第十話 怪奇!謎の動く切り株!
イベント3日目。昨日はログインしたはいいがクルト達はいなかったので、イベントは進めなかった。そういえばポーションとかをあれから買ってなかったので、買い占めにならない範囲で大量に色々薬品などを買っておいた。今日は土曜なので午前中にログインしてみるとクルト達がいた。
「あ、コウさんおはようございます」
「ああ、おはよう。2人は何してるんだ?」
「私達どっちも作業のキリが良くて、どうしようかなって話してたところ」
「ああ、なるほど。もう少ししたらコトネさん達が来るからまたイベント行くか?」
「そうですね、あ、昨日は僕達に合わせてくれたようでありがとうございます」
あれ、誰も言ってないはずだけどな……あ、モモか。そういやモモどこ行ったんだ?部屋にいる気配はなかったが。
「モモさんなら市場をうろついてくるって言ってましたよ」
「そうなのか、ありがとう」
「あ、そうだコウ、クルトったら転校生に女子と間違えられたんだよ」
……おお、そんな事件が。クルトも間違えた男子も災難だなあ。同級生達は一回は大体間違えるみたいで、その転校生に共感したのか一気にクラスに馴染んだという。なんか質の良い潤滑剤になっている……!クルトは相変わらず微妙な表情だった。
「まあ、すぐ謝ってくれましたし、良い人だったから別に良いんですけどね。慣れもあるけど」
最後の言葉は、小学生とは思えないほど哀愁に満ちていたとは言わないでおこう。
「おはようございます」
「あ、コトネさん。おはよう」
コトネさんが入ってきて、すぐショウも来た。少し経つとモモが戻ってきたがなんか大きい紙袋を持っていた。
「どうしたんだそれ?」
「野菜とかだね、意外と良いものが多かったよ」
へえ、野菜とか食べるのか……そりゃ食べるか。悪魔と聞くと山羊頭とか邪悪な感じのイメージが浮かぶからいまいち野菜とか食べているイメージが……そこらでたまに出る悪魔とは元が違うみたいなので気をつけるようにしよう。これから村に行くことは分かっているみたいで厨房に買った野菜をしまいに行った。
「さて、どう料理しようか、マスターは好きなものとかあるかい?」
「へえ、料理とかできるのか?」
村へ向かう道中、暇なのでモモがそんな質問をしてきたがいきなりだったので明らかな返答ミスをしてしまった。空気が完全に凍った感じがする。いくら悪魔でも女性相手に料理ができるのかという返しはアウトか……!気をつけようと思った矢先にコレだ。てかこの空気どうしよう。
「……マスター?一回どんな印象を持っているか聞いてみたいのだけれど?」
「すみませんでした」
こんなリアルに顔に血管が浮き出るのを見るとは思わなかった。速攻で謝ったのが功を奏したのか、元々そこまで怒ってなかったのかは知らないがなんとか落ち着いてくれた。
「はあ……今まで1人なんだから料理ぐらいできるさ、野蛮人じゃあるまいし生のまま食ったりしないよ」
「いやほんとすまん」
そんなこんなで騒動(自業自得)があったりにしたが無事に村に着いた。途中でクワガタとすれ違ったが、クルト達もいるので念のため隠れてやり過ごした。俺とコトネさんの2人で倒せたことがあるし今はショウやモモいるので問題ないだろうが、結論として村も近いし面倒ということになった。
「んでこれからどうするんだ?」
「近くに川があるからそっちに行こうか、まだ行った人いないでしょ?」
川?確かに行ったことはないが、全員で行く必要は……ああ、昨日の情報か。村の中はプレイヤー共通みたいだから、外かつ不自然すぎないところで色々起きるってことか。実際俺の考えた通り、近くの川に着くと少し開けており、染料関係の設備だろうか、小屋がいくつかと作業場のようなものがあった。そこに村人が何人か固まっており、様子を見に行くと固まりの中心で言い争いをしているのだろうか3、4人が向かい合っていた。
「だから昔からこの村を守ってきた御神木じゃぞ!まだ御神木様の仕業だという証拠はないじゃろうが!」
「何が御神木だ、ただ古ぼけた樹なだけだろうが!実際木の化け物がその樹を守るようにうろついていたのは確かなんだぞ!」
「しかしその化け物が危害を加えた訳でもないのだろう。いきなり切るというのは浅慮すぎる!」
「何かあってからじゃ遅いだろう!今年は何故か咲きが悪いんだ、御神木に何かあったのは間違いないだろう、今までこんなことは無かっただろう!?」
「そ、それはそうだが……」
御神木擁護派は主に老人、排除派は比較的若い人達か。周りにいる人達は、どっちつかずといったところか。全員作業服だからこの場所で働いている人達なのだろう、同じ村どころか1つの場所で対立してるの大丈夫なのだろうか。絶えずギスギスしそうなものだが。
「なあ」
「うわ、いつの間に……なんだ探索者か?どうしたんだ?」
他に情報はないかと言い合いを見守っている近くの村人に声をかけてみる。俺達がいたことに気づいていなかったようで、話しかけると驚いていたが、すぐに落ち着いたようで何の用か聞いてきた。
「これどっちが優勢だったりするのか?」
「ああ……やっぱり切る側が多いだろうな。若い連中が集まってて多いから……反対しているのは村の老人ばかりだから色々な意味で勢いがな」
「御神木ってなんか伝説でもあったり?」
「いや、村ができた時に植えたとかそんな話だけで、そんな話は聞いた事ないな」
「へえ……ちなみにあんたはどっちなんだ?」
「え……うーん、俺が生まれる前からあるものだけど、化け物が出るとなるとなあ……結局どっちとも言えないだよな」
「なるほど、ありがとう」
「いや別に、最近こうして作業が止まるからまずそこをどうにかしてほしいんだよな」
うーん、現実的かつ切実。そりゃ詳しいことが分からない事態より目の前の仕事だよなあ。
「桜の咲き具合が悪いみたいだけどなんか影響あったりするんですか?」
「いや割と良く色が出るからこのぐらいでも十分足りるんだ。あれのせいで時間がかかってるだけで」
気になったことがあるみたいでアゲハが質問をした。服飾関係ということで興味があったのかな。
「もういい、警告は何度もした。何かあったらあんたらの責任になんだからな」
「ふん」
言い争いは終わったようだ。話し合いは平行線で、妥協点がつけられることはなさそうだな。切る側は去っていったが作業は……?ああ、担当の工程が別で離れているのね。村人も自分の持ち場へと戻っていき辺りは静かになった。
「……で、どうする?」
「とりあえずその木の化け物を見つけて調べるしかないよね」
「変だねぇ、そんな魔物がいれば分かるはずなんだけど……鈍ったかねぇ?」
そればっかりは俺も知らないなあ。モンスターかどうかも怪しいもんだ。件の木の化け物とやらを探すために御神木の方へと向かう。さて、フラグは立ったから1体ぐらいは現れてくれると嬉しいのだが……まあすぐには見つからないみたいで、とりあえず着いても気配はない。
「ここからどうしますか?」
「うーん、どうしようか……」
「ちょっと待った。何か来る……?」
モモの見た方向から現れたのは切り株のようなものだった。根っこを動かして歩いている。トレントっぽいが、顔のような模様もなく手代わりの枝もない。
「鑑定効くか?」
「あれ表示すらされない……!」
「え、マジで?」
「あれ、魔物じゃないね、なんだろう?」
モモも知らない感じですかー。これはどうするべきか、意思疎通ができるのかしら、あれ。




