第五話 町中エンカウント
一旦解散、各自アイテムを万全にという事になった。大体屋敷に戻ればあるのだが、ショウがいない為、それ用に立ち回りを変える必要がある。まあモモのバフとコトネさんの回復があれば、杞憂で終わるけど。
アポロさんは一回出て入り直した様だし、ショウもフレンドに合流するとかで別の町へと馬車に乗って行った。クルトとアゲハは消耗品を補充した後、村に鍛冶場があるそうで、それを借りに行った。
「モモ達はまだ境界の所で何かやってるし……」
「終わったら町に来るそうなので、待ちましょうか」
「NPCも一応入り直した方が良いのか……?」
モモ達の別行動は運営のせいっぽいが、あの後すぐに合流するのもそれはそれで不自然なので、しばらく時間を置いた方が良いのか。
必要なアイテムは大体補充出来たので、特に意味は無いがイベント仕様になっている町をコトネさんと巡る。
本来なら近々収穫祭の様なちょっとした催しがあるそうだ。その為の準備をしていたそうだが……まあこの騒ぎだ。中止ではなく、延期としているだけ逞しい。
「何かないかな…………あった、人だけど」
「タルさん!」
「あー、コトネちゃん!久しぶりー」
向かいから歩いて来たのは、トップテイマーのタルさんだ。この前の生物園以来で、イベントなので会う事もあるだろう。コトネさんは数回会っていたそうだが、久しぶりという程の期間は空いていたらしい。
「あ、今日はその子も連れているんですね」
「そうだよー、イベントと言ってもどのくらいの難易度か分からないし、サーちゃんの力は必要だからねー」
サーちゃんと呼ばれた狼のモンスターは日の光を飲む様な黒い毛で、タルさんの腰ぐらいの大きさといい良く目立つ赤い眼といい、強キャラの風格が凄い。しかし、コトネさんにワシャワシャと撫でられている為、ただの犬感しかしないけど。微妙に面倒臭そうな表情をしているのもまた……躾が行き届いている。
後はチラチラと赤い眼がこちらを向くのが気になるが、気のせいかな……気のせいだろう。俺は撫でないから大丈夫だぞ。
「お2人は、イベントも2人ですー?」
「いや、いつも組んでるNPCがいて……ああ、丁度来た」
他のプレイヤーでも、一般NPCと行動しているというのは普通にある。コミュニケーションは遜色無く取れるから、固定になるのは問題無い。モモ達の事を何処まで説明しようかと考えていると、丁度3人が来たので手間が省けた。
こちらを視認し、真っ直ぐ向かって来たのだが、その視線はいつの間にかコトネさんが撫でている黒狼へと向いた。黒狼もコトネさんの手から離れ、モモ達方へと急いで振り向いた。
「……何やってるんだい、サタナエル」
「えっ!?」
サタナエル……サーちゃん……ははは、そんな馬鹿な。ネーミング自体は無視として、こんな雑な遭遇するもんか……あれ、他の人も大体そんな感じだったな……劇的なの俺だけじゃね?
「……そちらこそ、天使と何を……む、ガブリエル。しかも神器が戻っている?どうなっている……」
「え!?」
コトネさんは驚いた様子でモモを見ていたが、今度は更に驚いた様子でサタナエルと呼ばれた黒狼を見る。マジか、喋るのか……そりゃそうだよな、悪魔なら話せるよな。狼の姿は……まあ変身でも何でも都合はつく。確かマモンも烏だかに化けていたとか。そうするとモモやベルフェゴールも何かあるのか?
「そっちは何も知らない様だねぇ……まあ、他の奴とも会ってないだろうから当たり前か」
「その様子だと、いくらか集まっている様だな……」
「あんたで6人目だよ」
「何と……」
狼らしからぬ表情で驚くサタナエル。話せるのもそうだが、一気に人臭くなった……悪魔だけど。
「わ、わー……どうしましょう……」
「タルさんは知って……いないとおかしいけど、何で今まで隠して?」
「いや、面倒な事になると思ったのでー……」
「……それはそうか。というか、ここで話を続けるのは不味いな……」
幸い、モモ達の容姿やタルさんの様相で目を引く事はあれど、通行人はすぐに去って行くので聞かれてはいないだろう。ただこのままずっと留まっているのは危険なので、早急に人気のない所へと移動する必要がある。
人気の無い場所と言えば、まあ路地裏。何でこんなに路地裏に行く機会が多いんだか……やましい事は無いわけじゃないんだが。
「ほら、誰も見てないんだしさっさと戻りな」
「分かっている」
「……おお」
狼から人の姿へと戻ったサタナエル。元々が元々だっただけに半裸だが、精悍な肉付きなだけに、様になっている。
「サーちゃん、はい服」
「助かる、マスター」
タルさんが、ジャケットを出して、サタナエルに渡す。サタナエルは半裸のままそれを着……見た目が完全に別ジャンルだ。似合ってはいるが、確かに目立つ……いや格好を変えれば良いだけだな。というか、人型でもサーちゃんなのか。ギャップが色々凄い。
「あ、あのサタナエルさん?」
「サタナエルで構わない……どうした?」
「あのその、顔を……」
「いや……別に構わない。マスターも良くしてくる上に……何というか、慣れた。最初の頃はマスターに付いていたのだが、同じ様な事をしてくる探索者が多くてな」
「あー、最初の頃は多かったからねー。人に触られるのが苦手な子とでも言った方が良かったよ」
「すみません……」
「今となっては気にしていない。大丈夫だ」
コトネさんが恐縮した様子でサタナエルに謝っている。中身は人型の悪魔だからなあ……狼に変身していたとはいえ、その顔を撫でていたとは……どちらの心情も察してあまりある。
サタナエルも気にしていないという割には若干遠い目をしていた。動物好きのプレイヤーなら、モンスターだろうが気にせず触るだろう。毛並み結構良さそうだったし。
「そりゃ、災難だったね……コトネが」
「サタナエルは詫びに腹でも切ったらどうです?」
「お姉様達の言う通りですね」
「…‥.お前らは昔と全く変わらんな……?俺が言うのもなんだが、そろそろ事情を聞きたいのだが」
世間話をする為にこんな所に来た訳ではない。タルさんとサタナエルに今までの悪魔関係の経緯を話す。クローナやウリエル、ミカエルとの遭遇やカシエルの討伐など、端折っても必要な事だけ話しても中々に時間がかかった。
「そうか……俺は一度寝たらいつ起きるか分からないベルフェゴールやただ大食らいなだけのベルゼバブに遅れをとっているのか……」
「な、内緒にしていた私のせいだから!サーちゃんのせいじゃないからね!?」
「ミカエルやら何やらにも先にそっちがショックなのか……」
「マスターもベルゼバブの酷さは知っているでしょう?ベルフェゴールも今でこそああですが、昔はそれはそれで酷かったですよ……ベルゼバブよりマシですが」
「ご愁傷様、イプシロンさん……あ、イプシロンさんに報告しないと……良いですよね?」
「うん、バレちゃったからねー……思ったより規模大きいみたいだから、早く言っておけば良かったよ」
タルさんは失敗したとでも言う風に溜息を吐く。確かに大手クランが合同でとは中々予想しづらい。話すにも、雁字搦めにされたらゲームを楽しめないし。そういう意味では、ショウがいつも通り伝手を広げていて助かった。
イベント中断、とりあえずイプシロンさんの所に報告に行くとして……これで大罪の悪魔が6人揃った。後はルシファーを探すだけだ。まあイベントの消化が先だろうけど。




