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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第十一章 始まるは人の世
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第十話 【幽冥】 前

今日は2話更新です。これは1話目です。


 白い通路を走る足音が5つ。4つは人によるものだが、1つは違う。この中で唯一直接戦闘が出来ないタルは、炎を纏った馬のモンスターに乗っているためだ。

 また、タルの両肩には梟と烏のモンスターが乗っている。梟はデバフ役、烏はバフ役だ。タル以外は全員攻撃系、サタナエルに関してはタンクが近いのだろうが、何にせよメンバーが偏りすぎている。

 そもそも、集まったメンバーが割と偏っていたりする。純粋な回復役はコトネだけだったりする。


「そっちは楽そうだねぇ」


「わ、私じゃ皆さんには追いつけないのでー……」


「これから連携しなくちゃいけない時に怖がらせないでよ」


「威圧しているつもりは無いんだけどねぇ……?」


「こ、怖がってはいませんけどー……」


 カリファのフォローをしているつもりなのだろうが、タルの顔は若干引き攣っており、大した効果は無さそうだ。

 前提として、タルとカリファの接点はこれまで皆無だった。契約者同士で集まった時も会話は当然無かった。相手は有名PKであり、いきなり同じメンバーで協力しろと言われても大抵は恐縮するものである。

 ちなみに、ついて来ている悪魔2人は特にフォローをするつもりは無い。レヴィアタンは関わりたくないため、サタナエルはこの後の戦闘1回のためにマスターと特に知らない人物の仲を取り持つ必要は無いと考えているためである。相手は探索者と言えど、犯罪者扱いとなっているため、この先関わらないと判断していた。


「んー……まあ良いか。それにしても、アンネは良く間に合ったもんだ」


「大変だったわよ……でも講義休んだ甲斐はあったわ」


 カリファの話題作りは失敗。状況が状況のために割と気を使っていたのだが、有名PKのイメージは割とどうにもならなかった。

 しょうがないので、プレイ開始時どころか、小学生からの友人であるアンネとの話に切り替える。

 アンネは1週間前までジョブは『弓聖』だった。しかし今の彼女のジョブは『弓王』となっている。この1週間、大学の講義を休んでまでレベル上げに明け暮れた成果である。ただその反動で若干寝不足であったりするのはどうなのか。


「本当に大丈夫なのかしら……」


「何か言った?」


「いや、別に……」


 カリファに弱いのは知っていたが、補佐の探索者にまで弱いのかと、サタナエルは溜息を吐く。


「マスターは、アレは用意出来ているんだろう?」


「うん、イプシロンさん達のおかげでね。大分貴重というか、コスパが合わないんだけどねー……」


 そういって袖を捲ったタルの腕には括り付けられた藁人形。すぐに袖を元に戻したが、そこに不気味なそれがあるのは変わらない。切り札という程でも無いそれは、あまり役に立たない方が良いとサタナエルは思案する。

 更に数分もすれば、天使がいる場所へと着いた。


「変な部屋だねぇ。そしてアレが……」


「サリエルね」


 辿り着いた部屋は、とにかく白く、だだっ広い。戦闘に十分な広さなのはありがたいとしても、それは相手にとっても同じである。

 そしてその相手は、部屋の中心で大鎌を抱えながら蹲っている。服装は話に聞いている天使の格好と同じで、翼ももちろん生えていた。そも、こんな場所におり、レヴィアタンが断定している時点で確定である。


「アレは攻撃しても良いのかい?」


「……一応聞くけど、あれ、隙だらけに見える?」


「見えないね」


「……なんだ、そのまま来れば良かったのに。そしたら1撃で首を刎ねて上げたんだけど」


「性格悪そうね」


「実際悪いわよ。久しぶりね、サリエル」


 蹲っていた青年は顔を上げていきなり毒を吐いた。無造作に伸びた紫色の髪、目には多少だが隈も見え、不健康そうに見える。持っているのが大鎌だけに、天使よりかは死神の様に見える。もちろん、翼が生えていなければの話だが。


「ふん、地に堕ちた悪魔と話す事なんて無いよ。僕なんかに2人も当てるようじゃ、たかが知れるしね」


「相変わらず……一応言っておくと、ルシファーがついているんだから阿呆な訳ないでしょ」


「さあ、どうだか……そろそろ仕事をしようか。侵入者は片付けないとね」


 そう言って、怠そうにサリエルは立ち上がる。そして鎌を構えてレヴィアタンとサタナエルを見据える。


「こっちを見ないのは若干腹立つねぇ……サリエルは腐食付き、大技確率即死の鎌と、麻痺の魔眼だっけ?」


「聞いている話だとそうですね。即死は身体に食らわなければ大丈夫だそうです」


「なら、大丈夫か。どうせなら1番早くに倒したいもんだ」


「舐めてかからないでよ……?」


「分かってる分かってる」


 サリエルを挑発するかの様にカリファがサリエルの能力の確認をする。

 基本的に悪魔と天使はお互いに能力を詳細に把握している訳では無い。概要は分かっていても、元々天使と悪魔で話し合う様な中では無かった。

 そういう意味では、アスモデウス、現クローナ、ウリエルは特殊と言えるだろう。話すといえば、ラミエルとマモンもそうだが、あれらは別の意味で特殊なので能力を把握しているのはラミエル側のみだ。

 なので対策は難しいと言える状態だったのだが、そこはほぼお助けキャラ扱いのルシファーが何とかした。ミカエル以外の天使の能力の原理を把握しているので対策は可能、完全とはいかないまでも出来うる限り差を埋める事が出来た。

 そして、挑発を受けたサリエル。敵側の天使は総じてプレイヤー……探索者を下に見ている。その為、サリエルが脅威と認めていたのはレヴィアタンとサタナエルのみであり……見下している相手から勝つ前提の発言をされるとなると。


「……外来種が。すぐに首を斬り落としてやる」


「やってみなァ!」


 カリファが大剣を構える。サリエルは直線的にカリファへと向かい、鎌を振り下ろす。そのスピードはAGI特化のプレイヤーと比肩しても速いと言えるものだったが、あまりにも直線的だったせいでカリファに難なく避けられた。


「チッ」


「【ディケイブースト】!」


「食らうか、そんなもん」


 カリファが横薙に大剣を振るう。だが予想通りというか、サリエルもそれを難なく避ける。

 避けた先には、アンネが射った矢と迫るサタナエル。サリエルは矢を鎌で弾き、光る目でサタナエルを視認する。


「ぐっ、そう簡単には近寄らせないか」


「当たり前でしょ……鬱陶しいな」


 サタナエルの動きが止まる。サリエルの魔眼による麻痺であるが、見続けないとその効果は数秒程しか続かない。

 アンネの矢による攻撃は続き、サリエルの動きを制限する。そのおかげでサリエルの視線はサタナエルから逸れた。

 『弓王』になり、武器も新調した事でアンネの連射性能は格段に上がっている。講義をサボった甲斐はあったという訳だ。


「私も働かないと……レーちゃん、オーちゃん、よろしくね」


「カァ」


「……」


 タルの肩に乗った2羽が翼を広げ、パーティメンバーにバフを、サリエルにデバフをかける。バフはともかく、デバフに関しては効果があるかどうかはといったレベルであるが、するに越したことは無い。

 タルが乗っている炎馬に関しては、本人のフィジカルに関するステータスが低いのを補う役割なので、攻撃性能は高いが攻撃に加わる事は基本的に無い。


「ああもう、ウザったい……!」


「私も加わるから、精々イライラしてね……!」


 レヴィアタンが手から水弾を放ち、サリエルの妨害が増える。アンネと連携する事で、その効果は更に上がり、サリエルのスピードを活かす機会が無くなっていく。

 カリファの攻撃は素早いものでは無い。しかし2人の妨害、アタッカーでもあるサタナエルと連携すれば、徐々に掠るぐらいはしてくる。魔眼に関してはサタナエルと役割をスイッチすれば致命傷を避けられる。


「そうら!」


「くそっ、『キルクルス』」


「おっと……!?」


 カリファの振るう大剣を避け、サリエルは円を描くように鎌を振るう。カリファはその攻撃を避けたつもりだったが、鎌に黒いオーラのようなものが纏われている事により攻撃範囲が広がり、装備の端が切れた。


「危ない危ない……レヴィアタン!さっさと本気を出しな、足りない!」


「え、嫌よ!?せめて、ルシファーの作業が終わるまで……」


「さっさと、やれ」


「……はあい、使いたくないのに……」


 カリファの圧と、味方の視線に負けたのか、レヴィアタンは渋々といった風体で水弾の撃つのを止めた。

 靴を脱いだレヴィアタンは両手から水を出して、身体に纏わせ始める。耳の辺りから木の枝の様な角が生え始め、首や手の甲には魚の様な鱗が現れた。手と足の指の先には水で出来た鋭い爪が構成され、さっきとは打って変わった雰囲気となった。


「はあ……憂鬱だわ」


「格好良いと思うけど?」


「私は思わないのよ……」


 自分が持つ能力が、その人物の好みに合わないという事はあり得なくもない。レヴィアタンはそれに当たるパターンの様で、精強そうな見た目とは反比例して気分が下がっている。


「ああ、ガブリエルの猿真似か」


「せめて劣化品って言って欲しいわね……いやどっちも嫌だけど。まあなったからには……行くわよっ!」


 サリエルの最初の攻撃に迫るスピードで迫るレヴィアタン。スペックは完全に近接型へと移行し、これでアタッカーは3人となった。

 能力のメインが水を扱う事から、天使からガブリエルの劣化版と揶揄されたレヴィアタンだが、そもそもレヴィアタンの能力は外部の水を扱う事では無い。レヴィアタンの身体能力の強化は体内の水分を操作する事が原因であり、また相手の体内の水分を操作する事も出来る為、能力としては中々に凶悪である。ここで問題なのは、相手の水分操作が天使や悪魔に効かない為、比較的派手なガブリエルに見劣りするせいで劣化版と見られてしまった事であった。


「はあっ!」


「ぐっ……」


 サリエルは鎌で攻撃を防ぎはするが、今は膂力は若干レヴィアタンが上回るので押され始める。そして横からはカリファとサタナエルが迫る。


「【オーヴァードライブ】!」


「オオッ!」


「ああ……面倒臭い……!『キルクルス・セカーレ』!」


 サリエルは魔眼を発動して、レヴィアタンの動きを止める。その間に鎌を縦に回して斬撃を放ち2人を牽制するが、カリファは多少勢いを失っても止まりはしなかった。


「そらァ!」


「ガッ……ハッ」


 鎌で受け止めたと言えど、その衝撃は凄まじく、サリエルは少なくないダメージを受けた。

 牽制の斬撃を受けたサタナエルの方は、胴体に斬り傷を付けられたが、持ち前の再生能力で既に殆ど回復している。


「流石にこれじゃあ倒せないか」


「欲張り過ぎでしょ」


「ほら、さっさと追撃しないと」


「待ちな……ほら」


「え、ああ……」


 レヴィアタンが追撃しようと構えるが、カリファによって止められる。何故止めるのかと眉を顰めたレヴィアタンだったが、サリエルの様子を再確認すると納得した様だった。


「どいつもこいつも……クソが……【幽冥(サリエル)】」


「来たねぇ……さて、間に合うと良いけど」


「ルシファーなら大丈夫でしょ」


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