第七話 背後の黒猫
「じゃあボスの1体ぐらいは倒しておこう」
「そうですね、そのぐらいの時間はありますしね」
ハプニングはあったが、午前中からログインしているおかげでまだまだ時間はある。
コトネさんもの乗り気な上、一応連絡はしたがクルトとアゲハを村に残してもいる。初日にクリアはもちろん無理だが、少しぐらいは進めておくべきだろう。
「それは良いですが、何処から行きますか?」
「まあ情報は1体分しか無いけどねぇ」
「それは分かって言ってるんですが?」
「お姉様達……」
「……まあ無難に分かってる黒猫とやらの所からで……良いかな?」
「はい、大丈夫ですよ。能力は各所で違うんでしょうけど、勝手をしるなら情報が多い所からですもんね」
大丈夫だとは思っていたが、コトネさんも笑顔で賛成してくれた。可能性は少ないけど、1体倒せば他のボスの特色が分かるかもしれない。共通のギミックもあるかもしれないし、ここは無難にフラグが立っている黒猫に挑むべきだろう。仮定瞬間移動とか後回しにしたく無いし。
モモとクローナは無視、どうせいざ戦闘になったらちゃんとするだろうし。ウリエルが居るから折衝役は任せられる。
「とりあえず村に戻りましょうか。クルトくんとアゲハちゃんにも色々伝えないといけないですからね」
「それはそうだな……終わったらショウにも伝えないとな」
またかよと嫌味を言われそうだ。ベルフェゴールがいるのだから満足してほしい。こっちは胃もたれしそうなんだし。アポロさんは戦闘にならなかったから特に気にしないだろう…….そういや、サタナエルの能力は何なのだろうな……道すがらモモとかに聞けば良いか。ベルゼバブと相性が悪いと言っていたけど。
村へ戻ると、また何やら騒がしい。また事件か何か起こっていると面倒だなと思いながら確認しに行く。そうすると、クルト達が借りたはずの作業場に人だかりが出来ていた。そもそも大した規模の村じゃないのにこの人数……怪我人以外全員じゃねぇの?あ、子どもを除くか。
「何でしょうか……?」
「コトネの時と同じでは?」
「そうだろうなあ……俺だけになると肩身が狭くなるな」
「それはこっちも同じだろう?」
「モモ達は何か違うじゃん……」
コトネさんは怪我人の治療、クルト達は……生産職何だから出来る事はいくらでもあるか。
モモが同じ戦闘系だから1人じゃないと言ってくれるが、プレイヤーは俺1人なんだよな。まあ原因を何とかするには戦闘が必須だろうし、そこで活躍しよう。
村人に道を開けてもらいながら、クルト達の元へと向かう。金槌を振るっているクルトの周りには大量の生活用品、アゲハの周りには大量の服とおばちゃん、年若い娘的な集団がワイワイと。思っていたより凄い事になっていた。
「おーい……?」
「あ、コウさんコトネさん。戻ってきたんですね!」
「おかえり〜」
「ただいまです……お2人とも大丈夫ですか?」
「全然大丈夫ですよ!僕もアゲハもミニクエストみたいなもので、見た目より大変じゃないです。報酬も結構良いんですよ」
「そ、そうなのか……それなら良いけど」
鍋、包丁、その他諸々の修理……アゲハは古着の改修か。リアルならともかく、スキルを使えばどうとでもなるのか。あり物でいいのなら、確かに2人にとっては楽勝かもしれない。クルトなんか片手間の様な感じだ。
「皆さんこそ、結構時間がかかってましたけど……どうしました?」
「ああ、それは……」
起こった事をざっくり説明。
「色々あったんですね……じゃあこれからボス戦ですか」
「そうだな。まあ余程厄介じゃなければ今日中に終わると思うけど」
「お気をつけて……装備は大丈夫です?」
「大丈夫大丈夫」
「私も大丈夫ですね」
後確認する必要があるのはクローナだが、当人も大丈夫との事だった。
アイテム自体は既に補充した。専用に何か用意する必要が無い限り大丈夫……なはずだ。ボスの特徴であるらしい瞬間移動も対策は実際見てみないとどうしようもない。村人の証言は参考にはなっても、あまり確度は低い。
「とりあえず、森の中を進まないとだね……道は覚えているのかい?」
「ああ。霧は少しあるけど、道を迷わす効果とかは無いだろ?」
「まあただの霧だねぇ」
「じゃあ真っ直ぐ進めれば大丈夫……大丈夫かな」
「まあそこはフォローするさ」
「助かる」
薄いとはいえ、霧の中を進んだ経験などない。なので真っ直ぐ進めるかどうかは分からず、若干呆れた様なモモにアシストを頼む。方向はちゃんと覚えているんだよ、方向は。問題は森の中に入った時で。
森の中は相変わらず不気味な雰囲気で、ここは帰りも遭遇した黒ネコが出現する。まあ素早いだけというネタは割れてるので、対処はいくらでも出来る。
そうして何体か遭遇した訳だが、大した消費も無く、ボスがいるであろう広場の近くへと辿り着いた。
「そろそろ……ですね」
「瞬間移動かあ……どうする?」
「見てみない事にはねぇ……広場の外には出ないんだろう?それなら丸ごとするなり何なりすれば倒せるだろうね」
「……も、もうちょっと正攻法で……」
確かにNPC3人は広範囲攻撃が可能だ。効率だけを求めるならば、それが1番早いだろうけど、それだとプレイヤーがいる意味が無くなる。
手こずるとそうしてきそうだなと焦りながら、広場へと出る。広場には霧は無く、真ん中には確かに黒猫が鎮座していた。外の黒ネコと同じく、カボチャを被っている。
「でかい猫だな」
「見た目は可愛らしいですね……倒したくない人もいるんじゃないでしょうか?」
「コトネさんは?」
「私、犬派なので」
「そういうも「ニャオン」っ、危ねぇ!?」
黒猫が消え、出現した場所は俺の真後ろ。足を振り下ろして鋭い爪で攻撃してきたが、すぐに飛んで難を逃れた。もう少し反応が遅れていたら大ダメージだったな。
黒猫はそのまま近くのコトネさんへと攻撃しようとする。しかし間にウリエルとクローナが入りそれを防いだ。モモが魔法で反撃を行おうとし……黒猫はまた消え、離れた場所に現れた。
「思っていたよりちゃんと瞬間移動だな……」
「移動した後の数秒がチャンスだと思いますけど……時間がかかりそうですね」
流石にデメリット無しで使い放題、という事は考えづらい。というか糞ゲーだ。クールタイム的なものが数秒あるとして、与えられるダメージはそこまで多くないだろう。ハメる事で防ぐ事が出来るなら良いのだが……試してみるに越した事はない。
「とりあえず、割とアクティブに来るみたいだから待ち構えるとして……背後に気をつけないと」
「そうで「ニャオン」……今度は!?」
黒猫が移動した先はモモの後ろ。少し離れていたのが狙われた原因か?自分にバフをかけていたのか、素早い動きで黒猫の攻撃を避ける。だが第2撃は避けられない様で、1番近かったウリエルがフォローに入った。ウリエルは黒猫の爪を受け止めたが、流石に押し負ける様でジリジリと地面に押し付けられている。
「はあっ!」
「【刺突】!」
「ニャオン」
「チッ、早い……!」
俺達の攻撃に気づくと、ウリエルへの攻撃を諦め、すぐに消えてまた離れた場所へ。クールタイムが結構早いのが難点だな。あと黒ネコと同じで動きも結構素早い。
「埒があきませんね……」
「これだと無限に追いかけっこだな。やっぱり広範囲攻撃で足止めするものか?」
「では、私が全体に炎を張りましょう。こちらにはダメージ無効……なんて都合の良い事は出来ませんけど」
「常時スリップダメージかよ……まあその間に仕留められば良いか。というか【空走場】で走れば良いのか」
「マスターの【貫牙剣】なら問題ないでしょう、私も使いますので」
クローナがそう言うと、周りから水が浮き出る。神器を使うのか。それっぽい剣で誤魔化せなくもないウリエルはともかく、クローナは普段は使わない様にしている……特殊なのがバレバレだしな。
「では行きます……!」
「【空走場】」
ウリエルが剣を地面に突き刺すと、地面を這う様にして炎が広がる。モモは自身とコトネさんの足元に氷を出して絶えず防いでいる。贅沢なMPの使い方だ。
こちらもずっと空中にいられる訳じゃ無いので、急いでクローナと共に黒猫へと向かう。
「ニャッ、ニャッ、ニャッ、ニャッ!」
黒猫からすれば大したダメージでは無いのだろうが、それでも熱いのか真夏のプールサイドの上みたいな動きをしている。瞬間移動しようにも逃げられる場所が無いからな。
「【貫牙剣】!」
「フ、ニャッ!」
瞬間移動は出来なくとも、こちらの攻撃を避け反撃する余裕ぐらいはある様だ。だが、炎にも気を取られているボスぐらい仕留められなければ話にならない。
「ふっ、とっ、せい!」
「ニャゴ!?」
繰り出してきた足の上に乗り、刀を突き刺す。振り離そうと、暴れるが、そのまま刀を動かし、右前足を斬り取る。
「熱っ、っとと……よしよし」
「フシャァァァ………!」
黒猫は怒髪衝天、今までの余裕は崩れ、炎の熱さも忘れてこちらを睨みつけている。こうなると元々が素早いだけに、攻撃が当たりづらくなるだろう。
まあ、こっちに集中しだした時点で上手くいったんだけど。
「『グラディウス』」
「フニャ!?」
完全に黒猫の意識の外だったクローナが、水で出来た剣で黒猫の足を突き刺し固定する。こんなに上手くいくとはなあ、瞬間移動防ぐのだからこんなもんか。
「【滝割り】」
「フゴ……」
黒猫の頭をかち割ると、無事倒せた様で消えていった。ウリエルの炎も消え、安全に地面に降りる……余熱でちょっと熱い。
ドロップしたのは黒色の立方体の結晶の様な物だった。鑑定すると、イベントアイテムの様で、鍵の材料だとか…….クルトの出番だな。
「お疲れ様です。回復しますね」
「ありがとう」
多少HPが減っているので駆け寄ってきたコトネさんに回復してもらう。
とりあえずは1体目、後は3体……まあ1日1体で良いかな、明日は月曜だし。
「とりあえず……クルトくんに渡しておきましょうか」
「そうだな、全員で屋敷に戻れば良いか」




