第二話 出会いはあれど
なんかこう、いよいよ最後の悪魔を探しに……!的な感じになると思ったら、そんな事は無かった。
まさか全員心当たりが無いとは……よく考えたらそうだよな、何かしら接点があるなら誰かしら言っているだろうし。
プレイヤープラスシャーロットは割と絶句するレベルの発言だったので、話が止まった。認識の違いをそのままにしておくとこうなるんだなあ。
出鼻を挫かれたけれど、それならそれで方針が決められるというものだ。イプシロンさん達は気を取り直して話を再開する。
「まあとりあえず各々で探してもらう事になるね……」
「ここで人海戦術になるとは……まあ仕方ない」
「何か、いそうな場所とか分からないか?」
「さあ……山の奥とか、偏屈な場所にいるだろうとは思うけどねぇ。何処なんだか」
「そんなレベルか……」
いやまあ、今更町の中に紛れていたら、愉快な感じになるけども。それにもしそうなら悪魔の誰かというか、モモが気づいていないはずがない。クローナを探す為に町に入らずともあちこちを回っていたのだし、俺と出会った後は大抵1回は一緒に町に入ったのだ。まあ魔法やら何やらで偽装しているなら話は別……普通そうか、なら気づかなくてもしょうがないな。とりあえず何処ぞに隠れ住んでいるという事は間違いない。
「死んでいるという可能性もなくはないけどねぇ」
「いやいや縁起でもない事を……」
「その可能性は考えたくないね……」
流石に世界観に関わる重要NPCが死んでいるというのは考えたくない……いやそういう展開の可能性は否定しきれないが、普通は全員揃うものだろう。余程下手に立ち回らない限り重要NPCが死ぬなんて事は無いだろうし、まあ……多分大丈夫?早めに見つけるに越した事は無いか。
モモが不穏な事を言ったせいで、イプシロンさん達の顔も若干引き攣っている。
「ま、まあとりあえずはフィールドの奥、普段行かない様な場所を重点的に探す感じかな」
「ふむ、他の探索者に怪しまれないかの?下手に目立つと面倒な事になるかもしれんが」
「そこは大丈夫かと。我々探索者……というか、私が所属しているクランは多少奇行をしても問題無いので」
「そ、そうかの。なら良いのじゃ」
イプシロンさんの妥当な案に対し、シャーロットが目立つのではないかと懸念した。しかしワテルの返答に納得した様だった。
確かに検証クランなら多少目立つ事をしても、何かの検証かと納得されるだろうし、多少他のクランのプレイヤーが混ざっていても不自然では無い。更に言えば、現時点での方針ならフィールド探索という話で済む。とりあえず今出来る話がこれぐらいなものか。
話はこれで終わりかと思ったら、少し離れた横側でガチャンと音が鳴った。結構大きな音が鳴ったので、何だと確認してみると、ベルゼバブとサタナエルが睨み合っていた。正確にはベルゼバブが威圧し、サタナエルが何かを説明しているような。
「だから、盗ってないと言っているだろう……!」
「それ、僕の皿……!!」
「え……!?いや、それなら何故こちらに置いてあるんだ?」
「知らないけど?」
「……自分の皿ぐらい整理しておけ……!」
何かいつの間にか面倒な事に。とりあえずざっと聞いただけでもベルゼバブが悪い様な……屋敷の中の物を壊さないようにだけはして欲しいんだが。
ベルゼバブは食いながらサタナエルを睨んでいるし、サタナエルや周りの面々は暴れ出さないようにベルゼバブを宥めている……あ、皿が欠けた。というかどういう原理で欠けたんだ?ベルゼバブの前の皿が急に……あ、歯型か。そういう能力かな。
「あー、もう……あ、皿代は払うから……」
「いやまあ、あれぐらいなら……」
「ふむ、面倒な事になって来たね。そろそろ解散しましょうか?」
「そうじゃの。そちらもよろしく頼むぞ」
「分かっていますとも」
ワテルが返事を返し、一先ずの話はまとまった。
結局は地道に探すという事になった訳だが、それは大規模クランの皆さんにお任せしよう。1人2人が闇雲に探したところで見つかるはずもない。
とりあえず解散とし、後片付けを始める。シャーロットはメイドさんを連れてさっさと帰った。ワテルさんも捜索の為に情報を収集、整理する必要があるのでクラン拠点に戻った。
残ったメンバーで片付けとなるが、皿を洗ったりは結局担当の3、4人に任せる事になる。割れた皿の処分や掃除ぐらいはできるので、俺達がするのはそのぐらいだ。
「あ、コウくん。はいこれ」
「何……あ、皿代」
「一応ね。まあ大した額じゃ無いけど」
「とりあえずどうも……」
ベルゼバブが壊した皿は3枚程度。大した物は揃えていないので、本当に微々たる金額だ。ゲームとは言え、皿にそこまで代金をかけたく無かったからな。
流石にこれで遠慮するのもアレなので、素直にもらっておく。イプシロンさんぐらいのプレイヤーなら痛手には当然ならないはず。
20分もすれば片付けは終わり、イプシロンさんやカリファ、タルさんはそれぞれ自分の悪魔を連れて帰って行った。イプシロンさんについてはミモザさんも一緒だけど。
「さて、あとはどうするかな……この後は?」
「あ、私は今日はポーションを作るので……」
「僕達はちょっと用事で」
「あ、そう」
想定より話が早く終わったので、暇な時間が出来た。レベル上げという気分でも無いので、残ったメンバーに予定を尋ねる。ちなみにモモ達はさっさと上に戻った。
コトネさんは生産、まあちょくちょくこういう事はあったからいつも通り。ショウとアポロさんについては用事というか、いつもの狩りだろう。この2人というかショウにはベルフェゴールがつくので、攻守揃った3人に割り込む余地はない。
「んー……まあ探索もどきでもするか」
現在の最重要課題であるルシファーの捜索。もちろん、1人で山奥に入って見つけた……なんて事にはならないだろうから適当に町を巡るだけだ。そして、それでヒントがあるという事も無いだろう。要するに暇潰しだ。ルシファー関連じゃ無くても、何かしら発見ぐらいあるだろう。
という訳で、とりあえず最初の町アインシアへと向かう。前に来たのはいつだったか……ほぼ用事が無いので、殆ど寄り付かなかった。数ヶ月ぐらいでも意外と懐かしく感じる。
「初心者っぽいのが多い……当たり前か。何かないかな……」
大体似た感じの装備を付けて町中を歩く、多くのプレイヤー。お揃いという訳ではなく、この時点では装備を変える機会が無い。当たり前というかプレイヤー数は未だ増え続けている様で、今日から始めたプレイヤーがうようよいる。
まあそれは普通の事なので気にせず町を回っていく。しかし、そう町に変化がある訳もなく、そもそもこの町は初日に良いだけ回ったので少し歩けば大体何があったか思い出せる。
そろそろ次の町へ向かおうとすると、通りの向こうから誰かが演奏している音が聞こえる。ここで聞こえるのだから路上、しかし明らかに環境に合っていないクオリティの高さだ。誰が演奏してるのか丸わかり……というか、あのレベルが複数いたら面白いわ。
少し気になったので、音の出所へと向かう。そこは多少道幅が広くなっており、微妙に出店の数も多い。そして人の量も凄く、誰が演奏しているのか分からない状態だ。
「人が多い……」
どうあがいても演奏している当人が見えない状態。屋根に登れば見えるだろうが、流石にそれはアウト。
しょうがないので演奏が終わるまで待つ。町を回ると言っても暇潰しだから途中で終わっても問題無い。折角だから聞いていこう。
いつから演奏しているのかは分からないが、今弾いていた曲が最後の様で、演奏者が何かを言った後に周りの人が演奏者の前を通過しながらバラけていく。必然と俺もその波に従う事になり、演奏者の方へと向かって行く。
そして見えて来たのは演奏者と貨幣の山。多分缶とか置いてあったんだろうな。演奏者はやっぱりアークさんだった。
「おや、君は……聞いてくれたのかい?」
「お久しぶりです、たまたま……とりあえず後でー……」
「あ、そうだね」
人の波に抗う事はできず、そのまま流されて行く。もちろん聴いたは聴いたので、とりあえず硬貨を1枚山に付け足しておく。
多少離れれば人の波も収まるので抜け出して少し待つ。2分程経てば人は殆どいなくなり、話しかける余裕が出来た。
「こんにちは」
「改めて久しぶりだね。今日はどうしたんだい?」
「ああ、いや本当に偶々で……挨拶ぐらいはと」
「なるほどね」
知り合いといえば知り合いなのだから挨拶をしたのは良いが、結局それだけしか用件が無い。
アークさんは山積みの硬貨を袋に入れている……改めて見ても凄い量だな。
「そういえば、ツカサさんは?」
「ああ、彼女なら……ほら」
アークさんの視線の先には妻であるツカサさんの姿が。離れていただけか……まあ横にいても何だろうって感じだろうからな。
「終わったー?って、コウくんじゃない、どうしたの?」
「偶々聴いてくれたんだってさ。ちゃんと1枚投げてくれてね」
「そうなの。ありがとうね」
「いや、ちゃんと聴くとしたらもっとかかるだろうし……とりあえず挨拶しに来ただけなんで、これで」
「ああ、聴いてくれてありがとう」
「じゃあね〜」
2人と別れ、町を出る。思わぬ出会いはあったが、ルシファーに繋がるはずもない。まあ町を巡ったぐらいで見つかったら苦労しない。とりあえず適当に見て行こう。
追伸。ツェーンナットまで行ったけど、これ以上は特に何も無かった。




