第二十六話 遭遇、そして邂逅 四
ポーションはあと8個。最初は20個以上あったので半分以上を使ってしまった。素材集めの前に大量に買っておいて良かった……!それでも結果的には少しずつHPが減ってきているのでジリ貧だ。しかし、アスモデウスのアシストもあって少しずつ前に進めている。ガブリエルも焦ってきているのか、表情が渋くなってきたような気がする。
「チッ……『アクートゥス』!」
「【朧流し】!」
距離を詰めてきた俺に対し業を煮やしたのか、ガブリエルはさっきアスモデウスが作った溶岩の壁を貫いた槍を作り出しあれに向かって放ってくる。だが、俺も真正面が変に空いており、攻撃が来るのは予測できていたので【朧流し】を使用し、【貫牙剣】の助けも借り、受け流した勢いのまま体を回転させ、ガブリエルへと勢いよく近づこうとする。もとよりこちらは捨て身、槍は受け流したが激しく動いたせいで元々あった斬撃の攻撃が当たり、割とダメージをくらったが攻撃の軌道に投げたポーションを浴び、帳尻を合わせようとする。ガブリエルも即座に「聖水」をかき集め細い槍をいくつも作り出し俺へと向けてくる。それでも、捨て身で近づいてきた俺に驚愕したのかそれとは関係なく量的に限界だったのか、作り出された細槍の数は十数本。今の俺は特攻で物凄く集中し、アドレナリン的なものが大量に出ているためその程度の数ならわざと受けるものも含めて十分に対処できる。
「くっ、くそ『スパエラ』!」
「『アイシクルペイリング』!」
俺に作り出した槍を難なく対処されたことにガブリエルは流石に冷や汗をかく。防御が効かないことは分かっているはずだが、時間稼ぎのためなのか「聖水」をまた集めようとする。しかし、アスモデウスの魔法により持ち前の耐性で凍らずともガブリエルの元へ集まるのを邪魔され、大した量が集まらない。
なけなしの「聖水」で攻撃しようとしてくるが、時間稼ぎにすらなっていなかった。邪魔な氷を破壊したり、迂回するなどして「聖水」が集まろうとしてくるが俺の方が早い。まだギリギリ効果時間、邪魔なものは無い、刀を前に突き出しガブリエルの首を狙う。
「とった!!!」
まるで吸い込まれるかのように刀の切先がガブリエルの首へと近付いていく。だが、刀が首に届く瞬間、刀に何かがぶつかり狙いがずれる。水玉……?横目で見るとあれほどガブリエルの元に集まろうとしていた「聖水」の動きが鈍い。まさか一部分だけ操作して速度を上げたのか……?そんなことが出来たのか、予想しようと思えばできたかもしれないが考えていなかった。だが完全に弾かれたわけじゃない!仕留められずとも深手ぐらいは……!弾かれた刀はガブリエルの腹ぐらいの位置にある。弾かれたことで多少動揺したが、そのまま踏み込み腹を切り裂く。浅い、背中側まで切り裂けなかった。弾かれて動揺しすぎて踏み込みが浅くなってしまった。
「ぐあッ!……!『マリアス』……!」
「くそッ!」
返す刀で2撃目を狙おうとしたが、頭上にハンマーのように形を変えた「聖水」が出現した。まだ動かす余裕があったのか……!後ろに飛び退くが、エクストラの効果時間が切れた。クールタイムは今から10分、どう考えても、持ち堪えられるはずがない。
「大丈夫かい?……あいつ、前よりも操作の精度が上がってる、一応は鍛錬してるのかね」
ええ、思ったよりも努力キャラ?あと前にも戦ったことあるのね。いやもう全然攻撃が届かない。まあ相手の設定からしてレベルカンストとはいかなくても4次職クラスじゃないと話にならないだろう。俺は便利なエクストラスキルを持ってるからアスモデウスの助けもあり、ここまで戦えたけどなあ。そう簡単にはいかないか。
「この私に……羽虫如きが……ここまで傷をつけるとは……いいだろう、全霊を以って消しとばしてくれる……!」
なんかめっちゃ不穏なこと言い始めたんだけど。え、第2段階?俺が与えた傷は浅いわけではないが、傷の周りに「聖水」がまとわりついているので止血になっているのだろう、便利だなー。
「【忍耐】!」
自分の名前……?いや、叫んだ瞬間に「聖水」が脈動したみたいな感じになったあと、一気に体積が増えて、なんかオーラ的なものもすごくなったから、出力100パーセントみたいな?
なんにせよ、「聖水」が強化されたのは間違いない。第2形態とか聞いてないよ、言われてないけどさあ。
「……ああ、そんなのあったねぇ……昔すぎて忘れてた」
……アスモデウスさーん?忘れてたってなんですかー?そもそもガブリエルの気分次第じゃ、俺達の勝ち目無かったんじゃね?実際、俺はデスペナになるだけだけど、アスモデウスは死ぬんじゃないか?偶然出くわしたとはいえ死なれると微妙に寝覚めが悪い。確かNPCはリスポンしないはず……
「さっきまでならねぇ、逃げられただろうけどあれは……逃げ時を間違えたね」
前に会った時とかはこうなる前に逃げきったりしていたんだろうな……そういや七大罪の悪魔ともなれば重要NPCじゃね?どうしよう、今から……どうにもならないわ。
「一撃だ、『マレノストルム・ベネディクトゥス:カタラクタ』」
俺達の上に大量の「聖水」が集められ、滝のように降り注いでくる。うーわ、範囲広すぎ。これはガブリエルがああなる前に倒すべきなのか?これ1発だけならまだしもずっとはレベルカンストしても無理な気が……いやアポロさんならできそうな気がするわ。あの人立ち位置がボスクラスなんだよな。
「『インフラマラエ:コルムラ』」
俺達へと迫っている「聖水」を見ながら現実逃避をしていたが、その「聖水」はどこからか放たれた熱線により蒸発した。いや熱い!ギリギリ、アスモデウスを庇うのは間に合ったが、水蒸気のせいで何も見えないし、量のせいか晴れる気配もない。一体何が起こったんだ。助けが来た?いやそれにしてはあれはガブリエルの攻撃を止めるためだけのものだった気がする。俺もアスモデウスも衝撃で吹っ飛ばされたし。というかダメージが……結構瀕死……ポーションを、あ、手がボロボロでウィンドウ操作できない。てか、体が動かん……!あっっっつい(2回目)!!!熱風?によって水蒸気が吹き飛ばされる。吹き飛ばされてもアスモデウスが後ろにいたままでよかったわ、HPがギリギリ残ってるけど体の状態的に死ぬんじゃないか?あと何分持つかな。
「何のつもりだ、ウリエル……!」
「それはこちらのセリフです、たかだか悪魔と探さ……外来種を殺すためにその力を使うとは」
水蒸気が晴れた所には、ガブリエルとほぼ同じ格好の赤髪の女性が立っていた。言葉にすればカリファと同じ赤髪だが、今この場にいる女性の髪は生き物のものでは無いと思えるほど鮮やかな色をしている。左手には炎で出来た剣のようなものを持っている。あれ熱くないのかな……多分ウリエルって言ったよな……?大天使じゃん、どうすりゃいいんじゃ。
「そもそも、わざわざ悪魔を倒す必要など無いでしょう、早いか遅いかでしかないのですから……戻りますよ」
もしかしてこのまま撤退してくれる?だとすると本当にありがたいのだけど。あと早いか遅いかって……そういう感じかこのゲーム。
「……分かった、しかしあいつらは殺させろ」
「聞こませんでしたか?戻ると言いましたよ」
「大した手間ではないだろう!あのゴミどもは私にこの傷をつけたのだぞ!!」
「…………あの状態でも悪魔はしぶとい、もう1人も性質上どうせ復活します……これ以上ごねるようなら実力を以って連れ帰りますよ……カシエル!」
「もうその名ではない!私はガブリエルだ!!!……チッ、いいだろう、貴様の顔を立ててやる……そこの悪魔と外来種、覚えていろよ……!」
わあ、捨て台詞。実際普通にやられているから笑えないけど……カシエル?ガブリエルじゃなくて?カシエルって何だったっけ?そこまで詳しくないからわからんわ。天使2人の翼?が輝きを増した。飛べるのか?そりゃ飛べるか。鳥みたいな感じじゃなくて不思議パワーみたいな感じで飛ぶのか。後ろを向いたウリエルは立ち止まりこちらを向く。
「そこのた……外来種、元から断たれたくなければ我らのアルカディアを探すことですね」
……?えー、そんな重要なのかそうじゃないのか分からんことを言われても、こっち色々ありすぎて頭回ってないんですけど。アルカディアって何?タイトル……伏線?そもそもヒントなの?あ、身じろぎするとダメージが。痛みはゲームだから傷があるぐらいの感覚だけど重傷だから体が動かん。そんなことを言い残し、ウリエルは左手の炎の剣をしまったのか消したのか、先に飛び去ったガブリエルを追い飛んでいく。あ、やべ意識が……瀕死だからか?そんなとこまでリアルにしなくても。なんか意識がはっきりしたまま意識を失っていく感覚があるって面白いわ。




