第二十六話 守るは懐旧 二
「さて、どうしようか?」
「まあ、とりあえず様子を見てみないと始まらないよね」
お婆さんに教えてもらった馬の場所の所へと向かう。旦那さんは道として使っていたそうだが、正規のルートではなく、ショートカットみたいなものらしく、長年使っていなかったせいかなんとなく道になっているかもしれないというレベルだった。途中でやたら茂っている場所があったせいで方向が分かりづらく、大分迷ったが、何とか件の場所へと着いた。こうマップに目的地が表示されたりはしない上に分かりやすい地図があるわけでも無いので土地勘が無い俺達が迷うのはしょうがない、うん。着いたと言っても例の馬の近くでは無く通り道に使っていたという崖の上である。確かに道幅は狭いから巻き込まれたらなす術ないだろうなあ。全く関係のない俺達が近くへ行った場合即座に戦闘になる可能性があるので、これなら念のため少し遠くても安全に確認できる。
「どうだ、見えるか?」
「双眼鏡とか持ってくれば良かったね……遠くて見づらい。確かにここから落ちたら助からないね」
「本当に高いですね、ここ。お馬さんは……じっとしてますね……」
下を見てみると結構崖が高いため見える姿は小さいが、目標の様子は窺える。特に動く様子もなく、静かに座っている。何故か馬の周りの地面がやたらひび割れているが何なのだろうか。こうして見ると害は無さそうだが……都合良くモンスターが来た。さて、どうな……うわあ。目的の馬は即座に起き上がり遠目に見ても明らかな暴風を起こし空へと駆け上がった。ここまでは来なかったが、10mぐらいまで上がると体をひねり、近づいてきたモンスターに向かって前足を突き出し、ものすごい勢いで突撃していった。規模は小さいが地面が隕石が落ちてきたみたいになってるな。ひびの原因これかあ。話に聞いていたよりやばい。思っていたより自由に空中とか走るんだな……お婆さんの話が本当なら生前より能力が大幅にパワーアップしている。わざわざ突撃して攻撃するということは風は起こせるけど、それは直接攻撃に転用できない感じだろうか。最初の様に強めの風で動きを鈍らせるたりはするみたいだからそれも注意しないとな。
「どう思う?」
「うーん、僕はタンクだから重量もあるし吹き飛ばされはしないだろうけど、相手の賢さにもよるけど動きがブレそう。この距離だと【鑑定】の範囲外だからね……コウとかは体勢にもよるだろうけど普通に吹き飛ばされそうじゃない?」
「それはそうかもしれんなあ……モモ、あれ相殺とかできないか?周りの風だけでも」
「ん〜……多少の風なら相殺じゃなくとも軽減ぐらいはできるかな?動きの阻害自体は多分無理。あれ魔法じゃない上に風そのものを起こしてるわけじゃないねぇ」
「うん?」
「いや、風は起きてるよ。けどそれは結果的にであって、あの馬が動かしているのは空気だろうねぇ。空中を走れているのは空気を固めた、とかじゃないかねぇ」
「なるほど風じゃなくて空気操作か。真空とか作られると厄介だけど……」
「流石にそこまでは無理だろうねぇ。固めるならまだしも無くすとなると……あの馬がやっているのも走れるレベルにまで固めるのがせいぜいってところだろうねぇ。肉体が無いから重量もそんなに無いだろうし。まあそれであの威力を出せているから凄いけど。少し見ただけだけど、攻撃に転用できないのは多分当たりじゃないかねぇ?結局は厄介なことに変わりはないけど、つまりは真空や空気操作による直接攻撃は無いんじゃない?」
「へぇ……真空とかの知識はあるんだな、風属性の魔法にあったりするのか?」
「複合にならあるけど、そも多少の科が……ソウ、ソレデシッタンダ」
「……そ、そうか」
すっげぇ片言だったな……「かが」?何なのだろうか?まあいいや、それにしても空気操作か。固められるなら防御にも使えるだろうが、どの程度の強度なのか、完全に弾かれるレベルじゃないだろうがそれでも厄介だな。
「多分本気じゃ無いだろうけどあの威力なら僕なら何発かは耐えられるから、とりあえず僕が誘導して隙を作る感じかなその間にコウ達が攻撃して」
「そうだな、そういやこのパーティでショウがまともに戦闘に参加するの初めてじゃないか?」
「そういえばそうですね。レベルも高いので頼もしいですね」
「ははは、半年も長くやっているから役に立てないとやばいけどね」
「頼むぞ先達。結論としてはモモが風を弱めてショウが防御、俺と場合によってはモモが攻撃か……ショウもあの馬の本気によっては結構ダメージを受けるだろうからコトネさんの回復も重要か。タンクが倒れちゃ全部避けなきゃいけないからなあ」
「は、はい頑張ります!」
「まあそんな感じだね、欲を言えばもう少し情報が欲しいけど……コウ捨て身で行ってみない?」
「はあ?何言ってんだ……いや、装備しまえばいいか。ここだとどっちの町にリスポンするっけ?」
「フィーアルじゃない?じゃあいってらっしゃい。少しでも有益な情報を得てから死んでね」
「いやあ、探索者だと命の価値が安くて面白いねぇ」
「が、頑張って下さい?」
さて、武器もしまって装備もなんかてきとうな服にしてと。これなら死んで失うものはほとんど無いし、デスペナも1時間で消えるから問題無いな。後で戦うから情報がなくとも多少動きを掴むぐらいはしたい。崖の上だったから下まで降りるの面倒だなあ。運良く1回もモンスターに遭遇しなかったから時間はかからなかった。
「さて馬は……こっち見てるよ……」
まだ遠いせいか動いてはいないが明らかにこちらに視線を向けて警戒されている。空気操作の応用で気配が分かるとか?流石に気配だとすると遠すぎるしな。近づいたので細かい姿が見える。黒毛なのは分かっていたが割と光沢がある。死んだ影響なのか元々こうだったのかは知らないが綺麗な馬だな。体格も良いし、さぞかし良い馬だったのだろう。そういえばお婆さん達がまあまあ若い頃から一緒だった様だが死んだ時はあの馬も結構な年齢だったんじゃ無いだろうか?馬の寿命って何年だったかな……そこも普通じゃなかったのかこのゲームの馬は割と長生きなのか。まあ死ぬ予定だから考えるのは後にしてさっさとちょっかいかけるかな……わざわざ死にに行くのは気分が悪いが初見で失敗するよりはマシか。素早く行こう素早……え?
『ENCOUNT!ENCOUNT!Exエクストラモンスター 【☆2 空操馬 アハルテケ】!』
「ま、マジですかー……」
「ブルルルルルル…………」
「お、お手柔らかに〜?」
や、やばーい。アウラが星1だろ?星2ってことはアウラより強いってことか?いや、星の数って単純な強さだったか?いや、そんなこと考えているとすぐ死ぬわ。多少動きを見ておかないとっ、死、ぬっ!
「やべっ!」
空に上がらずにいきなり突撃してきた!実際に体験してみると動きが速い。更に言えば接近するにしても動きが多彩でそこらのモンスターより大分強い。アウラは若かったのかな、これを体験すると本当にあれは運が良かったのか……うお、掠っただけでHPが3分の1持ってかれた。うーん、これちゃんと対策立てないとすぐ死ぬわ。ある意味本物のエクストラモンスターを知った感じがする。
「ぐぎゅ」
あの馬……アハルテケの攻撃を避けきれず、もろに顔面を踏み潰された。頭を踏み潰されたのは初めてだよ……何回も経験したくは無いが。風も思ったより強かったし、モモのサポートも話し合わないと立ち行かなくだろうなあ。さーて、作戦会議頑張ろう。あれ、集合どうするっけ。




