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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第十一章 始まるは人の世
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第二十四話 アルカディアさんの質問コーナー


 更に数日が経ち、モモが帰って来た。何処となく疲れている様子で、帰って来るなり談話室のソファに寝転がった。


「休むなら、部屋で休めば良いんじゃないか?」


「ああいや、今日はマスター達を呼びに来たんだよ」


「どういう……そういやクローナとウリエルも帰って来てないしな」


「一緒に帰って来そうですしね」


「それで、呼びに来た理由は何でしょうか?」


 ここにいるのは、クルトとアゲハを除いた屋敷の住人。呼びに来たのはあの戦いに参加したメンバーとの事だったので丁度良かった。2人は未だアルカディア産の新製法を試しているらしく、屋敷では無くPCAの方に籠っている。


「まあ大した事じゃないさ。アルカディアの奴に余裕が出来たもんで、質問があれば答えるってさ」


「成る程」


「そういう事でしたか」


「無いなら少し休んでこのまま戻るし、好きな様にね」


「まあ聞きたい事はあるしな」


「行こう行こう」


 俺も含め今日は全員大した用事は無いみたいなので、モモを休ませる為に30分程経ってからアルカディアへと向かう事になった。

 アルカディアに向かうと言っても、真正面から向かう訳にはいかない。なので、手前の山脈フィールドから道なき道を行く事になる。

 プレイヤーがツェーンナットに集まっているせいでその手前の正規ルートは割と人通りが多い。基本的にアルカディアには入れない事になっているので、途中から道を逸れると目立つので1つ前の町を出た時点で分かれた方が怪しまれなくて済む訳だ。


「まあ、道じゃないから疲れるけどな……」


「真面目な山登りなんて基本しないからね……」


 この場で疲れた様な表情をしていないのは、こういう場所に慣れているらしいアポロさん、魔法でヒョイと登って行くモモ、そしてショウにおぶさっているベルフェゴールだ。というか寝てるし……こいつが1番楽そうだな、動いてないし。

 コトネさんに至っては、杖を支えにしている。肉体的疲労はもちろん実装なんてされていないが、長時間登っていればそりゃ疲れる。


「【空走場(アハルテケ)】が長時間保てば良いんだけどな……」


「流石にそれはぶっ壊れでしょ」


「そうなんだよなあ」


「ほら、あとは降るだけだよ。頑張りな」


「おーう」


 やっとか。

 モモの居る場所まで着くと、遠目にアルカディアが見えた。相変わらずデカいな。ツェーンナットと比べても同じ、いや一回りぐらいデカいか。俯瞰して見る事なんて無かったから分からなかった。


「それじゃ行くか。見つからないようにしないとな」


「まあ余程派手に動かない限り大丈夫でしょ」


 山を下り森を進んでアルカディアの裏、ツェーンナットに面していない側へと向かう。入れない事もあってか、こちら側にプレイヤーは皆無だ。

 モモについて行くと、アルカディアの入り口(裏口?)辺りがほんの少し開け、テントやら何やらが設置されていた。プレイヤーも10人ほどいる。


「あれ……あ、ワテルさん。そういう事か」


「バレないんでしょうか?」


「アルカディアが直々に隠蔽してるから大丈夫さ」


「便利だな」


「おや、ショウくん達か。まあ大丈夫だと思うけど見られてないよね?」


「多分大丈夫かと」


「それなら良いんだ。いきなり悪いね」


「バレたら台無しですからね」


 ワテルの言う事も最もだ。まあ先導したモモがそんな愚を犯す筈もなく、移動している時に見られた感じもしなかったので大丈夫だろう。そもそも余程この辺で目撃されなければただ変な所を彷徨いているパーティでしかない……怪しいパーティだな?

 特にこれ以上話も無いのでワテルさんと別れ、アルカディアへと入る。


「中は何処も似たような感じだな」


「殺風景ですね」


「まあやたら広いからねぇ。何処もかしこも拘ってられないさ」


「そうですね……きゃっ!?」


 通路を進んでいると、曲がり角から歩いて来たのは量産型の天使2人だった。一瞬身構えたが、特に敵対する感じも無い。武器じゃなくて箱持ってるし。


「ああ、大丈夫さ。制御しているのはアルカディアだからね。今は警備用以外全員ただの端末だろうさ」


「あ……そうですか」


 そのまま天使2人は何事も無かったかのように俺たちの間をすり抜けて別の方へと歩いて行った。確かに無害だ。

 その後は特に何事も無く、アルカディアのいる(?)中枢へと辿り着いた。逃げる時に出口でも声が届いたのだからわざわざこんな重要な所まで来て良いのかと思ったが、こちらに害を及ぼす意図は無いので考える必要も無いか。


『……あ、来ましたか。お久しぶりですね、アスモデウスのマスターとベルフェゴールのマスターと……戦った皆様方。何か大分失礼ですね?』


「いやまあ、帰りがけに会っただけだし……コウだ」


「ショウだよ」


「コトネです」


「アポロと言います」


 それぞれ名前だけだが自己紹介を済ませる。というか名前さえ分かれば不都合は無いだろう。


「じゃあ、作業に戻るよ」


『はーい、よろしくです。クローナとウリエルは休憩中ですよ』


「あー、はいはい」


 モモはそのまま部屋を出て何処かへ。プレイヤー……探索者向けの質問コーナーだから、いても仕方ないのか。


「……で、どうする?」


「そうだね……」


『まあいきなり質問ありますかとか聞かれても分からないですよね〜。であれば、他の方々にも話した、ざっくりこれまでの経緯をお話ししましょうか?』


「あ、それで。何か聞きたい事ある人は?」


「とりあえず聞いた後で……」


「そうですね」


『じゃ、お話ししますねー』


 前というと、イプシロンさん達とかも来たのだろうか。流石に王族にはもう少し真面目に話したのだろうけど。さて、どんな内容なのやら。あと、いつの間にか椅子が用意されていた。ありがたい。


『とりあえず、私が作られた時代は現在より科学技術が発展していました。科学は探索者の皆さんは知ってるんですよね』


「そうだな」


『このアルカディアは、魔物からの脅威を徹底的に排除する為に作られた防衛装置です。まあ設計者連中がロマンだとか言って色々機能が追加されていますが、主な設計思想は防衛ですね。そして、このアルカディアのみでは限界があるので端末として生み出されたのが天使と悪魔です……やっぱり驚きませんね』


「まあ何となくそんな感じの話はしてたからな」


「そういうタイプか、みたいな?」


『良いです、良いですね。続きですが、天使は分かりやすく偶像として、悪魔は人と直接関わる用途でした。まあ悪魔は親しみやすいように欲にちょっと忠実にしたらそんなにやりましたが』


「ああ……」


 割と重要な話をしているのに、ショウの背中のベルフェゴールは寝たままである。経緯自体は本人が1番知っているだろうけど、ここでも寝るのか。設計ミスじゃねぇのと思ったが、黙っていよう。モモはどうなのだろうか……あ、考えないでおこう。


『終わりは突然というかですね。アルカディアの運用が安定し、年月が経過します。魔物の脅威が殆ど無くなると、まあ人はだらけるもので……察してくれるとありがたいのですが、目も当てられない感じになりました』


「あー、うん」


 人の欲の果てとか、そんなだろうね、うん。よくあるやつよくあるやつ。


『一応言っておくと全ての人間では無いです。しかし、目に見える程広がったそれは、天使に嫌悪の感情を抱かせ、悪魔に諦観の表情をさせるには十分でした。そしてそれが堰を超えた時、それは起こりました。ミカエルは上層部の人間の権限を乗っ取り、即座に私を封印。アルカディアの力を持って人間を害し始めました。彼にとって誤算だったのは、当時非正規雇用にも関わらず、優秀故にそれなりの権限を与えられていた人物が、たまたま脱出ポッドの近くにいた事ですね』


「非正規雇用」


「シャーロットさん達が、その子孫……?」


 そういう設定にする必要はあるのかとツッコみたい部分はあるが、その辺は前にシャーロットが説明していたのと同じだ。


『その様ですね。想定していたより、はっきりと残っていた様で……国を作ったのも不思議じゃありませんね。カリスマ、人望共にあったと記録が残っていましたから……アルカディアのリソースが尽きたせいで、人を根絶といかないまでも、一通りの破壊は終わりました。力の差は歴然だったので悪魔達は去り、更にはガブリエルの一件で一悶着ありましたが天使は一旦その手を止めリソース集めに。リソース自体は数十年前に集まっていたみたいですが、神経質なミカエルはルシファーを警戒して悪魔の掃討をカシエルにやらせていた様です。まあ、何の策も講じなかったので追跡も不可能になって1体も倒せていなかったのは爆笑ものですね』


「爆笑って……というか、前から思ってたけどザルだよな」


「誘拐とか回りくどかったもんね。そもそも悪魔を探してたのはローラー作戦だったんだ」


『天使も悪魔も、人よりスペックは上ですけど、所詮私含めてアルカディアの端末ですからねー。そもそも思想が歪んだのも、やり方がザルなのも感情があるからですよ。設計者がロマンだとか何とかほざいて……プラマイゼ……いや滅んでるからマイナスですね、アウトー』


「ノリが軽い……!」


 無駄に重くなるよりはマシな気がするが、やたら軽いせいで全員何とも言えない表情になっている。

 詳しい経緯は分かった訳だが、聞きたい事は残っているので当初の用件である質問コーナーへと移る。


『さて、何が聞きたいですか?私の3サイズですか?』


「は?」


「……ちなみに何処の部分です?」


『直径、全長、質量ですね』


「最後だけ違う……いや全部違うけど」


『冗談です。さて、どうです?』


「じゃあ……この後、アルカディア……あなた達はどうするんですか?」


『当初に戻って、人の味方ですよ。とりあえず技術を少しずつ伝えるなりしますし、ミカエル達がやたら弄った部分を元に戻さないと。防衛装置はまあ……今度は適度にしないとですね。それでも数百年かかりそうですが』


 反省点を早速活かすのか。まあサービス期間中に御目見する事は無さそうだけど。ゲームが続いたとしても俺が生きてない。時間進行はリアル基準だし。


「じゃあ今度は私です。悪魔は別の種類のモンスターがいますけど……それは?」


『それですか、それは聞いていますよ。恐らく概念的なアレですね、ええ。いや、ざっくりしてますけどね、推察できるのはルシファー達悪魔を作ったのと、元からあった悪魔のイメージがごちゃ混ぜになった結果だろうという事ですが、存在が確立して序列も出来たのは分からないですね。ちゃっかりルシファー達も組み込まれていますし。契約者もそれ関連です。要調査ですね、すみません』


「あ、そういう感じですか。いえ、ありがとうございます」


 若干勘違いしてたが、これは凄いコンピュータ(語彙)のアルカディアとの答え合わせであって、運営とでは無い。その為分からない事は当たり前にある……そもそも今まで封印されていた訳だし。


「ああそうだ、契約者って結局何なんだ?」


 悪魔達と契約、大体は何かしらの代償をもって利益を得る感じのやつだ。

 しかし、こうして天使との戦いが終わっても得たのは称号ぐらいしかない。普段、協力してくれてるのだって個人の自由レベルの事ぐらいだし。


『ああ、それですか。まあ特に大した事では無いんですけどねー。えっと、とりあえず……元を話しますと、先にお話しした通りルシファーを始めとした悪魔達は人と関わる役目がありました。現在自然発生してる悪意の塊との契約アレコレとはもちろん違う、健全な形でですよ?』


「いやまあ、それはそうだろうな」


『そうですそうです。そして、役目を果たす為に人のパートナー……いえ、相棒と言った方が良いですね。それを作る事が出来る機能が備わっています。それが、契約者です。まあ条件と言えば本人が気に入ったぐらいですし、デメリットは皆無ですがメリットも無いので、要するに形だけですね。結局は、アスモデウス達悪魔が信頼出来る人間がいるかどうかが重要だったと言う事です』


「成る程……じゃあ選ばれたのはただの縁ってか」


「まあ、みんな大体出会った当人だからね……」


『そうですね。まあマモンはちょっと違いますが……聞いた話によれば大して変わりませんし』


 その後は、遠慮して当たり障りの無い質問が続いた。それでも中には分からないものもあったが、大体は解決した。


『他に何かありますか?』


「あー……俺はもう無いな」


「僕もだね」


「私もです」


「私もですね」


『……では、以上という事で。また何かありましたらお気軽にどうぞー。契約者と、その仲間の皆さんならほんのちょっと優遇しますから』


「そりゃありがたい」


 これで話は終わり。帰りがけに3人に挨拶をして終了だ。情報を開示されるとスッキリするな……あ、帰りもあの山登るんだった。


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