第六話 その力は圧倒的で
「改めて確認だけど……一撃でも当てられたら良いんだよね?」
「ああ、そちらの攻撃が1度でも当たれば良しとする」
「当たれば……?」
「当たれば、だな」
イプシロンさんの質問に対し、ルシファーが毅然とした態度で答える。
何とも傲慢の悪魔らしい条件だ……と思ったが、思い返せば俺の時も刀は掴まれたが、攻撃が当たった覚えは無い。仮に6人相手でも問題は無いぐらいなのだろう。
「……やっぱり少しぐらい作戦会議しておけば良かったかな?」
「いや試しなんですから別に良いでしょ」
「負けるのは気に食わないけどねぇ」
「大丈夫かしらー……」
タルさんが不安そうだな、まあテイムモンスター1匹だけだからしょうがない。この急拵えのメンバーでどこまで行けるのか。
「さて準備は良いか?今度はこちらから仕掛けるぞ」
「え、コトネさんバフを、タルさんもデバフお願いね」
「はっ、はい」
「分かりましたー」
イプシロンさんの指示で、2人とも行動を開始する。タルさんはともかく、コトネさんのバフは本職に比べれば微々たる効果しかない。しかし無いよりはマシなのでMPの無駄という事はない。
「では……行くぞ」
「えっ、【ストッ】、がっ」
「速……【聖騎剣】!」
「【貫牙剣】!【抜刀】!」
「【オーヴァードライブ】!」
ルシファーが構えた途端、全身からオーラの様なエフェクトが溢れ始めた。そして気づいた時には、ショウの頭蓋が砕かれていた。反射的にスキルを発動しようとしていたのは流石としか言えないが、仮に発動できたとしても防げていたのか。
俺とイプシロンさんはエクストラスキルを発動、カリファも持てる最大攻撃で3方向から攻撃を仕掛ける。
当たりさえすれば良いのだ。誰か1人だけでもと思ったが、全てあえなく避けられ、次にルシファーを視認した時にはイプシロンの頭が握りつぶされていた。アレ、感覚どうなってるのかな。
「【朧流し】!」
「ぬっ、またか」
嫌な予感がしたので、勘でスキルを発動する。
どうやら受け流す事に成功はしたみたいだ。【貫牙剣】を発動していたおかげか、耐久値は大分減ったにしても刀は折れていない。刃には当たっていなかった様で攻撃判定は無かったみたいだ。
「ならばこちらからだ」
「そう簡た……ぐっ、ばっ」
すぐさま標的をカリファに変更したルシファーは、まず武器を持った手を握りつぶした後、頭を打ち砕いた。
「誰も彼も一撃で……!」
「このぐらいは対応してもらわんとな」
「できっ……!」
今度は勘は当たらず、普通に頭を握り潰された。これで死亡……結局何も出来ずか。
「あ、来た」
「あー、何も出来なかった」
「まあそうだよねー」
本日2回目、最寄りの教会である。イプシロンさんが教会にいるのは目立つのでは無いかと思ったが、そこは色々手を回しているらしい。あ、カリファはもう既に脱出したとか。
「後はコトネさんとタルさんか」
「まああの2人は来ないんじゃない?本人に戦闘能力無いから降参した方が……」
「あ、皆さん」
「来た」
噂をすれば。最初にコトネさんが来て、10秒も経たずにタルさんも来た。
どうやら、降参は進められたが何もしないというのもアレなので攻撃を試してはみたらしい。まあ結果はここに来ている時点で丸分かりだ。
「無茶をするね……」
「まあ一応ですね」
「タルさんのテイムモンスターは?」
「あっちに残った人が預かってくれているよー」
「まあ惨敗だけど……とりあえず戻ろうか。今度はちゃんと作戦を練らないとね」
「了解」
イプシロンの号令で、再び隠れ家へと向かう。何回目で達成出来るのやら。
タルが死んで、消えていった直後。
「随分と意地が悪いじゃないか。わざわざ複数で挑ませるなんてね」
「それ以上言うな、アスモデウス。聞いている奴も遠慮なく話す奴も居るだろう」
ルシファーが目を向ける先には、先の戦闘に参加していなかったワテルやイプシロンのパーティメンバー、カリファについていたアンネがいる。
わざわざ話している事だ、大体のプレイヤー、特にワテルは端から見ても分かるぐらいには聞き耳を立てている。
それに、ベルフェゴールはマスターの為、ベルゼバブはまともな状況で食事をする為に自分の知っている事はバラすだろう。レヴィアタンやサタナエルは……自分のマスターなら気づくだろうという感じだろう。
「言われなくてもこれ以上は言わない……いや、知らないから言い様が無いさ。そもそもこれぐらいならすぐに分かるだろうね」
ただ問題はルシファーの能力の詳細を誰も知らない事だ。相手をする人数が多くなればなるほど力が増す事ぐらいは知っている者もいる。しかし、1人でもその力は強大、仕掛けが分からない限り攻略は難しい。
「そうでなくては困る。今日明日にでも一撃を当ててもらわねば、天使共を倒す事など叶わん。期限はそう無いだろうからな」
ルシファーの発言にプレイヤーが固まっている辺りが若干騒がしくなる。時限付きであれば、その為の準備や他の提携クラン、そもそも知らないプレイヤーへの調整が一段とハードなものになる。不特定多数が納得できる状況で事を起こし、また解決しないと秘匿した意味が無い。というか、何でこんな体験できる人数が限られる仕様にしたんだと思うプレイヤーもいたりする。
「それはそうだろうけどねぇ……試練を与えるのは良いけど、その後は?手筈ぐらい無いんじゃ、格好つけてるのが台無しだけど」
「格好をつけてるつもりは無い。そも人手があれば、いつでも乗り込むぐらいは可能だからな。大分待たされたが」
「……?ああ、くすねたのかい。見た目に似合わず手癖が悪い」
「先を見越していたと言え。そもそもバレない様にしたのはアルカディアだ」
「あの時でも多少は動けたんだねぇ」
「まさに最後の力と言うべきだろうがな……そろそろ戻ってくる。もう良いか?」
「ああ。一通り聞けたから良いさ。後は……マスター達を信じるぐらいだねぇ」
アスモデウスは若干物足りない、しかし満足気に息を吐く。
ルシファーの課す課題に介入はできない。だが今まで大体何とかしてきた探索者達なら何とかなるだろうと考えた。
「アスモデウスお姉様は何を……?というかルシファーは……」
「あの男は説明をしないだけで、最善の道を普通に歩いていますからね。まあ大丈夫でしょう」
「お姉様がそう言うなら……」
ウリエルは話についていけていない。もちろんクローナも全てを理解した訳では無い。ただ今までの信用が疑問を横に置いておくぐらいの事はさせるだろう。話に参加していない悪魔も同様……大して行末を気にしていない者も、そもそもこの場にいない者もいるが。マモンは運が悪いとしか言い様が無い。
「……これ伝えます?」
「そりゃ伝えるとも……結局何だか分からないけどね」
「具体的な事を言ってくれないんだもんなあ」
「周りの悪魔も知らないみたいだしな」
そして、この場の天使と悪魔以上に置いてけぼりなプレイヤー達。会話は十分に聞こえていたが、アバウト過ぎて考察どころか予想も出来ない。まあ聞けただけ良しとして、今はルシファーへの対策を考える。端から見ていた者として、早急に攻略法を考え付かねば来た意味が無い。イプシロン達が戻ってくる前に、なるべく話をまとめようと議論を加速させていく。
なお、アンネは1人だけPKなのでとても居心地が悪い。キルした覚えのある顔があるので更に悪い。あっちも覚えがあるのかこっち見てるし。レヴィアタンは自業自得とか言いそうだから助けてくれないだろうし。早く帰ってこいカリファ……というか帰って良い?いらないよね私。




