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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第十一章 始まるは人の世
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第十六話 【純潔】 後

今日は2話更新です。これは2話目です。


「さて、改めて始めよう……『カルペディエム:フトゥールム』


 変化といえば、光る本を開いて左手が若干ビジュアル系みたいになった程度だが、それで舐めてかかる程幸せな頭をしたプレイヤーはこの場にはいない。


「あれが、噂に聞く地雷魔法?」


「ほう、知っているのか……まあルシファーだろう。その程度の説明もベルフェゴールは熟せないだろうしな」


「更に厄介になりますね……」


「まあ話が早いのは良い。そしてさっさと死んでくれると、とても良い」


 その言葉に嫌な予感を感じたアポロとローズは余裕を取る為に数歩下がった。

 そして、立ち止まった場所で床がいきなり爆発した。


「アポロ!?」


「ローズさん!?」


 駆け寄る訳にもいかず、ショウとアルバがそれぞれ声をかける。すると、煙から2人が転がってきた。どうやら、すんでの所で直撃は避けた様で、煤汚れてはいるがそこまでダメージは負わなかったらしい。


「あっぶなぁ……思ってたよりもやばい」


「先程まではここまで正確じゃなかったはずですけど……流石に精度も上がっていますか」


「もちろんだ。まあ貴様らがそうしてかろうじて避けられるぐらいの隙はあるがな」


「それは隙って言わないわよ……!」


 再度2人が武器を構え直す。あると分かれば、行けなくもない。とりあえず2人の思考としては……止まらなければいける、だった。

 2人が駆け出すと、その数瞬後に通った場所が爆発して行く。もちろんナイフも飛んで来るが、2人は致命傷を避けながらラグエルへと迫って行く。

 ショウは少なからず効いているベルフェゴールを守らなければならず、アルバに至っては今の所まともに魔法を当てられていない……いや、当たらない様にラグエルが避けている訳だが。

 アポロとローズは持ち前のセンスを全力で発揮してラグエルの攻撃を躱し、攻撃を繰り出していく。ただ状況は変わらず圧倒的に不利、このまま時間が過ぎていけば負けるのは必至だ。逆転の目が来るのが先か、チキンレースとなっていた。


「くっ、うぅ……!」


「はぁぁぁ……ッ!」


「……よくもここまで保つな?後ろの男共も中々どうして死なないものだ……戦闘訓練ぐらいしておくべきだったか」


「……ッ!素で、それって訳!?」


「天使とはそういうものだからな。それに神器もある」


 ラグエルはまだ余裕があるみたいだが、アポロ達が粘っているおかげで多少焦り始めている。大して、プレイヤー側は疲労が目立ち始めていた。


「まあこのまま……いや、時間をかけるのは不味い……」


「【怠惰(アケディア)】」


「ほら見た事か!!」


 ベルフェゴールが呟く直前にナイフを投げ地雷も仕掛けるが、予測していたショウによって防がれた。これが戦闘の初期であればいくらか冷静だったラグエルはショウの動きも含めて攻撃出来ただろう。だが結果としては、ラグエルも知らないベルフェゴールの強化を許してしまった。


「ブフッ……!」


 更に状況が悪くなる前に均衡が崩せたというのに、ラグエルのツッコみのせいでギャグの様な雰囲気になってしまった。思わずローズが吹き出すが、動きそのものは澱みがない。今まで使っていた剣と杖をしまい、新たに結晶でできている様な直剣2本を取り出した。


「はあッ!!」


「チッ……!」


 今まででは考えられない速度でローズは走り出し、戸惑ったラグエルの頬に傷をつけた。


「【泡砲鋏(ヴィクリス)】」


「次から次へと!」


 アポロは大抵の戦闘では最初から使用しているエクストラスキルを使わない様にしていた。少しでもラグエルの思考を邪魔出来ればとの算段だったが、今の状況としては十分に効果的だった。


「ベルフェゴールのそれは知らん……何か出来るとすればルシファーだろうが……タネは何だ!」


「シンプルだから教えてあげる!どうせ本人は言わないだろうし……味方への強力なバフよ!」


「何処が怠惰だ!」


「ハァッ!!」


 ローズの持つ剣から炎が吹き上がる。さながら魔法剣の様であるが、このゲームにおいて現時点では、それは実装されていない。属性を付加するものはあれど、炎属性であれば実際に炎として振る舞う事は無い。

 ローズが持つ2振りの剣は金に物を言わせて特注で作らせた物であり、その仕掛けとしては魔法に耐久性のある素材を使い、ただ魔法の負荷に耐えさせているだけである。流石に実用性としてはきちんと考慮しているが、かけた金額からすると全く持って割に合わない逸品であった。

 それを聞いたショウ達からの質問については、ローズはロマンとだけ答えたらしい。


「クソッ!」


 ラグエルはナイフを飛ばすと同時に、手に持ったままのナイフでローズへと斬りかかる。ラグエルが直接攻撃するのは初めての事で、その焦り具合が窺える。

 対して、ローズ達も強力なバフがかかったとは言え、未だまともな一撃をラグエルに与えられていなかった。形振り構わなくなっただけで拮抗されるのは中々なものだが、実際にそうなっているので文句も言えない。


「【瞬測圏(セルビ)】!」


 アポロが切り札のエクストラスキルを発動する。NPC相手なら問題無く発動するそれも、同じ様な能力を持ったラグエル相手では的中率は低くなる。しかして選択肢を絞る事は可能になり、アポロの剣速は高まっていった。


「グッ……!負けてたまるか!」


 ラグエルのナイフとアポロの刀が衝突する。後ろからローズの剣が迫るが、ラグエルはそれを屈んで避けた。


「当ったらない!!」


「少しずつ、少しずつです……!」


 追撃に移る2人、ラグエルは後ろに飛び去り地雷を仕掛ける事で仕切り直そうとしたが、足に取り憑いた黒いモヤのせいでそれは叶わなかった。


「なっ……!?」


「やっとかかった!」


 黒いモヤの正体はアルバの闇系統の魔法だった。バフがかかった事により、成功確率も上がりラグエルの気が逸れたおかげでようやく成功した。

 それでもラグエルの動きが止まるのは1秒あるか無いか。だが、この距離なら2人が逃す事は無い。


「ハァッ!!」


「『黒炎』!」


 ローズがラグエルの右手を吹き飛ばし、アポロに至っては下半身を燃やし尽くした。


「ガッ……」


 流石に右腕と半身喪失した状態ではラグエルもどうにも出来ない。そのまま床へと倒れ込んだ。


「はっ、やっと、はぁ……倒せた」


「ハァ、ハァ……」


「お疲れ様、2人とも……ラグエルは……」


「流石にここからどうにかする能力は持ってないから大丈夫だよ、マスター」


「その通りだ……ガハッ……焼けてるせいで多少残り時間が伸びてるな」


「あ、すみません……?」


「最後のそれは無くても死ぬ威力だったがな……瀕死になり損だぞ」


「万全を尽くしておきたかったので……」


「ふん」


 ラグエルは忌々しそうな大きく息を吐いた。


「アルバもお疲れ様」


「いや、最後で上手くいって良かったですよ」


「それで良いのよ」


 アルバは傷だらけのローズにポーションを渡す。ショウもアポロを介抱しており、ラグエルを気にかける者はプレイヤーにはいなかった。


「ねえ、ラグエル」


「何だベルフェゴール。話しかけてくるとは珍しい」


「賢かった癖に、何で最後まで敵対したの?」


「直球だな。なに、変わらず反抗したガブリエルや押し殺して耐えたウリエルと違って、俺は賛同した側だ。虫が良過ぎるだろう。ラミエルは……まあ良いか」


「何だ、それだけ。くだらない……」


「お前にとってはそうだろうな……ふん、じゃあな」


「そう」


 そのまま、塵となって消えて行くラグエルをベルフェゴールは見送った。特に感慨がある訳では無いが、聞きたかった事を聞けた事に満足したベルフェゴールは愛するマスターの方へと戻る。


「とりあえず……動けないのはアポロさんだけね」


「すみません」


「いやいや……とりあえず僕が担ぎましょうか」


「それなら僕が……」


「いやショウさんはベルフェゴールを……」


「そうだった……」


「よろしくマスター」


「はいはい」


 ベルフェゴールは行きと同じくショウへとおぶさる。

 ここにこれ以上用事が無いパーティは、もう1つ通路の方へと走り出した。


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