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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第十章 秋だ!糧だ!豊年満作。
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第八話 向き不向きの極端例


「コウさーん、これを」


「ああ、サンキュー。仕事が早いな」


「いえ、思っていたより簡単でした。ただの金属ではなく、結晶を扱う機会はあんまり無かったんですが……上手くいって良かったです」


 イベント2日目。挨拶もそこそこにクルトから渡されたのは1つの鍵だ。見覚えのある黒い結晶から作られている。それはもちろんの事で、昨日帰る時にクルトに製作を頼んだのだ。

 最初は同じ様な物を4つ集めて塔に入る為の物だと思っていたのだが、サイトで調べるとどうやら、塔に入る為の物でも間違いが無さそうではあるが、他のボスに挑むのにも必要らしい。


「簡単か……まあイベントアイテムだしな。そうそう難しくしてられないか」


「少しレベルを上げていれば大体の人は作れそうです。頑張って下さいね」


「ああ、ありがとう。これからも頼んだ」


「はい!」


 クルトに礼を言いながら、ドライタルへと向かう。どうやら生産職は初日のミニクエストを除けば特にその場でする事は無い様だ。今日は現地集合なので、1人でそのまま向かう。

 もやは相変わらず町の近くに留まっており、畑が台無しだ。早めに何とかしたいが、まあクリアしてもしばらくはそのままだったりするのだろうな。

 どうやらイベントをクリアしたプレイヤーはそこそこ出始めているらしい。まだ2日目なんだけどなあ……どんなゲームでもどうやっているのか分からないプレイヤーはいる様だ。

 待ち合わせはもやの中なので、プレイヤーに紛れながら入っていく。すぐに周りのプレイヤーは消え、俺1人になる。コトネさんやモモ達とのパーティは解除していないので、おかしな事にはならない。


「コウさん、こんにちは」


「こんにちは……さっき学校で会ってたけどな」


「まあ少し違いますよね」


「それは分かる……モモ達は?」


「ちょっと次の森を見てくると言っていましたから……そろそろ戻って来ると思いますけど」


「そうか……じゃあ待つか。すれ違いになると困るし」


「そうですね」


 そのまま待つ事5分。次に挑む事になっている森の側から3人が戻ってきた。当たり前だが、特に怪我も無い。ボスには挑めないはずだし、周りの雑魚敵にやられる3人ではない。


「おかえり」


「マスター、来てましたか」


「予定の時間だしな」


「アスモデウスがもう少しと言わなければ……」


「そんな事で目くじら立てる性格じゃないだろう?」


「まあ別に5分ぐらいな。先に来てたのは来てたみたいだし……それでどうだったんだ?」


「それは道すがら……見た方が早いし、言ってしまえば大した事は分かってないからね」


 攻略のヒントとか教えてもらえるのは何かズルだしな……まあ基本のルートはサイトで見たんだけども。ボスと塔の情報は見ていない。この5人で詰む事態は起きないだろうし、初見で倒すのならそれの方が良い。

 モモの言う事に従い、とりあえず森へと向かう。ボスを倒す順番は特に決まっていない様で、とりあえず隣の黒赤色の森へ。そこは黒ネコがいる森よりも更に霧が濃く、森の色も相まって不気味な雰囲気が強い。


「これこそって感じだな……」


「迷ったりは……しないですよね?」


「ああ、これもただの霧だよ」


 とりあえずは環境自体に変な効果は無いらしい……まあ小麦畑を塗りつぶすかの様にこ森が広がっている時点で説得力はあまり無いけど。


「それでもって、ここで出現するのがアレさ」


「あー、ゴースト」


 シーツを被り、目なのか穴が2つ空いているタイプ。それだけなら子どものイタズラの様に微笑ましく思えて来るし、ゴーストなのだから浮いているのも許容できる。顔の辺りはハロウィンのカボチャっぽくなっているのもそれっぽくて良い。

 しかし何かやたらリアル感というか、大人が被っているというか、霧があるにしても悍ましい感じがするというか、要素の割に愛嬌が全く無い。ああもホラーな感じになるものかと感心する程だ。


「あれは……可愛くないですね」


「そりゃそうだ……あれ、物理効くのか?」


「効かないね。まあ紹介だからとりあえず」


 モモが指を鳴らし、ゴーストは炎に包まれる。炎に包まれたゴーストは低い呻き声をあげた後、燃え尽きて消えていった。

 うーん、がっつりホラー系だ。不気味ではあるが怖くはない。昼だから雰囲気が足りないせいもあるか。


「じゃあ、今日俺お荷物じゃないのか?クローナはまだ神器があるだろ?」


「そこはほら、聖属性を付与するなりなんなりでどうにかなるさ。攻撃力不足は【貫牙剣(アウラ)】で補えるだろうし」


「成る程……まあ魔法の方が効くんだろうけど」


「流石にねぇ……向き不向きはあるよ」


 昨日は何とか貢献したはずだが、今日はダメージを稼げる気がしない。まあパーティの構成上仕方ないと諦める他無い。

 とりあえず昨日と同じくボスがいるであろう広場へと向かう。すると辿り着きはしたのだが、空気のブヨブヨとした様な壁に阻まれ、それ以上先に行けなかった。


「何だこれ」


「まあカギが掛かっている状態なんだろうねぇ。どうにか不正が出来ないか試したけど無理だったよ」


「さらっと何を言ってんだ……だからこその鍵か」


 クルトからもらった黒い鍵を取り出す。何か微妙に振動している様な……ホラーでは無く、共鳴的なアレコレだと思いたい。


「……何処に挿せば良いんだ?」


「見当たらないですし……とりあえず押し付けてみるのはどうでしょう?」


「そうしようか、結構頑丈だって言ってたし」


 コトネさんの案に賛同。方法としては合っていた様で、鍵は壁に突き刺さり、回すと壁は最初から無かったかの様に消えて行った。


「こんなもんか……」


「じゃあ行きましょうか」


 道は開いた。広場へと足を進めると道中で見たゴーストと同じ見た目の、昨日の黒猫ぐらいの大きさのボスゴーストが中心にいた。


「じゃあバフ頼む」


「良いけど……ほい」


 モモがべチンと俺の刀を叩く。すると白い光のエフェクトが刀を覆い始める。


「んな雑な」


「苦手なんだよ……ほら、来るよ」


 ボスゴーストは真っ直ぐこちらへと向かってきながら白いもやを凝縮した様な球を放ってきた。俺の頭程の大きさ、速度もそれなりにあるが、軌道が単純なお陰で簡単に避けられる。


「【貫牙剣(アウラ)】」


 エクストラスキルを発動して、ゴーストへと振るう。刀は手応え無く、布に切り傷をつける。だが、その傷は時間を戻したかの様に消えていった。


「え、再生!?」


「違う!死ぬまで同じ形を維持するだけだよ!」


「あ、そういう……じゃあ追げ、あれ?」


 ボスゴーストは初撃を与えた俺を無視してクローナの方へ。初撃なのだからこちらに向かってきてもおかしくないヘイトはあるはずなのに。

 とりあえず思考を切り替え、ボスゴーストを追いかける。クローナが引きつけてくれているので、背後から滅多切りする……が。


「あ、あれ……【極刀】……マジで?『反剋』……対象外」


 1番ダメージが入るはずの【極刀】を発動しても無視。唯一の魔法の『反剋』は対象外なので使えない。これにはクローナ達も驚いている。


「マスター、ちょっと」


「どういう事でしょうか、モモさん」


「気味が悪い、止めな」


「あ、はい」


「…….とりあえず、聖属性も付与した訳だけど…‥.マスターの攻撃はアレにとってゴミみたいだって事だね」


「え、完全に魔法職オンリー?」


「そう」


 衝撃の事実。バランスの取れたパーティなら魔法職が大活躍するだけ、俺達の場合も倒せない訳ではない……けど。


「あー……………まあ3人でやるさ。マスターはコトネをね」


「わ、分かった」


 これは特別事例なんだろうな、NPCに任せきりになるとは……そういうものだと思うしかない、イベントパートみたいな。


「虚しいなあ……」


「ど、ドンマイ……?」


 合流したコトネさんが気遣う様に言ってくれる。しかし、それは追い討ちの様な気がする……多分善意100パーセントで言っているから額面通り受け取っておこう。

 プレイヤーが倒すべきボスモンスターをNPC3人に任せ、見守る事10分。コトネさんの方に向かってくる事は無かったので、俺の仕事は無かった。ボスゴーストもHPが0になるまでスペックが変わらない性質のせいか、中々にしぶとい様で、モモ達でもそのぐらいの時間がかかった。まあ全力では無かっただろうから、そのせいもあるだろうけど。


「マスター、これを」


 クローナが差し出してきたのは、白い結晶、次の鍵の素材だな。


「サンキュー……じゃあまた明日だな」


「つ、次は攻撃が通じると良いですね!」


 コトネさんが励ます様に言ってくる……本当に善意だよね?


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