第十一話 桜の精?
「どうする?」
「この状況で下手に手を出すわけにはいかないよね……」
どう対応すればいいか悩んでいるこちらを無視して、動く切り株はこちらへと近づいてくる。うーん、本当にどうすりゃいいのか。
「モモ、なんでもいいから分からない?」
「いやあ、大概の生き物は知ってるつもりでいたけど……これ分類何になるんだろうねぇ?」
ええ、まさかの初見。最後の砦が崩れた。大分近づいてきたせいでショウが念のため盾を構えると切り株の動きが活発になった。
「あ、ミスった?」
「だろうな……やべっ」
根っこを伸ばして攻撃してきた。いきなりだったから驚いたが、そんなに速くないな。
「攻撃してきたからいいよなあ?」
「とりあえず……『フロストコフィン』、弱」
モモの魔法で切り株が凍った。弱と言った通り芯まで凍ってはいないみたいで、動きを止めただけのようだ。器用だな、威力の調節も自由自在か。まだ倒していないから、そのまま着るよりまだマシな手段か。
「いや便利だな」
「まあこのままにしておくと死ぬし、弱めだから時間経つとまた動き出すと思うよ」
「けど、どうしますか?このままは……」
このまま氷のオブジェにするわけにはいかないし、まあそれはできないが対応方法を考えないと……凍らせている時点で害しているようなものだけどな。
「むむ、鑑定がやっぱり効かないな、生き物じゃないのか?」
「鑑定の細かい対象範囲ってなんだっけ?」
「生きているモンスター、採取前のアイテム、プレイヤー、装備だったかな?場合によっては弾かれるけど……それすらない」
この中ではショウとモモが【鑑定】のレベルが1番高いが2人とも切り株の鑑定はできず、それが何かは分からないようだ。ショウはジョブ構成から、モモは種族のせいで学士系統のジョブを取得しておらずその上のレベルの【鑑定】は試せないが……そのレベルだとしてもそれ自体が行えないので多分意味はないだろう。
「あの、コウさん……」
「どうした?」
「いや、その、後ろ……」
後ろ?後ろに何か……おや切り株くん。切り株くんが1、2、3、4……いっぱい、というかどんどん増えている気が……ヤバくね?1体はそれほど強くないとはいえ、数の暴力は死ねる。
「さて、逃げようか」
「判断早くない?」
「ここで殲滅しようとするともれなく御神木に大ダメージだよ。それでいいならやるけど」
「よしみんな逃げよう」
「「「「賛成」」」」
タンクでAGIが低いとはいえショウのレベルは高く、切り株達から逃げる分には問題ない。モモもコトネさんも大丈夫だが、問題はクルトとアゲハだ。ジョブの関係上STRやDEXは高いがAGIは必要最低限しかあげていないようで、この中では最も足が遅い。しょうがないので俺がクルト、モモがアゲハを抱えて逃げる。
「すみません……」
「いやいや、これはしょうがないでしょ。逃げイベなんて想定してなかったし、まさか殲滅が正解じゃあるまいし」
……殲滅が正解じゃないよな?いくらなんでも御神木の目の前で大規模戦闘なんてしたくねえ。
「貴方達!こちらへ!」
誰!?プレイヤーいや他のプレイヤーが関わることは……なくもないがこの状況は出来過ぎらしい。ここフィールドだからプレイヤーネームが見えないためNPCかどうか判断しづらい。まあここは頼るのが懸命か。少し離れた木の陰から出てきた少女?の方へ行き、そこには大きめの木の洞があり、そこに隠れる、すると都合良く切り株達は俺達が隠れた木を通り過ぎ、そのままどこかへと行ってしまった。あれ、切り株が来た方向に誰かいたような……?
「なんとか事なきを得たね」
「うん……それで、あんたは?」
俺達を助けてくれたのは、クルト達と同年代ぐらいの少女だった。ピンク髪、ピンク目、桜色の着物と何とは言わないが自己主張がとても強い、何とは言わないが。
「初めまして、探索者の方々。私はシズエと申します。皆様も見たであろう、あの御神木の精霊、みたいなものです」
まあ、全員が予想通りといった表情だった。しかし、モモだけがなぜか微妙な表情をしていた……なんで?
「なるほど……それで精霊様がなぜ僕達を助けたんです?もちろんありがたかったのですが」
「私の近くにいた人間はなるべく助けたいと思ったのと、あなた達の力はここ数日で見させてもらい、ぜひ協力してもらいたいと考えたからです」
実力……?ちょっと春イベモンスター倒したぐらいとさっきモモが凍らせたぐらいだが、まあゲーム的進行か。
「それで協力とは?」
「はい、その事ですが……まずは場所を移しましょうか、あの手先達が出ない場所があるのでそこに行きましょう」
そう促され、御神木よりさらに奥へと森を進んで行く。そうして少し歩いていると、開けた場所に出た。真ん中には岩がいい感じにテーブルと椅子になっており、そこへ案内された。
「こういう時、飲み物をお出しするのでしょうが、あいにくそういったものは無くて……すみません」
「いえお気遣いなく」
「そう言っていただけるとありがたいです……早速ですが本題に入りましょう」
その桜の精霊さんが言うには、近頃悪霊が出るようになり、手先……俺達が遭遇した切り株を生み出して村人を怖がらせているという。また、悪霊の呪いのせいで精霊としての力が落ちており、そのせいで村の樹の生命力が落ち、桜の咲きが悪くなってしまったという。
「つまりその悪霊を倒してほしいと」
「はい、もちろんタダでとは申しません。無事悪霊を倒せた暁には……この村の染料はご存知ですか?」
「ああ、桜の花を使ったっていう……」
「そうです。ここの桜は私の力が及ぶもので、その染料を使ったものなら私の力を多少ですが移すことが出来るのです」
なるほど、イベントの報酬のアイテムってことか。条件が染料を使ったものなら大分自由度が高い気がするな。この前コトネさんが買った服でもいいし、アクセサリー扱いの小物なら普段の装備のままつけられる。何よりデザインが自分の好みになる所が良い。イベントアイテムは効果が良くても見た目が不評だとただの記念品にしかならないからな。
具体的な力の詳細は教えてもらえなかったが、終わってからのお楽しみなのだろうか……?そもそもイベントなので断る理由も無く、助けることとなった。
肝心の悪霊の対策については、そのままでは、物理的手段の攻撃が効かないらしく、通用できるような対策があるらしく、その準備のためにまた明日来てほしいという。
「あともう1つ、御神木の方へは行かないで欲しいのです」
「えっとなんででしょうか?」
「先程の一件で悪霊の手先の動きが活発になったようで、私の本体の周りに必ず何体かいるのです」
下手に戦闘をすると御神木自体に被害がいくから、対策を用意するまでは刺激しないでほしいということか。まあ分からなくもないし、わざわざ近づく理由もないのでとりあえず従うとすることに。話は終わったので帰ることとなったが、危ないなら村で保護して貰えばと提案したが、村人に被害が及ぶようなことはしたくないと断られた。
「イベントの方向性もはっきりしてきたね」
「そうだな」
「モモさん、先程から黙ってますけど具合でも悪いのですか?」
「いや……あのシズエとやらが気になってね」
「どうしてだ?」
「なんか気に食わない」
「ええ……」
いや、なんか気に食わないって。まあ確かに不自然な所はあったが、そういうキャラと思えば……まあ完全に信用しているわけでもないので、とりあえずイベントを進めながらそれについては考えるか。シズエがいった対策についてはクルト達生産職の出番みたいなので、頑張ってほしいと思う。




