第二十七話 探索者と悪魔、天使と天使、?と?
目を覚ますとそこは手に入れた屋敷の部屋のベッドの上ではなく天使と戦ったフィールドだった。あれ、流石にデスペナに、なったと思ったんだけどな。
「おや、起きたかい?探索者はポーションぶっかけただけでほとんど治るから便利だねぇ」
確かに全回復とはいかないまでも半分ぐらいは回復して体も動くようになっている。プレイヤーだから火傷とかは流石に残らないか。まあ残らなくていいけど……というか、あれ、俺今膝枕されてる?何この状況?そんな好感度高かったっけ?いや高かったとしてもこの状況になるのか?……分からん、ヘルプミー、ショウ!お前、幼馴染いるだ……いや、あいつの場合それはないか。チッ、役に立たねえな。
「あ、ポーション勝手に使わせてもらったけどよかったかい?死んでも復活するのは知ってるけど、探索者の価値観は知らないからねぇ」
まあ、デスペナになるよりはいいか。どうせ無駄に多く買ったポーションだから使い切っても問題ないし、さっきの特攻の方が無駄遣いな気がするし……え?
「どうやってポーション出した?」
いくつか出してたっけ?いや、出した途端に被ってたし、やられた時はウィンドウ操作出来なかったし……物理的にしまってるわけでもないし。
「え?あ、あー……盗んじゃった」
「盗んだァ!?」
「『ピルファー』っいう魔法でね、金銭的価値が低いものなら参照して盗めるのさ、触れてないと無理だけど」
限定的だけどめっちゃ便利じゃね、ウィンドウ確認したら何個か減ってるわ。その魔法は参照と言っても盗める対象になる価値のアイテムがリストで見えるだけで、相手の持ち物全てを見れるわけではないらしい。その盗める対象も俺が持っているポーションでギリギリと言ったところで、本当に大したものは盗めないようだ。ちなみに魔術士系統の魔法ではなくイメージ通り盗賊系統派生の怪盗のジョブスキルだそうで……魔法なら本当にほとんど使えるのね。アスモデウスは回復魔法が使えないのでちょくちょく探索者などから盗んでいたそうだ。
「まあポーションだから良いけど……盗むのはやめた方がいいぞ、悪魔に言うのもどうかと思うが」
「そうだねぇ、人間の評価はどうでもいいけど……契約者の評判にかかわるなら自重しておこうか」
……ますたあ?マスターってほら、主従関係みたいな……いやそんなことをいわれる筋合いは……なんか嫌な予感がする。
Name:コウ
Level:45
Main job:武士
Sub job:剣士
HP(体力):10000
MP(魔力):480
SP(技力):860
STR(筋力):870(913)
VIT(耐久力):560
AGI(敏捷):1290(1419)
DEX(器用):890
INT(知力):100
LUC(幸運):150
スキル
ジョブ:【抜刀】【朧流し】
汎用:【鑑定Lv.5】【採集Lv.3】
Exスキル
【貫牙剣】
武器:黒刀二号
所持金:59745680G
称号:[Exモンスター討伐者][駆け出し探索者][邂逅者][大罪契約者(色欲)]
なんか称号増えてるー。もうがっつりユニークな感じの称号増えてる〜。(色欲)になっている時点でほかの6つがあるのは確定じゃん。こういうのって両者の同意とか必要なんじゃないの?俺、システムのせいで意識なかったんだけど。てか邂逅者って……ああ、天使とエンカウントしたからね、そういうこと。契約者かー、これ、秘匿してるプレイヤー絶対いるだろうな、特に古参勢。1人ぐらいいるんじゃないか?こうなった以上考えても仕方ないけどなあ……ショウとかにどう説明しようか。プレイヤー側だと天使とか悪魔ってどこまで知られてんのかな。
「あ、そういえばお前、角と目……」
「人間の町に行くのなら隠した方がいいだろう?あとどうせなら名前で呼んでほしいね」
名前……?いやアスモデウスだと普通にバレないか?NPCだとアスモデウスって名前知ってるのかな、一応偽名とか……あっ、偽名はダメ、略称ならギリ?俺にネーミングセンスを問うのか。
「俺よりネーミングセンス良い人いるけど」
「出来うる限りマスターがいいかなぁ?」
俺かあ。ああ、自分で考えるとか……無言の圧力、はい、ガンバリマス。えー……うーん、アス、アスモ、モデウ、ウス……アースーモーデーウースー……アアススモモデデウウスス……あっ
「モモとかは?」
「うーん、原型無いけど言われればなんとかもじったとは理解できるから……存在的にも個人的にも、うん、アリだね!」
アリかー、良かった〜。物ならてきとうにつけるけど人はなあ……悪魔だけど。
「あー、それじゃあ戻るか、詳細は後にしよう」
「そうだね……あ、そうだそうだ確か最初に会った時なんか素材がどうとか言ってたじゃないか、とりあえず1つずつ狩ってきたけど」
え、マジで?あ、本当だ。ちゃんとガブリエルに粉々にされたものもある!うわー、株爆上がりだわー、俺めっちゃ現金だわー。
「うわ、ありがとう、助かるわ」
「まあせっかく契約したんだ、このぐらいわね」
アスモデウスが集めてくれた素材もしまい、2人で王都へと戻って行く。いやー、これからどうなるかなあ、面倒事とか無いと良いけど。
「なぜ外来種にアルカディアのことを話した」
「おや聞こえていましたか……別にあの程度問題ないでしょう、仮に辿り着いても意味はないでしょう?」
雲のうえを2人の人物が相当な速さで飛んでいる。金髪の男は至極不愉快そうに赤髪の女に疑問を投げかけた。
「チッ、確かに我らの力があれば外来種がどれだけ集まろうと問題はないが……まあいい、報告はするぞ」
「ええ、どうぞご勝手に」
(やはり、聞こえていましたか。存在を匂わせる程度にしておいて正解でしたね……しかし、あの程度であれば多少歴史を見れば分かるはず。チッ、忌々しい。お姉様から「聖水」を簒奪しておいて偉そうに……私が止めなければアスモデウス姉も死んでいた。あの探索者がいたおかげで、ちょうどいい理由がつけられたので良かった……それにしてもどこにいるの?地表は人間の監視の名目で探し回った。海中は多分無い。となると地下……流石に探す名目が無い、アスモデウス姉がうまく探してくれるといいけど……ガブリエル姉様……)
2人の天使は更に速度を上げどこかへと飛び去っていく。その速度は凄まじく、たとえドラゴンであっても追いつけないほどに。
大きなテーブルの上に乗せられた大量の料理を灰色の髪をした色白の少年がひたすら食べている。すごい速度で料理を口に運んでいるが、不思議と下品さは無い。絶えず、フォークやスプーンなどを持ち替えその料理に合った食べ方をしているのもその原因だろう。すると、その部屋に騎士のような鎧を着た金髪碧眼の青年が入ってくる。その青年はテーブルを一瞥し、食べている少年の方を向く。
「調子はどうだい?」
「微妙。食欲がない」
「それは珍しいけど……食べてる量変わらないよね?」
「全然違う。食べてる気分が違う、ほら」
「分からないよ……それで、話って?」
「誰かは知らないけど多分契約者が現れた……かも」
青年はその少年の発言に驚いた表情を浮かべる。またいつもの食事の催促かと思っていたからだ。
「それは……やっとと言うべきか……プ、探索者?」
「さあ?この感覚自体、正確かどうか知らないし……まああてにしないでね」
「とりあえずクランメンバーに伝えて探してみるよ。友好的だといいなあ?」
「契約者はともかく他の悪魔は無理じゃない?一癖あるやつしかいないし」
君もだけどね、と青年は思ったが言っても意味が無いのでその言葉を飲み込む。その現れた契約者とやらを探す手筈を考え退出しようかと思ったが少年が後ろから声をかけた。
「この料理もう1回お願いね、話したら腹減った」
「はいはい、ミモザに言っておくよ」
結局こうなるのか、と青年はため息をつく。サービス開始から半年、いくつかのイベントはあったが世界観に関わるものは無かった。やっとこれから動き出すのかな、と青年は期待に胸を膨らませながら新たな契約者はどんなプレイヤーかと考えながら部屋を出る。すでに少年は先程と変わらない速さで料理を食べている。