表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第十章 秋だ!糧だ!豊年満作。
263/289

第二十話 闇夜に光る


 クエストの対象である吸血鬼は現れたモンスターによって丸呑みにされてしまった。ただの乱入ならまだしも、流石にそれがエクストラモンスターであるならば見逃しは出来ない。


「てか、クエストどうなってるんだ……」


「あ、クリア扱いになってます……ね?」


「どういう判定なのかな……」


 これがアリなら、アウラと遭遇した時もアリで良いんじゃないかと叫びたくなる。フィールドボスは別口なのかなあ。

 吸血鬼を丸呑みにした鴉……コロエウスは嘴を動かして余韻を楽しんでいる。闇夜によく紛れそうな純黒の羽根、体長は人1人を丸呑みにできるだけあって20メートルぐらいはありそうだ。まあ言ってしまえばただのでかい鴉だ。しかして、それだけならエクストラモンスターである必要は無い。一体どんな能力を持っているのやら。


「さて、どうする?」


「逃げるのはあり得ないだろ……」


「チャンスですね。倒せればスキルを手に入れられますし!」


 コトネさんも賛成、ショウも一応聞いただけだろうし、ウリエルはもちろん、ベルフェゴールもショウが良しと言えば付き従うだろう。


「天賦獣と戦闘を行うのは初めてですね」


「ウリエルさんもお気をつけて」


「まあ……とりあえずは探り探り行くしかないね」


「なら普通に攻めるか」


 どんな能力にせよ、使ってもらわねば分からない。それなら攻撃してみるしかないので、先陣を切ってコロエウスへと接近する。

 コロエウスは俺達が話している間、じっとこちらを注視しているだけだった。それだけでも不気味なものだが、俺が動いても避ける様なそぶりすら見せない。気味が悪いが、とりあえず攻撃はするしかない。


「【抜刀】……はあ!?」


「カア!」


 コロエウスの胴体を深く斬り裂いたはずの一撃。しかし、僅かな手応えもダメージエフェクトも発生する事無く素通りした。


「っ、【朧流し】!」


 コロエウスは攻撃後の大きな隙を晒した俺に対して嘴を突き出す。何とかこちらも体を捻り、スキルを発動して嘴をいなす。

 状況整理のために1回後退、何が何だか。


「何あれ」


「1回見ただけで聞かれても……攻撃無効化?条件付きだろうけど」


「そうなら強いですね……?ウリエルさんは何か……」


「いえ、何も……ベルフェゴールは?」


「うーん……なんかキモい」


「は?」


 手をコロエウスの方に向けてニギニギとしているベルフェゴール。コロエウスは相変わらず何もせずこちらを見て……嗤ってる?

 確かにキモいと言えばキモいかもしれないが、それは今言う事だろうか。これまたマイペースだな。


「あなたはもう少し状況を……!」


「ベル……」


「え、ち、違うよマスター。さっきから能力を使おうとしてるんだけど、そのかかりそうな感じがキモいんだって」


「え?」


「私のこれは天使だって多少は弱らせるはずなのに、アレは逆に強くなりそうなの」


 ショウの呆れた様な雰囲気に慌てたのか、ベルフェゴールが詳細を話す。デバフがバフ効果になりそうと言う話だが、それが本当ならまた見方が変わってくる。


「デバフがバフに……逆転、いや反転?確かアナウンスは「はんしょうう」……「う」は鴉だとして「はんしょう」……表記はともかく、受ける影響の反転かな?」


「どうりで、攻撃が効かないわけか。いや、効いてるのか?回復になってるだけで。という事は……倒すならポーションか、コトネさんか」


「私ですか……」


「まあとりあえず、試さないと……ねっ!」


 ショウが取り出したポーションをコロエウスへと投げつける。攻撃だと思っているのか、コロエウスは避けるそぶりは無い。ポーションはそのままコロエウスへと当たり、瓶が割れて中の液体がコロエウスへと付着する。


「カア!?」


 付着した液体は本来の効果通り生物を癒す事無く、酸性の液体かの様にコロエウスの体を蝕む。コロエウスは声を上げ、ダメージを受けた箇所を見ている。


「効いた効いた。これでまあ、何とかなるね」


「ポーションそこまで持ってないんだよなあ……頼みはコトネさんか」


「が、頑張ります」


「肉壁ぐらいにはなりますかね」


「まあそのぐらいだよね」


「死なないでくださいね……?」


「あ、私は役に立たないから」


 相手の攻撃をいなすなり、ウリエルの言う通り肉壁になるぐらいならまだ役に立つ。ショウは本職だし……ベルフェゴールはしょうがない。

 コロエウスはというと、さっきのこちらを舐め腐った表情とは打って変わって、怒髪衝天といった感じだ。もしかして自身の弱点を理解していなかったのだろうか……攻撃が効かないから無敵じゃね的な。


「あっちもやる気みたいだし……気合い入れて行こう」


「んじゃ、景気付けに1発!」


 ポーションを取り出し、コロエウスに向かって投げつける。投げつける物が何なのかは流石に覚えた様で、飛び上がって避ける。

 このまま逃げられると困るのだが、ダメージを受けた事は相当頭に来ている様で、ここから離脱する気配は無い。


「『ショットヒール』」


 そして、投げたポーションが避けられるのは問題無い。まさか2連続で棒立ちしてくれるとは思っていないし、そうだったら鳥頭どころではない。

 コロエウスが避けた側へとコトネさんが飛ばすタイプの回復魔法を放つ。その魔法はコロエウスの左羽根の付け根付近に辺り、体勢が崩れる。


「ギャア!?カ……ギャア!!」


 回復魔法を受けたコロエウスはその原因たるコトネさんへと鋭い爪を向ける。


「【ルーフガード】……ちょっと重いね!」


「クル……!」


 ショウをどうにか出来ないと悟ったコロエウスは、一旦距離を取った。

 普通ならこの隙に攻撃するなり、蹴飛ばして距離を空けるなりするものだが、確実にダメージが発生するので回復させることになってしまう。ややこしい上に殆どの行動が制限されるからやってられない。基本的にショウがいれば何とかなるし。


「『ショットヒール』!」


「そらっ!」


「はあっ!」


 コトネさんは回復魔法、俺とウリエルは回復ポーションを投げる。その巨体が仇となり、大体どれか1つ、運が良ければ2つ、全て当たる事もある。飛ぶ時は翼を広げるから表面積も大きくなるし。

 コロエウスの攻撃方法はその肉体のみの様で、動きさえ注視していれば対処は可能だ……ショウが。


「とりあえずはどうにかなりそうだな」


「まだまだ元気そうだけどね……そのうちポーション切れそうだなあ」


「私はまだまだ大丈夫ですけど……当たる確率は低くなりますよね」


 予想できるダメージ量、コロエウスのHP量からして最後までポーションの在庫が持つとは考えづらい。遠くない内にコトネさんのみになるのは間違いない。


「……ポーションが切れてから考えよう!」


「そうだな!」


 思考放棄……では無いが、ぶっちゃけ切れた時の状況による。あの鴉意外と体力少ないかもしれないし……?







「コウ!」


「最後の、1本!」


「ギャウ!」


 視認はできていた様だが、消耗しているせいで避け切れず、翼の先端に投げたポーションが当たる。端ではあったが無事瓶は割れて液体が付着した。


「意外と減らせたね……でも」


「これで手持ち無し、あとはコトネさんだけど……」


「MPは残っていますが、『ショットヒール』だと効果量が……」


「普通は必要にならないからね……」


 遠隔で回復できる魔法でそんなに回復できたらゲームバランスが崩れるという物だ。

 ただそれ以上となると、コトネさんが対象に触れる位置にいないといけないので、まさかコロエウスがそれを許すはずもない。消耗しているとはいえ、その攻撃力ならコトネを裂くぐらいの余力はあるだろう。


「コトネさんロデオでもする?鴉だけど……」


「おい」


「冗談だよ……」


「……いえ、そうしましょう。コトネは準備を」


「え?あ、はい……」


 ウリエルが無茶な提案をする。止めようとしたが、ぶっちゃけ他に案が無いので否定しようが無い。何かコトネさんもやる気出してるし。


「私が隙を作りますので……コトネはアレに飛び乗……コウが踏み台になれば良いでしょう」


「雑だな……コトネさんは?」


「私は大丈夫です!」


 コトネさんが良いなら良いか。

 タイミングはコロエウスがコトネさんに向かってきた時、ショウは万が一防ぐ役割なので、とりあえず俺は踏み台になれる様身構えていれば良い。


「カァッ!!」


 俺達の作戦会議も気にせず、コロエウスが残った脅威であるコトネさんへと向かう。

 考えがあるらしいウリエルは、炎の剣を熱量を上げたのか色が白へと近づく。


「じゃあ目を瞑って下さいね」


「え」


 ウリエルはそう言うと、剣に思い切り拳を叩きつけた。目を瞑るのは間に合ったが、それでも視界は白に近くなる程に明るくなる。もう少し先に言ってほしかった。


「カァァァ!?」


「ちょっ……ぐっ、この状況だとキツイ!」


 コロエウスの鳴き声と、ショウの盾と何かがぶつかる鈍い音がする。墜落してぶつかったのか。

 多少光が収まって来たので、薄く目を開ける。結構近くにコロエウスの巨体、流石のショウもここまで押されて来た様だ。


「コウさん!」


「分かった!」


 組体操の様に跪き、コロエウスへと登るための足場になる。まあ回復役とはいえコトネさんもステータスはリアル以上にあるのだから、1歩分踏まれるだけで済んだ。


「『 ヒール』!!」


「ッッ!!?カァァァ!?」


 首辺りに跨り、コトネさんの所持スキルの中で1番効果量のある回復魔法を使用する。その効果たるや、ウリエルの目眩しに怯んでいたコロエウスがすぐに再起動するほどだ。

 そのままコロエウスは暴れ回り、コトネさんを振り落とそうとする。コトネさんも離れまいとしがみつく体勢となっている。


「……思ったよりも見てるだけだな……罪悪感が」


「なら回復系のスキルでも覚えたら?」


「は?今から??」


 コロエウスは遂には飛び上がり、アクロバットな感じで飛行し始めた。コトネさんはしがみついたままだ。

 そしてそのまま10秒程立つと、力の抜けたコロエウスが下へと落ちてきた。


「倒した……?」


「というか、ここ危ない……!」


 真っ直ぐこちらへと落ちてくる。巻き込まれと死にかけるので進路を空ける。


「きゃぁぁぁぁ!?」


「あぶっ……ウリエルの方か」


 着地した衝撃で、コトネさんが宙へと投げ出される。キャッチしないと不味いと思い動こうとしたが、生憎予想落下地点にはウリエルが。

 そのままウリエルがコトネさんを華麗に受け止めた。コロエウスはそのまま動く事なく、エフェクトとなって消えて行った。


『【⭐︎1反象鴉 コロエウス】が討伐されました』


『MVPはコトネです』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ