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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第十一章 始まるは人の世
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第十八話 一方メイン(扱い)は


 アルカディアへと突入したコウ達がそれぞれ天使と邂逅した頃、地上の方は既に戦闘が始まっていた。

 プレイヤーと量産型の天使が入り乱れており、更には人の上半身に近い形状だが腕に相当する部位が4つある、シンプルな構造をした4体の兵器が暴れ回っていた。その内の1体は既にいくつか損傷しており、白い外装が煤汚れ、腕が1本欠けている。

 プレイヤーはどうやら各個撃破を目指している様で、他の3体では、避けタンクに分類されるプレイヤー達が必死にヘイトを集めているが、あまり効果を発揮している様には見えない。

 巨大兵器が腕を振るう度に、少なくとも1人のプレイヤーが吹き飛ばされ、エフェクトとなって消えて行く。

 その周りのプレイヤーの声をよく聞くと、どうやら巨大兵器の名前は「ケルビム」の様だ。


「おーい!代わりの奴早く!早くしないとこっち来るぞ!」


「もう死にたくねーよ!1回避けたら躱せない方向から別の腕来るのおかしいだろ!」


「それは俺も思ってるけど、はよ行け!お前らのおかげで犠牲者がお前らだけで済んでるんだよ!ポールスターが装備補償出してくれるんだから儲けだろ!」


「死ぬのが嫌なんだよー……えーい、人身御供ー!」


 臨時で指揮をしているプレイヤーに激励(?)され、軽装のプレイヤーがケルビムの方へとスキルを発動しながら駆けていく。

 そのプレイヤーはケルビムのヘイトを稼ぎ、進む方向を変える事に成功したが、何度も死んだ事によるデスペナルティが重なった為か、上から来た腕を躱しきれず、押し潰されてしまった。


「お前の犠牲は忘れないぜ……魔法職!銃士!いつまでかかる!?」


「もう行けます!撃ちますよー!」


「どんどん行けー!!代わりも行けー!!」


「はーい!」


 阻止しようと集まる天使を迎撃する近接職に囲まれながら、魔法職のプレイヤー達は自分達が撃てる最高火力の魔法を、銃士系統のプレイヤー達は数人がかりで撃つカノン砲の装填準備をしていた。

 それも先のプレイヤーの尊い犠牲により完了し、一斉にケルビムへと発射し始める。的がそれなりにでかいおかげで、全弾命中。ケルビムに損傷を与え、今回は腕の1本を機能停止にした。

 しかし、腕はまだ2本残っており、攻撃するには十分である。更には、まだあと3体残っており、決着が着くまではまだまだ時間がかかるだろう。


「ほら、気を抜かないで行くぞー……うわ、ヘイト稼ぎ過ぎた!?こっち来るぞ、退避ー!」


「急に言われても、あー!!?」


 ケルビムの一撃によって、カノン砲が破壊されてしまった。幸いというか、その一撃によって死んだプレイヤーはいなかったものの、カノン砲を潰されてしまったのは痛く、代わりはあるにしても、しばらく攻撃は魔法職頼りになるだろう。

 指揮役は頭を抱え、囮役の大半は顔が死んでいる。魔法職はポーションをがぶ飲みし、銃士系統のプレイヤーはロマン溢れる巨砲の死に嘆きながら代わりの大砲の準備を進める。

 近接職は相変わらず天使と相対しており、未だ戦場は混沌としている。その分プレイヤーも死んでは王都の教会にリスポーンするので、装備の整備役で集まった生産職達もさぞかし忙しい事になっているのかと思えば……そうでは無かった。


「暇だなー……」


「割と暇ですね……」


 最初は勢い込んでいたクルトは、今や隣にいる知り合いのプレイヤーとお茶を飲んでいる。

 周りを見渡せば、一応手を動かしてリスポーンした戦闘職の装備を修理している者もいる。


「意外とそのまま突っ込んで行くもんだなあ」


「そりゃ1回で装備駄目にしたり、なったとしてもスペア持ってたりはするでしょうけどね……思ったより来ませんね」


「まあ楽に観戦出来るから良いけどな」


「ここ、結構見えますからね。ちょっと罪悪感湧きますけど」


「いやいや、俺らがあそこ行っても何の役にも立たないからな」


「そうですけどね……」


 第三者が見れば、お茶を啜っている時点で大概だと大体の人は思うぐらいにはのんびりとした雰囲気が漂っている。

 と言っても、クルト達がこれ以上出来る事は無く、結局はお茶を啜るしか無いわけだが。


「あ、1体倒れた」


「凄いですね……後3体いますけど」


「砲弾もポーションもクソ程用意してあるらしいから大丈夫だろ。結構死んでる割にこれだから、時間の問題じゃないか?」


「そうですねー」


 クルトは、知り合いプレイヤーに返事を返しながら、コウ達がいるであろうアルカディアへと目を向ける。

 内心としては、地上の結末より上の月末の方で色々と変わるのだろうと察してはいる。

 しかし、それこそ自分のではどうしようも無いと分かっているので、多少の罪悪感を感じながらも地上の観戦へと戻った。







 所変わって、アルカディア中枢。ルシファーは作業を続けていた。

 あれから何度もイオフィエルによる襲撃はあったが、制限の取れたルシファーの敵になるはずも無い。それに、同じ事も繰り返しだった為、邪魔となった時間は回数を重ねる毎に短くなっていった。


「……「アルカディア」にかけられたロックはこれで全て解除した。わざわざ再起動する手間は必要無い……起きてるだろう?」


『……うーん、むにゃむにゃ。あと30分……』


 ルシファーが手を止め、誰かへと語りかけると、構造体が先程よりも更に光り始めた。そして光が多少収まると、何処からともなく気の抜けた声が部屋を響かせた。

 それもそのはず、その声の主は実体がある訳ではない。あえて言うなら声の主の身体はこのアルカディアであり、本来動かすべき主である。今までミカエルに機能を封じられていたが、ルシファーの手によってようやくその枷が解かれた。


「……はぁ、話せているという事は、十全に稼働出来ているんだろう?現状を把握して、その冗句とは中々に余裕があるな?」


『……いやですねぇ、ちゃんと裏で制御システムの奪還に従事してますよ。結構時間経ってるみたいなのに大して変わりませんね、貴方は』


「ふん、特に変わる必要も無いからな。なら作業を再開しよう……雑談ぐらいなら出来る」


『お、良いですね。でも何話します?積もる話はゆっくりしたいですし』


 ルシファーは再び手を動かし始め、アルカディアも起動している証拠なのか、構造体が淡く発光し続けている。

 そのまま2人(?)はたわいもない雑談を続けながら作業を続けて行く。ミカエルの天秤が存在する限り、それに紐づけられた権限を取り戻すのは至難の業である。

 もちろんミカエルを倒せば、簡単に掌握出来るが、そうなるのはもう少し先の事だろうと、2人は空いている権限を片っ端から掌握していった。


『そんな修行者みたいな生活してたんですねー。ほんとまあ、大して変わらないですね』


「何回言うつもりだ……ああ、そうだ。天賦獣、あれはお前の仕業だろう」


『天賦獣?えーっと……ああ、超過因子ばら撒いた結果の事ですか。流石に貴方達だけだと足りないかなーっと思ったので、封じられる直前にやりました』


「やはりか」


『まあ、割と良い感じになってるんで良かったですね。アレで人滅んだら元も子もないですし……まさか、探索者なんてものが出てくるとは思いませんでしたけど』


「どうせ、既に去りし神の手によるものだろう。流石に不味いと思ったのだろうな」


『ありがたい事には変わりありませんけどね……あ、やった!生産プラントの電源掌握出来ましたよ』


「良し、これで追加は無くなるな」


 想定より、好ペースで作業が進み、何処となしかルシファーの顔にも笑みが浮かぶ。

 ちなみに、「既に去りし神」は運営の事だったりする。創造主ポジションは何かと進行、調整が楽なのだ。


「さて、続けて行こうか」


『よーし、私も頑張るぞー!まあこんな言い方しても演算能力変わらないけどね!』


「なら手を動かせ」


『私、手無いし』


「チッ」


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