第二十一話 怨恨は消え失せる
「このままその精霊を渡せば見逃してやるぞ。それに溜め込んだ財もやろう、どうだ?」
ここに来て懐柔作か?殺してやるとか言っていたくせに言うことがころころ変わるじゃないか。そもそもこちらを騙して利用しようとしていた時点で信用無いから、見逃すも財をくれるも乗る訳がないんだよなあ。悪意を持って人を害している時点で討伐する選択肢しか無い上に、生かしておく理由も無いからね。
「寝言は寝てから言うもんだねぇ。計画を立てるのに数十年だかかけてたらしいけど、実状は雑だし程度が知れるね」
「……っ!!!悪魔風情が……!この手で引き裂いてくれるわ!」
煽るねぇ、そして効果は抜群だ。バレていたのが余程腹が立っていたのか気が短すぎる。モモに飛びかかっていくが、魔法系なせいか、その動きは分かりやすく、自分にバフをかけたモモに易々と避けられていた。
「カァアッ!」
おそらく闇属性であろう、黒色の光弾を飛ばしてきた。着弾のエフェクトがとても不気味な感じになっているので、直撃すると面倒なデバフとかかかりそうだ。密度は大したことないが、絶妙に進路を妨害する様に撃ってくるので面倒臭い。コトネさんも魔法を使う余裕は無いようだが、何とか避けられているので安心だ。手の内が分からないのでエクストラスキルはまだ温存しておかないとなあ。
「『ウインドイクアル』」
「チッ……ハァ!」
モモが黒狐に向かって風で出来た複数の刃を飛ばすが、黒狐の方も邪悪な波動を飛ばし相殺した。こちらにも忘れずにちょくちょく光弾を飛ばしてくるので厄介だ。中々っ、近づけん!
「ああ、忌々しい……!……っ、カァァァァァ!」
「ウワッ!」
黒狐が全方位に放った波動はダメージこそ無かったが、浴びた途端、体が動かなくなってしまった。スタン攻撃……!やっべ、動かねぇ。あれ、コトネさんも固まってるわ。モモは若干動けているけど、とてもぎこちないものとなっている。今攻撃来たら不味い、あれどこへ行く……精霊狙いか!けどショウ達に連れられているから、それなりに距離が……意外と離れていないわ。切り株の残党に邪魔されて中々進めていなかった。あれちゃんと動かしているんじゃなくて自動行動みたいなもんだったのか。ショウ達の方はシズエさんはクルトとアゲハが抱えて、ショウが切り株を盾で薙ぎ払って進もうとしていたが、衝撃はあってもダメージ量は少ないので切り株を吹き飛ばしても何回かは起き上がってまたやってきていた。
「ショウ!」
「分かってる!」
「壁役如きが、どけ!」
「舐めないでほしいなぁ!【ウォールリフト】!」
「ガ、ァァ!?」
おお、見事なアッパー。かち上げ技か、めっちゃいいタイミングで入ったな、脳が揺れたのか黒狐、フラフラしてるわ。いや、まだ体動かないんだけどこれ後何秒効果あるの?
「『ピュリフィケーション』……コウさん、大丈夫ですか?」
「ああ、ありがとう、助かったよ」
「いえ、どんな種類のデバフだったのか分からなかったので魔法かけ間違えたりしてしまって……時間がかかってしまいました」
「まあ、それはしょうがないですよ、とりあえずあっちを助けないと」
「はい!」
モモも動けるようになったみたいでショウ達の方へと向かう。黒狐も調子が戻ったようで、ショウに光弾を飛ばし始めたが、流石にそれなりにレベルが高いショウに難なく防がれている。切り株はクルトが手持ちのハンマーで叩いているが、STRが高いだけなのでシズエさんに触れさせないぐらいを保つのが精一杯みたいだ。
「『グレイシアマジェスタ』!」
「ギャッ!?」
加減無しにやったのか、モモの魔法によって切り株全てが凍りついた。余波で黒狐の尻が多少凍ったが、微々たるものだろう。しかし、便利だよなあの魔法。効果範囲が広い割に威力も高いし、凍らせられるし。よく使うのもよく分かる。今なら隙があるから攻撃できる。
「【抜刀】」
「ギャァ!」
スキルの加速も乗せて斬りつけたが、すぐに光弾が飛んできて、離脱せざるを得なかった。流石にそう簡単には倒せないか、イベントの多分ボスだしな。凍りついたおかげで、クルトでも粉砕出来るようになったおかげでショウ達が離脱する速度も上がっていった。これで心置きなく戦えるか?
「ああ、くそ、逃げおって!何でこう邪魔が入るのか!」
「いや、お前が頼った奴しかいないけどな」
「……それは言わない方が良いんじゃないでしょうか……?」
「そろそろ良いんじゃないかい?」
「そうだな、【貫牙剣】」
エクストラスキルを発動。長引かせたところで何が起きるのか分からないので、早目に決着をつけたいが……しぶとそうだからなあ。何より、シズエさんを助けてからピクリとも動いていないでかい切り株が気になる、捕らえるためだけのもので動かないに越したことはないが、ちょっと不安になる。また光弾が飛んでくるが、エクストラスキルのおかげで、刀で迎撃ができるようになったので、近づきやすくなった。しかし、動きは分かりやすくても、それなりに素早いので大した量のダメージを与えられていない。闇属性の攻撃をメインに使うため、たまに先程の様な状態異常の攻撃もしてくるため、解除はコトネさんやモモに頼ることになり、時間がかかる。全方位な上に、俺が近づいた時に使うから、面倒なことこの上ない。決まった行動パターンを組み合わせるようなものではなく、ちゃんと考えて行動するから、こっちも考えないと普通にやられる。こういう所がリアルさの難点なんだよなあ。コトネさん達は回数制限付きだが無効化出来る魔法があり、多少なら動けるようになっている。コトネさんはまだ1回無効だが、1回でも気にせず動けるなら大分マシだろう。自身様なのが残念だなあ。そのせいで少しずつダメージを与えてはいるが、なんとなく足手纏い感が否めない。
「あっ、切れた!」
「あー、ついにかあ。すばしっこいから面倒だねぇ」
「ハッ、どうせなら諦めたらどうだ!」
「うるせえ!」
「ギャッ!!!」
「あ、当たった。よっしゃ」
「す、すごいですね」
イラついたので、てきとうに持っておいた投げナイフを取り出し黒狐に向かって投げたところ運良く左目に突き刺さった。擦ればいいかなと思っていたので、目に刺さるとは結構なナイスショット。このナイフ、クルト製なので、試作品なので大した効果はないが、鋭く丈夫なのでよく切れる。流石クルト、その調子で頑張ってほしい。
「おのれ、人間如きがァ……我に傷をつけるとはァ……」
言動のせいで厄介さの割に、いまいち小物感が消えない。だが、今ので結構気力を削げたようで、体力はまだあるだろうが、弱ってきている。光弾による攻撃が来るが、数も少なくなっていた。まさかヤケクソのナイフがここまで効果があるとは。偶然かな……まあ、弱っていることに変わりはないので良し。エクストラスキルの効果は切れたが、攻撃が通用しなくなったわけではないので畳み掛ける。
「くっ、くそっ」
「そらっ」
「ギッ」
隙を狙い、ナイフ投げているが、そう何度も当たるわけもなかったが、足にかすったことにより動きが止まった。すかさずモモの魔法によって拘束され、動けなくなった。
「【抜刀】」
「ッ!ギャァァァァァ!!!」
エクストラスキルの効果はないので、首は飛ばせなかったが、結構深い傷を負わせることができた。黒狐は断末魔を上げ、倒れ込んだ。一応つついて確実に死んでいるか確認……あ、エフェクトになって消えていった。あれ、素材もドロップするのか。これだけだと、何にもならないと思うが再戦要素とかあるのだろうか?
「やりましたね、コウさん」
「サポート助かったよ、ありがとう」
「ふぃ……それは何よりです!」
「モモも体力とか大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だよ。1番ダメージ受けてるのマスターだし」
確かにそうだな。頻繁に動き止められていたからなあ。アゲハ謹製の防具のお陰か。さて、御神木の方へ行かないと。
首を切ってしまったので恨み言シーンはカットになってたり。普通の恨み言なので聞く必要性は特にありません。




