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Arkadia Spirit  作者: アマルガム
第十章 秋だ!糧だ!豊年満作。
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第四話 規定値オーバー


「でも、私達の場合、ボスは相当強くなっているんじゃないでしょうか?ボスの特徴ぐらいは調べておいた方が良いかと……」


 コトネさんの言う事は最もだ。ただ単純にスペックが上がっているだけならともかく、ギミック系だと色々と不安がある。解かないと勝てないという事に加えて、やり様によってはモモ達が死ぬ可能性もある。

 流石にそれは不味いので、攻略法はまだ無いだろうが、概要を知っておいて損は無い。

 幸い、初見でのヒリヒリする戦闘を求めるプレイヤーはいない……アポロさんはそっち系の人じゃ無いはずだ。


「あー……その方が良いか。じゃあ村に戻ろう。様子を見に行った人達が戻ってるかもしれないし、ボスを見たかもしれないしね」


「ああ、そんな事言ってたな……」


 一旦村に戻る為に、塔から離れて森へと入る。塔へと辿り着いて戦闘をこなしたのがフラグとなったのか、3割増しぐらいに怪しい雰囲気が出ている。というか、気分的なものじゃなくて、実際に薄い霧が出ている。視界が多少悪くなった程度だが、それでも悪くなった事に変わりは無い。面倒な事になって来たと思いつつ、更に面倒事がやってきた。


「パンプキンヘッドを被った……被った……黒……豹?虎?」


「ライオンかもしれないよ?」


「鬣……いやメスかどうかは問題じゃないんだよ」


「とりあえずネコ科ですね!【抜刀】!」


 道中は1体も現れなかったモンスターが普通に出てきた。先の塔の戦闘では出てこなかった種類、毛並みが真っ黒なせいで大まかな種が特定出来ない……いや見た目が全てじゃないのは分かっているんだが。

 アポロさんが先手必勝とばかりに、刀を抜くが、黒……ネコで良いや、猫の大きさじゃ無いけど。その黒ネコは身軽そうにヒョイと飛び上がって躱した。そのまま木の枝へと飛び移り、こちらの様子を窺っている。


「思ったより速い……!」


「アポロさんの初撃を躱すなんてね……まあいきなり強くなるなんて考えづらいし、耐久は低いのかな……もう1体増えてるし」


「本当だ。じゃあ俺はこっちを……とりあえず1人でやろう」


「よろしく、何かあったらヘイトは稼ぐから」


「頼んだ」


 今のレベルならイベントの通常モンスターぐらい1人で倒せないと問題がある。AGIに高めに割り振っているので、自分より速い敵は貴重だ、良い練習になる。

 モモ達は最終手段みたいなものだし、クルトとアゲハを守ってもらう。最初の1体はアポロさんが相手をするから安心だ。


「【抜刀】……まあ躱されるよな、【フラジャイルクイック】!」


「フニャッ!?」


 相手が素早いなら、こちらの動きに慣れる前に距離を詰めてしまえば良い。

 いきなりスピードが上がった事に驚いたのか、黒ネコの動きは一瞬止まり、鳴き声をあげた。

 鳴き声はフニャなのか……やっぱり猫?


「【刺突】!」


 硬直した隙を突き、頭を貫く。スキルで威力を上げているとはいえ、ショウの読み通り耐久は低かった様だ。パンプキンヘッドも安易と貫き、ドロップ素材を残して消えていった。


「よしよし……これも見た事あるな……」


 落とした素材はこれまた見た事ある物だった。確か虎系のモンスターのレアドロップ……まあ確率は高い方だったと思うけど。とりあえず虎なのか猫なのかはっきりして欲しいわ……ネコ科だけど。


「大丈夫……ですよね」


「まあ攻撃食らって無いから……アポロさんの方も終わってるか」


「そうですね、ほぼ同時でした」


 同時……相手が通常モンスターなら喜ぶ程じゃないか。アポロさんのドロップも同じ物の様で、謎は深まるばかりだ。ドロップはもしかして1種類だけなのかな。


「まあ……村に戻ろう、普通に倒せる事は分かったんだし」


「そうだな、まずはボスの事やらを聞かないと」


「知っていると良いですね……」


 そもそも様子を見に行って無事なのか、ボスを見てない可能性は十分にあるし、期待半分で行こう。

 村に戻ると、何やら騒がしかった。多少広めのスペースに村人が集まっている……何かあったのか。


「あの様子だと……怪我人かな?」


「あっ、じゃあ私行ってきます!」


「よろしく」


 コトネさんが人だかりに走っていき、少し話した後、中心へと入って行った。怪我人がいるのは合っているのか。

 遅れて着くと、怪我人は予想通りというか、様子を見に行った村の集団みたいだ。かすり傷も者もいれば重傷に近い者もいる。だがまあ、今のコトネさんにかかれば問題無いというもので……少しすれば全員命の危機は脱し、あたりは穏やかなものとなった。


「いやあ助かった、ありがとう……!」


「いえいえ、出来る事をしただけなので……」


 コトネさんが村人に囲まれて感謝されている……まあそれは当たり前の事として……いつ話聞けるかな。手隙の奴に少しばかり……丁度良いのは……軽い怪我で普通に動けているのがいるからそれかな、森に入っていた村人の中でも少し強そうだし、リーダーか何かだろう。


「あー、ちょっと良いか?」


「うん?ああ、あのお嬢さんの仲間か?どうした?」


「怪我をした原因とか、見て回った様子が聞きたくて。俺達も塔までは行ったけど、とりあえずここまで戻ってきたから情報が少ないんだ」


「成る程な、別に良いぞ」


 良し、コトネさんのお陰でとても心象が良い。元より悪い訳では無いが、スムーズに事が運ぶ。


「俺達もまずは怪しい塔まで行ったんだ。そうしたら何体も魔物が現れてな、多少狩りの心得があるとはいえ、魔物相手はキツい。多少怪我を負いながらも村へ逃げようとしたんだ」


「そこまでは同じだな」


「お前達もそうなのか……その後は黒いふざけた頭の魔物に追いかけられたりした。この森の勝手は知らんもんで、いつの間にか開けた所に出ちまった」


 予想はしていたが、やっぱりボスのいる所まで行ったのか。逃げてこられたという事は撤退は可能なボス……それが分かるだけでもありがたい。やっぱりこれもイベントの内だよな。


「マジか……それで?」


「ああ、現れた巨大な黒猫だった。急に俺達の後ろに現れて、爪で……怪我した奴を引っ張りながら無我夢中で逃げたんだが……1人も死ななくて良かった」


「追いかけてこなかったのか?」


「ああ、森に入ったらすぐにな。遊ばれていたんだろう」


「成る程……急に現れたってのは瞬間移動みたいな?」


「さあ、魔物にはあまり詳しくなくてな……すまない」


「いや良いよ。聞かせてくれてありがとう」


「いやこちらこそあのお嬢さんのお陰で仲間が助かった」


 ざっくりとだが、情報は集まった。姿と攻撃方法は分かったのだから、対策はいくらでも立てられる。

 全員話は聞いていたし、村人に囲まれていたコトネさんにも聞いた事を共有した。


「じゃあ1体目……その黒猫の所へ行く?」


「流石にボス戦は僕達は留守番ですね」


「それはな……」


「あ、マスターちょっと良いかい?」


「どうした?」


「もやを見てみたいから、少し待ってくれるかい?」


「別に良いけど……?」


 そう言って、モモ達NPCさん3人は離れて行った……まあ主力にする気も無いし、別に良いのだが……何故このタイミングで?


「あ、メール……運営から?」


「私もですね……もしかして全員ですか?」


「何なんだ……内容は……」


『皆様方へ

 ご存知の事かと思いますが、イベントに挑戦する戦闘職プレイヤーの数、レベル、協力するNPCに比例して難易度が上がる仕様となっております。

 僭越ながら今の状態ですと、私共も想定していなかったスペックになる可能性があります。プレイヤーの皆様方の選択肢を狭める事になり申し訳ありませんが、人数を分けての攻略を強くおすすめいたします。

 こちらの不手際ではありますが、このまま攻略された場合の損失の補填はありません。方針を変えた下さった場合には、消耗品アイテム詰め合わせを対象の各プレイヤー様に贈呈させて頂きます。

 ぜひご一考をお願い致します。』


「……思ったよりもやばい事書いてないか、これ」


「そうだね、本当に運営の不手際なんだろうけど……」


「損失を補填しない、つまりは万が一モモさん達が死んでしまった場合……」


「成る程、運営がわざわざメールしてくる訳だ。モモ達が不自然に離れたのもこれのせいかな」


 調整をミスった運営も運営だが、俺達の見通しが甘かったというもある。そりゃあこの面子だと想定ぐらい超えられるだろう。トッププレイヤーだって1パーティで攻略するもんだ。


「ここの運営がアイテムくれるって言ってる時点で相当だよ。素直に従おう」


「そうか、まあほぼ個別対応だからな……どう分ける?」


「では私はソロで。春イベントでも大丈夫でしたので今回も恐らくは」


「僕も分かれるよ、ベルが見つかっても大丈夫な知り合いで空いているとこはあるはずだから……というか、あの3人はコウとコトネさんじゃ無いと駄目でしょ?」


「それもそうか」


「えっと僕達は……」


「言い方は悪いけど、何処へ行っても同じだろうからコウ達と一緒で良いんじゃない?」


「そうだな」


「じゃあよろしくお願いします」


 とんだハプニングがあったが、それはまあ良い。クローナとウリエルは多少前衛をこなしてくれるだろうし、モモのバフがあれば相当時間がかかるという事も無いはず。

 ただ対策はきちんと練らないといけないので……アイテム補充の為に一旦町に戻るかな。


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