第十五話 レイブン
「お帰りなさいませ」
イベントアイテムのレシピを手に入れ、屋敷に戻ってきたところ、玄関で俺達を出迎えたのは第3王女のお付きのメイドさんだった。どういうシチュエーション、というかなぜここに。
「お邪魔してるぞー」
まあこの人がいるなら王女様もいるわな。応接室でくつろぎながらお茶を飲んでいる。人ん家なのに自由だな……王族に言っても仕方ないか。それにしてもこんな気軽にであるで良いのだろうか。
ちなみに防犯対策を用意しているのになぜこの2人が入れているかというと、すでに設定でこの2人は許可済みだからである。どうせ突撃してくるなら好きに入らせといて待たせた方がいいだろうという結論になったからである。実際入ってきているし。それに、まさか王族が人の家でよからぬことはしないだろうという点もある。一応、この屋敷の持ち主である俺とコトネさんは王女様の命の恩人なので恩を仇で返すような事はしないだろう……王族の強権を振りかざしてくるとどうしようもないが、まあそもそもする意味がないだろう。防犯上の関係でする事ないだろうし。強いて言えば部屋に押し込んだレア素材やクルト達の試作品だが基本的にないだろうし、それなら普通に金を出した方が早い。
「それで今日はどうしたんだ?」
「いや何、お主達フィーアルの森の村に行ったのだろう?感想を聞こうと思ってな」
感想?別に時間が有れば行けば良いと思うのだが……そんなに忙しいのだろうか、けど家に来ているしな……なんでだ?
「去年は行けたのじゃが、今年はほら、何やら騒ぎがあるじゃろ?念の為なのか外出許可が降りんのじゃ……」
「それはそうだろ。万が一があるかもしれないんだし」
その通りと言うように、メイドさんが深く頷いている。駄々をこねたりしていないことを願うが、まあ子どもだからしょうがないか。それで感想か。といっても桜の咲き具合が悪い上に例の切り株が出るしな……精霊の事は言わないでおこう、不確定要素が多すぎるからね。減ることでもないのでメイドさんが入れてくれたお茶を飲みながら4人で村の話をする。4人というのは探しものでモモは残り、ショウはまた先の町へ行った。お茶は紅茶ではなく、村でてきとうに買った緑茶モドキだ。味は落ちるが雰囲気作りとしては良いだろうし、毒見も済ませてあるので問題無い。コトネさんが村で買ったお菓子もあったのでそれも出すと非常に喜んでいた。割と細かく質問もしてきたが、答えられる範囲のことなのでこちらも細かく話していく。よく脱走するそうだが、それは流石に王都の範囲の話で他の町や村にはほとんど行けないと言う。まあ王族がぽんぽん外出は出来ないのでしょうがないのだが、たまの外出は楽しみだったのだろう。そんなことを考えているといつの間にやら話は特産品の生地の話になっていた。おっとアゲハの試作品を王女様用に改造するって?王族のお召し物をそんなてきとうに作って大丈夫なの?ああ、どんどん話がヒートアップしていく。裁断図まで取り出しちゃったよ。
「良いんですか、あれ」
「本当はあまり褒められたことではありませんが……あれで不満が抑えられるのなら致し方ないでしょう。もちろんおかしなことがないように調べさせていただきますが」
「それは別に良いですけど……まあ良いか」
メイドさんのある意味許可も降りたので更に話は白熱し、場所はついにアゲハの作業室へと移っていった。もちろんメイドさんも付いていき、残ったのは俺とクルトだ。
「行っちゃいましたね……」
「ま、まあ楽しそうで良いんじゃないか?」
「そうですね……これからどうします?」
「そうだな……」
やる事は色々とあるが、まずどれから手を付けようか……素材に関してはボス戦もする予定なので、着物談義に花を咲かしている人達がいるので後回し。イベントはモモの探しもの次第だがそもそもそれはイベントの主軸ではないので最悪見つからないまま終わる可能性もある。ということは、錬金術士探しかあ。クルトがいれば良いだろうし、そもそも人数必要無いからな。
「錬金術士を探しにPCAに行こうか」
「そうですね、今作れなくても誰か確保できれば安心ですしね」
というわけでPCAの鍛治部門へ。伝手が無いので縁のあるサツキさんを頼りにすることになっているがそもそもいるのか?微妙に遠いんだよなあ。町がちゃんと町の規模になっているからフィールドがそもそもでかい。プレイヤーは簡単な地図を見れるからいいが、無かったら迷子になりそうだ。
「すみませーん」
「はーい……あら、クルトく〜ん。久しぶり〜」
居たわ。ちょうど今日の受け付け担当だったらしく、カウンターでトランプタワーを作っていた。
「暇なんですか?」
「暇よ。みんなイベントの方に行っているから利用する人少ないのよねぇ」
なるほどなあ。イベントが終わったらまた元に戻るそうなので暇なシフトのこの時を楽しんでいるんだとか。斜め上な楽しみ方だなあ。
「それで、今日はどうしたの?なんか質問?」
「えっと錬金術士を誰か紹介してくれないかと思いまして……」
「ああ、イベントのやつね。あれ、確かショウ君の知り合いじゃなかったっけ?彼の知り合いは?」
「なんか就職活動中だそうで、伝手が無くなったんですよ」
「就職……ああ彼か。それは何ともタイミングが悪かったね」
あいつは顔は広いが、満遍なくではないのでこの様に錬金術士の知り合いが1人しかいなかったりする。とりあえず全ジョブ系統の知り合いがいるそうだが、それは普通に凄いはずだが、いかんせんタイミングがなあ……さて見つかるだろうか。
「そういう事ならちょうど最適な人が、とびっきりの人がいるよ〜。ちょっと待っててね」
「とびっきりの人?」
「さあ……?」
さて誰だろうか。最適はまだ分かるが、とびきりとは何だろうか……そうして1分ほど待つとサツキさんと共に出てきたのはなんか、黒い人だった。いや、本当に黒いのよ。黒髪に褐色肌、黒い作業着と、まあ黒い。誰?プレイヤーネームはレイブンという表示があるが……烏か、名前まで黒い……!
「あー、とりあえず初めましてか。レイブンだ。PCAのリーダーをしている。よろしく」
PCAのリーダーって言ったよこの人。部門とかじゃなく普通にリーダーってこの人が偉い人。そりゃあとびっきりだなあ。
「は、初めましてクルトです!鍛治士です、よろしくお願いします」
「コウです。ジョブは武士です」
「ああ、よろしく……その刀は君が?」
俺の刀をロックオンしたようで、製作者はクルトかと尋ねた。あ、談義が始まった。意外と面白い人だな、一気に目が輝き始めた。クルトのレベルも聞いたところ、そのレベルでこの刀はよく出来てるとお褒めのお言葉もいただき、クルトもヒートアップ。話が長くなりそうだあ。
「多分これしばらく収まらないね、はいどうぞ」
「あ、どうも」
サツキさんがお茶を出してくれた。うーん、失礼だけど味が薄い。メイドさんが用意したお茶を数回飲んだだけなのに舌が肥えてしまった。
「あの子刀に詳しいね、レイブンさんの話についていけるなんて」
「そうですね、節々で感じていましたけどあそこまでとは……半分ぐらい何言ってるか分からん」
「アハハ、私も分からんよ〜。このゲームはリアルの製法が応用出来るから、やってみたくてもリアルじゃ無理って人にうってつけなんだよね。レイブンさんはそうして上り詰めた感じだし」
好きこそ物の上手なれと言うしな。それで生産者のトップになって、ほぼリーダーみたいになっているから凄いものだ。さて後何分かかるかな。




