにね」
「へぇ」
「魔力をもっと流したらどうなるんだろうねぇ、ちょっと魔力流してみてくれないかい?」
「……魔力を流すってどうやるんだ?」
「え、なんかこう、ほら……」
「……」
「……」
「いや、分からん」
「あー、種族的な問題か。魔法職じゃない人間が魔力操作するには、ねぇ……一応大したことないレベルのものは汎用スキルだったはずだから……覚えようか!」
「ええ……そもそも魔力を流して効果があるか分からないだろ」
「おや、試さずに結論づけるのかい?やってみなくちゃ分からないと思うけどねぇ」
「うぐ……まあやるよ、スクロール、売ってるとこ探さないとな」
「無いよ?」
「え」
「魔力操作なんて個性が出るもんスクロールなんかにこめられないさ。ほら実践」
「いや、ちょっと、ア゛ーーーー!!!」
……死ぬかと思った。モモがいきなり、触れてきて、恐らく魔力だろうものを無理矢理体に流された。血液の流れを無理矢理変えられたみたいな感じがしてとにかく不快感がすごかった。ゲームなのにこの感覚は大丈夫なのか……HPがほんのちょっと減っているのは無視しておこう。
「ぐ、ぐぇ……」
「まあ、急にやったのは悪かったよ。いや、これが本当に早いんだよ?」
「悪意でやってたら叩っ斬ってるわ。で、どうすりゃ良いんだ?」
「流すから、それに抵抗してくれれば良いよ。自分で似たようなことができれば万々歳だねぇ」
「へぇ、じゃあよろしく」
「はいはい」
「うぇ。うーー…………で、きる気がしな、いんだけ、ど」
「そんなすぐにできる訳ないじゃないか。ほら頑張れ頑張れ」
「ええーー?」
そうして、不快感の中なんとか出来ないかと試していくが、中々できる気配は無い。何分か経つと感覚が麻痺してきたので、もう何が何やら。本当にゲームとして大丈夫なのかな?とりあえずできる気配がないのだがどうしようか、あーーーー……あれ?こうかな。
「そうそう流石は探索者、習得が早くて助かるねぇ。もう少し続けようか」
『汎用スキル【魔力操作Lv.1】を取得しました』
あ、アナウンス。モモの魔力流しも止み、解放された。
「あー、なんか体が変だ」
「数分すれば元に戻るよ。ほら、大丈夫だろうけど忘れないうちにやってみな」
「うん?んーー、こう、か?」
「そうそう。レベルが上がれば魔力由来の身体強化とかできるだろうけど……マスターのジョブだとそもそも上がらないかもねぇ、まあ持っててデメリットはないさ」
「そうか、まあ良いか」
少し疲れた。ちょっと休もう。これで何の成果も無かったら無駄感半端ない。




