第一話 なぜバレたし
なんとか屋敷に到着したが、心臓に悪かった。人目につかずに屋敷まで辿り着くなどと言う器用な真似はできない、というか高級地に行く時に衛兵の目に付くのでありえない。『怪盗』とかならできるかもしれないが、俺は『武士』なので不可能だ。俺は体はポーションのおかげで大分治っているが、装備はそうもいかず、またウリエルの炎のせいで前側がボロボロ、とても奇妙な格好となっている。なんか予備の服とか持っておけばよかったな。今度からは気をつけよう。また、俺の隣には明らかにただのNPCでは無いような雰囲気を纏っているモモがいる。角と目を隠しているので流石に悪魔だとはバレないだろうが、普通に美人なので目をとても引く。なるべく人通りの少ない道を選んだつもりだが、ここは王都、余程の裏道などに行かないと人っ子1人いないということはなく、奇妙なものを見るような、実際に奇妙な2人組になっているので変な目で見られた。高級地に行く時は前にも通行証を見せた人だったので、事なきを得たが初対面だったら、通行証があっても通れたかどうか。そんなこんなで謎の試行錯誤をしたが、無事に屋敷に着くことができた。クルトには悪いが、まあ形あるものはいつか壊れるので新しいものを作ってもらおう。
「随分といいところに住んでるんだねぇ、探索者が住むには結構苦労したんじゃないのかい?」
「いや苦労したというか……」
なんか女の子助けたら王女がいて別の王女にキルされて詫びに貰っただけだからな、なんかとんとん拍子に貰うことになったとあらましを説明すると愉快そうな感じで笑っていた。これは経緯が面白かったのか、俺が振り回されていたのが面白かったのか……いまいち性格が分からないな、悪魔だからなーどういうタイプの設定なのか、まあ後々でいっか。門を開け敷地内へと入る。屋敷の中へ入ると談話室代わりにしている客室から話し声が聞こえる……あれ、ショウもいるのか、まあたまに来てるからな、部屋も決めてくつろいでたりするからたまたまか。クルト達もいるみたいだし一度に話せるから面倒がなくていいか。
「ただいま〜」
「あ、お帰り、お邪魔してる……よ……?」
「え、どうしたんですか!?」
そりゃあ驚くか、こんな格好だもんな。しかしまだ驚くようなことはあるんだよなあ。
「え、えっとコウさん、その方は……?」
ん、あれもう出てきてる。まあ打ち合わせしたわけでもないししょうがないか。
「七大罪の悪魔が1人、アスモデウスだよ。コウと契約としたからよろしくね。外だとアスモデウスだと面倒だからモモと呼んでくれるとありがたいね」
「あー、そんな感じです。仲良くねー……」
思いっきり自分で悪魔って言っちゃったよ……この中に勝手に言いふらす人はいないと思うけどちょっと早計じゃない?あ、ショウの空いた口が塞がってない、ウケる。おーい、間抜け面のままですよ。とりあえず口を閉めたらどうですかー。あれ、コトネさんどうしたの?
「だ、誰ですかこの人!?あ、悪魔って大丈夫なんですか!?」
ぐへっ、服掴んで振らないで……ボロボロなせいで普通より大きく振られるから脳味噌揺れる。そうか、俺がユニーク的な要素を見つけてきたから驚いたのかな?ゲームをしてればそりゃあ特殊なものを見つけたいという気持ちは分かるが……その、いつまで振っているんですか?ちょっと気持ち悪くなってきた気がする……
「ちょ、ちょっとコトネさん気持ちはわかるけどその辺で」
「え、あ!す、すみません……」
「へえ、なるほど……」
立ち直ったショウのおかげでなんとか解放された。さ、三半規管が……これはシステムなのか錯覚なのか、どちらにしろ少し気持ち悪くなってしまった。あとモモは何がなるほどなんだ?
「さてコウ……洗いざらい説明してもらおうか……」
おっとショウ、怖い顔だよ、リラックスリラックス……驚きすぎて色々オーバーフローしたか?ちょっといきなりすぎたかな……まあショウだしいっか。とりあえず格好が格好なので、アゲハに間に合わせの服を貰い着替える。集めた素材も倉庫に置き談話室兼客室戻る。飲み物を貰い落ち着いたところでガブリエルとの戦闘やウリエルの登場など、これまでの経緯を話した。ショウは最初素材が台無しになったところで笑ったがその後は死んだような目になっていたのでざまぁ。他の3人は終始驚いていて、ある意味普通の反応だったのでありがたいというかなんというか。モモの補足もあり、割と簡潔に話すことができた。ショウは後半はもう黙りこくってたなあ。
「とまあ、大体こんな事がありました」
「すごい事があったんですね……装備があまり役に立たなかったようですみません」
「いやいや、戦っている事自体おかしいからしょうがないよ。装備そのままの俺が悪いんだし」
実際ガブリエルの攻撃力だと生半可な装備だとほとんど意味がないし、俺は籠手はつけてなかったが、下手なものだとウリエルの熱で更に酷いことになってそうだからな。そもそも固定して会えるわけじゃないから万全のの状態じゃなくてもしょうがないし、新しい装備のための素材集めの時だったからなあ、ある意味ちょうど良かったのか……?
「……天使に悪魔ねぇ……下位の悪魔なら倒したことあるけど、天使は歴史に出てきたぐらいしか情報がないからなあ……」
ショウが再起動した。ショウによるとプレイヤー側全体の認識としては、悪魔はレッサーデーモンというモンスターとたまに遭遇するらしく、それは近くで何かよからぬことを考えていてクエストのきっかけになるみたいだ。ショウも何回か経験したらしく。内容は悪魔らしく質の悪いものが多かったとか。そういや悪魔の上下関係ってどうなっているのかモモに聞いたところ
「下位の連中は知能が低いから大した命令は聞けないし、そもそも命令って言っても力でいうことを聞かす感じだからねぇ……中位、上位の連中が徒党を組むことはあっても私ら七大罪……最上位は基本使わないね。そも悪魔は対立したら基本殺し合いだし」
だそうだ。うん、結構イメージ通りだな。強さを問わず、どの悪魔も我が強いらしく、群れになっても、下剋上や内ゲバも日常茶飯事だとか。なんとか上手くいった連中がクエストで現れたりするのか。後は天使に関してだが、情報はほとんどないらしい。言わずもがなコトネさんやクルト達もこのゲームで存在することは知らないみたいだし、ショウもこの世界の創世記みたいなもので存在が仄めかされた、ぐらいしか知らないそうだ。昔栄えた文明が滅びるときに羽の生えた人、という記録があったらしいがそれが天使かどうかは分からないという。思ったより情報が少なかった。俺が遭遇したのはある意味運が良かったのか……何か暗躍してる雰囲気だったしな。あと「アルカディア」についても聞いてみたが初耳だそうで、俺と同じタイトル回収ぐらいしか思いつかないそうだ。モモに聞いてみたが、めっちゃなんか知ってそうな雰囲気で知らないと答えた。ポーカーフェイスって知ってる?まあ、そんなわけで話も終わった。俺とショウが話している間に横で女子会が行われていたみたいで、コトネさんとアゲハとモモが仲良く話していた。もう仲良くなったのか、NPCだからなんかあるかと思っていたが、特にそういうこともなく談笑していた。
「妾が!来たのじゃーーー!」
うお、びっくりした。いきなりどうしたんだ第3王女……入ってきたのに気づかなかったな、早めに防犯装置みたいなの付けるか。あれ?お付きのメイドさんはともかく騎士団長まで。一体どうしたのだろうか?
「事前の連絡も無く急に失礼する。今回は……そこの悪魔についてだ」
……なぜバレたし。というか動き早すぎない?




