第三話 そっちかーい
「じゃあ僕たち作業があるので……」
クルト達生産組は今日中にやっておきたい作業があったらしく、休憩中に俺とモモが帰ってきて更に王族が来たから時間が経ってしまったそうで。メイドさんが茶葉の余りをくれたのでコトネさんが見様見真似で4人分の紅茶を入れてくれたので一息ついた。
「いやー、まさか王族が訪ねてくるとはね」
「そうですね、びっくりしました」
まあ確かに驚いた。いきなりモモが悪魔であるとNPC、住人側にバレるとは。まさか高級地に結界があるとは思わなかった。知識の無さが如実に裏目に出てしまった。これ、下手するとすぐにプレイヤー側にもバレそうだな、気をつけないと。モモも今更だが隠蔽の魔法を使ったらしく、とりあえず角やら出さなければ大丈夫らしい。今の今まで町に入っても実力のある魔術士とすれ違ってもバレなかったようでそこらへんの精度は信用している。ちなみにその魔法は時間経過でMPを消費するタイプだが、消費より回復の方が上回っており、解除されない限り貼り続けられるらしい。魔法にせよ何にせよコスパがいいのは価値が高い。プレイヤーが使うタイミング無いだろうけど。
「そういやモモ、近くにいるって言ったけど、誰で、どこか分かるのか?」
「あ、いや近くにいるのは分かるけど私と似たような感じで隠蔽しているみたいだからねぇ、方向までは……あと余程派手なことをしない限り誰かは気配では分からないね、近接タイプじゃないし」
気配を感じるって種族の特別な技能みたいな感じじゃなくて、そんな基本技能的なものだったのか。その近くにいるっていう1体もそりゃ普段はバレないようにしているよな。こっちから行くのは無理そうか。まあ王家が把握しているってことは多分まともなプレイヤーだとは思うが……軋轢が出来ないようにしたいなー、多分古参だろうし。
「ショウなんか心当たりとかないの?」
「えー、いやー……流石に知らないね……悪魔はまさかこんなちゃんと会話が通じるのがいるのは知らなかったし、天使が実在するのも知らなかったし……」
ちっ、役に立たないな、と言いたいところだがしょうがないか。そりゃそうか、秘匿してるよなー。ショウは顔は広いだろうけどフリーだからな。本当に重要なことは教えてもらえないか。
「モモさんは仲の良い人はいるんですか?」
「悪魔だけど……仲の良い奴ねぇ?喧嘩にならない奴ならいるけど仲が良いと言われると……いないね」
どうせ全員癖が強いのだろうなあ。喧嘩になるってことは相性が悪いのか、単純に相手の性格が悪いのか……どうせなら喧嘩にならない奴が良いよな。喧嘩にならないって相性の良し悪しで勝負にならないとかそういう意味じゃないよね……?
「まあ、あっちからくるみたいなこと言ってたし、こっちは訪ねようがないから気長に待つか」
「そうだね、大概のプレイヤーなら仲介できるはずだし、近くってことは高級地でしょ?多分大丈夫じゃないかなあ」
ああ、ここに住むって大金も必要だけど、信用も必要だったか。王族経由で手に入れたから信用どころじゃなかったわ。多分クランだろうし、それなりに力のあるところか、加入強制とかになったら面倒だなあ。そんなことを考えていると、玄関の方から扉を叩く音と声が聞こえてくる。まさかなー、行動早くないかなー?帰ってくる時目立ちすぎたかなー?ここで考えてもしかないので玄関の方へと向かう。
「すみませーん」
「はーい、今開けます」
扉を開けるとそこにはローブを着た女性がいた。部分的に鎧のようなものが付いているのでイメージとしては動ける後衛といったところだ。
「えっと?」
「あ、私はクラン「ポールスター」のサブクランリーダーのアリサです。ここの家主のコウさん、ですよね?」
「あ、はいそうですけど」
正確にはコトネさんも家主みたいなものだけどな、権利書的に。ポールスターってなんか聞いたことがある気が…………カリファと会った時か!口ぶりから真っ向から張り合える実力があるみたいだが、それなら相当なクランだろう。さて、何の用件か……まあ悪魔かなー?とりあえず玄関で話すのも何なので応接室の方へと案内した。
「あれ、ショウさん何故?」
「アリサさんか、この2人リアフレ」
アリサさんはなるほどといった顔で頷いた。やっぱり知り合いだったか、話がスムーズになりそうで良かったわ。
「えっといきなりなんですが、そちらの方……悪魔ですよね?」
「アリサさん、面倒だから、そっちに契約者がいるんですよね。とりあえずそっちに行きません?」
ショウがめちゃくちゃ直球に話を進めやがった。モモに視線を向けたが、隠蔽はちゃんと働いているみたいで見たぐらいじゃ分からないはず。つまりこのアリサさんは契約者じゃないにしても関係者なのは間違いない。アリサさんがこっちを向いたので面倒だからそうしない?という意思をこめて頷く。伝わったのかどうかは知らないがアリサさんはため息をついた。
「……そうですね、元々こちらに来てもらおうという目的だったので話が早いと喜ぶべきなのか……」
「えっと契約者って、どなたなんです?」
「それはちょっとうちのホームに来た時でお願いします、ないとは思いますが誰が聞いているのかわからないので」
流石にないだろうがその可能性もなくはないか。どの道、近所っちゃ近所らしいから今聞かなくてもいいか。話を勝手に進めたがモモも問題は無いらしく一緒に行くことに。コトネさんもいたので乗りかかった舟のようなものなので一緒だ。流石に言いふらすことはしないだろうし、友人としてハブるのもアレだろう。「ポールスター」のホームは本当に近所で、通りを挟んだ向こう側の建物の更に向こう側だった。
「どうぞ、ここがうちのホームです」
いやでかい。俺の屋敷もそれなりに大きかったが、ここは建物だけで1.5倍ぐらいある気がする。建築様式のせいかなんかもうちょっとした城みたいになっているが、これ大丈夫なんだろうか、色々と。アリサさんに案内され中へと入る。うーん広い、人も多い。流石はトップレベルのクラン。
「クランって何人までなんですか?」
「確か100人ぐらいだっけ?まあここ下部のクランもあるしね、2つだっけ?」
「少し前にちょっと増えて3つ目が出来ましたね。思った以上に大きくなりました」
3つ目かあ。便宜上クランは違くても300人以上いるってことだろ、この人サブクランリーダーってことは結構凄い人?
「アリサさんは付与士系統4次職の『賦王』だからね、実力は確かだし、「ポールスター」創設時からの古参だしね。パーティ組ませてもらった時もアリサさんのバフにはお世話になったよ」
「いえいえ、4次職に上がれたのはイプシロンさん……クランリーダーのおかげなので、この役職も初期から組んでただけで……着きました」
建物の中を少し歩き、着いたのは偉い人が中にいそうな華美ではなくとも重厚感のある扉の前だった。実際クランリーダーの部屋なんだろうから偉いんだけども。アリサさんがノックをし、扉を開ける。中へ入ると、部屋にいたのは金髪の青年プレイヤーとフードを被った少年だった。金髪の方はガブリエルとは違った意味でイケメン、こう清涼感があるというか。それにしても聖騎士というか……そう、「勇者」という言葉がぴったりな感じだ。うわ、後光がさしてる。いや、日の光がたまたまそうなってるだけか。フードの少年は室内なのにフードをしている点と目の隈のせいか一見陰鬱とした感じを受けるが、なぜかそんな感じはしない、というかものすごく図太そう。絶対コイツが悪魔だろ。
「初めまして、「ポールスター」のクランリーダー、イプシロンです」