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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第十一章 始まるは人の世
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第十五話 【純潔】 前

今日は2話更新です。これは1話目です。


「まさか、あのアポロとパーティを組む事になるとはね」


「……?こちらこそ……」


「あ、普通に話せるのね、よろしく。人付き合いしないと思ってたから」


「そういえば、アポロは他所の人と結局組んだりしてなかったっけ?」


「そういえばそうですね」


 コウと出会ったのをきっかけに、コトネやショウと行動する事が起きる様になって来たが、それでも基本ソロプレイというスタンスは変わっておらず、アポロに対する他のプレイヤーのイメージはあまり変わっていなかったりする。今回組む事になったローズとアルバもそれに該当するプレイヤーだった。

 アルバは、ローズが率いるクランのメンバーである。サブクランリーダーなどの、役職があるプレイヤーではないが、ローズのパーティには必ず入る古株、実力のあるプレイヤーである。ローズと同じく魔法職で、系統は闇だ。


「ショウさんは、結構な回数組んだ事があるとか?」


「そうだね、まあサービス開始辺りでみんな初心者だった時だけどね」


「いやいや、ショウさんは上手いから随分お世話になりましたよ」


 交友関係がやたら広いショウは、もちろんアルバムとも面識があった。人となりを知っているぐらいには関わっていた様で、今回パーティを組む時にもすんなり打ち解けていた。


「それで……ベルフェゴールの能力は範囲デバフだっけ?あんまり効かないって聞いてるけど」


「……」


「……ちょっと?」


「あー、モンスター相手にはよく効きますけどね。天使相手だとどうも……予定のアレが来れば切り替わるので大丈夫だと……そうだよね?」


「合ってるよ、マスター」


「……はぁ、まあ確認出来たから良いけど」


 ローズの呼びかけには答えず、ショウが話しかける事によってやっとベルフェゴールは起きた。この後の戦闘への参加意思は確認出来ているものの、こうギリギリまで寝ていると不安になるのも仕方がない。

 関わった時間が長いショウやアポロからすれば慣れたものだが、ローズとアルバ気が気でなかったりする。自分達の所だけ残念ながら負けましたとなってしまっては、立つ瀬がないどころか、後々のプレイにも影響が出るだろう。とりあえず他のクランに舐められる。


「あ、あそこ……でしょうか」


「意外と早く着いたね。ベル……」


「分かってる」


 先に見える、やけに明るそうな部屋へと全員が走る。

 辿り着いたそこは、多数の平面で構成された、球に近い多面体の構造をした部屋だった。中心には1人の銀髪の男が何の変哲も無い木の椅子に座りながら豪華な装飾の本を開いていた。


「チッ、侵入者が来たというから、待ち構えてみれば……よりにもよってベルフェゴールか」


 コウがいれば、カシエルとはまた違う感じで神経質そうだなと感じそうな表情でその男は眉を顰める。

 眼鏡をかけてはいるが、天使に視力の矯正器具が必要になるはずもなく、伊達メガネなのは一目瞭然だ。

 そして、話しかけられた張本人であるベルフェゴールは、直前まで起きていたはずなのにぐっすりと寝ていた。


「ちょ、ちょっとベル……!色々もう……起きて起きて!」


「……はっ!?ごめん、本当に寝てた」


 どうやら、わざとでは無く本当にうっかり寝ていた様だ。他のメンバーも思わず呆れている上に、天使への挑発にも若干なっている。


「……だから、あの手の、相手は、嫌なんだ……!」


「あ、もうキレてる……」


「だ、大丈夫ですかね」


 ローズとアルバの顔が引き攣り始めた。ここで、先行きを不安な思っていないのは男の一挙手一動足に気を払っているアポロぐらいだ。

 ベルフェゴールは手で目を擦った後、辺りを見回し、最後に前を、部屋の中心にいる男を視認した。


「あ、ラグエル。久しぶり、相変わらず自分で寿命削ってそうな面だね」


「このっ……」


「ああ、もう……」


 空気を読まないベルフェゴールの発言に、思わずショウは空を仰いだ。ラグエルに至っては、空いている手で顔を覆っている。


「ごめんね、マスター。じゃあ降りるよ」


「あ、うん……ローズさん達もごめんね」


「いや、別に良いわよ」


「気を引き締め直さないとですね」


 ローズは左手に杖を構え、右手は腰に刺している剣へと手をかける。アルバもいつでも魔法を発動出来るように準備し始めた。アポロは、合図さえあればいつでもラグエルに肉薄出来そうな体勢である。


「……これだけ経っても何も変わらん奴だ。これ以上は無駄話か。では、こちらも切り替えるとしよう。『フトゥールム』」


 そう言うと、ラグエルは懐から小ぶりのナイフを何本も取り出し、持っていた本を開いた。


「【抜刀】」


「ふむ」


 戦闘体勢だと判断したアポロは、迷いなくラグエルへと距離を詰めた。並大抵のプレイヤーなら反応も出来ずに斬られるであろう一撃を、ラグエルは予め分かっていたかのように軽々と避けた。

 追撃しようとするアポロだったが、その時には頭上に迫るナイフが落ちてきていた。ラグエルはいつ投げたのか、それを思考する前に防ごうとするが、流石のアポロでも間に合わない。

 しかし、横から飛んできた小さな火球によってナイフの軌道は逸れ、アポロの頰を掠めるだけに済んだ。


「アポロさーん、気をつけてねー?」


「……助かりました。すみません」


「いや、その為のパーティだからね」


 火球を放ったのはローズ。小さなナイフをアポロに干渉せずに魔法で逸らすのは流石魔法職トップクランのリーダーと言うべきか。

 ただまあ、本人のスタイルは大分異質なものだが。これからそれを示すかの様に、ローズは長剣を抜いた。


「ここに来るだけあって、このぐらいでは死なんか。もう少し増やすとしよう」


「今度は、避けて見せましょう……!」


 何本あるのか、ラグエルは大量のナイフを手元に浮かせた。そこから発射したりは出来ない様だが、左手を少し動かすだけでありとあらゆる方向に飛んでいく時点で厄介この上ない。


「ベル、能力は?」


「かけてるよ。多少効いてる……多少」


「そう……じゃあ待つしかないね」


「そうみたいね。それじゃ、私も行ってくるわ」


「気をつけて下さいね」


「分かってるわよ。アルバもね」


 ショウは後衛2人を守り、万が一は前衛の身代わりが役割だ……今の所は。

 そして、後衛が2人という事は、ローズは前衛である。前に出る魔法職は無くもない。しかし更に異質なのは杖による魔法と剣を同時に扱う、曲芸紛いのスタイルである事だ。

 普通ならまともな戦闘も出来ないだろうが、ローズはクランリーダー、完璧にスタイルを完成させていた。


「ふっ!」


「……面妖だな」


 魔法と剣が飛んでくるそれを、誰だろうと初見は驚く様なスタイルをラグエルは特に驚きもせずに軽々と避けていく。アポロとの連携も徐々に手際良くなっていてもそれは変わらなかった。

 更には、あらゆる方向から身体に吸い寄せられているみたいに飛んでくるナイフが前衛2人に傷をつけていく。この部屋の壁は特殊な材質でできている様で、投げたナイフが鏡に反射する光の様に綺麗に跳ね返っていっているのだ。その為、ラグエルが投げたナイフを1回避けただけでは油断は出来ず、反射する方向を常に見極めておかねばならない。

 もちろんそれはショウ達にも飛んでくるので、誰1人気が抜けない状態となっている。あのベルフェゴールでさえ、避ける動きをしている。

 アルバも闇系統の魔法でラグエルの動きを封じようと集中している。だが、全て見計らっている様なラグエルには当たらない。


「……チッ、聞いてたけど本当に面倒ね、予測能力とやらは。クソゲー」


「悉く避けられるのは、些か自信を無くしそうですね」


「あなたの場合は、大体一太刀で斬り伏せるでしょうからねー……」


「無駄話をする余裕があるだけ、お前らは優秀だぞ?探索者とやらも中々やるのがいる」


「……?天使は私達を外来種って呼ぶとか聞いたけど?」


「おっと、そうだった。忘れてくれ」


「雑ね」


 談笑をしている様に感じられなくもない会話だが、その実は激しい戦闘の最中だ。数多のナイフや様々な属性の魔法が飛び交い、剣の軌跡が部屋を彩っている。この部屋は魔法は反射しないらしく、そこは複雑さが増さないだけ楽かもしれない。

 アポロとローズは慣れてきたのか、ナイフによる傷が増える事が無くなってきた。それにはラグエルも当然気づいており、眉間の皺が増えてきていた。


「膠着か。舐めていたな……長期戦は好みでない。状況を崩すとしようか」


「……ッ!」


「【純潔(ラグエル)】」


 ラグエルの右手にある本が光る。その本が神器であり、予測能力の根源だった。

 ラグエルは更に懐からチェーンがメインのアクセサリーのような物を取り出し、左腕に巻きつけた。


「さて、改めて始めよう」


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