第二十九話 守るは懐旧 五
「【抜刀】」
「ブルルッ!」
「ぐぇっ」
現在第2ラウンド。確かに風の防御は弱まった。当たりさえすれば、変なかすり傷にもならずダメージもちゃんと与えられるようになった。そう、当たりさえすれば……なぜ、足を1本失ったのに先程よりも速く動けているんだ!おかげで攻撃が当たらねぇ!【抜刀】を使ったおかげで当たりはしたが、体勢を変えられたせいで大したダメージを与えられなかった。更には速度は変わらずそのまま激突したので交通事故よろしく撥ねられた。なんか挙動の精度が3割り増しぐらいになっている気がする。風の防御が弱まったと言ったが、多分解除しているのだろう。今防御エフェクトに見えているものはおそらく加速系のエフェクトかもしれない。そうでもなければ足1本無くなったのにあの速度はありえないはず、追い風的なバフに全振りしているのだろう。第1段階は風の防御により攻撃が届きづらく、第2段階は風の加速により攻撃を当てづらい。もうどうすりゃ良いんじゃ。いや、ダメージは普通に入るんだ。ちょくちょく当てていけば何とかなるはず……!
「『グランドシールド』……チッ、あーもう全体的に素早い!」
「何とか止められないか?」
「丸ごと埋めるなら可能だろうけどそれ以上攻撃出来なくなるし、それで死ぬタマじゃないだろうねぇ……かといってただ壁を出すだけじゃ即座に方向転換されるから意味ないし」
「何であの速度であの切り返しができるんだろうなぁ……」
「加速は自分で起こしているのもあるだろうけど、肉体が無いのも大きいだろうねぇ、おかげで多少無茶な挙動もできるってもんさ」
「あーなるほど……こっち来た」
ショウのヘイト操作とモモの魔法による壁生成で交互に担当しているおかげで1人に大きくダメージが入ることもなく、回復する暇も取れるようになっている。まあこれは最初からなので、第2段階になってから切り替えたというわけでも無いのだが、アハルテケの動きが速くなったことにより交代の頻度が高くなっている。まあ、HPを全回復する必要は無いし、MPも同じだ。ポーションを1回飲んだり回復魔法をかけてもらったりするぐらいの時間はある。しかし、こうやって長期戦になると問題はSPである。時間経過によって少しずつは回復するが、コトネさんとモモはほぼ使用しないので考える必要は無く、ショウもレベルが高いのもあり、まだ余裕がある。問題は俺で現在【貫牙剣】1回分のSPしか残っていない。もう少し時間が経てば他のスキルを1回使うぐらいはできるだろうが、わざわざそこまでして時間をかけるのもどうなのか。ならいっそのこと【貫牙剣】を使って勝負に出た方が良いのだろうが、隙がないというか、確実に動きを当てられるタイミングが無いんだよなあ。
「え、こっちかい!?」
「あら、そっちに。モモ頼んだ〜」
ヘイトがどう働いたのかは知らないが、何故かモモの方へと向かっていくアハルテケ。とりあえずチャンスなのでショウとコトネさんの方へと走る。
「おい、ショウどうする?というか何か策無い?」
「コウさん回復魔法要りますか?」
「いや大丈夫」
「いや急にそんなこと言われても……まあ隙を作りたいんだったらアタッカー、つまりコウ以外が全力で何かすれば多少隙ぐらいどうにかなるんじゃない?」
「大雑把だけど、それが速いよなあ……下手に格好つけて失敗するよりマシか。んじゃ、タイミングはモモの魔法で、詳しいのはモモと話してくれ……良いのか?」
「まあそんなだろうね……倒せなきゃ意味ないからしょうがないよ。大人しく次を……次あるかなぁ……」
「そりゃ知らん。そろそろモモのフォロー行ってくるわ」
「薄情だなぁ、いってらっしゃい」
「お気をつけて」
まだモモを追いかけているアハルテケの方へと走る。モモは逃げているだけで、アハルテケも今は空中ではなく地面の上で普通に走っているので好都合だ。投げナイフを出し渾身の力で投げる。
「オラァ!」
「ブルルゥ!?」
纏っている風の関係で突き刺さりはしないが、多少のダメージはあり、距離を取った上でこちらに注意を向けるという点では大変便利である。目論見通り一気にヘイトがこちらへと向いた。即座にモモにジェスチャーでショウの方へ行けと伝え、向かってくるアハルテケに集中する。スキルは残SP的に使えないので自前の技量で凌がなくてはならない。いや、きっつい。刀の経験なんてゲームのみだし、ゲームごとに若干の仕様の違いがあるから大して経験値にならん。なので、全速力で俺以外にヘイトが向かないように逃げるしかないわけだが、いかんせん、そんな都合の良いことにはならないので結局自前【朧流し】をしなくてはならなくなっている。ショウ達はまだ策の流れを詰めているみたいで終わる気配は無い。いつ終わるかな〜。空いている手でポーションを出し、飲む。スキルも何も使っていないので完全には受け切れてなく、カスダメが嵩み、HPが減っていく。対処をしている途中にポーションも飲まなきゃいけないから難易度が上がるんだよなあ……やっと来た!ショウとモモがヘイト操作のスキルや魔法を使いアハルテケの注意を引いた。アハルテケはそのまま引かれるようにショウ達の方へと駆けていく。
「くっ……『グランドシールド』×2ィ!」
モモが魔法によってアハルテケを挟むように大きな土壁を作り出した。結構な厚みがあるので、この状況でアハルテケが壊すのはとても時間がかかるはず。何より土壁の高さも相当なもので、もう少し先に壁を作った張本人と注意を引きつけた人物がいるので壁を越えていくという考えもないだろう。というかこのサイズの物体が出てくるとは俺も思わなかった。いやあすごいなモモ。流石に結構MP
を消耗したみたいで大分疲れたようだった。しかしこちら側の壁の端がわざわざ階段状になっいるのは登れということなのか?まあこれで決めにかかるはずなのでこんな形にしたということはそうなんだろう。アハルテケが結構ショウ達に近づいているから早くいかないと。そうして登って壁の上を進んで行くとショウと目が合った。俺の位置を確認しただけのようで登ったのは正解かな。ここからどうするんだ?
「そっ……ラァ!」
「ブルルァ!?」
ショウが思いっきり盾をぶん投げてアハルテケにぶつけた。アハルテケもまさかあれだけショウの身を守っていた盾を投げるとは思っていなかったのだろう、両側に壁があることもあり投げられた盾が直撃した。更にはモモが壁を操作してアハルテケ退路を塞いだ。身の回りの情報変化が大きすぎたのかアハルテケの動きが鈍った。あ、ここか!
「【貫牙剣】!」
走っていた壁を飛び降りアハルテケの直上へと落下する。アハルテケは上から迫る俺に気づいたのか逃げ道がある方向へと目を向けたがその眼に捕らえたのは飛んでくる、さっきとは別の盾だった。2枚目かよ、そりゃスペアとか持ってるか。まあ……これで終わりだ。
「【抜刀】」
落下する勢いと【抜刀】による加速、エクストラスキルの効果も合わせてアハルテケの首を断ち切る。着地をちょっと失敗して少しダメージを受けたのは秘密だ……まあ多分気付かれているだろうけど。
「いやあ締まらないね」
「うるせえ、距離感間違えたんだよ」
「まあ目標との距離感は間違えてなかったから良いけど」
「……あれアナウンスは……って」
切られたアハルテケの首が光って胴体へと戻っていく。何故か切られた後ろ足も戻っており、動き出した。
「いやいやこれで倒せてない!?SPからっけつなんだが……」
「いや大丈夫だよ、もう死ぬさ」
「え?」
刀を構えようとしたがモモに静止された。モモの言ったことは本当のようで、アハルテケは俺達に目を向けることなく静かに方向を変え歩いていき、アハルテケが最初にいた場所で立ち止まった。多分そこが事故現場なのだろう。アハルテケはそこに座ると粒子となって消えていった。
『Exモンスター 【☆2 空操馬 アハルテケ】が討伐されました』
『MVPはplayer name:コウです』
(『コウにExスキル 【空走場】が贈呈されます』)




