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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第十章 秋だ!糧だ!豊年満作。
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第十話 疲れはすれど順当に


「はい、どうぞ」


「サンキュー」


 イベント4日目、鍵は3つ目。渡された鍵は3色になり、形も変わっている。昨日のはちゃんと見ていたからな、今回は違いが分かる。どんどん複雑になっている様で……まあ当たり前だが普通の鍵ではない。まあ挿し込む相手はよく分からない空気だかの壁だから、使う事に支障は全く無い。


「次で4体目のボスですか」


「そうだな、もうクリアしたプレイヤーもいるみたいだし」


「それは早いですね……」


「ショウさんも今日4体目だそうですよ。後で鍵を渡す予定です」


「ああ、そっちも作ってるのか。アポロさんは?」


「アポロさんの方はまだ次が3体目ですけど……多分今日2体終わらせると思いますよ。昨日とかは時間が取れなかったと言ってましたし」


「そっちも早い……」


 まあイベントの進行状況で勝ち負けは無いので、あまり気にするべき事ではないのだけれど。それでもソロに追いつかれるというのは少し焦る様な感じがしないでもない。


「まあとりあえず、ボスを倒すしかないか……」


「そうですね、塔の方はどうしますか?」


「うーん、また鍵だろうし製作時間とか、その時に判断しよう」


「それもそうですね、分かりました」


「ではお気をつけて」


「ああ、クルトもな……その山、依頼だろ?」


 鍛冶場の端には、丁寧に積まれた装備の山が出来ている。明らかにクルトの趣味ではない物もあるので、恐らくは修理の依頼だろう。


「そうですね、まあいつもの事なので大丈夫ですよ」


「そうか」


 当たり前だがちゃんと配分は考えている様なので、無理をする事も無いか。ゲームに義務がついたらゴミになるからなあ。

 昨日と同じく、コトネさんと「町の名前」に向かう。もやの入り口辺りは昨日よりも更に人数が増している……今日明日辺りがピークだろうな。


「最後のボスはどんな感じなんでしょうね?」


「流石にそこまでは聞こえてこなかったからなあ……知りたく無いけど、知っておきたいという感情もあるから……面倒だな」


「モモさん達がいますからね」


 実は昨日、帰る時に若干のネタバレを食らっている。入り口辺りに屯していた、俺達よりも進行しているパーティがそのボスについて話していたのだ。うっかり聞いてしまい、塔の中は異空間になっていて巨大なボスがいる……という事を知ってしまった。すぐに離れたのでそれ以上は聞かないようにしたけど。自分から調べるのと、うっかり聞いてしまうのは大分違うので、情報の扱いについては注意してほしい……過激派だっているだろう。


「予想の範囲と言えば範囲だけどな」


「具体的な事を聞かなかっただけでも良かったですね」


 列に並び、歩いて行く。人数が多くなっているので今度は1分程かかった。村へと着くと、昨日と同じく、モモ達はお茶を飲んでいた……今日は菓子付きか。


「ああ、来ましたね。それでは早速行きますか?」


「そうだな、今日は下見はしたのか?」


「いや、してないよ。どうせ入れないだろうし、その辺にいる魔物は分かってるからねぇ」


「そういや、そうだったっけな」


 今日行く朱色の森、そこは人狼系のモンスターが出現する。モンスター自体は塔での襲撃の時に確認している。まあ俺は上にいたので遠目だったが、コトネさんの話によると、ちょっとした武器を使うぐらいで特に特殊な点は無いらしい。

 ボスのいる場所もここだけ変わりがあるという事も考えづらいので、確かにするだけ無駄か。

 お茶その他の片付けを手伝い、森へと赴く。朱色の森は村のある森から塔を挟んで向こう、多少距離はあるが、道中のモンスターを気にしなければそこまで時間はかからない。


「塔は……流石に変哲は無いか」


「あっても困るだろう?」


「そりゃあな……ここは霧が全く無いな」


 到着した森は、色を除けば普通の森。樹も全く生えており、色も紅葉みたいなものだと思えば、この空間で1番普通なのでは無いだろうか。

 森へ入ると、早速モンスターに遭遇した。人型の狼、手には斬れるかどうかも怪しいボロボロの剣。体毛は白と、朱色というには若干燻んでいる色だ。カボチャ頭は狼仕様で細長い。


「ガゥアァ!」


「せいっ……弱っ」


「アポロさんも一撃でしたね……」


 そりゃあ、首を断ったのだから倒されてもらわねば困るのだが、スキル無しでこれは流石に弱い。気にはなるが、どうしようもないので今は無視するしかない。


「このままボスも弱いと良いんですけどね」


「それは流石に……」


 コトネさんは冗談めかしてそう言うが、確かに弱いに越した事はなくても、そうなると運営の設定ミスになるだろう。何処も同じならクレームが来るだろうしな。

 そのまま進むと、同じ様に壁がある。鍵を回すのも慣れるもので、早速壁を消す。


「……あれ?」


「今度は草むらですか?」


「気色の悪い色だねぇ」


 今までの3体は、多少雑草みたいなのが生えていたにしろ、ほぼ地面剥き出しの広場だった。

 しかし今回は俺の腰ほどの高さまである草むら、しかも緑は緑でもとても明るい黄緑、蛍光色に近い感じだ。人工物ならともかく、自然の物だとすると中々に違和感がする。更には真ん中にいるはずのボスの姿も見当たらない。全員で辺りを見回すが、それらしい影は見当たらない。


「奇襲してくるタイプか?モモどうだ?」


「この草が厄介だね。多分誤魔化してる」


「こちらに来るなら動きで解ったりしないのですか?」


「それもだねぇ……ああ面倒だ」


 モモの感知魔法も誤魔化すのかあ……厄介だ。コトネさんを中心として四方を警戒する。全く気が抜けないな……そもそも多分人狼系だとして、どうやって攻撃して来るのやら。


「私が焼き払いましょうか?」


「燃えるだろうけど……」


「止めな止めな、あんたの炎じゃこっちの氷じゃ防ぎづらいし……何より煙が多い。下手にやると面倒だ」


 モモが草を引きちぎり、火をつける。すると難なく燃えてはいるが、モモの言う通り燃やした草の量の割に大量の煙が発生する。

 もし、ここの草を全て燃やしたら煙で視界が真っ白になる事だろう。そうなったらボス戦どころでは無い。


「斬っていくのは……面倒だな」


「いつまでかかるだろうねぇ?」


「敵の姿も……マスター!」


「分かってる!」


 付近の草むらから人狼が飛び出してきた。草むらと同じ体毛、手にはカボチャの小型ハンマー。色々とギョッとしたが、問題なく両断する。


「お見事……だけど」


「ボスじゃないな、ドロップも無い。まさかの群体?弱かったのはこれの伏線……分かんねぇよ」


 その1体を皮切りに、辺りの草むらからザワザワと動く音が聞こえる、それも複数。


「お姉様、今なら?」


「駄目だ。数は8体、でも何処にいるかはね。数も合ってるかどうか」


「そうですか……」


「まあ各個撃破していくしか無いだ……ろ!」


 四方から同じ人狼が飛び出してくる。割と近くから飛び出してくるのに事前に分からない……本当に厄介だ。

 雑魚ではあるので、撃ち漏らす心配は無い。だが数が増えると……どうすりゃ良いんだ。条件満たす系だと永遠に続く可能性もあるな。






「はあ……もう50体ぐらい倒した気がするんだが、1人で」


「私もですね、そろそろ変化が欲しいのですが……」


 あれから30分。次々と人狼は現れ、それを倒して行ったが、何の変化もない。同じ作業を繰り返すのは中々に……疲れてきた。


「せいっ……何か無いか?」


「たまにでかい反応はあるんだけどねぇ……それがいつ来るんだか」


「ボスだろうけど……早く来いや」


 未だに現れる雑魚狼を斬り伏せていく。色が派手なせいで目も疲れてくる。

 それを更に5分程続けた時だった。


「ガァッ!!」


「コウさ「【貫牙剣(アウラ)】【極刀】ッ!!」ん!?」


「見事な早業ですね……」


「ふう、少し違う奴が出てきたら即座に使えるようにしていたからな……よしよし、外れじゃないみたいだ」


 雑魚人狼よりかは大柄だったみたいだが、殆ど視認せずに斬り払ったので詳細は分からない。SPは節約出来ていたから、大火力で消し飛ばしてしまったし。群体タイプだったせいか、ボス自身のスペックも他の3体目より低かったのもあるか。

 何にせよ緑色の結晶がドロップ、襲撃も終わったのでこれで完了だ。


「終わった終わった。さっさと帰ろう」


「お疲れ様です……塔はどうしますか?」


「あー……鍵がどのぐらいで作れるによってかな。聞いてみて、それによる」


 さっさと屋敷に戻ろう。面倒なので朱色の森には2度と行かない……行く用事も無いだろうが。

 屋敷に戻って鍛冶場を訪ねる。するとすぐにクルトが出てきたので結晶を渡し、どのくらい製作にかかるのかを聞く。


「あ、これ結構かかりそうです。実はショウさんのパーティのを預かってまして……明日までなら余裕で完成すると思うんですけど……」


「ああ、そうなのか。それならそれで良いんだよ。4つ揃ったからかな」


「多分そうだと思いますね。工程が増えているので……じゃあ明日までに」


「ああ、頼んだ」


 クルトに物を預けて、鍛冶場を後にする。談話室にいたコトネさんにそれを伝え、結局最後の塔に関しては明日となった。まあ順当、ボス戦で疲れてもいるし、丁度良いか。


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